1940年9月。日本はついに独、伊と三国軍事同盟を締結した。その余韻覚めやらぬ中、スピットファイアに阻まれ英国本土空襲が思うようにいかないドイツは、日本政府に驚くべき申し入れを行った。実践投入直後の中国戦線で大戦果を挙げた“タイプ・ゼロ”のライセンス生産である。実機二機をドイツへ空輸することを求められた日本政府は、ルート、給油地、パイロットを模索し始る・・・。
昨年の直木賞作家だが、本作は受賞作の21年前に発表された本である。これも5年ほど前に購入していたのだが、ようやく読むことができた。
太平洋戦争前デビュー間もない零戦11式を、大英帝国支配下のインドを経由してベルリンまで運んでいたという奇想物語だが、取材した真偽の不確かな歴史奇譚として始める導入部からかなり引き込まれてしまった。
実際に零戦が横須賀から飛び立つのは、なんと2/3をすぎた364頁。しかしヒトラーの思い付きが日本に伝わる過程、パイロットを選定する過程、そして敵国イギリス支配下にあるインドでの飛行場(燃料+整備)の確保といった事前準備の描写がめっぽう面白く、すらすら読み進められた。逆に飛び立ってからのほうがかえって物足りなく感じるくらいだ。
とても気に入った本なのに、いつものように文句が多くなっていまうのが不思議だが、本書の枠物語構造の外枠は、こちらの気分を高めるよい導入になっているものの、結末をあらかじめ予想させてしまうようにできているのはなせだ。しかも、本田技研の元取締役から資料を託された著者が、小説として発表したという態になっているのだが、カマニプル藩王国の柴田のパート(インドの飛行場確保に関するエピソード)は、とても素人が取材できた範囲とは思えない。枠物語の前提に乗っかるならば、この部分は著者の創作ということになってしまう。これは構成としてはマズイだろう。
いつものように文句の多い感想だが、飛び立つ前までなら星×5だ。文句なしにお勧め本である。 |