2007年11月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2007年10月に戻る 2007年12月に進む
@Nobさんの飛行機グラフィティ1 (2006)
下田信夫光人社飛行機薀蓄
113頁1600円★★

 デフォルメメカの戦記裏話。――と思って購入したら、図鑑だった…。

 「宮崎駿の雑想ノート」「ワールド タンク ミュージアム図鑑」を期待して大枚はたいたのだが、文章の面白さは今ひとつ。
 なんでも、月刊「丸」に連載されとったらしい。
 ある程度、軍用機に詳しけりゃもうちょっと面白く読めるのかもしれないが、途中からは流し読み。

(2015/1/18改訂)

A黒いトランク (1956)
鮎川哲也光文社文庫推理
370頁629円★★★★

 東京汐留でトランクに詰められた男の死体が見つかった。発送元の福岡県で始まった捜査は、行方をくらませていた被疑者が瀬戸内海で水死体として発見されたことから、いくつかの疑問点を残しつつ収束へと向かう。被害者たちと学生時代に交友のあった警視庁の鬼貫警部は、独自に事件を調べ始め、ほどなく捜査上に二つ目のトランクが現れ・・・。

 いわゆるアリバイ崩しに対する読まず嫌いで、これまで残していた名作だが、やはり名作と呼ばれるだけのことはある。傑作だ。

 巻末の時刻表にはぞっとするが、あまり気にしなくともさくっと楽しく読める。わたしなど読み飛ばしてしまうような引っ掛かりを追うことで、がらりと解釈が変わるのが見事だ。
 たしか「死のある風景」と同じく、最初は現地の警察による捜査が行われ、その後鬼貫にバトンタッチとなるが、二個目のトランクが出てくるあたりから俄然面白くなる。
 犯人の側に立ってみれば、あそこまで凝らずに、<ネタばれ反転>最初の容疑者が自殺したようにみせる工作などしないほうがよかったように思うが、まぁ深く考えまい。
 巻末の芦辺拓によるストーリー表も労作だ。ありがたい。

 ラストシーンで丹那と鬼貫の会話は謎である。最後の最後にあんな孤独感を演出する意味は?
 独身主義は著者のものではないはずだが。

(2015/1/18改訂)

B柳生最後の日 (1999)
中村彰彦徳間文庫歴史
281頁533円★★★★

 表題の「柳生最後の日」は――わたしなどはこんな題名をつけられると問答無用で買ってしまう――、著者の他の作品から考えてもうすうす判るように剣豪ものとは縁遠く、幕末の柳生藩の騒動(実話)を描いている。
 鳥羽・伏見の戦い以後の幕末の小藩が、多かれ少なかれ日和見せざるをえなかった中で、柳生藩は佐幕派・倒幕派の争いが血なまぐさい方向にいってしまった。今となってみれば、剣名高い柳生藩の悲しい汚点である。

 他の幕末ものとしては、佐々木只三郎を扱った「紀三井寺まで」や、10頁ほどの小編「忠助の赤いふんどし」等、司馬遼太郎の短編に勝るとも劣らない面白さだ。特に後者は忠助のようなキャラクターに愛すべき光を与えており、尚且つ“忠助は京の女房の元へ帰り、どうにか白いふんどしを着けるようになって一生をおわった、と思いたい。”の最後の一文もいい。歴史に埋もれた無数の悲喜こもごもの挿話に触れた感慨がある。これぞ歴史小説の面白さと言ってもいい。ただし土方歳三の遺品を届けた沢忠輔近藤勇の馬丁の忠助別人だという話もあるらしいので注意。

 「髷は茶筅に」もいかにも司馬遼太郎の短編にありそうな題名だが、これは時代ミステリで一興だし、「雀の宮の盗賊」は小粋軽妙な剣豪もので、著者の幅広い才能を見せられた。

(2015/1/18改訂)

C破軍の星 (1990)
北方謙三集英社文庫歴史
478頁705円★★★

 鎌倉時代から室町時代への過渡期、朝廷側の武将として楠木正成と並び名を馳せた北畠顕家の物語。彼の奥州赴任から始まって、後醍醐天皇を諫める奏上文を弟の顕信へ託すところまでを描いている。

 この時代以降南北朝が統一されて足利政権が固まるまでは、朝廷方、武士方ともに離散集合常ならず非常に理解しにくいが、日本史の特殊性も勉強できて非常に興味深い時代でもある。特に中央から離れた東北からの目線になっているのが新鮮だった。

 登場人物たちは、熱い想いを秘めながらも諦念を漂わせ、己の役割を受け入れて粛々と行動している。
 この辺りはハードボイルド作家としての著者の作風か。合戦シーンの描写も静かながらも勢いが伝わってきて面白い。

(2015/1/18改訂)

D宇宙の果てのレストラン
 The Restaurant at The End of The Universe (1980)
D・アダムズ河出文庫SF
338頁650円★★★

 本書はストーリーについてどーのこーの言っても仕方がないわけだが、SFというジャンルの持つ魅力はあるんだよな。しょーもないと斬って捨てる前に、音楽を聴くように流し読みしてセンス・オブ・ワンダーに浸るのがおそらくはよい読み方ではないだろか。

 もちろん本書を読んで宇宙(SPACEではなく時空のほうで)の広がりに思いを馳せて哲学するもよし。

(2015/1/18改訂)

E武部本一郎少年SF挿絵原画集 上下 (2007)

大橋博之編ラピュータ画集
103頁
129頁
2200円
2400円

F背が高くて東大出 天藤真推理小説全集16 (1982)
天藤真創元推理文庫推理
424頁820円★★★

(1)背が高くて東大出
 Kから想いを打ち明けられた三岐子は、悩んだ末に彼に手記を託した。そこに書かれていたのは、彼女が背が高く東大出の夫から受けた仕打ちとそれに対する復讐の内容だったが・・・。

(2)父子像
 信一は17才の今日まで父親の仕事を知らずにいた。本人に訊いてもはぐらかされ、信一はついに出勤する父の後をつけるが、どうも父は犯罪に加担している気配が・・・。

(3)背面の悪魔
 姉の突然の自殺後、彼女からの手記を読んだ法子は、姉の夫春雄への怒りでいっぱいになった。無垢だった姉にした行為を糾弾するつもりで、法子は春雄と対決するが・・・。

(4)女子高生事件
 自分の勤める女子高に組織売春の魔の手が伸びているという噂を聞き、熱血教師の武志は学年主任竹本の甥と協力して、実態を調べだすが・・・。

(5)死の色は紅
 町医者の松浦は間違った注射で患者を殺してしまう。妻の三枝子は三千万で収めようという患者の妻登美子と意気地のない夫に激高し、探偵社に駆け込むが・・・。

(6)日曜日は殺しの日
 崖下に車が転落し運転手が死んだ。近くには半裸姿の男も死んでおり、崖上の窪地には気絶した同じく半裸の女性。どうやらよろしくやっていたカップルが巻き添えを食ったらしい。しかしこの事件の陰には、夫を杜撰な医療で殺された小野友季子がいた・・・。

(7)三枚の千円札
 共稼ぎ夫婦のもとを訪れた女が、その日の晩に殺される。容疑者はすぐに捕まるものの、その男と被害者の財布の中身のつじつまが合わない。夫はある疑惑に囚われ・・・。

(8)死神はコーナーに待つ
 王次は自分をとことんまで馬鹿にしたルミを殺した。その現場を女の子に見られた彼は、口を塞ごぐためにその女の子を探し出すが、事態は意外な方向に・・・。

(9)札吹雪
 伯父が倒れたという知らせを受けて俄然張り切る良作だが、これまで会ったこともない咲子という女が遺産相続に名乗りをあげて・・・。

(10)誰が為に鐘は鳴る
 “玉将戦会場”の天藤先生宅に教員仲間五人が集っていたが、同じ敷地にある大家の家に空き巣が入り、20万円が盗まれた。天藤先生始め五人が「容疑者」となるが・・・。

 ざっくりと言えばユーモア推理なのだろうが、結末が幸せとはかぎらない。積極的にほのぼのと終わってくれるのは二編だけだった。あとはなんとか窮地を脱するといった話が多い。ブラックに終わるものもある。
 意外だったのは、夫婦間の生臭い感情や時には淫靡な描写もある処か。

 解説でなるほどと思ったのだが、探偵、加害者、被害者に互換性があるところが著者の短編の特徴らしい。
 シリーズ・キャラクターがいないこともあって、この役割の変換は見事だが、一読ではどうもしっくりこない。こちらで多少の想像を加えなければならない話も多い。

 もちろんこのようなことは著者の計算のうちだろうが、納得できる解釈を得るために読み返さなければならない話は、消費したい本が山とある身にはつらい。

(2015/1/18改訂)

G夜鳥
 Les Oiseaux De Nuit
M・ルヴェル創元推理文庫
345頁700円★★★

 裏表紙の燦然たる褒めコトバに惑わされて購入した。

 読書は知識欲と純然たる逃避だと位置づけておるわたしにとって、本書のように不幸な人が運命の皮肉でさらに不幸になる話は勘弁してほしいものだ。しかも短編だからたくさんあるときている。

 “禍棗災梨を憂える君よ、此の一書を以って萬斛の哀わん(出ねぇ)を掬したまえ。”
 意味わかる?

(2015/1/18改訂)

Hマンガ 金正日の正体 (2006)
李友情小学館文庫社会薀蓄
342頁600円★★★

 画調は新聞4コマ漫画の劇画版といった感じ。金正日の生い立ちと北朝鮮権力構造のアウトラインを見るにはいいだろう。
 金正日が権力を掌握して以後、出来のよかった弟の痕跡を消して回ったエピソードなど、うすら寒いエピソードで満載だ。権力相続のルールがしっかりしていなかった中世の国では、権力を獲った者が兄弟を殺してしまうというのは結構例があるが、つい最近の話であることが怖い。

 北朝鮮金日成の時代から不気味な国だったわけで、誰が後継者になろうと大した期待はできなかった気もするが、出来の良かったらしい弟がもし二代目になっておれば、拉致事件は起こらなかったかもしれないと思うとやるせない。

(2015/1/18改訂)

I水族館の通になる 年間3千万人を魅了する楽園の謎 (2005)
中村元小峰書店生物薀蓄
235頁750円★★★

 水族館事情裏話。水族館が好きなら楽しめるだろう。
 もちろんわたしは好きだから買ったのだが、そう言えばここ三年は足が遠のいている。

――娘の成長とともに何度か行きました。
(2015/1/18改訂)

J犯罪は二人で 天藤真推理小説全集17 (2001)
天藤真創元推理文庫推理
438頁820円★★★

(1)運食い野郎
 子供のときから苦々しく思っていた省一がまた啓吾の前に現れた。啓吾の勤める鬼塚塗装に融資する銀行の担当員として。そして啓吾が心を寄せていた社長の娘喜美子に省一が手を出すそぶりを見せた時、彼の堪忍袋はついに・・・。

(2)推理クラブ殺人事件
 進の所属する推理文学クラブの顧問、杉山先生が殺人事件の第一発見者となった。色めきたつクラブの面々だったが、杉山先生は一転して容疑者に。進たち部員は先生の容疑を晴らすために事件を調べだす・・・。

(3)隠すよりなお顕れる
 知夫は別れ話を持ちかけたミツコから脅され窮地に立った。魅力的な縁談が持ち上がった彼に、ミツコは邪魔以外のなにものでもない。ミツコと対決するために部屋に行った知夫は彼女が自殺しているのを発見すると、彼のことが書かれている遺書をつい処分してしまうが・・・。

(4)絶命詞
 助平な伯父の後をつけているのはどうも母親らしい。万里子は二人をつけるが、伯父は何者かに殺されてしまう。母が犯人だと驚いた万里子は、伯父の死ぬ間際の言葉を聞いた筈だというのに、警察にだんまりを続ける甲次に近づくが・・・。

(5)のりうつる
 さえない男の私は、ある日一瞬だけだが、他人にのりうつる能力を持っていることに気付いた。同僚のOLに協力してもらい、その能力の開発に精を出すが・・・。

(6)犯罪は二人で
 元怪盗のおれは、出所後の保護司の娘に一目ぼれしたことをきっかけに改悛し、紹介された工場で真っ当な社会人として働きだした。ついには惚れたその娘とゴールイン、第二の人生を歩み出したが、職場で起こった小さな盗みへの周囲の反応に憤り、盗みの物色を兼ねたトレーニングを開始してしまう・・・。

(7)一人より二人がよい
 ある作家をターゲットに選んだおれと妻は、作家が犬の散歩にでかけた隙に家に乗り込んだが、折り悪く作家のファンだという一団がやってきて・・・。

(8)闇の金が呼ぶ
 不正な選挙活動に勤しむ元市長宅から、買収用の金を盗み出す。盗難届けは出ない。妻から提案された計画は、比較的安全で旨味の大きい仕事に思えた。選挙戦もたけなわのクリスマス・イブの晩、俺は元市長宅に忍び込み、まんまと大金をせしめることに成功した…が。

(9)純情な蠍
 平々凡々なサラリーマン千吉のもとに、シモジマと名乗る男から、丁重にしかし奇妙な電話がかかってきた。千吉の妻のことで折り入って話があるという。あしらって電話を切った千吉だが、帰宅すると、妻からも奇妙な話を聞かされる。妙な女が家を訪れたというのだが・・・。

(10)採点委員
 是が非でも息子を国立大学に入れたい波川夫妻は、伝手を頼って、採点委員をしている講師の噂を聞きつけ、入試に手心を加えてもらうよう持ちかけるが・・・。

(11)七人美登利
 女だけのおみこしをかつぐ会、「美登利会」にさおりが入会したいと言ってきたとき、メンバーは心配した。さおりが先天的に運動機能に障害を持っていたからだ。さおりの熱意にほだされて彼女の入会を認めたものの、彼女が祭りの日の本番に何者かに斬りつけられるという事件が。彼女たちが学生時代に憧れていた先輩「信如さん」が事件の聞き込みを始める・・・。

(12)飼われた殺意
 入社早々、片山実は新人歓迎の宴で副社長の酒乱に巻き込まれた。彼とともに被害に遭った副社長の若い美人妻は、過去にもこのようなことがあったと言う。忍び泣く女に、実はつい彼女とやんごとなき関係を結んでしまうが・・・。

 天藤真全集も最終巻ということで、かなり毛色の変わった短編集となっている。これまでの単行本から漏れていた短編をかきあつめたといったところか。
 どの短編にも何らかの犯罪が関係していることは確かだが、推理/探偵小説のカテゴリーに入れるのは少々抵抗がある。

   その中でも「のりうつる」は異色作で、西澤保彦の世界を先取りする設定だ。
 ただしロジカルなミステリとはならず、犯行を示唆するところで終わっている。西澤ミステリのプロローグといった塩梅だな。
 元怪盗の工員が、美人妻の励ましで怪盗家業に帰り咲く“おれ”の犯罪冒険譚の表題作「犯罪は二人で」は、それに続く「一人よりも二人がよい」「闇の金が呼ぶ」と合わせて連作になっている。というよりこの三編で一作とみるほうがいいか。ユーモア味あふれる作品で、一回り歳下の美人妻と少々抜けた“おれ”のやりとりがほほえましい。

 基本的に感想は「背が高くて東大出」と同じ。

(2015/1/18改訂)

K龍臥亭幻想 上下 (2004)
島田荘司光文社文庫探偵
394頁/374頁629円/629円★★★

 あの事件から八年。石岡は事件の関係者が集った貝繁村を訪れ、都井睦雄事件以前の明治期に、同地で元殿様の関森孝がひき起こした惨殺事件と伝説を知る。また貝繁村では三ヶ月前に、神社のアルバイトの巫女が不可思議な失踪をしていたが、里美が雪中で行き倒れた凍死体を発見したことを皮切りに、再び猟奇事件が村を襲う。折からの大雪で警察もあてにならない中、石岡は事件の謎を解くことができるか?

 島田ファンタジー全開。
 国際電話の御手洗も、<ネタバレ反転>通子とユキちゃんを迎えに来た吉敷も、さすがに事件の謎の一部を解く程度の関わりしか持てない。かといって、随分と行動力ある人間に復帰したとはいえ、石岡にもそりゃ荷が重い。といったわけで、事件の全容解明は事件終了一年後、石岡のもとに都合よく届けられる犯人の手記に委ねられる。これでは探偵役の真相喝破からもたらされるカタルシスは少なくなってしまうので残念だ。
 あまりに奇想へ走ってしまった最近の島田作品の所為かと思ったが、よく考えると、そもそも「占星術殺人事件」からそうだった…。

 本書で最も驚かされるのは、<ネタバレ反転>ユキちゃんが中一になってることかもしれないが、昔ながらのロケーションと雪降る中の冒険が心地よい。貧村の旧弊が事件の因にあって、トーンは暗いのだが・・・。

 因みに御手洗⇒吉敷のリレーと犯人の手記によって、幻想が(一応)論理的に解明されるが、都井睦雄が描いた(かもしれない)絵による予言の謎は、「暗闇坂の人食いの木」同様、解明されないまんまだ。

(2015/1/18改訂)

L読み忘れ三国志 (2002)
荒俣宏小学館文庫歴史薀蓄
265頁533円★★★

 歴史/時代小説では、現代人に馴染みのない単語について、説明がないままに進行していくものも多い。本書では、「三国志」のそんな背景、名称、制度、その他なにやかやに、博覧強記の著者が薀蓄を語ってくれている。「三国志」やその周辺の歴史を読む助けになるだろう。
 著者はあくまで「三国演義」に基づいてとしているが、正史の背景としても十分だ。

 “”、“”、“”、“”等の武器は「伝説の「武器・防具」がよくわかる本」に、讖緯書に革令や革命というのは、「飛鳥とは何か」にも書かれていた。

(2015/1/18改訂)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2007年10月に戻る 2007年12月に進む