2012年 8月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2012年 7月に戻る 2012年 9月に進む
@週刊HMSヴィクトリーを作る4
DeAGOSTINI帆船薀蓄
1190円

前号へ戻る「週刊HMSヴィクトリーを作ろう」目次に戻る次号へ進む


今号の作業は、15番フレームと船首隔壁、そして前号のカロネード砲の続きだ。



さて、今号から木製パーツの包装仕様が変更されている。

前号まではPP(たぶん)トレイに入っていたのだが、今号からはごらんのとおり。
プラモデルのランナーよろしく、レーザーカットを一部残してある箇所を
自分でカットして分離させる。

トレイの金型費用を削減するためにはやむをえない処理だが
カットした後をやすり掛けする必要があるので、少々面倒くさい。



と文句は言ってみたものの、ここまではなんの問題もない。
ゴリゴリやりすぎて変形させては元も子もないので
やすり掛けもそんなに真面目にはやらない。

問題はカロネード砲に移ってから発覚した。
架台の後部に車輪が2個つくのだが、1個しかない…。
ごてごてした机周りを徹底的に探せば、出てくるのだろうが、 とてもそんな大捜索をする気にならない。

仕方がないので、プラ板でそこそこ代用レベルのものを拵えることに。

わざわざ円の切り出し用にテンプレートを購入。
一回り大きい円を切り出して、リューターで整える作戦だ。
そのために軸になる真鍮線を瞬着でチョイ付けしている。



のつもりが、ボト付けになってしまい、どうにも外せない…。
ので、そのまま使用。



だから軸は片側しか通っていない。下図左側だ。
ところで、正規に組んでいる右側の車輪だが、ここに至るまでに
たっぷり30分は格闘した。
取付け側の軸穴と車輪の軸穴の位置が合わないのだ。
指定よりも大きな径で穴を広げたり、回転はあきらめて車輪の上部をガリガリ削って
ようやくはめ込んだ。

取付け側金具は先にMr.カラーで塗装しているが、この剥がれ具合をみれば
苦労のさまを感じて頂けるだろう。



しかしここまで拡大すると、左側の自作車輪はガタガタやな。
実物をみるとそれなりでなにも気にならないのだが…。

さて次は、アイボルトという輪っか金具を
前号で架台のあちらこちらに開けた穴に差し込んでいく、…のだが

ア…アイボルトが2個足りん…。



側面後方の滑車付きアイボルトの手前に左右もう1本ずつアイボルトがつくのだが…。

仕方がないので、0.5mm真鍮線をラジオペンチで捩じって自作だ。
なかなかうまくできないのだが、4個作った時点で力尽きた。
マシな2個を選んで接着。

 
こんな感じ。
流れで書くと、ま、こんな程度だが、前号の作業からここまでで
たっぷり2か月はかかっている。
うち58日くらいは放置だが。



前号へ戻る「週刊HMSヴィクトリーを作ろう」目次に戻る次号へ進む


(2012/10/27記載)
A図解ガンファイト Files No.034
大波篤司新紀元社銃薀蓄
233頁1300円★★★

 以前同じ著者の「図解ハンドウェポン」を読んだが、その拡張版といった内容だ。
 ガンファイトを含めて、購入から練習、使用、保管といった運用面や、あるいは性能を評価する基準といったところまでカバーしている。

 前作もオタク向けの記述が目立ち、本作でもその傾向に変わりはないが、上記内容からすれば、よりプロ向きのネタ本だ。プロというのは、もちろん銃器のプロではなくて、ラノベ/漫画/ドラマ脚本の執筆をする日本人の若手作家のことだよ。

(2012/10/21記載)

B源氏物語はなぜ書かれたのか
井沢元彦角川文庫歴史薀蓄
201頁476円★★★★

 著者得意の言霊、怨霊史観による「源氏物語」の読み解き。
 いつもとは異なる読者層(文学として源氏物語に接する人たち)が考えられるからだろう、国文学者でも歴史学者でもない著者がなぜこのような本を著すのかということを、いつも以上に前書きで強調している。余談ながら、著者のこれに類する説明を読むと、「宇宙船ビーグル号の冒険」を思い出す。主役のグローヴナー博士は総合科学者という設定だが、ビーグル号には、個々のジャンルでグローヴナーより該博な学者が大勢搭乗しているにもかかわらず、互いにばらばらの専門領域を関連付けることで、事件を解決するのはいつもグローヴナーというストーリー構成だった。
 もちろんだから井沢説が正しいとは限らないが、説得力はあって感心する。

 本書でも「源氏物語」を読み解くにあたって、当時(平安時代中期/藤原氏全盛)の政治情勢を詳しく解説してくれる。解説は源氏物語と平安中期に限らず、同様に怨霊鎮魂の意図を持った(という)「平家物語」「太平記」も登場するし、政治的には藤原摂関政治から院政、そして武家政治の流れにまで筆が及んでいる。
 「源氏物語」の文学側面にしか興味のない人からすれば、あきらかにオーバースペックの内容だが、本書で歴史の面白さに目覚める人も多いのではないだろうか。歴史の読み方入門としてもとても面白いので、わたしも母親に薦めたくなった。

 因みに、歴史学者の狭視野角の一例として、道路舗装率の話が挙がっている。
 2005年の統計で、日本は79%。これは中国、韓国、タイ、エジプトと比較しても低いという。これはわたしも意外だった。
 文脈では、この舗装率の低さは日本では馬車の使用が進まなかったことが原因。他国に比べて近代まで舗装道路の必要性が低かったからだということになる。こういった日本特有の歴史条件に気付いていない、学校教育に反映されていないというのは、歴史学者の怠慢だという文脈だ。

 一方で、少し調べてみると、この統計の数字というのも基準が少々怪しいことが判る。本書では注意深く例から外されているのだが、英国その他の欧州各国の道路舗装率は軒並み100%である。しかし実際に英国に行けば、結構な未舗装の道路があるという。
 この矛盾、判りますか?
 そう、彼の国々では、舗装された道を“道路”だと定義しているのだ。そら100%になりますわな。
 逆に日本の数値に対しては、道路工事で利権を得ている族議員や公団の思惑が影響しているのではないかと邪推してしまう。田んぼのあぜ道程度なものまで“道路”にカウントしないと、79%なんて低い数字は出てこないと思うのだが…。

 と余談が長くなってしまったが、こういったツッコミを考えながらも、とても面白く読めた。長大な「逆説の日本史」の敷居が高ければ、まずは本書をどうぞ。

(2014/2/13記載)

C外道忍法帖
山田風太郎河出文庫時代伝奇
332頁850円★★★

 天正少年使節団はローマ法王より百万エクーの金貨を賜り、日本に持ち帰った。背教者フェレイラが探り出したこの秘宝を手に入れんと、老中松平伊豆守は配下の天草衆を九州へ送る。しかし同じ情報を得た由比正雪もまた、甲賀卍谷衆をかの地へ送り込む。迎えるは、中浦ジュリアンの想いを背負ったマリア天姫と十五人の女たち。三つ巴の秘宝争奪戦の行方は…。

 なんといっても本書の最大の特色は、その人数である。
 忍法帖の開幕を告げた傑作「甲賀忍法帖」が10人VS10人だったのに対して、

15人VS15人VS17人のなんと計47人である!


 解説に、一部の忍法には先行作品の流用忍法がみられると書かれているが、わたしのおぼろげな印象では伊賀なら伊賀、甲賀なら甲賀の中での流用に思える。これが正しければ、同族間での忍法の相伝ということでむしろよく考えられていると言っていい。
 ラストのオチはわかりやすすぎるし、疲れてきたのか後半はかなりのスットバシ具合だが、決して他の忍法帖よりレベルが低いわけでもない。

 恐るべし山田風太郎。稚気なのかチャレンジ精神なのかは定かでないが、もはや 脱帽するしかない。

 その圧倒的な力技に敬意を表して、登場人物の忍法一覧表をこさえてみた。
 このクソ大変な時に一体なにをしてるんだか…。

※多少のネタばれになっているのでご注意あれ。
※○は倒した忍者を、×は自分を倒した相手を示す。
幕府松平伊豆守配下、天草衆(伊賀忍法)
鳥羽大膳亮忍法???志摩法之進とペアで、鎖鎌を生き物のごとく操る。
  ○テクラお浪×テクラお浪
志摩法之進忍法???鳥羽大膳亮とペアで、鎖鎌を生き物のごとく操る。
  ○テクラお浪×テクラお浪
葛城道四郎忍法道四郎憑き自分の体を離れて憑りつき、相手を自在に操る。
   ×サヴィナお志乃
秩父八十八忍法双面後頭部に美女状の人面瘡を有し、その唾液(膿汁)で相手を殺す。
  ○天王寺勘助×天王寺勘助
那智孫九郎忍法???異常に体が柔らかい。
忍法???むしり取った自分の上顎と下顎で噛み殺す。
  ○カタリナお冬×カタリナお冬
阿波小刑部忍法???一尺以上の槍の穂を食道内に仕込む。
  ○篝兵部×篝兵部
勿来銀之丞忍法鎌いたち強烈な吸息により、離れたところに真空の気泡を出現させ切り刻む。
 ○マグダレナお雪○猿羽根冬心×猿羽根冬心
厨川半心軒忍法死人鴉自分の青色の血煙を浴びせ、その死臭で鴉に襲わせる。
   ×自決
百済水阿弥忍法墨陽炎衣の一部を自分の分身にみせて翻弄する。
   ×十六夜鞭馬
結城矢五郎忍法肉鎧己の皮膚を刃も通さぬなめし皮のように変質させる。
   ×秦卍丸
曾我杢兵衛忍法水絵水に落とした特殊な液体で自分の投影体を作って操る。
  ○漣甚内×ジュリアお香
中嶽塔之介忍法???手刀、足斧使い。
   ×カタリナお冬
騎西半太夫忍法???つぶれた眼窩に毒虫と化したテントウムシを飼う。
○ベアトリスお鞍○ガラシャお丈○弟子丸銅斎×弟子丸銅斎
当麻伊三次忍法???空中を浮遊する。
  ○カタリナお冬×カタリナお冬
天草扇千代忍法山彦自分が受けた感覚を山彦のように相手にも感じさせる。
○ミカエル助蔵○大文字弥門○日ノ輪内膳○不知火左京
   ×自決

張孔堂由比正雪配下、甲賀卍谷衆
真昼狂念忍法砂仮面砂に捺した面型で男女問わず自在に変身する。
  ○エテルカお蝶×天草扇千代
漣甚内忍法水馬水面をみずすましのように滑走する。
   ×曾我杢兵衛
日ノ輪内膳忍法玻璃燈籠毛穴から発した蝋状の物質で石鹸化、透明となる。
  ○厨川半心軒
(桐ノ木将曹、不知火左京とともに)
×天草扇千代
十六夜鞭馬忍法雲雨傘複数の傘を自在に操り、自らも傘に乗って飛翔する。
  ○クララお酉×フランチェスカお夕
鶯道忍忍法琴蜘蛛女の精を塗った琴糸が蜘蛛の巣のように相手をがんじがらめる。
忍法???霧状に撒いた精液が強力な媚薬となる。
  ○フランチェスカお夕×フランチェスカお夕
不知火左京忍法玻璃燈籠毛穴から発した蝋状の物質で石鹸化、透明となる。
  ○厨川半心軒
(日ノ輪内膳、桐ノ木将曹とともに)
×天草扇千代
天王寺勘助特に忍法の使用なし。
  ○秩父八十八×秩父八十八
桐ノ木将曹特に忍法の使用なし。
  ○厨川半心軒
(日ノ輪内膳、不知火左京とともに)
×厨川半心軒
(日ノ輪内膳、不知火左京とともに)
弟子丸銅斎忍法肉豆腐自分の体を膠状に変質させて刀も銃弾も受け付けない。
忍法???女の黒髪で編んだ縄を命あるもののごとく操る。
  ○騎西半太夫×騎西半太夫
大文字弥門忍法稲妻発電能力を有し感電させる。
   ×天草扇千代
篝兵部忍法我喰い強烈な消化液で自他ともに溶かす。自分は復元可能。
 ○マルタお霧○阿波小刑部×阿波小刑部
猿羽根冬心忍法指蚕指先から強靭な糸を発して相手を繭状に捕獲する。
  ○勿来銀之丞×勿来銀之丞
秦卍丸忍法くさび独楽芯が錐のように尖った鉄独楽を自在に飛ばし、敵の体をえぐる。
忍法???外界が回転する幻暈を相手に与え、平衡感覚をもみねじる。
忍法おんな化粧女の愛液を啜ることで、その女そっくりに化ける。
忍法おとこ化粧男の精液を受け入れることで、その男そっくりに化ける。
 ○結城矢五郎○ルフィナお貝×ルフィナお貝
赤厨子丹波特に忍法の使用なし。
   ×ガラシャお丈
朽ノ葉帯刀忍法犬さかり雌犬のさかり汁を浴びせ、自在に操る犬で襲わせる。
  ○ジュスタお笛×ジュスタお笛

マリア天姫配下十五人童女(大友忍法)
ウルスラお珠特に忍法の使用なし。
   ×マリア天姫
サヴィナお志乃特に忍法の使用なし。
  ○葛城道四郎×自決
ルフィナお貝忍法とかげ舌切り離した舌で相手ののどを塞ぎ窒息死させる。
  ○秦卍丸×秦卍丸
マルタお霧忍法小判鮫体全体が強力な吸盤と化す。
   ×篝兵部
モニカお京忍法不知火自らの血で描いた十字を相手の網膜に焼き付ける。
    
マグダレナお雪忍法???花びらを飛ばし、敵の角膜に蓋をする。
   ×勿来銀之丞
ジュリア潘香蓮特に忍法の使用なし。
  ○曾我杢兵衛×曾我杢兵衛
カタリナお冬忍法羅切湯中に流した自分の髪の毛で相手を切る。
  ×那智孫九郎×当麻伊三次
クララお酉特に忍法の使用なし。弓矢の使い手。
   ×十六夜鞭馬
ベアトリスお鞍忍法蜜霞股間から流した蜜で無数の虫を呼び、それらとその鱗粉で煙幕をはる。
   ×騎西半太夫
エテルカお蝶忍法???自分の最期にみた顔を網膜に焼き付ける。
   ×真昼狂念
フランチェスカ夕心尼忍法月ノ水泡自分の流した血中から毒の気泡を発して敵を追う。
 ○十六夜鞭馬○鶯道忍×鶯道忍
ガラシャお丈忍法木の葉蝶色つきの汗を流し、周りの景色に溶け込む。
  ○赤厨子丹波×騎西半太夫
テクラお浪忍法???血の噴水が燃え上がる。
○鳥羽大膳亮○志摩法之進×鳥羽大膳亮×志摩法之進
ジュスタお笛忍法空蝉変身後、元の姿態に戻る際は蝉が殻を脱ぐように振舞う。
  ○朽ノ葉帯刀×朽ノ葉帯刀
ミカエル助蔵忍法髪縫い女人の秘毛を通した針を口から飛ばして、相手の瞼を縫い合わせる。
    
マリア天姫忍法黄泉がえり相手に乗り移ることで、不死となる。
  ○ウルスラお珠×天草扇千代

 こうしてみると、相討ち共倒れが多いことが判る。
 そこはちょっとマイナスポイントですな。

(2012/10/19記載)

D週刊HMSヴィクトリーを作る5
DeAGOSTINI帆船薀蓄
1190円

前号へ戻る「週刊HMSヴィクトリーを作ろう」目次に戻る次号へ進む


今号の作業は、16番、17番フレームと船首隔壁の残りだ。



今号は木工ワークのみで細かい仕事はなし。



という訳で、安心して助手Yに手伝わせることができる。



はい、こんな感じ。
実は今号以降も当面続くフレームワークのかなりは
前号のカロネード砲のリカバリー作業よりも先に済ませているのだ。


前号へ戻る「週刊HMSヴィクトリーを作ろう」目次に戻る次号へ進む


(2012/10/27記載)

E英傑の日本史 上杉越後死闘編
井沢元彦角川文庫歴史薀蓄
265頁552円★★★★

 前巻の武田に続いて本作は上杉。前にも書いたように、NHK大河ドラマ「天地人」に呼応した企画と思われる。
 武田家二十四将などといわれるように、武田は武将クラスの知名度も高いのだが、それに較べると上杉家の武将は影が薄い印象だ。ということで、列伝形式の本書はどんな感じになるのかなと懸念していた。

 たしかに上杉謙信一人で90頁を占めて(個人で比較すると、彼の個性的なエピソードは武田信玄を凌駕する!)いたり、読了直後なのに上杉四天王の名前をすっかり忘れてしまったというような影の薄さはたしかにあるのだが、長尾景虎がどのように上杉輝虎(謙信)になっていったのかという流れの部分で、越後守護だった上杉房能関東管領だった上杉顕定、彼らを討った長尾為景(謙信の父)、長尾氏の一族だが、為景、晴景(謙信の兄)、景虎の脇で暗躍?した長尾正景(御館の乱の末に謙信亡き後を率いることになった上杉景勝の実父)、そして北条や武田に圧迫されて謙信を頼り、関東管領職と名跡を彼に譲った上杉憲政等々のエピソードが興味深く、これまでになく理解できた気がした。

 昔の大河ドラマ「武田信玄」で見た三国同盟の印象が大きかったので、今川、北条、武田のそればかり覚えているが、今川氏の没落後の覇権争いの中で、北条、武田、上杉が近寄ったり離れたりするところも興味深い。

(2012/9/30記載)

F忍法忠臣蔵
山田風太郎角川文庫時代伝奇
285頁★★★

 松の廊下刃傷事件の当日、故あって江戸城大奥御広敷の役目を捨てて逐電した無明綱太郎は、勘違いで救った米沢藩国家老千坂兵部の息女を国元へ送る。そのまま米沢で千坂兵部の食客として過ごしていた綱太郎は、やがて兵部から特殊な任務を依頼されるが…。「拙者、忠義と女が大嫌いでござる」と嘯く綱太郎に、それは好都合だと語る兵部の心胆とは。

 本編は赤穂浪士の面々と、彼らを堕落させようとするくのいちがメインとなって進行する。赤穂浪士を斬ろうとする上杉綱憲配下の忍びと、それを阻止する無明綱太郎は節目々々での登場だ。かなり複雑な設定なので、赤穂事件に対してある程度の前知識が必要である。ここがまっさらだと今ひとつ楽しむことができないのではないだろうか。私も初読時は赤穂浪士について何も知らなかったが、再読となる今回は、以前よりも楽しむことができた。

 近年こそ、赤穂義士たちの活躍に単純に声援を送るような物語ばかりでなく、いろんな切り口から描かれることが増えてきているが、この当時(1961年)に、大石内蔵助方針、行動を厳しく糾弾する描写があるのは、――赤穂浪士関連の過去作品について何ら詳しくないのだが――画期的だったのではないだろうか?
 その上で、武士の道徳感に律されてしまう人々が悲しい。

 とは言え、読了後の大きな印象は、綱太郎が主となって進む衝撃度の高い導入部と、対になっている幕引き部ではないだろうか。導入部は、最初に書いた“故あって”の部分である。
 綱太郎を“忠義と女が大嫌い”なダークヒーローに為さしめた理由が、この導入部で描かれているのだが、この部分自体はむしろユーモラスティックである。まず冒頭の一文が、“江戸城大奥御広敷の無明綱太郎はへんな奴であった”なのである。
 どこまでが史実かは判らないが、大奥のなんとももったいないしきたりの薀蓄も合わせて、とても印象的だ。

 今回の再読中も知らなかったのだが、実はこの導入部にあたる二章は、まるまる短編「忍者帷子乙五郎」なのである。

※以下「外道忍法帖」の勢いで、登場忍者の技一覧表を作ってみた。多少のネタばれになっているのでご注意あれ。

無明綱太郎忍法???切り刻んだ相手がそのことに気づかず暫くの間生きて動き回る。
忍法???髪を綯った綱で相手を自在に絡め捕り、あるいは切断する。
忍法蜘蛛の糸巻唾液を粘性のある蜘蛛の巣に変じて絡め捕る。
忍法鵞毛落とし大量の水鳥を操り、そこから抜け落とした羽毛で相手の口鼻を塞ぎ窒息させる。
忍法浮寝鳥自分の体重を消失させる。
忍法???菊の花びらで相手を覆い燃やす。
忍法???燃える投網や花吹雪を自在に操る。

上杉家配下能登組忍者(国家老千坂兵部指示)
お琴忍法おんな燈心色欲の精を燈心のごとく男根に刺して、交わった男を狂わせる。
   奥野将監
お弓忍法浮船綱太郎の浮寝鳥に同じ。
忍法歓喜天交わった男と体を入換える。
 進藤源四郎小山源五左衛門矢頭右衛門七
お桐忍法魔羅蝋交合の箇所で血管が繋がり、勃起状態を保って離れられなくなる。
    
お梁忍法???無数の銀の鍼を体中の経穴に吹き込む。
   田中貞四郎
お杉忍法食虫花(※1)巨大な首から体内へと続く幻覚におぼれさせ胎児に還す。
   高田郡兵衛
鞆絵特に忍法の使用なし。
   毛利小平太
  ※各女忍者の二行目の人名は、籠絡されて盟約を抜けた赤穂浪士
 (※1)解説にその名がみえるが、本編では呼称されず。

上杉家配下能登組忍者(江戸屋敷指示)
瓜連兵三郎忍法???眠り薬を塗った紙の細片を蝶に変じて飛ばす。
浪打丈之進忍法血虫陣体内に飼った無数の寄生虫を蛇使いが蛇を操るがごとく使役する。
鴉谷笑兵衛忍法偕老同穴海綿状の小さな人形に水を吸わせてもう一人の自分を作る。
万軍記忍法南北杖強力な磁石を仕込んだ杖で敵の刀を制する。
白糸錠閑忍法???体中の骨を軟骨と化して、どのような細い空間にも入り込む。
鍬形半之丞忍法金剛網各人の間に強靭で鋭利・極細の網を張り、横切る者を切断する。
折壁弁之助
月ノ輪求馬
女坂半内
穴目銭十郎忍法一ノ胴刀も槍も利かない鉛の体に変じる。


(2012/10/20記載)

Gデューン/砂の惑星 1〜4
 Dune (1965)
F・ハーバートハヤカワ文庫SF
287頁/242頁
402頁/346頁
★★★★

 ハルコンネン男爵家の支配下にあった惑星デューンは、アトレイデ公爵に与えられた。陰謀の気配を感じながらも、公爵は一族を連れデューンへと移住する。惑星デューンは、極端に水の少ない、生きるに過酷な砂の惑星だったが、恒星間文明を支えるなくてはならない、メランジを産出する唯一の星であった。
 そして怠りない厳重な警戒にもかかわらず、ハルコンネンの、そして皇帝の奸計により悲劇が起こる。辛くも砂漠へ身を隠した公妃と嫡男のポウルは、砂漠の民フレーメンの中に身を投じることになるが・・・。

 昔は確か石森章太郎の表紙だった。
 「伝説巨神イデオン」に本書のシャイ・フルドをパクったであろう巨大生物が登場したこともあって、興味を惹かれてはいたのだが、中身が難しいという噂を聞くこともあって、敬遠してしまってた本だ。

 この銀河帝国の背景がよくわからず、本文中では説明されないままの固有名詞が雪崩のように襲ってくるので、一面ややこしくてよくわからないという要素は確かにあるのだが、文庫で四分冊された長大な物語を意外に苦もなく読みきることができた。固有名詞については、巻末の37頁にも渉る用語解説を引くことができる(用語を読んでもよく解らないのもあるが)ということもあるが、いつの間にか引き込まれてしまった。
 個人的には、ポウルと母親のジェシカ、フレーメンたちの側よりも、ハルコンネン側のキャラクターのほうが魅力的だ。

 本書に大きなSF的ガジェットはないのだが、細かなSF的アイテムは豊富に登場し、文化的、環境的な設定を加味すると、雰囲気としてはワイドスクリーン・バロック的な味わいだ。

 余談だが、子供のころに持っていた――おそらく「スターウォーズ」がヒットした頃に出版されたやつだ――SFメカ大全集の類の本に、小説の分野からはコメット(fromキャプテン・フューチャー・シリーズ)やドーントレス(fromレンズマン・シリーズ)が紹介されていたが、それらに混じって、オーニソプターという羽ばたき飛行機が載っていて、これは何に登場するのだろうと当時はわからなかったのだが、ネタ元は本書だったかと数十年後に得心してとても嬉しい。

(2012/11/2記載)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2012年 7月に戻る 2012年 9月に進む