2011年10月
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@死者の代弁者 上下
 Speaker for The Dead
O・S・カードハヤカワ文庫SF
333頁/314頁544円/580円★★★
 スペイン系カトリックによって殖民されたルジタニアで、人類はバガー以来の知的生命体“ピギー”に遭遇した。3000年前のエンダーによる異類皆殺しの再現を怖れる人類は、ピギーへの極端な不介入政策をとり、研究者の接触も最低限に制限された。異類学者のピポは、そのルールの枠内で慎重に研究を進めていたが、友好関係にあったピギーたちによって、極めて残虐に殺害されてしまう。異類生物学者のノヴィーニャは、父とも慕うピポの人生を代弁するために、アンシブルで死者の代弁者の派遣を要請するが、その声に応えてルジタニアに到着したのは、相対論的時差により未だ35歳の初代死者の代弁者、エンダーその人だった・・・。

 本シリーズの世界は、相対論に縛られた物質の移動と、それに縛られない情報伝達の即時性(アンシブル)の極端な差が特徴だ。そんな世界で、バガー皆殺しの“エンダー”と、そのバガーとヘゲモンを代弁した初代“死者の代弁者”は、いずれもすでに伝説上の人物となっている。本作の舞台となるルジタニアの登場人物たちは、まさか彼らが同一人物で、しかも彼らの前に姿を現した死者の代弁者がその人だとは思っていない。
 私などは終盤である意味水戸黄門的な“名乗り”でのカタルシスを期待したのだが、(そういった場面はかすかにあるものの)非常に薄味だった。
 本書でメインとなるのは、家族関係の破壊と再生だ。
 とてもSFのテーマとは思えないが、これはこれでとても味わい深い。カードの持ち味である。
 ピポたちが理不尽に演出された死とルジタニアの生態系の秘密は、ある程度のところまで読めてしまうので、終盤の破壊力では「エンダーのゲーム」を上回ることはできないが、一見重い話ながら楽しく読むことができた。

 ただし没入できるほど楽しめたかというとそうでもなく、ところどころに違和感を感じる。
 “死者の代弁”は、天才的な洞察力を誇るエンダーだからこそ可能だと思うが、この時代にはかなり職業化されていて、カトリックが危険視しているくらいに一種宗教化している。このあたりにはカードの宗教観がなにがしか関係しているのだろうが、そういった端々で若干ブレーキがかかってしまった。

 SFというのは、社会システムを丸ごと作ってしまうことが多いものだが、カード作品では、そのあたりはほとんど無視してしまうところが面白い。
 本書でも○○と○○が、子供をつくれるだけつくりたいような発言をしているのだが、収入や支出、あるいは社会保障に関するコメントは一切ない。もっとも今回のケースでは、費用に関してはまるで気にする必要がないだろうが・・・。
A仮面ライダー怪人列伝 1号2号V3編
安藤幹夫編竹書房文庫特撮薀蓄
271頁743円★★★
 各怪人毎に1〜3頁程度の情報が載っている。ストーリー紹介だけでなく、着ぐるみやゲスト俳優の情報がマニアにはうれしいところ。
 ビジュアル情報は写真ではなくイラストだが、コスト上カラー写真を使えないのであれば、イラストで正解。DPIの少ない白黒写真よりは情報量は余程多いだろう。

 しかし全怪人のイラストが用意されていないことはいただけない。イラスト数は全怪人数に対して、ざっくり半分弱といったところか。
 デザインや造型に関わるコメントが多いというのに、これは読者に対してあまりに不親切だ。

 まぁ私の場合は、別にフルカラーで全怪人が網羅されたこういった本を持っているので困らないのだが・・・。

Bバイバイ、エンジェル
笠井潔創元推理文庫推理
387頁631円★★★★
 友人の叔母に脅迫状が届いたという話を聞いて、ナディアは探偵興味もあらわにラルース家に近づいた。ところが年が明けて早々、休暇旅行から帰ってきた彼女に、ラルース家の惨劇の一報が飛び込んでくる。さらに第二の爆殺事件が発生し、いずれにおいても関係者となったナディアは、いち早く推理を組立て自信満々に開陳するが、彼女の知人で、現象学に基づく本質直感を信奉する謎めいた東洋人青年、ヤブキカケルはその推理に水を注す・・・。

 その昔、平井和正ウルフガイ・シリーズからの流れで、著者の本には「ヴァンパイア・ウォーズ」から入った。
 なので本書を初読した当時、あんな伝奇冒険アクションの著者がこんな本格的な推理小説を書いたっていうのでまず驚いたのだが、その認識は大きな間違いで、こちらのほうがデビュー作、しかも「テロルの現象学」の息抜きの意味合いがあったらしい。

 なんにせよ、「ヴァンパイア・ウォーズ」でも、R・ハガードの古典冒険小説へのオマージュが入っていたように、本書は欧米の古典推理小説へのオマージュと言えるだろう。語り手で探偵助手の役どころ(本人はライバルと思っているだろうが)のナディアを、衒いもなくパリ警察のモガール警視の親族としていることからも伺えよう。
 ところで、謎解き重視の本格推理小説を翻訳小説チックに(手慰みで?)見事に書き上げた著者ではあるが、語り手ナディアの造形はかなりうっとうしい。性別も含めて矢吹駆の対極にいる人物からの目線が欲しかったのかもしれないが、ここは普通に男性キャラにしてもらいたかったところだ。20歳の小娘なのだが、著者の男性目線が抜け切れていないのだと思う。

 推理小説において、死体の首を隠すという行為は、当然人物の入れ替わりを疑うわけだが、これが<ネタばれ反転>時間の錯誤を狙ったもの(つまりはアリバイのため)だという転換が見事だ。
 とはいえ、実のところ今回の再読までは完全に忘却していたのだが・・・。

 で、本シリーズで強烈に印象を残すのは、思想対決というわけだ。そちらのほうは、歳をとったおかげか昔読んだ時よりもスンナリと読めたが、現象学の本質直感を事件の捜査に応用するという件は、あいかわらずよく理解できない。円の定義を知らない子供でも、円がどういうものかは直感的にわかっている。それが本質直感だ!
 で、それが犯罪事件の捜査にどう援用できると・・・。
 宗教だろうが思想だろうが、そんな断定をしちゃうのは危険だぞ。
C4ページミステリー
蒼井上鷹双葉文庫
245頁552円★★
 原稿用紙5枚のミステリーが60本と謳われている。
 毎回々々限られたスペースで新たな物語をつくるのは大変だと思うが、これらがミステリーかといわれると、ほとんどがそうではない。せいぜいなんらかのオチのある話といったところだ。

 すでに星新一のショートショートを読んで久しく、中身はほとんど憶えていないが、あれらの一部で覚えたような衝撃を感じる話もなかった。まぁ土俵が違うので、こちらにはあまり奇想天外な設定は持ち込めないだろうが・・・。

 残念ながら、個人的には激しく期待外れだった。

(2012/11/9記載)
D屍蘭 新宿鮫V
大沢在昌光文社文庫刑事
465頁667円★★★★
 鮫島の知り合いの高級ポン引きが死んだ。その職にもかかわらず紳士的な男で、女たちとの関係も悪くなかった。死因に事件性はなかったが、手元の女の堕胎絡みで釜石クリニックという産科と揉めていたことに、鮫島は僅かながら疑念を感じる。ウラで捜査を進める鮫島は、釜石クリニックにさらなる疑念を持つが、彼の身の周りに捜査二課の内偵の影がちらつきはじめ・・・。

 前作は“毒猿”と郭刑事が主役としてキャラが立っていたが、本作でのキャラ立ちは島岡ふみ枝である。なかなか怖いキャラである。
 彼女とその無私の庇護者綾香の関係を描いていくのが前半の中心だが、本作の一番の読み処は、後半罠に嵌められてタイムアップが近づく鮫島側のサスペンスだった。その背景として語られる、「踊る大捜査線」とは一味違う警察組織に関する薀蓄が興味深い。想像するに、昨今人気の相棒シリーズはそのあたりを参考にしてるのかな?

 全国二十万人の警察官のうち、キャリアはわずか500人足らず(400人に一人)とのことだ。
 全国自衛官のうちの防衛大防衛医大出の率はどれくらいなのだろう?

 中盤から終盤にかけての盛り上がりはとても面白いが、いざ検挙に向かうと少々駆け足かな。
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