2010年 7月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2010年 6月に戻る 2010年 8月に進む
@空想科学読本6.5
柳田理科雄空想科学文庫特撮・アニメ薀蓄
159頁381円★★★

 本書の前作にあたる「空想科学読本6」は、中高生からの質問に回答するというスタンスで書かれたらしい。中高生だから、当然その世代に人気のコンテンツに関する質問になっただろう。著者も含めて、わたしたちの世代とは “空想科学”でイメージする作品は異なってしまうのは必然だ。
 なので著者は、前作執筆時に自然と浮かんできた自分世代の番組に対するツッコミをもとに、急遽本書を起こしたということだ。

 だが考えてみると、そもそも空想科学読本シリーズそのものが、われわれ世代の番組に対するツッコミから始まっているわけで、どうも掘らずともよい個所を掘ってのツッコミをしている感が拭えない。
 最たるものは、冒頭ネタのウルトラ兄弟の(ウルトラの父による)査定ネタだ。ツッコミ元の査定というのは、当時の「小学三年生」に掲載された内容ということだが、これはあまりにマイナーすぎる。当時雑誌を読んだ子供は結構いただろうが、それを今でも覚えている人間など日本に数人じゃないか?
 そないなものにツッコんでも…。

 簡単な算術計算で、物理的に考えてどーよというのが、本シリーズの醍醐味だと思うので、ガッチャマンジュンに蹴られるギャラクターの兵隊たちは、はたしてジュンのパンツを見ることができたのか?という設問は、本シリーズの基本姿勢に則っている。…のかな?

(2014/2/25記載)

A数学通になる本
中宮寺薫朝日文庫数学薀蓄
220頁1262円★★★

 B.C.1600年以前に書かれたとされる世界最古の数学書リンド・パピルスには、割り算が単位分数の和で説明されているらしい。
 例えば、2÷5は今ならば何も迷うことなく2/5と表記されるわけだが、リンド・パピルスでは、1/3+1/15と書かれているというのだ。一体何のために?と考えてしまうところだが、2個のパンを5人で分けることを考えたときに、最初に1/3の大きな塊で5人に分配し、残った1/3をあらためて5人で割る(1/3×1/5=1/15)ほうが、皆に同じ形状のものが行き渡るので公平感が増すというのだ。なるほど面白い。

 生活の中に見えてくる数学のトピックがなんとも興味深い。
 娘が算数、数学に興味を持てるように、ネタ供出元としてたまに読み返したい。

(2012/10/21記載)

B妖怪と歩く ドキュメント・水木しげる
足立倫行新潮文庫人物伝
400頁590円★★★

C怪獣VOW
怪獣VOWプロジェクト編宝島社特撮薀蓄
189頁874円★★★

D司馬遼太郎がわかる。 AERA MooK
朝日新聞社人物伝
175頁1200円★★★

E空海の風景 上下
司馬遼太郎中公文庫歴史エッセイ
370頁/409頁686円/743円★★★★

 真言宗の開祖空海。誰もが知っている日本宗教界のビッグ・ネームである。あまりに巨大なので後進が育たず、彼以後の宗教者のビッグ・ネームは、ほとんどが最澄天台宗から始まっている。
 逆に言えば、それだけ彼が構成した宗理が緻密で、内包する矛盾が少なかったと言えるのだろう。

 わたしなどは、空海がほぼ独力で、密教を如何に精緻に理論づけて真言宗を構築したかということをどれほど説かれても、結局は占星術と同じで、たとえ緻密な論理体系があろうとも所詮は机上の(頭の中の)空論だよなぁと思ってしまうタチである。しかし空海が成した多くの業績が、日本人の文化意識に大きな影響を与え続けていることは事実で、その生涯のエピソードの数々はとても興味深い。

 上記の業績はほとんど彼がから帰ってきた後半生の仕事だし、最澄や奈良六宗とどのように対峙したのかも興味深いが、やはり公の後押しなしで(実家の財力とコネはふんだんにあったにせよ)独学で機会を切り開いて唐に渡り、極めて僅かの時間で密教を丸ごと日本に移すことに成功した前半生が途轍もなく興味深い。
 空海が遣唐船私渡僧としてもぐり込んで、うまく唐に到達することに成功しただけでも異能と運を十分に発揮したように感じるが、これを唐の密教側から見た時に、時の密教の第一人者恵果が自分の死を予感し、しかも金剛頂教(金剛界の世界観)大日経(胎蔵界の世界観)の両部を伝えた唯一の弟子もまた病に倒れて、他に伝え得る人材がいないというまさにその時に、空海がその場に居たというのは、なにやらおそろしいものすら感じてしまう。
 単純に言えば奇跡的ということになろうが、如何に人物の能力が優れていても、天の理、地の理、人の理がないと、後世に残る事業を進めることは難しい筈だ。これらをひっくるめて後世から見た時に、奇跡的だの、彼は運命の女神に愛されただのと言うわけだが、その周囲に満ちている筈の無常と紙一重のなにがしかに驚き、憧れるのである。

 司馬遼太郎の作風といえば、小説であっても、ストーリーの流れとは別に――あるいは流れを止めてさえ――著者の史観がエッセイ風に挿入されることにある。わたしなどはこの史観自体が司馬作品の魅力だと言い切ってもよいと思っているが、作品によっては、史料に基く部分が大部分を占める史伝的エッセイといったものになっている。
 本作品もそれら史伝的エッセイに含まれるものであると思うが、なにしろ扱っているのが1000年以上も昔の人物で、かつ宗教的巨人なので、同時代のなかでは残っている史料も多いとはいえ、伝説の中に埋没していることも多い。著者も執筆しながら空海の実像を探し求めているといった記述スタイルだ。

 われわれは、天台宗と真言宗、比叡山高野山、そして最澄と空海という風に、同時代の彼らを並べて考えがちだが、仏教の中では、本来その呪術部門(一部)が密教という位置づけなのだろう。その中で巨人空海が、密教を巧緻に練り上げ、それ以外の仏教(=顕教)と比較して、ランクまで論ずるといった仕事をした。もちろん密教が一番上のランクだ。
 最澄は当然ながら、(密教は)仏教の中の一部門という認識のもとで空海と接した。そこのところに、後年の空海と最澄の微妙な不和の元があるのだろう。

 上下巻あわせて780頁で以て、空海一人を追っているので(もちろん同時代の最澄、嵯峨天皇平城天皇、あるいは橘逸勢等の事跡も語られるが)、判らないながらも情報量は大変なもので、わたしのような門外漢でも、僅かなりと彼の暮らした時代の風景を少しは感じることができる労作である。

 しかし偉そうなことをあえて述べれば、巧みなエンターテイナーであれば、本書のような事前調査の向こうに小説としての空想を乗っけるのかなとも思う。
 夢枕獏は、「沙門空海 唐の国で鬼と宴す」を執筆するにあたって、本書を熟読したのかどうか…?

(2014/3/10記載)

F大仏殿炎上
井ノ部康之小学館文庫歴史
452頁714円★★★

 奈良の大仏は過去二度災禍に見舞われている。最初が源平合戦で、もう一度は三好三人衆松永弾正の争いだ。本書は後者に関連して、松永弾正の一生を描いた作品だ。
 松永弾正といえば、北条早雲斎藤道三とともに下克上の代名詞とされ、織田信長にまでその梟雄ぶりを皮肉られた男として知られるが、本書の特徴は、その弾正を臥薪嘗胆の心で三好元長三好長慶親子に仕えた忠義者としているところにある。

 視点の大胆な切替は歴史小説の醍醐味だが、わたし個人としては、戸部新十郎「松永弾正」で同様の切り口を既に読んでいたので(もちろん戸部作品での弾正は、もっと恬淡としているのだが)、残念ながら新鮮さはスポイルされてしまった。

 三好長慶の末弟十河一存の死に始まる一連の三好家の不幸と没落に合わせて、織田信長の隆盛を挿入していく演出は巧いが、そもそも本能寺前夜に信長が弾正を思い出すところをプロローグとしていながら、エピローグは信長を外している。少々ちぐはぐでは?

(2012/10/21改訂)

GQED 神器封殺
高田崇文小学館文庫歴史推理
452頁714円★★★

 熊野への薬学旅行に追加するかたちで、奈々と崇は国懸神社日前神宮への参拝に和歌山市へと向かった。参拝を終えた奈々と崇は、和歌山市内で惨殺された病院経営者の事件取材材をしていた小松崎、沙織と市内のレストランで待ち合わせるが、神山玲子と彼女の連れてきた御名方史紋という不思議な男も合流し、三種の神器談義が始まる・・・。

 三種の神器といえば、笠井潔「ヴァンパイア戦争」では亜空間通信機のパーツだったなぁ。などとバカなことを懐かしく思い出したりするが、驚いたことに、神器というのは最初から三種が揃ってたというわけではないらしい。
 本書では当然のように<反転するまでもないと思うが>怨霊絡みだが、大和朝廷<ネタバレ反転>それまで滅ぼしてきた被征服者側の宝を取り込んできたという考え方が面白い。

 本書では、前作と違って凄惨な殺人事件がリンクしている。冒頭のその事件では、被害者の首と片方の手首が切り落とされ、しかも隠す意図はなく現場の近くで発見されるという不思議が示される。
 しかしこの真相(厳密にはタタルの解釈だけ)はなかなか強烈だ。
 現場のイラストが示されることもあって、まるで「六枚のとんかつ」のようだ。読者が推理で真相に迫ることはまるで不可能と言っておこう。

 ところで本書で目を惹くのはなんといっても袋綴じだが、おもしろいことに、上述の殺人事件の真相や三種の神器の薀蓄などは袋綴じの前に終わっているのだ。
 では何のための袋綴じかといえば、それこそ読んでのお楽しみなのだが、正直なところ、<ネタばれ反転>ピラミッドの高さの何倍がどれやらに等しくなるの類だなぁ。伊能忠敬の地図<ネタばれ反転>が登場する遥か昔に、緯度はともかく、経度方向の距離をしっかり合わせられたとはとても思えない。

(2012/10/21改訂)

HQED〜ventus〜 怨霊将門
高田崇文小学館文庫歴史推理
361頁648円★★★

 物語の“現在”で大きな事件が起こらない“ventus”も早三冊目だ。
 本書の推理小説としての趣向はいじらしいほどのもので、前々作に引き続き、神山玲子が語り手を務めているのだが、ここのところは意図が不明である。奈々たちと御名方史紋のパイプが彼女なので、彼絡みでなにかまだ考えているのだろうか。
 メインネタの方は、消されてきた歴史の敗者の声を寺社に残る史跡や風習から拾うというスタンスになってきていて、しばらくネタ繰りには困らないような気がする。実はサブのミステリ趣向を考える方が難しいのでは・・・。
 個人的には、サブパートはばっさりカットしてもらっても構わないのだが…。

 さて、本書はもう最初から最後まで、崇、奈々、沙織の三人で巡っている。そして、オチは<ネタばれ反転>“将門は怨霊ではなかった”となるわけだが、関西在住のわたしにとっては、そもそも“将門は怨霊”という感覚が上っ面なものだから驚愕度は低い。実は怨霊としてクローズアップされるようになったのが明治以後とのことなので、そちらのほうが興味深い。

(2012/10/21改訂)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2010年 6月に戻る 2010年 8月に進む