2008年 1月
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@ループ
鈴木光司角川ホラー文庫ホラー/SF
419頁648円★★★★
 転移性ヒト癌ウィルスが蔓延し、世界は存亡の危機に襲われていた。ウィルスに父を倒された医大生の馨は、ウィルスを探るうちにそのDNAが、自然のものとは思えない塩基数の構造を持つことを発見した。さらには、父も20年前に参加していたループ・プロジェクトが、ウィルスの蔓延に何らかの関係があるらしいことも・・・。その手がかりを基に、馨はアメリカの砂漠を単車で疾走する。果たして彼は、転移性ヒト癌ウィルスの謎を解き、父を、恋人を、そして世界を救うことができるのか。ループ・プロジェクト推進ののキーパーソンが残した、“タカヤマ”とは何を意味するのか・・・。

 正統派ホラーの傑作「リング」に比して、その世界観を違った切り口で語るというのがウリだった続編の「らせん」
 その意欲は良しだが、ぶっとび具合があんまりなもので、おかげで「ループ」は読む気がせず長い間積ん読状態だった。
 不安の中ついに読み始めた本書は、いやにまっとうな医療モノとして始まり、前半部は世界の週末を予感させつつも静かな展開だ。前二作との繋がりもわからない。なので前半は馨と礼子の困ったチチクリあいに眉を顰めたくらいだ。――礼子さん、あんた大人なんじゃから、TPOを考えないかん。いくらリビドーに負けてしまったと言っても、ゴムの指導はしなさい。
 しかし舞台がアメリカに移ってからは、冒険小説としてもなかなかだし、まさかあんなオチが待ってるとは。

 ネタとしては、<ネタばれ反転>「フェッセンデンの宇宙」の昔からあるものだが、「リング」「らせん」という壮大な前振りがすごい。<ネタばれ反転>ドルリー・レーンもの”に通じるところか。
 近未来、というよりもまるっきり現代が舞台なので、SFというよりは擬似SFの臭いがしてしまうが、あの「らせん」を包含してくるとは、鈴木光司、只者じゃぁない
Aエイリアン秘宝街
菊池秀行ソノラマ文庫伝奇/冒険
279頁410円★★★
 授業中に現れた瀕死の老人は、八頭大に謎の触手と水晶片を託して死んだ。高校生ながら腕利きのトレジャーハンターとしてその筋には名が知られ、国家予算に匹敵する膨大な資産を持つ八頭大は、死んだ老人、太宰先蔵の意思を継ぎ、彼の残された孫娘ゆきとともに先蔵の生前の動きを探る。東京の街中で、世の常識を超えた事態が進行しているらしい。江戸時代の“よだれ長者”の史料は、彼らを東京の地下の恐るべき異界へと導くが・・・。

 実家の大掃除で久しぶりに出てきた本書。いや、懐かしい。
 “キマイラシリーズ”とほぼ同時期に出会ってかなりハマったものだが、夢枕獏と違って、菊池秀行にはすぐに飽きがきた。
 最初ははじけっぷりがすごいと思っていた魔人、妖人、自衛隊特殊部隊等々の異種格闘技戦も、結局は風太郎忍法帖の焼き直しだと覚ったこともある。

 それでもこのトレジャーハンターシリーズは、「エイリアン妖山記」まではなかなか面白かった。
 ところで、大とゆきの関係は、まるっきりルパン(もちろん三世)と不二子の関係で驚いた。昔読んだ時は不思議と気付かなかったが。
 “ゆきちゃーん”とか言いながらダイブして、すかされてずっこけるところまで、恥ずかしくなるくらい真似しとるではないか・・・。
 そう言えば、ルパン三世も財力はすごいはずだし、元々がルパン三世のオマージュという側面もあるのだろうか。
Bテロリストのパラソル
藤原伊織角川文庫ハードボイルド
374頁590円★★★★
 ある日いつものように新宿公園で酒を飲んでいた島崎は、突然の爆弾テロに巻き込まれる。被害者の中には、偶然にも長年音信不通だった学生闘争時代の友人、桑野と園堂優子が含まれていた。島崎は昔桑野の起こした爆弾事故の容疑者として、現在も官憲から身を隠す境遇にあったが、この騒ぎに紛れて酒瓶をを現場付近に置き忘れたために指紋を採取され、新たに追われる羽目になる。島崎は警察を避けながらもこの爆殺事件の裏を探ろうとするが・・・。

 著者デビュー作にして、江戸川乱歩賞直木賞ダブル・クラウンというとんでもない快挙を成し遂げた一品。
 和風ハードボイルドとしてとてもデビュー作とは思えない出来だと思うが、あとがきだったかどこかで読んだか、歴代乱歩賞受賞作の中で一番の面白さとまでは思わない。
 まぁ乱歩賞受賞作といっても必ず面白いわけではないので、その中では十分上位にくる作品であることは間違いない。学生闘争というのはその該当する世代にとっては、強力なシンパシーを感じさせることはあるのだろう。
C世界史の謎がおもしろいほどわかる本
「世界史ミステリー」倶楽部三笠書房王様文庫歴史薀蓄
237頁524円★★★
 表紙がダ・ヴィンチ「最後の晩餐」であることからも、「ダ・ヴィンチ・コード」にあやかった企画であることが伺える。95の項目のうち4つがそれ絡みのネタだ。
 しかし当然ながらネタに深みはなく“謎がわかる”ことなどはない。

 その中でももっともがっかりしたのは、マリー・セレステ号の謎だ。
 あの不可解な失踪に新たな説でも載ってるかと思えば、食べかけの食事が荒らされた様子もなくそのまま残されてたり、船長の航海日誌に“わが妻マリーが――”と書かれていたりとかの失踪時の状況(これ自体が後に枝葉としてくっついたヨタかもしれないが)すら書かれていないとはなぁ。
D武部本一郎SF挿絵原画蒐集【1965〜1973】上
武部本一郎SF挿絵原画蒐集【1974〜1979】下
加藤直之監修ラピュータ原画集
494頁/510頁6000円/7000円★★★★★
 嬉しかったね。
 ついに出た。というか一年遅れてついに見つけた。

 11歳の頃からの武部ファンとしては、絶対に抑えておきたいアイテムである。表紙や口絵に使われた彩色ものだけでなく、単色刷りの挿絵までが可能な限り網羅(原画が見つからなかったものに関しては、それを断ったうえで二次転載ででも載せて欲しかったが・・・)されているし、画の部分だけでなく、それが描かれた紙の外形まで取り込まれているというのが貴重だ。
 このあたりの方針は、編者の加藤直之の考えだろうか。彼が熱心な武部本一郎信者だったとは知らなかった。
 武部本一郎が亡くなり、当時彼の表紙、挿絵でシリーズ化されていた反地球シリーズターザンシリーズ加藤直之にバトンタッチされたときは、かなりがっかりしたものだが・・・。いや、あのパワード・スーツを始めとしたハヤカワ文庫SFの表紙のようにメカ画は素晴らしいのだが、人物と怪物の類はなんといっても武部本一郎がダントツだから仕方ない。
 武部本一郎の次に位置するのは、白土三平(劇画のほうの)くらいか。

 途中に加藤直之のコラムが入っているのも、貴重な証言がわんさとあって面白い。
 しかし本書の表紙に選んだ二点(「火星の交換頭脳」の表紙と「火星の合成人間」の口絵から)はえらくマイナーだな。安易に「火星のプリンセス」にしないのは良いが、もっとすばらしいのがいくらでもあるのだが。

 高価? 仕方ないだろう。
E青空の卵
坂木司創元推理文庫推理
384頁743円★★
 ひきこもりの“探偵”鳥井真一と、その友人の坂木司が出会った人たちの、身辺に起こる奇妙な出来事の謎を解く、いわゆる“日常の謎”系ミステリ。
 「夏の終わりの三重奏」から始まって、秋、冬、春、そしてエピローグ的な初夏まで、計五編の連作短編だ。

 著者はこれがデビューの覆面作家とのことで、性別も判らんとか。しかしこれは間違いなく女性だろう。いや、北村薫といった先例もあるが、これが男の思考で書かれたものならば、正直言って気持ち悪い。
 物語中の坂木司は男で、これが鳥井との関係、そしてそれ以外のなんにでも(彼の一人称だからあたりまえだが)ぐだぐだと思いを語るのだけれど、これは女性だよ。女だと言ってくれい。

 鳥井の性格というのが、傍若無人ともいえる口と態度の悪さを発揮する一方で、ひきこもりスイッチが入ると、子供に戻って坂木以外の言葉を受け付けないといった困った設定なのだが、ちょっと考えてみよう。
 表面上冷たいけど実は優しく、しかも病気の部分は母性本能をくすぐってしまうという、これは一定数の女性には、まさに好みの設定だろう。
 ひきこもり体質の人間が、普段は攻撃的とも言える言動を弄するといった症状はありうるのかという素朴な疑問もわき上がる。ほとんど二重人格のようだが。

 まぁ女性的だからどうのということではなくて、男が気付けない観点からの指摘というのは、時にありがたくもあるのだが、本書に関しては、著者の思い込みによる決めつけがほとんど腹が立つほどの苛立たしい。
 名前で呼ばないことがかえって失礼にあたるとかなんとか、初対面の年上の老人に対しても名前(苗字でなく)を呼び捨て、周りのメンツはあほ揃いじゃからあまり反論もできん(というか、すぐに納得してしまう!)。
 例えば、私の嫁なんかも“母さん”とか“おい”とかで呼ばれることはいやだと言ってるが、だからといって初対面の若いがきんちょから名前を呼び捨てにされたら、かなり腹立てるだろう。私ならグーが出るかも。

 鳥井の(著者の)理屈は、西洋社会の理屈である。
 本気でそう思っているのなら、まぁ日本から出て行くのがいいだろう。
F人間は考えるFになるf.jpg
土屋賢二/森博嗣創元推理文庫対談
254頁495円★★★
 新旧の推理小説作家の対談。

 と思っていたのだが、土屋賢二は哲学者だった。どうやら文筆業で稼いでいる大学教員同士の対談じゃな。どうも土屋隆夫と混同していたようだ。

   残念ながら土屋賢二のエッセイは読んだことがない。しかし藤原正彦ともども、お茶の水大学の名物教授らしい。しかも学部長だとか。
 となると、かなりの人物だと思われるが、本対談では森博嗣のキャラに圧されて、少々話のくどい一般人と化しておる。まぁ多分にそう見えるように演出している気配もあるだが・・・。
G大年神が彷徨う島
藤木稟徳間文庫推理
487頁762円★★★
 古祭の生き神役の代理を引き受け、律子は土佐沖に浮かぶ鬼界ガ島を訪れた。異様な風体の神職たちに支配された不気味な島で、次々と現れる不審な死。これは果たして大年の神が下した神罰なのか・・・。

 容易に運搬できないはずの重い鋳造神像が凶器を握って現場に忽然と出現するのを皮切りに、衆人環視の下での人体発火、胴体切断等々人間の仕業とは思えない奇怪な死が次々に発生する。
 因習に凝り固まった孤島が舞台といい、恥ずかし気もなく(ほめ言葉)大掛かりなはったりトリックを繰り出す著者の力技は、島田荘司の最も忠実な弟子のようだ。
 しかも島田御大や設定の類似がよく比較される京極夏彦達が脳の錯誤に流れてしまうところを、恥ずかし気もなく(ほめ言葉)物理的に攻めてくるところなどは、なかなか潔くて私は支持する。

 ただしそのトリック構造や盲目の美青年朱雀十五というスーパー探偵の設定が、かなりジュブナイル的な印象を与えてしまう。せっかくのおどろおどろした設定もあまり有効に使っていないようだし・・・。
H古代 天皇の都
鈴木亨学研M文庫歴史薀蓄
353頁630円★★★
 平城京より以前の時代には、それぞれの天皇ごとに別の宮を持っておったわけで、つまり初代の神武天皇畝傍樫原宮(←“うねび”は奈良の人間なら読める)以降、藤原京までは天皇の数+αの宮が存在するわけだ。
 もとより実存しないと言われている天皇も多い中、当然伝えられた宮の中にも眉唾な場所も多いし、旧宮伝承地の近所に住んでいる人すら知らないような場所を丹念に紀行しながら古代史ロマンに浸る。下の本のような深みはないが、意外に飽きずにすらすら読むことができた。

 紀行の部分は枕にすぎないが、せっかく地図を載せるのならばもう少し判りやすい図が欲しいところだ。
I飛鳥とは何か
梅原猛集英社文庫歴史薀蓄
334頁590円★★★
 こちらは歴史学者が検討すべき深い部分の話で、前半の小墾田宮の所在地論争など初めて聞く内容だ。小墾田宮の所在地は一般的には豊浦とされているが、著者は声を大にして豊浦から北北東に3.6Km程度離れた近鉄大福駅付近であると主張している。(因みに上の「古代天皇の都」では、小墾田豊浦宮の所在は異論なく豊浦ということになっている。)

 小野妹子の渡中(例の“日出る処の〜”一件のあった)に対するの返礼使裴世清が、小墾田宮を訪れた時の記紀(どちらだったか忘れたが)の地理的な記述からしても、また聖徳太子斑鳩から“通勤”していたことからしても、大福周辺に違いないという論だが、地図で調べたかぎりでは、斑鳩からの“通勤圏内”ということでは、豊浦大福似たり寄ったりで無理があるように思う。(斑鳩から豊浦または大福までは20Km近い)  結局太子が通っていたという記述そのものが記紀編纂時代の創作では?

 当時、なぜに飛鳥の地が重要視されたかの論考では、蘇我氏のの配下で実務を担っていた「東漢(やまとのあや)氏」の存在が大きかったとするのが興味深い。

 今回著者の本を始めて読んだが、弟子?の井沢元彦と同じくなかなか攻撃的な“論争求む”モードの人だった。
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