2007年 3月
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@今夜はパラシュート博物館へ
 
森博嗣講談社文庫推理
374頁619円★★★
A本陣殺人事件
横溝正史角川文庫推理
405頁621円★★★★
Bダーティ・ペアの大乱戦 ダーティ・ペアシリーズ3
ドルロイの嵐 クラッシャー・ジョウ別巻2
高千穂遙ハヤカワ文庫/ソノラマ文庫SF
467頁/405頁720円/600円★★★
 惑星総督からの再改造依頼を受けて、チームリーダー・ダンの率いるクラッシャーが、惑星ドルロイに乗り込んできた。一方、アクメロイド殺しの提訴を受けて、WWWAからケイとユリたちも、同じくドルロイに派遣されてくる。先進技術力が特色の海洋惑星で、クラッシャーとトラブル・コンサルトが大暴れする・・・。

 出張帰りに寄った八重洲ブックセンターで、「ダーティ・ペアの大乱戦」を見かけ、もしやと思って覗いたソノラマ文庫のコーナーで、しっかり「ドルロイの嵐」もあったので、つい揃いで買ってしまった。どちらも再読の筈だが、実家にもなかったのはなぜだろう?

 一応説明しておくと、この二冊は同じ事件を別の目線から追った話だ。クラッシャーとかダーティ・ペアは別シリーズの主格である。上手いアイディアというか商売で、別の二作を書くよりは楽チンだろう。しかし構成はなかなか工夫してあって、元々「〜の大乱戦」はケイの一人称、「ドルロイの嵐」は三人称複数視点であるところに、後半の要塞基地への殴りこみシーンでは、それぞれのメンバーをシャッフルして別ルートからの攻撃となっている。

 さて、いずれのシリーズも、未来世界とは思えないアバウトな世界。馬や車を宇宙船に、拳銃やライフルをレイガンやヒートガン等々に持ち替えた西部劇、すなわちどっぷりなスペオペである。脳内フィルターを浅く設定して、いくら死んでも構わない“ヤクザ”(←すげーネーミング)を蹴散らせながらのスピード感溢れる派手なドンパチに、ただ々々浸るのが正しいだろう。

 しかしこの歳になって読むと、ストーリーの荒さが気になって気になって…。

 前半では惑星総督ノボ・カネーク・ジュニアとの契約に縛られて云々かんぬん。まるきり騙された被害者気取りのクラッシャーたち。
 ノボ・カネーク・ジュニアの方に否があると判ってさえ束縛されてしまうという契約を、先代のノボ・カネーク・シニアとの信義という理由でもって安易に結んだのも問題なら、とんでもなく危険な重力場発生装置を設置した後、何の保護措置も取らずに放置していただけでも、十分に有罪だ。
 どれだけすごい装置なのかは知らないが、たった四人のチームが惑星改造(地殻変動を人工的に起こして、陸地を(多分大陸を)作る)するというのも強烈だし、宇宙船(本作では航空機といったほうが良さそうな運用)をガンガン飛ばしながらミサイルをドンドコ発射、一体彼らの収支計算はどうなってるというのか?

 そしてダーティ・ペア側にしたところで、「宇宙船ビーグル号の冒険」から借り物のクァールを出せばなんとでもなる立ち回り。うーむアバウトすぎて声がでない。

 そういえば、他作品からの設定の転用が多すぎることが、わたしが本作を楽しめない大きな理由だ。思い出した。
 上のクァールもそうだが、クラッシャーの設定はE・ハミルトン「スターウルフ」シリーズからの明らかな借用で(たしかアート・フラッシュもあったような)、まぁオマージュとして広い心で受け入れればよいのだが、少なくとも本書たちが、昔「ガンダム」の初放映当時にあれだけ酷評した事に見合うような、しっかりと構成された作品だとはとても思えない。

 ま、その後の数多なアニメ作品に影響を与えたことは確かだし、アニメ原作と考えて読めばある程度楽しめるだろう。

(2013/3/13改訂)
CQED 龍馬暗殺
高田崇史講談社文庫推理
520頁800円★★★
 高知県で開催される薬剤師会のイベントに参加するために、棚旗奈々は高知空港に降り立った。龍馬観光が目的でくっついてきた妹の沙織が同伴だ。イベントの合間に大学時代の後輩美鳥の実家のある蝶ヶ谷村へ立ち寄った彼女らは、折からの悪天候で村に閉じ込められてしまう。一同は時間つぶしに、一足先に村に来ていた崇が語る(なぜいる?)坂本龍馬と幕末の薀蓄に耳を傾けるが、そんな中、村人の一人がナイフで刺し殺される事件が起こり・・・。

 ついに幕末ネタ登場といったところだが、龍馬暗殺というメジャーなネタなので、この前後の状況説明は、例えば中村彰彦「竜馬伝説を追え」に詳しく、残念ながら特に衝撃的なものはなかった。そちらになくて、本書で新しい情報があったのかどうか、これはわたしの記憶力ではなんともわからないのだが、このネタの場合、幕末全体の状況説明も必要なので、ある程度この時代のことが頭に入っている歴史ファンからすれば、ややたるい面があった。仕方ないところか。

 基本的に、龍馬襲撃の実行犯が京都見廻組であることはほぼ定説である。新撰組池田屋を襲った時と異なり、見廻組は龍馬が近江屋に潜伏していることを察知したうえで踏み込んでいるのだが、その情報をどのように得たのかがはっきりしていない。見廻組の独自の調査によって探知したのであれば問題ないが、どこかからタレこみがあったのではないかというのが、現在の黒幕説の骨子である。見廻組のボスであった佐々木只三郎(新撰組の取っ掛かりを演出した清川八郎暗殺の実行犯でもある)が戊辰戦争後も生きて証言できていれば、そのあたりも謎ではなかったかもしれない。しかし今となってはこの後も解明されることはないだろう。

 この事件に対して、わたしが疑問に思っているのは、現場に残された?というニセの手がかりについてだ。
 京都見廻組の立場からすれば、寺田屋で幕府の捕り方を殺傷している龍馬はテロリスト以外の何者でもないので、彼の潜伏情報を得れば、捕獲(または処刑)に動くのは当たり前である。となると、新撰組の原田左之助所有のものと思われる鞘を残す理由がよく判らない。今回この感想を書くにあたって、パラパラ拾い読みしてみたが、見つけられなかった。伊東甲子太郎のこの証言の背景はどうだったのか?

 現代パートでの事件は、「黒祠の島」ばりの旧村の因習絡みだが、こちらも印象が今イチ薄かった。

(2013/3/13記載)
D水晶の栓
 Le Bouchon De Cristal
M・ルブラン創元推理文庫推理
311頁520円★★★
Eキリン伝来考
 The Giraffe in History and Art (1927)
B・ラウファーハヤカワ文庫博物学薀蓄
217頁580円★★★
 キリンの姿形、生態が、アフリカからギリシャ、アラビア、ヨーロッパへ、そしてアジアへと伝わっていった歴史を追った労作の研究書だ。217頁中、本文は152頁で、残りは付記、訳注、参考文献や索引で占められている。
 出版は1927年とえらく古い本なので、スポーツ・ハンティングの描写が肯定的に(というか否定的でなく)ピックアップされていたりと、なかなか興味深い面もあるし、研究書としての訳出の意義はあるのだろうが、今さらハヤカワの文庫本として出版されたというのが謎だ。

 実は最も興味深かったのは翻訳者のあとがきである。
 本文を読むと、観覧動物檻、動物公園、動物学庭園などといった妙な訳語があるのに気づくのだが、日本は動物園や植物園に対する関心や理解度が低すぎるらしく、あえてひと括りにはせず、日本語の語彙の貧困さを嘆いて造語してあるとのこと。
 なんでも最初に“動物園”と訳したのは福沢諭吉らしい。
 “zoological garden”の“logical”の部分、つまり「学」にあたる言葉が抜け落ちているのだ。動物園は子連れの行楽スポットだという認識になってしまうのは、かなりの程度はこの訳語の所為かもしれない。  実際のところ、日本の動物園関係者は外国の関係者と話をした際に、肩身の狭い思いを感じることが多いらしい。

(2013/3/13改訂)
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