2010年 1月
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@燃える戦列艦 ホーンブロワー・シリーズ<6>
 A Ship of the Line (1938)
C・S・フォレスターハヤカワ文庫冒険
394頁820円★★★★

 中米パナマから無事バーバラを無事英国まで連れ戻した功績もあって、ホーンブロワーはより大型の74門戦列艦サザランド号をまかされる。休む間もなく、レイトン艦隊の一隻として地中海へと向かったホーンブロワーは、艦隊の集結までの間にフランス側に少しでも打撃を与えるべく、スペイン沿岸を探索して回るが・・・。

 初期ホーンブロワー三部作の第二弾。
 本作の特色は強制徴募だろう。当時の軍艦の乗員集めの実態として、かなり描写が割かれている。英国本土で士官たちが各地に派遣されて人集めするのに始まり、通常は優遇されている東インド会社の持船からも、ホーンブロワーの機略(詐略?)で人員をかき集めるあたり、実に面白い。
 クライマックスで敵艦4隻と激突するにあたっては、彼の詐略(事前準備)なくば実績はあげられなかった訳で、彼の能力の高さを証明するエピソードともなっている。

 歴史上の過去の時代が舞台の場合、登場人物が現代の倫理観で動いていて興ざめすることがあるが、本シリーズではそんなことはまったくないところがいい。あくまでホーンブロワーの判断基準は英国の国益優先なので、サザランド号にどれだけ人的被害が出ようと、おかまいなしなところがいさぎよい。彼が強制徴募した人員だろうがね。

(2015/11/21改訂)

A勇者の帰還 ホーンブロワー・シリーズ<7>
 Flying Colours (1938)
C・S・フォレスターハヤカワ文庫冒険
338頁780円★★★

 四対一の絶望的に不利な海戦で、相手艦隊を半壊に持ち込んだサザランド号。だが善戦むなしく大破。ホーンブロワーを含めた生き残りの乗組員は捕虜となった。その後、彼と副長のブッシュ、従者ブラウンの三名はパリのナポレオンの下に連行されることになる。ホーンブロワーたちは途中一瞬の機を逃さず逃走に成功するが、本国まで逃げ切るには、重症を負ったブッシュを連れてフランスを横断する長い距離を越えねばならなかった・・・。

 初期三部作の最終巻。
 川下りがあるので完全に水と縁が切れるわけではないが、ほとんどがフランス内陸部が舞台となる異色編だ。

 やたらに韜晦するのが性分のホーンブロワーは、たとえ英国まで逃げ切ることができようと、軍事裁判にかけられてサザランド号を失った責任を取らされるものとびくびくしているが、あいかわらずのマズイ邦題が、結末をあからさまに示している…。

(2015/11/21改訂)

B葉桜の季節に君を想うということ (2003)
歌野晶午文春文庫推理
469頁629円★★★★

 “何でもやってやろう屋”を自称する将虎は、後輩の清が惚れている愛ちゃんからの依頼で、悪徳商法の調査を引き受けることになった。一方で将虎は地下鉄のホームで自殺を図っていたのを助けたのが縁で、麻宮さくらと知り合うが・・・。

 著者の作品は前に二冊ほど読んでいるが、まぁそこそこという印象しか持っていなかった。だからやたらと評判の高い本書に対しても、さてどんなものやらという期待半分、疑念半分といったところで臨んだ。
 なるほどそういう趣向だったか。

 たしかに破壊力のあるオチだ。

 読み出せばすぐに、どうやら<ネタばれ反転>叙述トリックだなと見当はつくので、直感的に<ネタばれ反転>さくらと古屋節子が同一人物じゃないのかと考えはしたのだが、見かけの年齢差に気づくことができなかった。見事にだまされてしまった。ましてや登場人物のほとんどが老人だったとは・・・。

 途中、少々引っかかるシチュエーションも何度かあったので、気付けなかったのがくやしい。
 それも含めて、本格ミステリとは言えないが、人生応援歌としてもなかなかの傑作と言っていいだろう。

(2015/11/21改訂)

C決戦!バルト海 ホーンブロワー・シリーズ<8>
 Commodore Hornblower (1945)
C・S・フォレスターハヤカワ文庫冒険
487頁880円★★★★

D柳生薔薇剣 (2005)
荒山徹朝日文庫時代/伝奇
302頁660円★★★

 縁切り寺として名高い東慶寺に、貴月うね(成恩音)が逃げ込んだ。このことは、朝鮮への配慮を第一とする西の丸(前将軍徳川秀忠)側の土井利勝と、天秀尼への思慕から東慶寺を擁護したい本丸(三代徳川家光)との間に亀裂を走らせる。家光の命を受けた柳生宗矩は、女人禁制の東慶寺の護衛として、自らの長女矩香を派遣する。彼女は弟十兵衛を超える剣の使い手。一方土井利勝は、忍び軍団に加えて小笠原源信斎を送りこみ、さらに日本人の言を信用しない朝鮮使節は、別個に本国から妖術使いを招聘し…。

 今更言うまでもなく、著者の本は山田風太郎ばりの奇想時代小説としての面白さと、知られざる日韓関係の提示が大きな特長。本書でも、「これまで聊か卑屈の度が過ぎた。卑屈と善隣友好を混同してはならぬ」なんて秀忠に言わせている。
 それはいいのだが、著者の編み出す朝鮮妖術は、風太郎忍法に較べて規模・効力が桁違いで、いきおいそれに対抗する日本の術客も強烈すぎることになり、正直二歩も三歩もひいてしまう。本書でもやっぱり日本側陰陽師のあの人も登場するのだが、本書に限っての朝鮮妖術は控えめで、メインは剣豪対決といってもいいだろう。
 耳を回して空飛ぶ兎なんて出てこないだけ良かった。ぶっちゃけ南師今なんて妖術師を出してくる必要すらなかったと思う。

 なんといっても、本書は剣豪小説としての面白さがメインだ。
 宗矩、十兵衛以外に登場する剣豪に、上記の小笠原源信斎、徳川宗家のもう一つの剣術指南の家柄である小野家から小野高明。名前だけの登場ながら宮本武蔵山田浮月斎奥ノ山休賀斎(一般的には奥山)、針ヶ谷夕雲
 幕府内の確執を前半でクリアした後には、駿河忠長が後を継いで陰謀をかますので、ブランドある剣豪をこの先用意できるかなと心配した処、登場するのが幕屋大休
 まだまだ不勉強で誰それ?なんて思ってしまったが、実在の剣士だった。そうですか、松田織部関連ですか…。

 そんな煌びやかな剣豪連中に、荒山先生ぬけぬけと柳生十兵衛のお姉さんを登場させてしまう。しかも十兵衛、かなりの姉コンというのがなんとも。
 このお姉さんは真新陰流の小笠原源信斎と対峙しますが、どうやってその場を凌ぐのかなと想像していると、<ネタばれ反転>ばっさり斬っちゃいます。えーっ!?
 さらにこのお姉さんは幕屋大休とも対峙するが、そらもう斬っちゃうわなと想像していると、<ネタばれ反転>一族に剣を向けて駆け落ちします。柳生と松田の関係からすれば、この二人、ロミオとジュリエットなのだが…。
 こちらの想像を余裕で超える暴走の数々。ステキです。

 しかしこの名前だけはいかがなものか。矩香って。
 なにやら大柄グラマーなタレントが脳裏に浮かんでしまい、払拭するのが難しかった。いや、そら美人でしょうけど…。
 しかも東慶寺での名乗りは、“の”を取って“りか”って。はじめて耳にするが、江戸時代初期にこんな名前有り得るのかな?
 そもそも通り名に“矩”の字を使う筈もなく…。

(2015/11/27記)

E陽気な容疑者たち (1963)
天藤真創元推理文庫推理
272頁540円★★★

Fヘミングウェイごっこ
 The Hemingway Hoax (1990)
J・ホールドマンハヤカワ文庫SF
302頁700円★★★

 ヘミングウェイ研究者のジョン・ベアドは、酒場で出会ったキャッスルから、ヘミングウェイの贋作で一儲けする計画を持ちかけられる。非業法の金儲けには興味はないが、数多のヘミングウェイ学者を欺くことのできるほどの贋作を作ることに惹かれたベアドは、その可能性を検討し始める。だが実際に準備を始めたベアドの前に、ヘミングウェイその人が現れ・・・。

 まるでSFっ気のない序盤がそこそこ続き、ヘミングウェイをほとんど知らないわたしはしばらくほけぇーと流し読むしかなかったのだが、ベアドを観察する何者かの対話が挿入されはじめると、妙な多次元解釈もののSF話となってきた。
 J・ホールドマンと言えば、「終わりなき戦争」のイメージしかなかったが、こんな妙ちくりんなSFを書いていたとは。
 なんでもヘミングウェイ研究は著者の趣味らしい。まさに趣味が嵩じて実益にまで持ち込んだというところだ。

 しかしユーモアSFといって、みなさんハッピーに終わるかというとそうでもない。なんとなく「戦国自衛隊」(原作)の雰囲気といったところか。

 ところで、ベアドの行為がすべての世界の破壊へと繋がるという理由がよく解らなかったのだが・・・。

(2015/11/23改訂)

Gこの世の彼方の海 エルリック・サーガ2
M・ムアコックハヤカワ文庫ファンタジー
419頁860円★★★

(1)この世の彼方の海 (The Sailor on The Seas of Fate/1976,1973)
 ピカレイドの国境を越えた辺境で窮地に立つエルリックは、追っ手から逃れるために霧の彼方から突如出現した船に誘われるがままに乗り込んだ。そこで彼はエレコーゼ、ホークムーン、コルム等に出会う・・・。

(2)<夢見る都> (The Dreaming City/1961)
 従兄イイルクーンの下から許婚サイモリルを救うべく、エルリックは<新王国>の海軍と共に、ついにメルニボネへと進攻する・・・。

(3)神々の笑うとき (While The Gods Laugh/1961)
 フィルカール人の都ラスキルの酒場で出会った女シャーリラに誘われ、エルリックは<霧の沼地>の彼方<沈黙の国>にあるという、「死せる神々の書」探索の旅へと出発するが・・・。

(4)歌う城塞 (The Singing Citadel/1967)
 ダコスの港の宿で、エルリックはジャーコルの女王から、領内で<混沌>の侵蝕が始まっているという話を聞かされ、解決への協力を求められる。女王に魅力を感じた彼は、彼女と共に軍隊が消えて戻らないという“城塞”へと向かうが・・・。

 ホーンブロワー・シリーズと同様、物語の年代順に配置し直したシリーズなので、発表順として最も早い二編が、本書に含まれている。
 ファンタジーは好きだが、あまり魔法が大々的に前に出てくるのは苦手だ。地に足の着いた重厚な世界観の上で、しっかりしたルールに則って魔法は発揮されてほしい。神や上位存在が出てきて主人公たちと絡みだすと、少々尻がむずむずするのが正直なところだ。  というわけで、ふわふわした世界観で別世界?がやたらに重畳し、高次の存在とコミュニケートしては翻弄されるこのシリーズ…、かなりつらい。
 ファンの多い有名なこのシリーズにこんなことを思うのは悲しいが、正直なところ。読み終わるまでに随分時間がかかった。海外出張に持って行かなければ、もっとかかっただろう。

 しかし、並び背表紙に騙されて、すでにシリーズは全巻確保済み。
 巻を追うにつれ魅力が増してくることを期待し、読み続けねばなるまい。

(2015/11/24改訂)

Hスリーピング・マーダー (1943⇒1976)
A・クリスティーハヤカワ文庫サスペンス
377頁680円★★★

 新婚の夫より一足早く英国に戻り、南部の町で住処を探していたグエンダは、ヒルサイド荘を一目見て心奪われ移り住んだ。だが程なく、既にそこを知っているという既視感に襲われるようになり、実際に彼女が幼い頃、一時期ヒルサイド荘に住んでいたことが判る。さらに、そこで殺人が行われたような断片的な記憶が彼女を苛み・・・。

 クリスティー作品には珍しく、原題をそのままカタカナにした邦題の所為で、英語力の乏しいわたしはマーダーとマーダラーをごっちゃにして、「エルム街の悪夢」的なイメージを勝手に持っていた。執筆後33年も封印、著者の死後まで発表されなかったという特殊な事情もあって、なんとなしにこれまで遠ざけていた。

 ミス・マープルものの一作だが、ストーリーは本作単発の新婚夫婦が進めていく。これはある意味、トミーとタペンスはミス・マープルの知恵を借りて、18年前に起こった事件を掘り起こしていく展開と言ってもいい。こう考えるとゴージャスだ。

 正直結末は少々物足りない――苦しくも本文中にあるように、<ネタバレ反転>ケネディ医師は精神的におかしくなっていたと解釈しないと、彼の動きは明らかにおかしい――が、中盤はサスペンスとしてなかなか楽しめる。

(2015/11/24改訂)

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