2007年 1月
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@五匹の赤い鰊
 The Five Red Herrings
D・L・セイヤーズ創元推理文庫推理
483頁940円★★★

 スコットランドの田舎町ギャラウェイに滞在していたピーター卿は、当地で画家の転落死に遭遇する。死んだ画家はなかなかの嫌われ者で、ピーター卿は被害者と同じく絵心のある人間が偽装した殺人だと睨むが、彼を手にかけそうな絵描きは6人も現れ・・・。

 不思議な語感の題名だが、レッド・ヘリングと聞くと推理小説ファンなら、あぁニセの手がかりのことねと判る向きも多いだろう。いや、ヘリングが鰊のことだとは知らなかった。
 つまり、1つの殺人に6人の容疑者がいて、それぞれを犯人だと示す手がかりが出てくるのだが、5つは真相に導くものではないということだ。次から次へと仮説が構築されては崩れていくという展開は、本書の数年前に出版されたA・バークリー「毒入りチョコレート事件」にフィーチャーされたのだろうか。この手法は後にH・ケメルマンC・デクスターが発展させることになるわけだ。
 ともあれ、題名の案として、“六人の容疑者”とか“小川の死体”なんてのもあったそうで、そりゃあこの題名でよかった。ちなみに米題は“The Suspicious Characeters(怪しい登場人物たち)”とのこと。

 あまりきっちりと読んでいないので、ここの推理の流れや論理性の出来具合を評することはできない(すでに読了してから四年経ってる・・・)が、他のセイヤーズ作品同様、会話の妙を楽しみながら、飽きずに読むことができる。

A宮本武蔵 最強伝説の真実
井沢元彦小学館文庫歴史薀蓄
179頁438円★★★

 有名ではあっても、日本史の大きな流れの中においては、さほど重要でもない宮本武蔵の本まで出すとは、著者の守備範囲は広い。そういえば、武蔵を主役とした短編もあったか…。

 ま、そういった位置関係にあるからか、「逆説の日本史」を読みなれた感覚で読むと、びっくりするくらいソフトな語り口で、若干拍子抜けの気がしないでもない。武蔵にまつわるいろいろな説は一通り紹介されているが、著者はこれだと断定することなく、とても控えめだ。

 個人的には、「漂流巌流島」に対する著者の意見がぜひとも知りたい。

B幻獣少年キマイラ キマイラ・吼シリーズ1
キマイラ朧変 キマイラ・吼シリーズ2
キマイラ餓狼変 キマイラ・吼シリーズ3
夢枕獏ソノラマ文庫伝奇
252頁/248頁/244頁380円/380円/390円★★★★★

 おとなしく美しい容貌をした大鳳吼は、以前から苛める者の標的になりやすい性質だった。西城学園への入学式の日早々、街で学内のワルに早速因縁をつけられてしまうが、九十九三蔵という同じ学校に通う巨漢にその窮地を救われる。こうして大鳳の高校生活が始まるが、その西城学園は、圧倒的なカリスマを持つ九鬼麗一に仕切られていた。大鳳は九十九と知り合ったことで、その師の真壁雲斎、そして円空拳と出会うことになり、意外にその体に潜む拳法の才能に目覚めていく。雲斎は大鳳を、九鬼と同じく竜眼を持つと評するが。…「幻獣少年キマイラ」

 キマイラ化が進む九鬼は病気療養と称して休学届を提出、それを追うように安室由魅もまた退学届を出して西城学園から消えた。自分の中のキマイラを抑えるために円空拳の修行に打ち込む大鳳は、夏休みに入るとともに丹沢の山中に独り籠る。そんな中、彼らのいなくなった小田原で、九十九三蔵は気になる噂を耳にする。菊水組が大鳳を探しているというのだ。そして三蔵や雲斎の前に、組に雇われたという男、竜王院弘が現れる。…「朧変」

 キマイラの情報を得んが為に真壁雲斎は台湾の猩猩を訪れ、彼の許に囚われている男、巫炎に会う。彼の掌が生肉を喰らうのを見た後、雲斎と猩猩は八位の外法について語り合った。九鬼と大鳳に身に起こったキマイラ化とは、その外法で八番目のチャクラを回してしまった結果ではないのか。一方大鳳は九十九に別れを告げるために円空山に現れるが、その場に現れた異相の外国人フリードリッヒ・ボックと九十九が闘うことになり、九十九はボックの鬼勁の技に敗れてしまう。…「餓狼変」

 こうしてみると、三巻までで記憶に残っている設定が概ね出揃っている。
 感想はこちらに書いたので割愛…。

(2015/9/12記)

Cキマイラ魔王変 キマイラ・吼シリーズ4
キマイラ菩薩変 キマイラ・吼シリーズ5
キマイラ如来変 キマイラ・吼シリーズ6
夢枕獏ソノラマ文庫伝奇
250頁/252頁/248頁400円/400円/400円★★★★

 夏休みが終わろうとしている。しかし二学期になっても、何人かは西城学園には帰ってこない。九鬼麗一、亜室由魅、そして大鳳吼。
 丹沢山中でのあの日、大鳳の前に現われた九鬼は、キマイラ化をコントロールできる方法がある事を大鳳に告げ、あらためて新宿まで会いに来いと彼に告げて去っていた。その決心がつかないまま、大鳳は渋谷の街を彷徨う。そして九鬼は、鬼道館の面々に別れを告げに小田原に戻っていたが、彼には小田原にもう一つ、やり残していた事があるという。…「魔王変」

 フリードリッヒ・ボックVS龍王院弘。九鬼VS阿久津に九鬼VS菊池。そしてツッコミ処満載の深雪事件【注1】を間に挟んで、九鬼VS九十九と様々な対決シーンが用意されているし、龍王院の師匠でシリーズ屈指の強烈キャラ、宇奈月典膳が初登場したりもするが、総じて静かな印象がある。「餓狼変」(もしくは「朧変」)から直接繋がっているのだが、なんとなく前巻までが第一部で、本書は二部へ繋がる間奏曲といったイメージか。

 猩猩の元からやってきた斑猛が携えてきたのは、小周天の法でクンダリニーの下にあるというチャクラを回すためのアイディアと、そして巫炎が逃げたという知らせだった。雲斎はそのアイディアを実際に試みて鬼骨の恐るべきエネルギーを垣間見、ついに九鬼麗一の父親玄造に会うことを決める。その玄造は、菊水組のやくざをまったくものともしない宇奈月典善に、二匹の獣の捕獲を依頼する。
 一方九鬼に会う決心のつかないまま渋谷の街を彷徨い続ける大鳳は、暴力に巻き込まれてキマイラ化を進めてしまい。…「菩薩編」

 雲斎はキマイラ化のほんの一端を見ることで、その恐るべき可能性とともに、人の力でこれを発現させることなど、そうそうできるものではないと確信する。
 そうなると、そんなキマイラ化を自然に発現させてしまう少年が、狭い小田原の同じ高校に二人も登場するのはなんでだよーと疑問に思うわけだが、九鬼玄造だけでなく、由魅や大鳳の親たちの怪しい動きも見え隠れし始める。
 また闇狩師シリーズ「陰陽師」のキーパーソン、埴輪道灌と大鳳の顔合わせや、宇奈月典善と菊池の結びつきも描かれ、不穏な空気はどんどん高まりながら、この巻もまだ間奏曲が継続している印象。間奏曲その二だ。
 初読時に、どうやらこのシリーズはまだまだ終わらんなと、このあたりで感じ始めたような…。

 そう言えば、著者は後に「岩村賢治詩集 蒼黒いけもの」。なんてものまで出してしまった。
 その詩の一端を本書で岩さんが披露しているが、“しみじみと蒼黒く/ぎちぎちと骨軋ませて/わが心に疾り来るけものあり”のイメージを、本書の表紙画はなかなかうまく出していると思う。個人的にはベストだ。

 埴輪道灌が円空山を訪れ、東京上野、渋谷で大鳳を見たことを雲斎たちに告げた。大鳳の“あの姿”をも見たという。
 一方九鬼玄造に雇われた宇奈月典善は、菊池をさらなる凶獣に育てる楽しみに没頭しており、そこに玄造との面談を取りつけたフリードリッヒ・ボックが現れる。
 そして東京の街を彷徨っていた大鳳は、九鬼麗一に会う決心をし、両者は新宿スカイプラザホテルの40階で窓越しにまみえる。…「如来変」

 本巻序章で巫炎の日本上陸が示され、終章では大鳳と九鬼がついに再会する。【注2】
 本文中には今後の重要なアイテムとなるソーマが登場するし、いよいよステージの挙がる準備が整った、間奏曲最終段と言ったところ。もっとも、次巻から第二部開幕かと期待させておいて、巨大なうっちゃりを喰らわされるわけだが…。
 本書単独の読み処としては、“二人のキマイラ少年と台湾から来たおじさん”である規格外の三人や実力の底がみえない真壁雲斎を除いて、九十九三蔵や龍王院弘よりも格上の頂上決戦として、フリードリッヒ・ボックVS宇奈月典善が印象的。挨拶程度のやりとりとは言え、緊張感の高いシーケンスだ。
 個人的にさらに印象的だったのが、その直後にボックが九鬼玄造に語るルシフェルの座である。鬼骨にあたる西洋からのアプローチという訳だが、狼男に代表される西洋の獣人伝説を包含できる設定として感心した。

【注1】 百歩譲って、深雪の心情は認めてもいい。しかし九鬼曰く、「そう仕組んだ」はかなり無理があるのでは…。
【注2】“ついに”と書いてしまったが、丹沢山中で逃げた黒ヒョウを挟んでの出遭いから、作中時間では僅かに一か月ほどしか経っていない。
(2015/9/12記)

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