2011年 4月
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@カラー版徹底図解 戦闘機のしくみ
新星出版社軍用機薀蓄
223頁1500円★★★★
 中身から題名をつけると“軍用機のすべて”のほうがふさわしいくらいなので、本書の題名はかなりの謙遜具合である。豊富なカラー写真や図版も嬉しい。文句をつけるとしたら、オールカラーの分だけ重いことくらいか。

 気球に始まり、レッドバロンとして有名な撃墜王リヒトホーヘン(“シルクロード”の名付け親と一緒だ)のフォッカーDrTからF−117F−22ラプターといったステルス機までの歴史や、戦闘機/攻撃機/爆撃機といった区分け、空中戦のテクニックや寿命その他の運用方法までと幅広い内容だ。

 推力偏向ノズルフライ・バイ・ワイヤーが可能にしたプガチョフ・コブラなんて曲芸的な飛行までできる機体まであって驚きである。Su−35の模型が欲しくなった。
A図解雑学オールカラー 巨大望遠鏡で探る宇宙
二間瀬敏史ナツメ社宇宙薀蓄
227頁1500円★★★★
 日本がハワイ島に設置したすばる望遠鏡の成果をもとに書かれた本。
 最大の特徴は、豊富な写真資料がカラーだということ。

 すばる望遠鏡は1999年の設置当時、世界最大だった一枚レンズを誇っていて、その8.2mのレンズは磨き上げるのに7年以上かけたという。
 巨大望遠鏡には光学望遠鏡以外に、どの波長の電磁波を観測するのかで、電波望遠鏡とか赤外線望遠鏡とかの種類があって、より遠く(=より昔)の情報を得るために、今も新たな巨大望遠鏡が世界のどこかで建設されているのであるが、個人的には宇宙の果てや終わりのことを考えるとブルーになってしまうタチなので、個人的には前半の太陽系内の天体の章が好みだ。
B百器徒然袋−風
京極夏彦講談社文庫探偵
825頁1086円★★★
(1)「五徳猫」
 工事会社で図面を引いている本島は、招き猫の手の挙げ方について友人と賭けをし、やってきた豪徳寺で二人の女と知り合った。その一人、美津子の代理で彼は薔薇十字探偵社を訪れる。彼女の二十年ぶりに会った母親が別人に入れ替わっていたというのだが・・・。

 言い切っただけ<ネタバレ反転>という入れ替わりトリックが素敵だ。
 招き猫の右手招きは金招き、左手招きは客招きという俗説の成り立ちの仮説が興味深い。

(2)雲外鏡
 所要で行った薔薇十字探偵社からの帰り、本島は拉致されてしまう。彼はそこで現れた駿東という男に逃がしてもらうことで難を避けたが、駿東は同時間に殺されていたことが発覚する。そこに霊感探偵神無月が現れ、榎木津との対決を要請する・・・。

 他人の記憶が視えてしまうという私の嫌いなトンデモ設定を前面に出した話だ。
 馬鹿馬鹿しくもややこしい展開で、もうなにも考えずに榎木津の暴れっぷりを楽しんでしまうのが得策だろう。
 魔鏡についてのメカニズムはなにかで読んだことがあった。

(3)面霊気
 友人の家から出てきた、覚えのない古面を持って、本島は待子庵を訪れた。古色を帯びた感と意匠に得心がいかない今川は、その面を持って京極堂に向かい、本島は彼の代理で薔薇十字探偵社を再度訪れる羽目に。そこでは高価な骨董品を一品だけ盗む連続空き巣事件に、益田が容疑者とされていて・・・。

 連作三編の最終編。いよいよ黒幕との最終対決といった按配だ。
 本シリーズは基本的にホームズ譚と同様な楽しみ方をする本だと思うが、ワトスン役の本島の語りが少々グダグダ感を増幅しすぎていて、楽しみきれない嫌いがあった。あまり細かいことに捕らわれずに、コン・ゲームを素直に楽しむ方がよいのだが、最後に榎木津子爵を持ってくるあたり、ややご都合主義が強すぎか。
C英傑の日本史 新撰組・幕末編
井沢元彦角川文庫歴史薀蓄
371頁590円★★★★
 普通の時代区分でいけば、ただの“幕末編”でよいのだが、わざわざ新撰組を独立させている。実際本書に選抜された71人のうち14人までが新撰組隊士なので、ほぼ20%を占めている。
 歴史の流れに寄与した度合いで選ぶならば、新撰組から選ばれるのはせいぜい近藤勇土方歳三くらいだろうから、新撰組人気は大したものだと感心したが、巻末まで読んで機と気づいた。本書の元本の発刊は2004年という。大河ドラマ「新選組!」が放映された年ではないか。
 そう思ってすでに読んだシリーズもチェックすると、
「英傑の日本史 新撰組・幕末編」2004年刊行その年の大河ドラマは「新選組!」
「英傑の日本史 源平争乱編」2005年刊行その年の大河ドラマは「義経」
「英傑の日本史 信長・秀吉・家康編」2006年刊行その年の大河ドラマは「功名ヶ辻」
「英傑の日本史 風林火山編」2007年刊行その年の大河ドラマは「風林火山」







 おー、見事に合いましたな。そういう目で調べてみると、文庫化はまだされていないが、次の年には「英傑の日本史 上杉越後軍団編」が発行されている。その年の大河ドラマは「篤姫」で合わないが、幕末と被ってしまうので、次の年の「天地人」に的をあわせたのだろう。元々出版が秋口で、その年の大河ドラマも終りが見える時期なので、数ヵ月後に始まる「天地人」にあわせるのは理に適っている。

 話がずれまくってしまったが、そういうわけで、本書は最初の14人が新撰組隊士なのだが、これは私が新撰組関連の本はそこそこ読んでいるからだろう。著者に期待するような、これまでの見方をガラッと変えてくれるような箇所はなかったのだが、中盤以降は一般には知名度の低い人物の名も挙がってきて、かなり面白くなってきた。
 上述したような、これまでのイメージをガラッと変えてくれるという点では、吉田東洋がなかなかの開明家だったというのは驚いた。
 たしかにその方が、後に吉田東洋の子飼いの後藤象二郎と、武市と手を切った坂本が手を結ぶ点では理解しやすい。

 西郷隆盛を世に出した師匠で評価の高い島津斉彬は、父親の島津斉興から嫌われていたが、やっとのことで藩の財政を好転させた斉興からみれば、いろんなことに手を出す斉彬を疎ましく思うというのも、なるほどよく判る話だ。
D江戸300藩 県別うんちく話
八幡和郎講談社+α文庫歴史薀蓄
323頁740円★★★
 城や陣屋を定点として、土地ごとに戦国後期から江戸時代の殿様の移り変わりをまとめている。
 今の県は江戸時代には○○藩だったなどとよく言うが、題名に300藩とあるように、分家やらなにやらかなり細かく分かれているので、これは大変にご苦労さんなことである。

 読者の興味を惹きやすいように、NHKの大河ドラマに触れたりと、エッセイ風に読みやすく配慮されているが、なにぶんにも細かく分かれていることに加え、江戸時代前半と幕末はあっちこっちと移動が頻繁なので、とかく事実の羅列になってしまうところも多い。
 とても記憶することなんてできないので、自分の地元くらいは覚えてあとは機会があるごとに該当箇所を読み直すのがいいだろう。

 図版が少ないのは文庫本の常で、それはまぁ仕方のないことではあるが、それでも本書の地図にはもう少し力を入れるべきだろう。

 カーソルを動かしたら、日本地図の藩割り分布が変化するようなフリーソフトを誰か作ってくれないだろうか。どこかの大学の研究室にはあってもいいようなものだが…。
E司馬遼太郎 歴史のなかの邂逅1 空海〜斎藤道三
司馬遼太郎中公文庫歴史薀蓄
281頁667円★★★★
 著者の死後、これまで作品集に収められていなかったような、マイナーな雑誌やパンフレットに載った文章を集めている。これを発表順でなく、扱っている話題の年代順に配置しているのが面白いところ。

 第一弾の本書は“空海〜斎藤道三”だが、その前後、日本人の起源を扱ったものや、雑賀衆根来衆が中心の編も含んでいる。
 古来中国からと呼ばれたグループが、日本列島だけでなく朝鮮半島の南部も含んでいたらしいというのは目から鱗が落ちるように新鮮な驚きだし、鉄砲伝来からの怒涛の日本歴史のうねりに、根来衆が果たした巨大な役割も、その影響の割りにあまり知られていないことで、大変に興味深い。

 影響の割に知られていないといえば、日本の食文化に大きな影響を与えた鎌倉時代の臨済覚信もそうである。彼は華厳宗、密教、そして曹洞禅を修めたうえで、40歳を越えてから一念発起して大陸に渡ったが、彼の地の径山で食べた味噌を大層気に入った。その覚信が10年に亘る修行を終えて紀州由良の寺に戻ってから、覚えていたレシピに沿って、私の父方の故地で由良の近在の湯浅で作ったのが金山寺味噌のはじまりだが、味噌を醗酵させる桶の底に溜まった汁が最初の醤油である。覚信の類稀な遍歴の上にのっかった醤油の発明だということに、歴史の玄妙味を感じる。
 あまりピンとこないかもしれないが、なのである。華厳、真言、禅というのは同じ仏教のカテゴリーとはいうものの、中身はまったく異なっていることに注意すべし。

 徳川家康の何世代か前に、一族の中に浄土宗のトップに立った存牛という人物がいたというのも驚愕的だ。
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