| 2008年11月 | |||
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| @ | ドイツ列車砲&装甲列車 戦場写真集 | ![]() | |||
| 広田厚司 | 光人社 | 歴史薀蓄 | |||
| 142頁 | 1800円 | ★★★ | |||
| 80センチ巨大列車砲グスタフとドーラの雄姿を見たくてつい購入した。 貴重な写真が満載で、列車砲本体だけでなく、左右の射界を得るための回転台やあるいは曲線レールに繋がったコンクリート掩体壕などの写真が興味深い。その中でも最も興味深いのが、粒子はあらいものの、ヒトラーやらポルシェ博士たち一団の背景に巨大なグスタフが写った一枚だ。 これまで一番砲と二番砲の名称については、開発責任者とその妻の名前から取ったと理解していたのだが、これは半分間違いで、一番砲グスタフのほうはクルップ社の会長の名前だということだ。 ところで装甲列車と装甲車列車の違いが判るだろうか。大陸と違って日本では戦闘用の列車は発達しなかったので、装甲車列車の日本語訳は著者がつけたものだと思うが、違いが判るかな? (2012/11/3改訂) | |||||
| B | 新艦長着任! 上下 On Basilisk Station | ![]() ![]() | |||
| D・ウェーバー | ハヤカワ文庫 | SF | |||
| 351頁/326頁 | 640円/640円 | ★★★ | |||
| マンティコア王国軍の巡洋艦フィアレスに艦長として配属されたオナー・ハリントン宙佐補は、着任早々、フィアレスの艤装が上層部の思惑によって大幅に変更されていることに驚くが、演習では捨て身の戦術で成果を挙げることに成功する。しかし結局はバジリスク宙域でに左遷され、かつ現地司令官との過去のトラブルから、孤艦でもって膨大な任務をこなさなければならないことに。それでも彼女は精力的に任務を軌道に乗せ、部下からの信頼感も確保していくが、バジリスク宙域の居住可能惑星メデューサでは、原住生物を巻き込んだ大規模な陰謀の気配が・・・。 著者も明言しているように本シリーズは宇宙版ホーンブロワーなので、つまりはスタートレックのファンには取っ付きやすいシリーズだろう。様々な試練に向き合った主人公が、果敢に判断、行動していくのかを楽しむことだ。しかしスタートレックのようには――突拍子のないものも含めて――SFマインドは感じられないのが残念。まぁ新味はないとはいえ、巻を追うにつれて世界観はより深くなるのだろう。 ミリタリーSFという範疇で考えれば、フィアレス乗員に多大な犠牲を出すハリントンの対応は良しとせねばならないだろう。しかしメデューサの原住民大量殺戮については非常に問題ありだ。 原住民の暴動(しかも人間による麻薬物質の蔓延に原因あり)に対しては、麻酔弾や催涙弾等の非殺傷兵器の使用、あるいは襲撃される側の一時避難で時間を稼いで、原住民への薬物効果を除去しようとする取組み等々を検討すべきだろう。一顧だにしとらん。ハリントンは失った部下には思いを馳せるが、殺戮させた原住民についてはなんにも感じないらしい。 これでは近代の黒人、黄色人に対する白人様の優越と何等変わるところがない。ホーンブロワー・シリーズのように、18世紀末から〜19世紀初頭という時代設定が背景ならばまだ判るが、本書は曲がりなりにも、われわれの世界に続いた未来が舞台だ。情けない。 ところで本書でもっとも気になったのは別のことだ。 この表紙にしてからが少々レジに持っていきづらいのだが、口絵として挿入されたフィアレス乗員の画の酷いことといったら・・・。アメコミ調崩れの画だが、とにかく酷い。リーダビリティが40%ダウンだ。なんのための挿絵なのか。理解不能である。 肝心のホーンブロワー・シリーズが未だ三巻の途中なので、本シリーズの続巻を追いかけるかどうかは保留だが、なんでも本シリーズとヴォルコシガン・シリーズに加えて、銀河の荒鷲シーフォート・シリーズ(このシリーズ名がまた辛いが・・・)が現代ミリタリーSFの御三家だというらしい。 荒鷲を一冊読んでみるしかあるまい。 (2012/11/3改訂) | |||||
| D | 明智小五郎対金田一耕助 名探偵博覧会U | ![]() | |||
| 芦辺拓 | 創元推理文庫 | 推理 | |||
| 323頁 | 740円 | ★★★ | |||
| 著者作品を数冊ながら読んで思うのは、トリック重視で古典謎解き小説への愛の深さだ。 それはとても好感が持てることで加点ポイントなのだが、せっかくのトリックが機能するための、インフラ整備が不十分という印象を毎回受けてしまう。周辺環境や状況、人物の動きといったところだ。なのでせっかくの加点がありながら、感想はちょっと(いやかなり)無理があるんじゃね?となり勝ちだ。 ところで本書は、古典作品へのオマージュを込めたパスティーシュ集ということで、元々顕著に感じた古典への偏愛が無理なく爆発している。ということでさらに加点が増えるので、合計で差し引きしてもプラス、著者の作品は僅か三冊しか読んでいないが、その中ではベストだと思う。 (1)明智小五郎対金田一耕助 満州からの帰路、一時停車中の大阪で、明智小五郎は不在中に発生した興味深い事件を探していて、ひとつの新聞記事に目をとめた。そこには事件の概要と、金田一耕助なる探偵の談話が載っていたが…。 推理小説としてのネタを考えるだけでも大変だろうに、こういったパスティーシュ作品では、無理のない設定を構築するために関連作を何冊も読み直すことが必要だったりと、傍で感じるよりも大変な苦労があるはずだ。対象に溢れんばかりの愛がなければとてもとても書けない。 こういった作品には珍しく、二人に勝ち負けをつけているのがポイントで、著者は読者の感想を若干心配しているようだが、わたしはモーマンタイだ。「怪人二十面相」、「本陣殺人事件」に繋がるようにまとめているところもさすがである。 探偵小説への愛が強すぎて、帆村荘六まで筆が及んでしまうのは、少々走りすぎではあるが…。 (2)フレンチ警部と雷鳴の館 旅先のとある駅で、旧家の遺産相続のゴタゴタに巻き込まれたフレンチ警部夫妻。どうやらロンドンの著名な探偵で、スコットランドヤードの信任も篤いFなる人物に間違われたらしい。成り行きでその雷鳴の館に逗留することになったフレンチ夫妻は、そこで密室殺人事件に遭遇する。 密室殺人でFとくれば、隠す必要もないのだが、<ネタばれ反転>ギデオン・フェル博士である。これはあくまで導入部として早々に開示され、めでたく両探偵の競演となるわけだ。 フレンチ警部のことは、随分昔「樽」を読んだことがあるだけでよく知らない(Wikipediaによるとどうやらこの有名作にフレンチ警部は出ていない。また作者クロフツの作品にも密室物は多いとか)のだが、カー作品のパスティーシュらしく“密室殺人”を扱い、かつ“あの方とこの方の類似”に言及したりと、なかなか楽しい作品。 (3)ブラウン神父の日本趣味 ある資産家が日本の古物に満ちた陳列室の中で殺されているのが発見された。警護を頼まれていたフランボウは、消えた犯人についての謎をブラウン神父に相談する。 いわゆる見えない犯人テーマだが、非常にわかりやすい自虐パロディである。事件の真相はもう一段ひねっているのだが、夫人が扉を開けて東洋人を認識出来なかった時に、新聞記者がなぜ口裏を合わせなければならなかったのがよく解らない。 (4)そしてオリエント急行から誰もいなくなった 走行中のオリエント急行内で発生した殺人事件に対して、同乗していたベルギー人の探偵は、ユーゴスラビア警察に一方的な事件報告書と協力願いを提出して、そのまま走り去った。受け取ったユーゴスラビア警察は、実際に車内で起こった事件の顛末を推理し…。 A・クリスティーの有名な作品のエピローグを受けてのツッコミから入る本作。目の付けどころがすばらしい。「オリエント急行の殺人」自体のネタバレをしていないことも尚すばらしいが、ユーゴスラビア人の刑事が推理した一段目の推理(ベルギー人探偵の推理結果)からさらに二段目を臭わしているが、そこまでやることはないかな。 (5)Qの悲劇 または二人の黒覆面の冒険 デトロイトで講演巡業をしていたエラリー・クイーン氏は、ある殺人事件に巻き込まれる。被害者が残したという電話での会話は、どうやら犯人による偽装だったのだが、その中でエラリー・クイーン氏をみかけたと言っていたのだ。なぜ犯人は、そのような偽装を残したのか? 公開討論で、“エラリー・クイーン氏たち”はこの事件に言及する…。 マンフレット・リーとフレデリック・ダネイの有名な公開覆面討論を取り込んで、なかなかの面白さだが、なぜ余計なものを追加するのかがよく解らない。 余計なことというのは、オープニングとエンディングの趣向のことだ。 (6)探偵映画の夜 洋モノの古いレア探偵映画の蘊蓄について、客に熱く語る探偵小説家。そしてニ時間後、彼は自宅で死体となって発見される。その直前、彼のいた部屋に緑色の怪人が目撃されていたが…。 これもファンタジックな要素を取り入れた一篇。 メインが探偵映画の蘊蓄ともいえる話なので、まあ良しかな。 (7)少年は怪人を夢見る とある大仏の内部に監禁されたうえ、導火線の火花が迫ってくる。絶対絶命の若い男は、走馬灯のように過去を振り返る。親に捨てられ、孤独に放浪し、“あの人”に出会うまでの半生を…。 “あの人”がてっきり怪人二十面相だと思って読んでいたのだが、<ネタばれ反転>アルセーヌ・ルパンのことだった。 大仏云々とすり替わりの話も、おそらく「黄金仮面」に出てくるネタなのだろう。恥ずかしながら、昔読んだ話の中身はまるで覚えていないのである。覚えているのは、黄金仮面が↑の人だったというインパクトと、彼は義賊だから人殺しはしないんだぞ。江戸川乱歩はダメだなぁであった。 しかし大人になると、ナショナリストの彼にとって、“人殺しはしない”の人の範疇に、日本人は含まれていないのではないかという疑問が沸き、さすがは乱歩、そこまで考えていたかと見直した。 乱歩が実際にそこまで考えていたかは知らないが、「ブラウン神父の日本趣味」を取っても、著者がそこを考慮して書いているのは確実だろう。さすがである。 サービスは、芦屋暁斎と左右田五郎くらいでとどめておくべきですが。 (2013/6/1記載) | |||||
| F | 赤死病の館の殺人 | ![]() | |||
| 芦辺拓 | 光文社文庫 | 推理 | |||
| 321頁 | 571円 | ★★★ | |||
| 地元で開催された著者の講演会で購入した。 (1)赤死病の館の殺人 森江春策の秘書、新島ともかが雨に降られて迷い込んだ屋敷は、長方形の部屋が折れ曲がりながら、廊下もなく一列に配置されるという奇妙な作りをしていた。屋敷の主の孫娘に間違われる一幕もありながら、なんとかその娘と病臥中の屋敷の主人とともに、奇妙な並びの部屋の一室をあてがわれたともかだったが、その晩、修道士風のマントを羽織った怪人を目撃する。そして翌朝彼女が目覚めた時には、主と孫娘は姿を消し、屋敷を管理していた男の死体が転がっていた・・・。 特殊な部屋構成を利用したトリックはなかなか面白いし、その間取りの必然性も新鮮だ。(それを説明する森江の前口上は少々いやらしいが・・・) 著者がインスパイアされたポーの短編は以前に読んだが、幻想小説でオチがあるわけでもないので印象は然程なく、言われるまでまったく気付かなかった。著者のほかにも二階堂黎人や山田正紀がこのポーの短編にインスパイアされたとか・・・。 しかし<ネタばれ反転>ソフトレンズを使用したとしても、ともかが違和感に気付かないとはちょっと考えにくい。 (2)疾駆するジョーカー 連続暴行殺人事件の容疑者の少年とその両親、人権弁護士と記者の一行が、打合せと称してある家に一泊することになった。外部からの嫌がらせを怖れた両親は、夜間の見張りとして学生の二宮を雇ったが、その晩ウトウトした彼がふと気付くと、弁護士の部屋から現れて雑誌記者の部屋へと滑りこむジョーカー姿の怪人を目撃する。不意をつかれ昏倒させられた次の日、死体が発見されたが、彼の証言は信用されず反対に容疑者にされてしまう・・・。 二編続けての怪人登場だが、せっかくのシチュエーションなのでもう少し怪奇な印象を強めてもらってもよかった。しかしそこが淡白な反面、真相の気持ち悪さは際立っている。いわゆる少年犯罪者や人権弁護士に対するわたしの思いは、著者とおそらく同じだが、その思いがストーリー作りに若干影響し過ぎているのかな。 (3)深津警部の不吉な赴任 地方の警察署を訪れた森江春策は、署員のほとんどが新しく赴任してくるキャリアの深津警部を出迎えるために出払っていると聞いて閉口するが、赴任早々の警部が転落死体の現場検証に意気揚々と向かうと、森江も彼らにくっついて行き・・・。 警部の名前といいキャリアへの地方署の媚び具合といい、「踊る大捜査線」に影響を受けたこと間違いなしのパロディ作品だ。 深津警部と加倉井部長刑事の推理合戦と、それを森江がもう一段ひっくり返す真相が見事。しかし控えめな性格との割に、強引な推理をあれだけよく自信満々にしゃべれるものだ。大阪圭吉のある短編を思い出した。 (4)密室の鬼 ロボット工学の教授が脅迫状を受け取ったのだが、これが傲慢な性格で満足に護衛もつけさせないという。オフに京都を訪れた坪井警部補は、旧交を暖めるつもりで訪れた府警でこの話を聞き、なりゆきで知り合いの刑事らとともに、教授がこもった離れを見張ることに。はたして教授は、施錠と視線の二重の密室内で刺殺体として発見されてしまうが・・・。 これはD・カーの有名な作品を思い出したが、<ネタばれ反転>傷を負った被害者自身に歩かせて他の人物と誤認させるというのは、あまりに無理があるように思う。被害者の傲慢な性格と<ネタばれ反転>行動力(なにせ警護の刑事をトリックに嵌めて、自ら殺人に赴こうとするくらいだ)からして、歩けるほど元気なら協力するはずがない(義弟の扮装をしていることを説明するのは苦しいとはいえ、結局教授は犯罪をおかしていないのだから)し、抗うことができないほど弱っているのならば、見張りの坪井たちが異常に気付かないというのも不自然だ。 さらに不自然なのは、<ネタばれ反転>教授に狙われた側の丹野が、文中にあるように困惑する必要はまったくないことだ。通報するのが自然だし、自分を狙った教授を助けるのが癪だということで、良心が許すのなら放置することもできる。教授を発見した時点で、彼が死ぬとは決まっていないのだから、あんな形で密室構成に乗っかるなどありえない。その時点で、事後従犯ではなく立派な共犯だ。 またトリックに使う<ネタばれ反転>必要性から、教授の研究活動の成果として役に立たないロボットというのが出てくるが、人文系ならいざ知らず、結果の見えやすい工学系の研究でこのような人物が権威を持ち続けるなどありえないのでは? 密室トリックの不自然さは著者も承知のことだろう。だからして坪井警部に、密室の鬼云々と言わせているのだろうが…。 状況設定や説明を補えば傑作にもなりうる魅力はある。 全体的に、森江春策の推理はもう少し納得できるステップを踏んでもらいたい。 本書のレベルではひとつの可能性、妄想にすぎない。タックのシリーズのように、責任のない私人同士が飲み屋であーだこーだと語る分にはいいのだが、公的機関に対してこれが真相ですと自信満々に語れるようなものではないわな。 不可能犯罪のセンを追い込みすぎるがために、結局その回答に無理が生じている。そこは説明の仕方でもっと納得しやすくすることもある程度可能だろうし、設定自体を調整すればより良くなることは間違いない。いずれにせよ全体的に熟成不足の印象だ。 講演で著者の推理小説、特に古き良き作品群への愛はたっぷり感じて好感を持っただけに、なんか非常にもったいない気がする。 (2012/11/3改訂) | |||||
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