2012年 5月
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@りら荘事件
鮎川哲也創元推理文庫推理
410頁800円★★★
 日本芸大がレクリエーション用に買い取ったりら荘。奥秩父にあるこの別荘に、7人の学生が避暑にやってきた。婚約者たちを含んだ男女のグループだが、お世辞に仲が良いとは言えないギスギスした一団だ。そんな折近くの河原で炭焼きの死体が見つかり、傍らにはスペードのAの札とりら荘から盗まれたと思しき学生のレインコートが。そしてりら荘の学生たちが次々と惨劇に・・・。

 りら荘の“りら”ってなに? というのが、まず最初の疑問だったが、これは冒頭でライラック(刺羅)のことだと解決してスッキリ。

 いやそんなことはどうでもよいのだが、最近は素直に楽しめるトリックメインの犯人当て推理小説が見当たらなくなってきているので、古典の中で取りこぼしていた本書には、大きな期待と大きな不安をもってとりかかった。

 細かいトリックの積み重ねが、評判どおりたしかによくできているように思った。中には叙述トリックに分類されるものも含まれるので、広範囲に楽しめるという言い方もできるだろう。

 しかし全体的な印象として残るのは、これは著者のあとがきでも言及がみられるが、極端な<ネタばれ反転>女性への不信である。わたしも時に“女ってやつは――”とイライラすることがあるが、本書のあまりにも浅はかで、自己中心的な女性たちには、“ちょっと鮎川さん、どんな不愉快な思い出があるんですか?”と訊いてみたくなるようなエグさがある。

(2012/8/14記載)
A森博嗣の半熟セミナ 博士、質問があります!
森博嗣講談社文庫科学薀蓄
249頁762円★★★
 こんなモノ(「日経パソコン」誌への連載)まで単行本化されるのだからすごい。しかもイラストは奥さんだ。効率のよいバイト仕事ができて羨ましい。

 60編の科学ネタを博士と助手のコミカルな問答形式で解説しているが、1ネタあたりイラスト込みの4頁なので、さすがにあっさりしたものだ。私も一応は理系なので、その先が知りたいというところで終わってしまうことが多い。特に後半はネタにつきてきたものか、今ひとつな内容だった。

 とはいえ、私はナンチャッテ理系なので、軌道上で自由落下中のスペース・シャトル内で紙飛行機を飛ばすとどうふるまうかと訊かれると、宙返りを繰り返すように思ってしまうレベルだから、前半はなかなか面白かった。ジャイロ効果の解説なんかね。
B玄奘三蔵のシルクロード ガンダーラ編
安田暎胤講談社文庫歴史薀蓄/紀行
177頁1600円★★★
 薬師寺の副住職であった著者によるガンダーラ紀行。玄奘三蔵の旅に思いを馳せながら、自らの旅を振り返っている。
 知らずに買ったのだが、本書は四分冊の三冊目にあたるしい。この旅は2000年前後のことで、旅行団の中には「世界不思議発見!」中央アジアがテーマのときには何度か登場していた加藤九祚氏なども参加していたようだ。因みにこの旅の時には副住職だった著者は、その後順調に住職を経て、今では薬師寺長老となっている。

 玄奘の旅をなぞるのは興味深いのだが、せっかくの地名が具体的にどこなのかがよくわからないのが残念。
 表紙の見開きに地図が載っているのだが、記名されている地名がまるで不十分だ。本書に記載のある地名はすべて盛り込んでもらいたかった。

 薬師寺といえばもちろん浄土真宗以前の仏教(法相宗)なのだが、今では妻帯OKらしい。本書の写真担当は著者の奥さんのようだ。
C腹だけ痩せる技術
楠森美緒メディアファクトリー新書体型薀蓄
206頁740円
D意外に日本人だけ知らない日本史
デュラン・れい子講談社+α新書エッセイ
215頁876円★★★
 著者の本を読むのは二冊目だ。
 題名ほど“それは意外だ!”という内容ではないのだが、やんわりと日本の良さをアピールしてくれる著者の本は、気楽に読むのに心地よいのだ。

 むしろ“意外な日本史”よりも、著者の周りの人から入ってくるフランスやデンマークのお国の事情が興味深かった。デンマークでは18歳になるとなんと月々3万円以上が国から支給されるという。そこで高校卒業後、あるいは大学卒業後すぐに就職することなく、数年は世界を放浪したりする若者が多いらしい。就職年齢は25〜28歳だなんて話を聞くと、指を咥えてあこがれてしまう。
 こういった社会保障が充実した国ならば、消費税が高くても構わないのだが、調子に乗って感謝もしてくれないような国に多額のODAを注ぎ込んだ挙句に、自国の年金を満足に準備できなくなってしまうようなどこぞの国とは訳が違うのである。

 それにしても、さらっと書かれているので嫌味なく読めるのだが、日本とフランスを往復しながら他国の若者たちと多くのコミュニケーションを持っている著者はすごいぞ。

(2012年9月2日記載)
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