2008年 4月
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@メルニボネの皇子 永遠の戦士エルリック1
 Elric of Melnibone
 The Fortress of The Pearl
M・ムアコックハヤカワ文庫ファンタジー
561頁940円★★★
 斜陽の刻を迎えているとはいえ、未だ周囲の大陸の国々にとってメルニボネ帝国は脅威であった。好戦的で残忍といわれるメルニボネ人にあって、白子として生まれ体力もままならない皇帝エルリックのみは、メルニボネに変革が必要であることを察していたが、エルリックの許婚サイモリルの兄イイルクーンはそのような彼をこころよく思っておらず・・・。

 エルリックが<混沌の神>アリオッホと契約を結び、妖剣ストームブリンガーを手に入れるまでを描く「メルニボネの皇子」と、皇座を預け独り砂漠をさすらうエルリックが、夢盗人のウーンとともにボーラディムの<神聖乙女>の夢世界に入り込む「真珠の砦」の二編。

 以前エルリック、エレコーゼ、コルムなどのサーガが相次いで出版された時にわしがこのシリーズに手を出さなかったのは、当時の解説などからわしが受取ったムアコック・ファンタジーの世界感が、魔法(神々)でもって流動的にフラフラする印象じゃったからじゃ。天野義孝の表紙イラストにも影響されとったかもしれん。

 それが今回手を出してしまったのは、ひとえに背表紙が繋がって絵になるのが、本棚に並べて楽しいかなというまったくもってまっとうでない理由じゃ。出版社の作戦にまんまと引っかかってしまったわい。

 感想は、まぁまぁ思っていたよりは地に足がついている印象じゃろうか。
 異世界を渡り歩かれるのはあまり好きではないが。  「夢盗人の娘」「黄金の幻影都市」と並行して読んでおったので、印象がごっちゃになってしまったわい。

 ところで、エルリックはメルニボネの皇帝なんじゃが、なぜに邦題は皇子なんじゃ?
A犬神家の一族
横溝正史角川文庫推理
414頁667円★★★★
 信州那須の資産家犬神家の当主佐兵衛が死去した。嫡孫の佐清が戦地から帰還するのを待って遺言が公開されたが、遺産は佐兵衛の親族たちではなく、恩師の曾孫にあたる野々宮珠世に有利に渡るよう書かれていたために、一族の間に凄惨な連続殺人劇の幕が上がる・・・。

 日本の推理小説史上あまりにも有名な一冊。角川映画での一連のブームの時代に、金田一耕助ものの有名どころはすべて読んでいたつもりじゃったが、どうも本書は初読のようじゃ。なにせ琴の師匠が<ネタばれ反転>青沼菊乃であるとか<ネタばれ反転>静馬が逆さに湖に突っ込まれていたことの意味であるとか、映画にはない設定にびっくらこいてしまったからのぉ。
 ついでに言えば、金田一耕助が例の格好で颯爽とスキーをするシーンなんかも映画にはないもんじゃ。
 しかし正直なところ、斧・菊・琴に関する判じ絵のくだりなどはやりすぎ感が漂うので、映画版の編集は概ね正しいじゃろぉ。映画版での不満どころはこちら。

 本書はこれはこれで面白くさすがは名作じゃ。しかし<ネタばれ反転>松子は佐清と珠世の想いには気づいていたようなので、佐清の顔の損壊に気づく前の珠世の殺害未遂と若林殺しは、どう考えても常軌を逸しておる。まぁこれはこれで<ネタばれ反転>情に狂った女が暴走しているというのは怖さ倍増じゃな。
B秀頼、西へ
岡田秀文光文社文庫時代
546頁819円★★★
 大阪冬の陣。「城が落ちた折には秀頼様をなんとしても薩摩へ逃がせ。」父幸村から命じられた真田大助は、秀頼始め数人の家来たちとなんとか城を出ることに成功した。父の下には薩摩からの受け入れの打診があったというが、詳細を知らぬままの逃避行でそれは期待できず、ましてや徳川方の隠密が一行に混じっている気配もある。さらには薩摩も当主島津家久と父義久では一枚岩ではなく・・・。

 戦の気配を感じながら暮らす小さな姫の前に、久方ぶりに現れた父はあきらかに別人だというのに、周りの父の家来たちはお父上ですよと口をそろえる。この謎めいたプロローグは絶品。
 幸村始め、歴史小説としての大阪の陣の描写も十分の面白さ。秀頼逃避行の裏で様々な人物たちの立場が語られるが、これも秀逸。豊臣秀頼が魅力的なキャラクターとして造詣―少々毛恥ずかしいくらい――された小説もわしは始めてじゃ。それだけに中盤、百瀬屋敷以降はミステリーもほぼなくなってしまい、せっかくの多彩な登場人物もあっさりと退場してしまったり、普通の時代小説に落ちてしまったのが残念じゃ。  最終的なオチとなる家康の思いも、謀臣本多正純にまで隠して独り悦に入るような内容でもなし、<ネタばれ反転>島津潰しの理由にするための徳川方が秀頼逃避行を援助し、受け入れ側の島津が暗殺部隊を送ってくるという逆転の構図は素晴らしいのじゃが、その気があるなら必ずしも<ネタばれ反転>薩摩の領地に到着させずとも成り立つなので設定として少々強引に思うが。
C黄金の幻影都市
 1.電脳世界の罠/2.赤き王の夢/3.青い犬の導師
 4.闇の中の宇宙/5.仮想都市テミルン

 Otherland Vol.One
 City of Golden Shadow

T・ウィリアムスハヤカワ文庫SF
341頁/308頁/303頁
341頁/338頁
660円/660円/640円
680円/680円
★★★
 南アフリカの科学技術専門学校で教えているレニーは、母が死んで以来生活力をなくした父親とゲームにのめりこむ弟を養っていたが、その弟スティーブンがネット接続中に何かの原因で、意識が戻らない体となってしまう。レニーは弟を取り戻すために、教え子のブッシュマン、!Xザップとともにネット内を探り始め、通常のヴァーチャル・リアリティーのレベルを超えたデータ量だと思われる、黄金に輝く都市の映像を垣間見る。一方難病に冒された少年オーランドも、一瞬見ることのできた黄金都市を探し始め、また第一次世界大戦の最中戦場を逃亡してしまったポールは、記憶を失くしたまま異世界をさ迷う・・・。

 「テイルチェイサーの歌」というと「ウォーターシップダウンのうさぎたち」と同じくらい面白かった動物ファンタジーじゃ。その作者タッド・ウィリアムスの著作、しかも野田大元帥イチ押しとくれば、これは面白いに違いないじゃろぉ。しかしシリーズが完了してからと手控え、五冊が揃った時点で漸く購入した。
 と思ったら、

全然終わってないやんけ!

五冊も買わせてまだオチつかずとはどういうこった!!


 訳者と出版社に言いたい。
 面白い面白いとさかんに煽っておいて最後まで訳さず放置するというのは、必ず儲かると出資させて配当金を払わずトンズラする企業と同じく詐欺行為じゃ!!  出資した五冊分合計¥3320を返してくれぃ。

 ところで、これに続巻が出たら迷わず買うかと訊かれれば、これが微妙なところなのじゃよ。
 言うほど面白くないんじゃよな。メインの主役レニーは、リスクの高いミッションに他人を巻き込んでかえりみず、少々自分本位な感じじゃし。弟を助けるという強力な動機付けはあるとはいえ好感が持てん。オーランド(=サルゴー)が代わって活劇担当かと思えば、なんとあの難病プロジェリアという重い設定。で、どんどんへばって明日をも知れぬ状態のまま放置じゃ。

 うーむ、困った本じゃ。
Dやっかいな隣人韓国の正体 なぜ「反日」なのに、日本に憧れるのか
井沢元彦/呉善花祥伝社民族薀蓄
289頁1600円★★★★
E片桐且元
鈴木輝一郎小学館文庫歴史
417頁657円★★★★
 PHP文庫ばりのつまらん題名じゃが、けっして片桐且元の幼少から死ぬまでをだらりと追ったストーリではなく、徳川家康に難癖をつけられた方広寺鐘銘問題から大阪城退去までの数ヶ月間に絞った物語じゃ。

 片桐且元といえば賤ヶ岳七本槍に選ばれた一人ではあるが、その後の武名はあまりなくどちらかといえば官僚のイメージじゃ。本書でも豊臣秀吉から“其方は文武いずれにも劣る”と言われたくらいじゃが、しかしどうしてどうして生半可ではない立ち回りを見せてくれる。これはぜひとも加藤清正福島正則の武力を見せてもらいたいところじゃ。

 本書の面白さは且元と彼の唯一の忍びである五郎太とのかけあいによるところ大じゃが、この二人の魅力もさりながら、織田常真(=信長の次男信雄)がすばらしいキャラクターに仕上がっとる。基本的に能無しとして登場することがほとんどの彼が、これだけ魅力をもって登場する本をわしは知らんのぉ。
 他にも上忍としての真田幸村も面白い。

 因みに上に書いたように、本書は片桐且元大阪城を抜け出すまでの物語じゃが、徳川に寝返った彼の驚天動地な最期は「秀頼、西へ」で読めるぞ。
F爬虫類館の殺人
 He Wouldn't Kill Patience
C・ディクスン創元推理文庫推理
334頁640円★★★
 ドイツの空襲に脅かされながらも未だ日常生活が可能なロンドン。動物園内にある園長の屋敷で、園長と彼が取り寄せた珍しいボアがガス中毒死しているのが見つかる。部屋は内側から目張りされ、また動物園の運営に関する難しい状況から自殺と思われたが、娘のルイズは言った。“父がペイシェンスを殺すはずがない”。若い奇術師たちとともに現場に居たH・M卿もまた、これを殺人だと断定して犯人に追うが・・・。

 例によってかなり痛いドタバタから始まるのじゃが、姿の見えない犯人が周りで踊っているかの不気味な印象をかもし出すのが上手いのぉ。密室トリックは少々(これまた例によって?)実現性が疑問ではあるが、ミス・リーディングが見事じゃ。

 ★×3の割にベタ褒めじゃが、和訳の題名はいただけない。なんせ、殺人現場は爬虫類館ではないからのぉ。
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