2011年 6月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2011年 5月に戻る 2011年 7月に進む
@邪神と闘うゾンガー  レムリアン・サーガ3
 Thongor Against the Gods
L・カーターハヤカワ文庫異境冒険
239頁320円★★
 パタンガ、トゥルディス、シェムビスの国々から追われた、ドルイド僧や旧王たちがツァルゴルの地下に集い、今や三国の王となったゾンガーに復讐を誓った。誘拐された王妃を追うゾンガーは、レムリア大陸の東部を縦走するアルダト山脈の高峰で窮地に陥るが・・・。

 前巻までの悪者たちが集って、いったいどんな陰謀を企むのかと思いきや、盗賊を雇って后と嬰児を誘拐させるという。ちょっと今一な・・・。しかも作戦は中途半端になり、スミア王妃のみを誘拐した盗賊の飛行艇を、単身ゾンガーが追う展開。

 ・・・ルーチンな展開である。これ以上ないくらい…。

   もっとも著者に言わせると、それがどうした、王道はこうあるべきだと開き直られそうなので、そこは一歩下がって良しとしよう。
 しかし、ゾンガーとスミアは、時に驚くほど思慮が足りないし(これでピンチを作ってストーリーを進める)、驚愕するほどの幸運でもってハッピーエンドへ繋がっていく。あまりにもご都合主義が甚だしくて、さすがのハッピーエンド好きの私も少々鼻についてしまった。

   本作の舞台は、アルダト山脈のさらに東の大平原で、身の丈8フィートを誇る青肌禿頭のルモアハル族が初登場し、部族を追われた族長の息子シャンゴトと、九死に一生を得たスミア王妃がコンビとなるが、せっかくの取り合わせによる冒険行もめっきり淡白で盛り上がらないのが残念だ。この頁数では難しいだろうが、正直いって物語レベルはラノベ以下である。 ちょっと魅力的に感じたルモアハル族も、よく考えると火星シリーズの緑色人種のグレードダウン版といったところで、やはり独創性が感じられない。いや、本書でこんな感想を書いても仕方ないのだが・・・。

 結局本書で唯一すばらしいのは、中学生(当時)の脳天をリビドーで満たしたこの表紙画といったところ。
 本文を読むと、このときのスミアも乳あて!は装着していたようだが・・・。
Aカエアンの聖衣
 The Garments of Caean
B・J・ベイリーハヤカワ文庫SF
335頁660円★★★
 遥かな未来、人類は銀河へとその生活圏を広く分布させていたが、すでにその発祥の起源は忘れ去られている。今、殺人的な極低周波を操る生態系に満ちた、極度に危険な惑星カイレの地表に、ジアード宙域からやってきた一隻の密輸船から小型艇が降りようとしていた。銀河系内で広範囲な勢力圏を持つジアードでは、同じく敵対勢力のカエアンで作られた衣服が高い価格で取引されている。そのためカイレに墜落したカエアン宇宙船に積まれた衣服をサルベージすることが、ジアードの密輸商人にとって十分にリスクに見合うのだ。しかし危険を冒して入手したカエアン製の衣服は、サルベージを企てた船長のマストやジアードの服飾家ペデル・フォーバースの思惑をはるかに超えて、彼らの運命を翻弄する。一方人類発祥の謎を追うジアードの調査船では、文化人類学者のアマラに率いられ、カエアン宙域まで入り込んでいくが・・・。

 様々なSF的ガジェットを惜しげもなくブチ込んだワイドスクリーン・バロックの作品だが、ベイリー作品は、特に突拍子もない設定が魅力だと思われる。(二冊しか読んでいないが・・・)
 本書でも、人の思考/行動にまで影響を与える衣服という奇想がぶっとんでいるが、それなりにまとまっていて、思ったよりも面白く読むことができた。
 とは言え、本書に限らずワイドスクリーン・バロックに多く見受けられることだと思うが、物語の主役がガジェットの奔流という設定それ自体なので、主役たちには――大いに動き回るのだけれど――ほとんど思い入れが沸かないというところが、個人的には少々物足りない。(三人の中では、割り切った学者思考で突き進むアマラの非人間っぷりにニヤリとさせられるが・・・)

 笑わされるといえば、大事なことを思い出した。
 なんといっても、宇宙服飾史の発展におけるミッシング・リングとして、作中で“発見”されるソヴィヤ人とサイボーグだ。個人用の宇宙船を一生身にまとってもはや身体の一部と認識しているソヴィヤ人と、体中にインプラントを装着し、半機械人間と化したサイボーグの一族が、いつからとも知れぬ長い戦争をしている。スタートレック・シリーズのボーグに影響を与えた(かもしれない)サイボーグのリーダーはヤクーサ・ボンズという。あとがきに書いてあるが、これはヤクザ坊主からの転化らしい。
 どうやらはるかな未来、私たちの子孫は宇宙に舞台を広げて、延々と日露戦争をしているらしいぞ。
Bおとり捜査官1 触覚
山田正紀朝日文庫推理/警察
322頁700円★★★
 品川駅構内の便所で若い女性の絞殺死体が発見された。一人の容疑者を発見したものの決め手を持たない警察は、科捜研の下に新たに発足したばかりの特被部を出動させた。特被部のおとり捜査官北見志穂は、容疑者の前に姿を晒し、“決め手”を掴もうとするが、彼女がこの男は真犯人ではないと気づいたまさにその時、同じ構内で新たな絞殺死体が発見される…。

 特被部=特別被害者部というのが揮った設定である。
 被害者の側からプロファイリングするという発想は興味深い。しかし特被部の発足者で犯罪心理学者、しかも法曹界にかなりの影響力を持つ特被部部長の遠藤慎一郎なんてのが出てくるものの、その学問的側面はあやふやで、捜査上やってることはただの囮捜査なのだが…。

 志穂の目線から、旧態依然の男社会としての警察組織が批判的に描かれていて、序盤は少々しんどいなぁと思ったのだが、スピーディーに話は進むので、著者の他の作品同様スルッと読める。
 はみ児同然の厄介者として扱われていて、しかも駆け出しの北見志穂がそれらの容疑者を発見していくのはツッコミ満載なのだが、“見えない男”テーマとしては<ネタバレ反転>比較的簡単に浮かぶ犯人像を、次々に新たな容疑者を浮かばせること、そして囮捜査官としての設定自体で、その“見えない男”を見えにくくしているところが秀逸だ。ただし志穂が襲われる前にはすでに真犯人は読者に割れているので、情報開示の順番はもう一ひねりあったほうが良かったかも。

 シリーズの残り4冊を読むのがなかなか楽しみだが、男に襲われやすい容姿の志穂って、女優でいうと誰になるんだろ。小説の中なら、青鹿晶子(from「狼の紋章」)といったところか。←古い。

 ところで、本編では回収されない謎が大胆に放置されているのだが…。
C密謀 上下
藤沢周平新潮文庫歴史
418頁/341頁590円/514円★★★
 上杉家が秀吉政権下に入るところから関ヶ原までを、上杉の重臣直江兼続の側から描いている。
 おそらくNHK大河ドラマ「天地人」の辺りに購入したものだが、ドラマはあまりのつまらなさに途中で見るのをやめてしまったので、それとの比較もできないのだが、本書で興味を惹かれたのは、下巻の裏表紙に書かれている“上杉勢は遂に参戦しなかった。なぜなのか――。著者年来の謎に解明を与えながら〜”という文句だ。

 ところが本文では特に小説的な奇説を盛り込むこともなく、順当なところに落ち着いていて拍子抜けしてしまった。
 また、歴史小説の流れと並行して、時代小説の要素として直江配下の忍びの働きと、彼らに拾われた牧静四郎、まいの幼い兄妹が設定されるが、特に静四郎とまいは、冒頭(直江兼続の初登場よりも前に)すでに登場し、出自の秘密も設定され、静四郎は剣豪神後伊豆の弟子として剣の使い手に、まいは石田三成の手元へ配置されることになるが、結局これらもあまり活躍させることなく物語は収束してしまう。

 最初に用意した設定が使い切れないままになってしまうのは、新聞連載小説ではままあること?に感じるが、非常に残念な読後感だ。
Dゾンガーと魔道師の都  レムリアン・サーガ4
 Thongor in the City of Magicians
L・カーターハヤカワ文庫異境冒険
264頁★★★
 パタンガの賢人イオトンドゥスは、五年前にゾンガー王が持ち帰った力の水晶の秘密を解き明かした。ゾンガーはその力をさらに得るために、パタンガ空軍を率いて再度東へと向かう。しかしその地には、彼に復讐せんと七人の黒い魔導師が待ち受けているのだった・・・。

 この四巻は他の五冊よりも数年遅れて手に入れたのだが、それにしてもすでにウン十年の昔。当然再読のつもりで臨んだのだが、どうにも初読時の感想がまったく惹起されない。どうやら長いこと眠らせていたようだ。これではそれ以前に買っていた五巻、六巻もまだ未読なのだろう。えらいことだ。

 さて、前作は記憶以上にツマラナかったわけだが、本作は意外に楽しめたのは想定外の驚きだ。
 もちろん強力に脳内フィルターを設定しておかなければ、反重力合金ウルリウムと重い鉄骨で重量をゼロとなるように作られたパタンガ自慢の飛行艇が、舳先から艫へと渡したゼンマイを動力源にしていることが開示された時点でノックアウトされてしまうので注意は必要だ。
 しかし罠に落ちたゾンガーが暗い地底で巨大なズトと対決するシーンは、シリーズを通しての白眉ではないだろうか。(五巻、六巻はまだ読んでいないわけだが・・・)
 ザールに到着してからも、キマイラ吼シリーズで勉強したサハスラーラ・チャクラ(本書ではサハスラライク・カクラ)なんてのが、凶悪な翼竜の制御法の説明に登場してニヤリとさせる。そういえば、本シリーズのネタ元は古代インドだった。

 西の諸国を分裂と戦争に向かわせるために、凶悪な魔導師たちが観察、暗躍していた筈の古都ザールが、<ネタバレ反転>パタンガ軍の空からの攻撃にまったく防御体制を準備しておらず拍子抜けするほどあっさりと陥落してしまうことに、最後で激しくノックアウトされてしまうが、まぁまぁ、とりあえずこれまでの四冊の中ではベストだろう。
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2011年 5月に戻る 2011年 7月に進む