2007年 5月
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@キマイラ独覚変 キマイラ・吼シリーズ10
キマイラ胎蔵変 キマイラ・吼シリーズ11
キマイラ金剛変 キマイラ・吼シリーズ12
夢枕獏ソノラマ文庫伝奇
236頁/251頁/250頁440円/460円/460円★★★

 大鳳が漸く円空山の雲斎の下に戻った。代わりに巫炎は、九鬼玄造の屋敷に囚われの身となる。九鬼麗一は狂仏と会い、そして台湾へ帰る斑猛に、巫炎はソーマ・チャクラの存在を伝える。・・・「独覚変」 (1989)

 雪蓮の一族についての情報を得るために、埴輪道灌と九十九三蔵は高野の山中へ向かい、そこで出逢った吐月から、彼がチベットで出会ったという陳岳陵と、寺院の地下で見た外法絵に関する話を聞く。
 一方雲斎は巫炎から示された九番目のチャクラの体現に成功し、九鬼麗一奪取に向かった宇名月典善は狂仏が対峙する。・・・「胎蔵変」 (1991)

 これまでになくキマイラ化が進んだ九鬼麗一が月夜に消えた。雲斎は電話で亜室健之と初めて会話し、彼と会うために大鳳を連れて新宿へ。そして雲斎のいない円空山では、九鬼玄造と吐月が二十年ぶりにまみえる。・・・「金剛変」 (1992)

 この辺り再読だが、さっぱり覚えていなかったので、新鮮に面白かった。
 ソノラマ文庫で出版されたのはあと四冊残っているが、“現代”のストーリーはほぼここまでじゃないかな…。

(2015/12/3改訂)

Aキマイラ梵天変 キマイラ・吼シリーズ13 (1994)
キマイラ縁生変 キマイラ・吼シリーズ14 (1998)
夢枕獏ソノラマ文庫伝奇
245頁/251頁480円/476円★★★

 二十年ぶりに会った吐月と九十九を招いて、九鬼玄造は干からびた不気味な腕を見せ、それが自分の手元に来ることになった話を始める。その話とは、若き日の馬垣勘九郎との出会い、さらには大谷探検隊に関わる遥かな物語だった。

 さぁいよいよ暴走度合いが激しくなってきた13巻と14巻。
 「梵天変」でその臭いを嗅いで、これはもうストーリーの進展は望めまいと、14巻以降は買うだけ買って、読まずに積んでおいた。
 17巻以降はさらにどう出版されるのかも怪しくなってきたので、ついに読んでしまうことにしたわけで、何を隠そう、「縁生変」以降は初読だ。

 なんとまぁ、大谷探検隊まで出てくる始末。
 「梵天変」のストーリーも完全に忘れていたが、わたしがシルクロードと仏教史に興味を持つようになったのは、もしかしたらこのシリーズの所為かも…。それに気づいて感慨深い。

 ちなみに大鳳と雲斎は亜室健之に会うために新宿へ向かったままである。

(2015/12/3改訂)

Bキマイラ群狼変 キマイラ・吼シリーズ15 (2000)
キマイラ昇月変 キマイラ・吼シリーズ16 (2000〜2002)
夢枕獏ソノラマ文庫伝奇
253頁/222頁476円/476円★★★

 若き日の九鬼玄造が読んだという、橘瑞超が記した「辺境覚書」、そして能見寛が記した「西域実記」。大谷探検隊で有名な橘瑞超たちは、当時敦煌莫高窟近郊で、キマイラであろう畏るべし怪物と遭遇していた。吐月、九十九三蔵、宇奈月典善、菊池を前にして、玄造が「辺境覚書」の内容を語る。

 大谷光瑞が企画した有名な大谷探検隊のメンバーの中でも、橘瑞超はもっともビッグ・ネームだろう。その彼の隠された手記が存在し、そこで明治末に大陸でキマイラが暴れていたエピソードを語るというのは、かなりすごい演出だ。
 それだけでも十分大技だが、橘瑞超の手記にはさらに彼が聞いた伝聞があり、その中で馬垣親子と王洪宝の確執が語られる。

 その話も面白いし、外伝?の「キマイラ青龍変」へ繋がる布石にもなっているようだが、それにしても「インセプション」か!とツッコミを入れたくなるこの階層構造は…。
 もちろん、これが半年に一冊程度進行するのであれば素直に面白いと言えるのだが、著者に本気でこのシリーズを締めるつもりがあるのかすら読めない中、この仕打ちはサドすぎるだろ。
 著者には他の仕事を削ってでも、このシリーズを進めてほしい。いつ何時ポックリいくかもわからないというのは、わたしの紛れもない実感である。

 承前の「辺境覚書」では、今は玄造が所持しているキマイラの腕が、明治末年の甘粛省の地で馬垣勘九郎が斬り落とし、橘瑞超が日本に持ち帰ったものである事が明かされる。
 「夜想曲」の章を挟んで「西域実記」では、吉川小一郎が能見寛の消息を踏まえて、大陸編の後半を語る。

 嬉しい事に、この30頁ほどの「夜想曲」は現代に戻り、玄造の語りが続く九鬼邸を襲撃者が襲う。九十九三蔵、宇奈月典善といった猛者のいる屋敷から、まんまとキマイラの腕(の半分)を奪って逃走するのは、若い金髪のあんちゃん…。
 おいおい、ここにきてまだ思わせぶった新キャラを増やす!?
 これって、ボックとなにがしか繋がりのある組織ですわな。雪蓮の一族とはまた異なる…。

 この後に「キマイラ青龍変」、「キマイラ玄象変」の二冊があるらしいが、未だ文庫化されていないので未読だ。【注1】【注2】
 角川文庫から新装版が出てきているので、早いとこ文庫化を望む。
 それ以上に、せめて二年に一度は続きを出すよう著者に強く求めるものである。

【注1】 頑なながら、文庫でしか読まないと決めている。なんでも宇奈月/龍王院の師弟と馬垣某(一世代あとか?)の因縁が語られるらしい。そういったことは餓狼伝シリーズでやってほしい。

【注2】著者は都度々々本シリーズに対する並々ならぬ思いを述べているが、一方で「大菩薩峠」「神州纐纈城」といったどちらも未完の大河物語に対する肯定的なコメントを語っており、本気でこのシリーズを語り終える気持ちがあるのか、まったく信用できない。とはいっても、中途半端に出力されても困る。こればっかは著者が自分で準備ができたと思わないことには…。

(2015/12/3記)

C夜光虫 (1936〜1937)
横溝正史徳間文庫伝奇/探偵
276頁571円★★

D島原・天草の諸道 街道をゆく17
司馬遼太郎朝日文庫歴史紀行
291頁520円★★★★

E野望の峠 (1989)
戸部新十郎徳間文庫歴史
275頁552円★★★

 以仁王の令旨を持って各地の源氏を回った新宮十郎行家を暗く陰湿に造形し、彼の目線から源平を語る「野望の峠」

F武田三代
新田次郎文春文庫歴史
253頁495円★★★

G涅槃の王2 神獣変化 蛇魔編/霊水編
夢枕獏祥伝社文庫伝奇
833頁1000円★★★

 マーサーカ国の宝物庫からヴリトラ像が奪われた。奪ったのはマーヤーを使う男を含む三人組。マーサーカ国王は像を取り戻すために剣士アゴンたちを送り出し、そして真理を追うシッダールタも、ヴリトラ像の争奪戦に関わっていく・・・。

 著者の若かりし頃に書かれた「幻獣変化」の続編が、文庫でぞろぞろ並んでいるのを見た時はびっくりした。そんな暇があるならキマイラを進めてほしいものだが、とにかく合本で二編が収められた本巻のみ購入していた。やはりストーリーの進展に比しての頁数は多くなっていて、本巻だけで前作を越える厚みだ。
 そしてまだ完結していないではないか。きちんとオチはつくのだろうか。

 前作からの関連性は主人公以外特にないが、易筋法を会得した体術の使い手シンが再登場。
 しかし、シッダールタという歴史上実在の人物を主役に据えているとはいえ、前作は雪冠樹というトンデモない奇想を前面に持ってきており、われわれの世界との繋がりは希薄に感じたが、本作は北インドからさらに北のヒマラヤ山脈に向けて進んでいくという地理的な設定や、チャイナ方面(当時は春秋戦国時代)から漢字名の刺客が登場したりと、ある程度現実の地理や歴史を踏まえたものになっている。(獣人の王国は十分伝奇じゃが・・・)

 このあたり、著者がヒマラヤへ実際に旅したことでイメージが膨らんだのかもしれないが、キャラクターたちはいつもの夢枕作品に登場する“漢”たちだから、異国情緒はあまり感じられない。
 しかしそこを言ったら、そもそも夢枕作品の良さがなくなってしまう…?

(2015/12/3改訂)

H始末屋ジャック 見えない敵 上下 (2001)
 Hosts
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリー伝奇冒険
362頁/360頁838円/838円★★★

 心ならずも地下鉄で無差別殺人犯を射殺し、時のヒーローとなってしまったジャック。すばやく姿を消したものの、近くに乗り合わせた記者に追われる羽目になってしまう。一方ジャックが受けた仕事の主は、何年も顔を合わせていなかった姉のケイト。彼女のルームメイトが脳手術後に性格ががらりと変わってしまい、カルト宗教らしき団体に加わってしまったというが・・・。

 豊かな人間味と非情さのバランスが新鮮なジャックの造詣だが、本作では実の姉が主要人物として登場。必然的にジャックの少年時代がさらに明らかとなる。彼が裏世界に生きることになる“きっかけ”の話は、どうも何かで短編として読んだことがあるような。思い出せない…。

 上下巻をほとんど一日で読んでしまった。  あいかわらず面白いけれど、この読みやすさは逆に物足りない気もする。
 どっぷりとアドヴァーサリ・サイクル組み込まれてしまったこのシリーズ。超自然とは関係のないカズロウスキ兄弟とのパートが一番面白かったのはお約束。

(2015/12/3改訂)

Iさいえんす? (2005)
東野圭吾角川文庫エッセイ
186頁400円★★★

Jハンニバル・ライジング 上下
 Hannibal rising (2006)
T・ハリス新潮文庫冒険
246頁/250頁514円/514円★★★

 リトアニアに暮らしていたレクター一家は、ドイツ軍の進撃から身を隠し森の中の別荘で大戦中を過ごしていたが、ドイツ軍敗退の混乱の折、夫妻と使用人たちは死亡し、幼いハンニバル・レクター少年と妹のミーシャはリトアニア人の対独協力者の一団に捕えられてしまう。
 時が経ち、当時の記憶を失くしながらも生還したたハンニバルは、義理の叔母、日本人の紫夫人の下で医学生となるが・・・。

 「ハンニバル」を読む前に読んでしまった。
 驚きレクター博士の少年時代。俳句を詠み水墨画を嗜むとは!

 特に冒頭には宮本武蔵枯木鳴鵙図が掲げられている。うーむ、してやられた。
 著者は日本文化を結構勉強したのだろうな。
 しかし紫式部に敬意を表する!?のは光栄だが、“紫(むらさき)”という名前は…。それじゃ源氏名だよ。
 “紫”をあてるなら、読みは“ゆかり”にすればいいのだが、さすがの著者の勉強もそこまでは及ばないとみえる。
 そして紫夫人のとある行為は、やっぱりの忍者的でちょっと失笑

 “レクター博士”を形成する大きな要因となったある事実については、開示される前に十分想像がついてしまうが、それは気持ちのいいもんではない。表面的には記憶を封印していたという設定だが、グルータスが言うように、深層の部分では認識していたのだろう。

 復讐譚、もしくは誕生秘話といった展開だから、これまでの作品とは 趣が違うが、さすが著者のこと、そこそこの面白さは保証されていて安心して読める。

(2015/12/3改訂)

K「魔」の世界 (1986)
那谷敏郎講談社学術文庫民俗薀蓄
297頁1050円★★★★

 「魔」といっても悪魔や魔物といったものばかりでなく、幽霊、妖怪から神に至るまで、悠久の歴史において、人間がいろんな思いを仮託して作り上げた対象物を非常に幅広く――日本、西洋に限らず、中国、イスラム、ヒンズー、エジプトまで――採集していて、とても楽しめる。

 ムーラダーラにシヴァ神妃パールヴァティーサハスラーラシヴァ神が宿るとすると、ソーマ・チャクラには一体何が宿るのでしょう?

(2015/12/3改訂)

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