昭和52年。恋人の両親へ挨拶するために、奈路充生は故郷の高知へと帰ってきた。ところが彼女に会う間もなく、突然暗くなった空から叩きつけられた銀色の雨に意識を失ってしまう・・・。そして奈路が意識を取り戻した時、鏡に写った五十年配の男が今は平成20年だよと話しかけてきた。
もちろんSFではなく著者得意ののSF“的”ミステリである。このジャンルも久しぶりだ。
ひとつの身体の中に意識は二つ。そして犯人探しと言えば、これは間違いなく、ハル・クレメントの「二十億の針」のオマージュだろうと確信したが、著者自身のあとがきではジャック・フィニィの「盗まれた町」にインスパイアされたとのこと。クレメントにはまったく触れていなかった。
いや私は信じないぞ。
ところで、著者作品のSF的設定は推理小説の条件設定のための筈だが、本作はいつも以上にそちらに引っ張られていて、推理小説としては弱い印象だった。まぁ私としては、上記のとおり「二十億の針」を思わせる設定(ついでながら、「盗まれた町」も大好きな作品だ)で楽しめたし、医療についての薀蓄(どこまで信用してよいかはやや疑問だが)も興味深かった。
考えてみればナロくんの立場はかなり可愛そうなのだが、本人があまり悲観的でないこともあって、あまり暗くならないところがいい。これは著者の作品の中では珍しい部類では・・・。 |