2010年 5月
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@牧逸馬の世界怪奇実話
牧逸馬/島田荘司編光文社文庫犯罪薀蓄・他
581頁838円★★★

A数学はインドのロープ魔術を解く 楽しさ本位の数学世界ガイド
 1089 And All That : A Journey into Mathematics
D・アチソンハヤカワ文庫数学薀蓄
200頁560円★★★

B沙門空海 唐の国で鬼と宴す
 巻ノ一、二、三、四
夢枕獏徳間文庫時代/伝奇
525頁/531頁
509頁/508頁
667円/667円
667円/667円
★★★

 たまたま「空海の風景」を読んでいた時に、本屋に平積みされていたのを見かけて購入。かなり前のことだが、著者の本のどれかのあとがきで、構想中の作品としてこの題名を挙げていたのを覚えていた。知らん間に完成しておったようで、感慨も一入だ。

 「空海の風景」でいえば、上巻の293頁から下巻の57頁までの130頁余り、空海長安に滞在した期間(804年〜806年)を舞台としている。しかしもちろん夢枕獏作品だから、妖しげな技の使い手の老人あり、気は優しく力持ち系の巨漢あり、源博雅に近いワトソン役(橘逸勢)あり、といったお馴染みの夢枕キャラたちが活躍する。むしろ空海が女のように赤い唇をした妖艶な美青年でないのが不思議なくらいである。
 まぁ物語展開は数多の夢枕獏作品と似たようなものなので、実のところ特に新しさは感じない。拳術、体術ではなく幻術合戦になってしまう分少々ツマランというのが正直なところだ。

 しかし空海を主役にしてこれ以上のエンターテインメント作品を作るは至難だろう。
 同時代人に留まらず、有名な安史の乱の悲劇を物語の因――つまり玄宗楊貴妃も主要キャラ――としながら、玄宗に長年仕えた和人安部仲麻呂白居居(玄宗と楊玉環(=楊貴妃)の悲恋をを後世に有名にした「長恨歌」の作者)、さらには、やや不十分ながらも秦の始皇帝で有名な兵俑も登場させるというてんこ盛り設定だ。

 見逃せないのは、この事件に介入することが、空海の史実での事跡へのリンクとなっていることだ。
 本来20年ほどの留学を予定して海を渡った無名の空海が、当時の密教の第一人者であった恵果から、彼の数百人?の弟子をさておいて、ほんの数年で金剛部胎蔵部ともに伝法灌頂され、さらには皇帝の前で書を献ずるに至るという大躍進は歴史上の大奇跡だが、それを説明してしまってるところが秀逸だ。

 思い返してみれば、夢枕獏の出世作、サイコダイバー・シリーズ「魔獣狩り」では空海のミイラが重要なガジェットだった。懐かしい。あのシリーズで、空海のミイラへのサイコダイブは結局行ったのだろうか。――忘れた。

C本郷界隈 街道をゆく37
司馬遼太郎朝日文庫紀行/歴史薀蓄
295頁520円★★★

 東京の一地域をピックアップして扱うことはこれまでもあったが、一遍のみで一冊独立となったのは、本郷が初めてではないだろうか。
 本郷と言われても、東京自体が出張等で通過するか地点移動のみで、歩いた土地といえば上野駅の周囲のごく狭い範囲にほぼ限られる、わたしのような地方生活者にはなにもイメージできない。東大周辺のエリアだそうだ。

 東京大学が旧前田家上屋敷だったことは有名なので、それに関したトピックは予想できるが、明治文学者の話が結構多いのが興味深かった。
 例えば、幕末や明治ものではたまに名前の挙がる啓蒙家、西周森鴎外が縁戚にあったとは知らなかった。鴎外(当時森林太郎)が若かりし学生の頃、西周の家に寄宿していたらしい。彼らはともに山陰の小京都として今でも有名な、小藩津和野の出身である。
 それ以上にインパクトがあったのは、明治の一時期、東京府庁(警視庁だったようだ)で夏目漱石の父親が樋口一葉の父親の直接の上司だったということ。漱石の兄と一葉の婚姻話まであったというから驚きだ。

 そんな中でも「三四郎」には、たっぷり頁を割いて思いを馳せている。欧米の文明受容は当時東京に一極集中しており、配電盤としてその成果を地方に送る役割を一手に引き受けていた。それゆえに当時の東京は現代以上にきらきら光っていたのだが、「三四郎」はこのきらきら光る配電盤の周りをうろついたり、近付いて幻惑されたりする物語だという。恥ずかしながらわたしは、夏目漱石の一冊すらまともに読んだことはないのだが、こういった観点を知ると、ひとつ読んでみようかという気に少しなった。

 また東大農学部の立地には水戸家の中屋敷があったらしく、水戸家の話題も豊富だった。水戸家で発展した水戸儒学が幕末の尊王攘夷運動の思想的根拠となったことはよく知られているが、水戸家二代藩主光圀はその思想の下に、多大な労力をかけて日本史の編纂作業を開始した。その中心となった学問所、彰考館(上屋敷内に設置されていた)の館長(総裁という言葉が使われていたような…)職を務めた史学者の中に、佐々十竹(介三郎)安積澹泊(覚兵衛)という人物がいたらしい。これがいわゆる「水戸黄門」における助さん格さんのネタ元である。どちらも学者だったわけだ。

 因みにわたしが本書でもっともインパクトを受けたのも、冒頭に語られる水戸家絡みだったかもしれない。
 上述の中屋敷内には水戸斉昭(15代将軍徳川慶喜の実父)の句碑が建っていたというのだが、明治後に町割りされた際に、その句碑にある文言から、その辺り一帯は弥生町と名付けられた。後にここから土器が発見されて、ついた名前が弥生式土器。そして時代区分が弥生時代
 弥生というのはもちろん三月のことなので、昔はじめて弥生時代という名称を聞いたとき、なんでなんかなぁと疑問に思ったことがあった。
 こういう忘れていた疑問がふいに解けるのは格別である。

(2014/2/14記載)

D終戦のローレライ VW
福井晴敏講談社文庫戦記/冒険/伝奇
459頁/504頁695円/695円★★★★★

Eなぞ解き歳時記
NHK「なぞ解き歳時記」
製作グループ編
講談社文庫歴史薀蓄
330頁629円★★★

F目を擦る女
小林泰三ハヤカワ文庫SF/ホラー
279頁580円★★★

G面白いほどよくわかる世界の秘密結社
有澤玲日本文芸社歴史薀蓄
349頁1400円★★★★

 「ダ・ヴィンチ・コード」のヒットにあやかって出版された本ではあるが、陰謀ネタを助長する方向ではないところが嬉しい。

 秘密結社と聞くと、どうしてもショッカーのような悪の組織や、“悠久の昔から現代に至るまで、脈々と世界を裏から操ってきた”テンプル騎士団薔薇十字団フリーメイソンリーなどをつい想起してしまうし、それはそれで、出来がよい話は面白いには違いない。
 しかし実際のところ、思想や宗教の自由がなかった時代には、主流でない考えを持った集団は、権力側に叩き潰される運命にあったわけで、かつ潰すための名目として、あることないこと山のように尾ひれがついて伝説化したというパターンが多いようだ。カタリ派しかり、テンプル騎士団しかりである。
 いったん伝説化してしまえば、あとから出現する数多の“秘密結社”は、自己の神秘性を高めるために盛んにその名を利用して、伝説が再生産されていくという具合だ。

 あるいは子供っぽいお遊びから始まるものもあるようで、学生のおふざけから薔薇十字団がブームになったり、イギリスのパブから思弁的フリーメイソンリーが育ったりしたというのも興味深い。私も子供の頃に少年探偵団にあこがれて、友達と探偵手帳などを作って遊んだ記憶がある。いつの世でも合言葉や秘密の符牒を使いたがる子供っぽさはなくならないということだ。
 しかし、このあたりの機微を馬鹿にするなかれ。主流の歴史が権力者側の歴史であるならば、その影に隠れて寄り添うのが秘密結社の歴史といえる。文化人類学の一領域として、もっと研究が進んで一般常識化してほしいところだ。

 そういったスタンスから、胡散臭い、あるいは危険な事例にはあまり触れられないが、歴史の中の無数の秘密結社がすべて人畜無害であるわけはなく、基本的には無害であっても、その一部に過激な派閥もあったりするだろう。われわれは、すでにオウム真理教アルカイダなどを知っている。

 おー、なんだか堅いことを書いてしまったが、興味深い面白い本である。
 未知の上位者グノーシスのことがよく解った。

H東大オタク学講座
岡田斗司夫講談社文庫サブカルチャー薀蓄
529頁781円★★★

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