2007年12月
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@型破り!日本史面白ランキング
鈴木亨KAWADE夢文庫歴史薀蓄
221頁514円★★

 昔から“××番付”が好きな日本人。歴史の中のいろいろな項目に対してベストテンを著者の独断で決めて紹介した本書。 ありそでなかった面白い企画だ。
 この手の本の常で、書店でぱらぱらめくる分にはかなり面白く思えても実際読むと今ひとつなのだが、やはり本書も歴史観は旧来からのものでかなり物足りない。しかしベストスリーでないメジャーどころでない人物名、事象名を頭の片隅に置くにはよいかもしれない。

 ところで、表紙のこの三人。前の二人は明らかに宮本武蔵柳生十兵衛だが、本編に剣豪ベストテンはないぞ。なんで!?

Aはじまりの島
柳広司創元推理文庫推理
344頁705円★★★★

 博物学者のダーウィンを乗せたビーグル号の一行は南アメリカ大陸沿岸の測量任務を終え、ガラパゴスの島で1週間の上陸休暇を過ごすこととなる。が、次の朝無残な殺人が発覚。そしてこれを皮切りに姿の見えない殺人者は次々と一行を襲い続けるが…。

 進化論で有名なダーウィンを探偵役とする推理小説。なかなか奇抜な思いつきだが、目新しさのための設定ではなく、1830年代の時代であるとかフエゴ・インディアンたち人物の特徴とかが謎解きにしっかり絡んでくるところが見事。中途のものも含めて逆説に満ちた真相が魅力的だ。

B竜を駆る種族
 The Dragon Mastars
J・ヴァンスハヤカワ文庫SF
207頁388円★★★★

 惑星エーリスに住み中世レベルの文明で貧しく暮らす人類の末裔は、過去に異星人に襲撃されながら辛くもこれを撃退。現在エーリスではいくつかの領主たちがこのドラゴン型の異星人を捕獲・奴隷化し、戦力として互いにあい争っていた。ここに数百年ぶりに異星人が舞い戻ってきて…。

 1963年ヒューゴー賞受賞。
 最初に読んだときにはなんともピンとこなかった記憶があるのだが、これまた武部本一郎の画とE・R・B呪縛から離れて読み直してみると、不十分な背景の説明や結末を含めてなかなかに味のある話だった。たしかに「冒険の惑星」のテイストがある。惑星チャイ(だったっけ?)を脱出したアダム・リースたちが、エーリスに迷い込んできても一向に構わないだろう。

 嗚呼、「冒険の惑星」武部本一郎の挿絵なら・・・。

 ちなみに表紙の女性は、本書の登場人物から選べば吟遊巫女のフェイドということになるが、物語上まったく絡んでこないぞ。

C頭蓋骨のマントラ 上下
 The Skull Mantra
E・パティスンハヤカワ文庫探偵/冒険
323頁/338頁660円/660円★★★★★

 チベットラドゥン州の道路建設地で首なし死体が発見された。事件の早期解決を求める州の軍司令官は、道路建設に従事させている強制労働収容所の受刑者単に捜査を命令する。単は司令官の望みが事件の真相究明にはなく、中央を納得させられる報告書の作成であることを知りつつ捜査を開始するが、明らかに冤罪と思われるチベット僧が捕らえられ、またこれが魔人の仕業だとして労働をボイコットした他の受刑者たちには処分の危機が・・・。

 チベット問題はまさに今が旬となっているが、本書を読めばみなさんも北京五輪開催を邪魔したくなるだろう。もちろん本書はフィクションなわけで、状況の誇張はあるのかもしれないが、ニュースでの暴動と政府の対応を見ているとそうは思えなくなる。
 ちなみに先日の農薬混入問題についてのニュースも、中国国内(とりあえずわたしが行った無錫)では流れていなかった。

 有り余る人口を武器に、現地人5万の街に10万の中国人を送り込んで中国化し、ここは中国の一部だと宣言して憚らない恐ろしさ。チベットほどではないにしても、新疆ウイグルなどの他の自治区でもその傾向はある。

 本書は異常に劣悪な環境の中で単が真相を暴いていくハードボイルドで(一人称ではない)、その真相も思っていた以上に素晴らしいのだが、それでも本書で主に残る印象は、中国に抑圧されたチベットの環境である。

D天正十二年のクローディアス
井沢元彦小学館文庫歴史ミステリ
276頁533円★★★

 著者の過去作品から歴史ミステリを集めた短編集。いや、わたしのイメージする歴史ミステリとはちょっと違った。文献や考古学から過去の埋もれた歴史の影に光を当てるのではなく謎解き趣向の時代劇じゃ。歴史上の有名人物が探偵役を務めるのが特色だ。

 「明智光秀の密書」では中国大返しのきっかけとなる有名な文書が暗号で書かれていたという設定で、黒田官兵衛がそれを解く趣向。他に秀吉が出演するものとして、果心居士が登場する「賢者の復讐」はまぁバイト仕事の小編。シリーズ化もされている?織田信長が探偵役となる「修道士の首」は、少々信長が“いい人”すぎるか。「太閤の隠し金」「剣鬼過たず」の二編はなんと宮本武蔵が探偵役だ。それぞれの歴史的背景で武蔵の立ち位置の違いが面白い。最後に収められた「三匹の獣」は江戸の市井物で、事件性はなく婿選びのために暗号を解かせるという本書の中では異色編。暗号は著者の好みのようだ。

 冒頭の「天正十二年のクローディアス」もいわゆる歴史ミステリで、先生と生徒の掛け合いで歴史の裏を紹介する形式。なかなかの面白さだが、鍋島龍造寺の関係はメジャーとは言えないにしても、特にマイナーというわけではないので、締めのオチに対する“生徒”の反応の鈍さが少々気になる。古典文学の教養のないわたしにとっては、クローディアスが「ハムレット」の登場人物であることのほうがなじみがなかった。

E始末屋ジャック 幽霊屋敷の秘密 上下
 The Haunted Air
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリー文庫冒険/伝奇
439頁/437頁914円/914円★★★

 ジーアの友人が入れ込んでいる霊媒師のもとへ彼女らとともに訪れたジャックは、たちまちその霊媒師イファセンのまやかしを見破った。ところがジャックは、ひょんなことからイファセン=ライルとチャーリーの兄弟からの仕事を引き受けることになる。彼らは誰かから襲撃を受けており、さらには本物のポルターガイスト現象に悩まされていた。ライル、チャーリー兄弟が仕事場のロケーションとして選んだ屋敷には、なんとあの…。

 あの「ザ・キープ」に繋がるエピソードも出たきたシリーズ第六弾。
 ジャックは世間の霊能力者というものの正体を鮮やかに暴露する一方で、二大勢力の手駒として超自然現象にめっきり慣れ親しんでしまっている訳で、そこのところはどうにも苦しい気がするが、あいかわらず彼のキャラクターと、本筋と違うところでの“始末”の鮮やかさが魅力だ。

 そしてまた、ジーアはあいかわらず鬱陶しい。やるなといわれたことを彼女がやったおかげで、えらい目にあった人間がいる。かわいそうに。

F始末屋ジャック 深淵からの脅威 上下
 Gateways
F・P・ウィルスン扶桑社ミステリー文庫冒険/伝奇
365頁/320頁838円/838円★★★

 父親が意識不明の重態に陥ったとの知らせを受けたジャックは、ニューヨークを離れフロリダ半島へと飛んだ。彼の知らない間に、父はゲイトウェイという老人ホームの施設に移り住んでいた。ジャックはその施設内で、まだまだ健康な男女が生き物に襲われて死ぬという不可思議な事故が続いていることを聞き知る。父もまたその連鎖の一環なのか。この地にもジャックを取り込もうとする超自然的な力の源が存在するのか…。

 ジャックがついにニューヨークを出てエバーグレイズ国立公園を舞台とするシリーズ第七弾。
 わたしのジーア嫌いも嵩じてきているが、今回は彼女の出番がほとんどないありがたい一編だ。
 もっとも恋人の父親が危篤の知らせを受けて、一緒に現地へ行かない彼女にはさらに腹立つわけだが…。

 それはともかく、本書の読み所はジャックと父親の和解である。ジャックを修理屋だと思っていた父のトムがついに始末屋としてのジャックの素顔を知ることになり――邦訳では“始末屋”だが、原語ではREPAIR MANだから――、一方で実直な役人だと思っていた父親にも別の一面があり、ジャックの父を見る目もまた変わる。トムが次巻以降でまた登場するのかは不明だが、再度ジャックの目線から語り直されるであろう「ナイト・ワールド」に期待だ。

 実は期待と不安で4:6といったとこだが・・・。

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