2012年12月
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@海鳴り忍法帖
山田風太郎角川文庫時代/伝奇
420頁★★★

A世界の傑作戦車50 戦場を駆け抜けた名タンクの実力に迫る
毒島刀也サイエンス・アイ新書戦車薀蓄
206頁952円★★★

 最近は新書版でもオールカラーが出てきてうれしい。
 といっても第一次大戦当時の初期の戦車関連の写真は白黒になるわけだが、それでも解像度が高くなっている印象だ。

 見開きで、左頁に解説、右頁に写真や図番という構成で、ネタが多いものはさらに次の頁にもわたると工夫もしているが、所詮解説の頁が足りないのはいかんともし難い。ここは開き直って、スペックや派生機種の羅列はばっさりと捨て、ネタを絞ったコラム一本に特化するほうが面白かったかもしれない。

(2013/5/11記載)

B砂漠のプリンス
 The Lad and the Lion (1938)
E・R・バローズ創元推理文庫冒険
249頁300円★★★

 ヨーロッパのある王国の王位継承者マイケルは、クーデターの危機から逃れるために、老臣に連れられ船で地中海へと逃れ出たが、船は遭難、海へと投げ出されてしまう。意識を失い漂流していた彼はある船に拾われるが、船には偏屈な聾唖の老人が一人と、檻の中に老人に虐げられるライオンが一匹いるだけだった。そして彼に遭難前の記憶は一切残っていなかった…。

 少々奇怪な設定の導入部だが、本書の中心となるのは、老人のくびきから開放されてアフリカ(おそらく北西部のモロッコまたはアルジェリアの付近)が舞台となってからである。
 また本書の大きな特徴は、マイケルの冒険だけでなく、彼のパートと交互に、彼が脱出した王国のその後が描かれることだ。マイケルの祖父である国王から権力を簒奪したのは、マイケルの叔父にあたるオットー大公と衛兵隊長の伯爵だが、こちらのパートではオットーの息子フェルディナントと、マイケルの幼馴染であった姉弟、そして王権の打破をめざす革命家ABC(偶然かもしれないが、三人の頭文字がきれいに当てはまる)の暗躍が中心となっている。

 もちろんバローズは対比の妙を狙っている訳だが、正直なところ、バローズものとしておなじみのアフリカパートよりも、後者の王国パートのほうがアイロニーも効いていて面白かった。
 中学生時分に読んだときには、記憶を取り戻したマイケルが、故国へ凱旋?して王となるものと思い込んで読んだはずだが、そういった展開にならないばかりか、悪人ではないのに不幸な最期を迎える人もいたりして、バローズとしては異色作と言っていいだろう。
 当時はとまどいと不満が残ったものだが(というかまるで忘れていたのだが、気に入ったのならば記憶に残っていたはず…)、今回読み直すとなかなか興味深かった。

 舞台の王国は架空だが、周辺の国々は実在である。
 執筆された1914年2月〜3月は、第一次世界大戦の切っ掛けとなったサラエボ事件の直前というきな臭い時期である。本書の設定年代も同じと考えると、最後のマイケルの電報文が光っている。

(2013/3/11記載)

Cスタバではグランデを買え
吉本佳生創元推理文庫経済薀蓄
277頁680円★★★

 ある製品がユーザーの手元に届くまでには、実に様々な流通過程を経ることになる。その製品が工業製品であれば、こんな感じだろうか。

原材料生産→輸送→部品製造→輸送→製品製造→輸送→販売店→輸送 →ユーザー

 この「→」の前後ではそれぞれ担当する企業だったり業者だったりが異なる(ことが多い)ので、そこには商品の材料/形状/性能には直接関わらない取引コストが発生している。この要素はもちろん最終的にユーザーが払う全体の「コスト」の中に反映されるのだが、「コスト」に占める原価の割合は、われわれが一般的にイメージするよりも随分と小さかったりする。

 因みに「コスト」とカギ括弧つきで書いたのは、この中にはユーザーがお金で払う売価だけでなく、彼らがその商品を得るために払った労力――販売店へ出向く時間的/エネルギー的な手間だったり、複雑な価格体系を読み解いたり情報を入手するために使う手間だったり――が含まれるからだ。
 ユーザーはこの全体の「コスト」を、その時その時でもっとも節約するように判断している。ある商品をより安く手に入れる方法を知っていても、時により高い売価を支払ったりすることがあるというのは、そこに時間がもったいない/面倒くさいといった取引コストのパラメーターを含めて、トータルで“安い”ものを選んでいるというわけだ。
 そして各企業は取引コストを安くする様々な工夫で多くのユーザーをつかもうと鎬を削っている。大量仕入れ、返品なしで安く仕入れるというのも工夫のひとつだし、ケータイやスマホのややこしい価格体系というのも、取引コストの観点から説明できるのが面白い。

 本書には「価値と生活の経済学」という副題がついているが、この取引コストの考え方は、生活全般においていろいろと為になる考え方だ。

   例えば、子供の医療費をタダにしましょうという選挙公約が掲げられることがままあるが、芸がないけどまぁ悪いことじゃないよねと感じてしまう人は要注意である。タダになれば、本来なら病院にいかないようなレベルでも子供を病院に連れていく輩が激増して、待ち時間がさらに長くなるだろうことが容易に想像できるからだ。診断だけでなく、市販品よりも効果を期待できる薬を安価で入手できるのだから尚更である。
 またこのとき、待ち時間が長くなることは皆すべからく望まないことではあるが、よりダメージが大きくなるのが、多忙な仕事に追われていて時間の融通をつけ難い、付き添いの保護者だ。同じ待ち時間であっても、時間に縛られる仕事がなく悠々自適に暮らしている人とでは、取引コストの一部である「時間コスト」の価値がまったく違うからだ。もちろん待ち時間が長くなれば、より症状が重くなるかもしれないことも考慮すべきである。  投票する際には注意しよう。
 因みに二言目には“消費者の目線で〜”と連呼する政治家にも要注意だ。
 こういった、直接経済学と関係がないようなことまで書かれているのも本書の魅力といえる。

 因みに著者が名づけた本書のタイトルは副題のほうだと思われるが、出版社がつけたであろう本書のメインタイトルはあまりに扇情的だ。堅実な内容とイメージの齟齬が大きいことに少々腹が立った。

 しかし副題が主タイトルとして背表紙に書かれていたら、おそらく手に取ることはなかったということを考えると、このキャッチーなタイトルは“成功”だよな・・・。

(2013/3/11記載)

D“健康常識”はウソだらけ
奥村康WAC健康薀蓄
203頁886円★★★★

Eデューン/砂漠の救世主
 Dune Messia (1969)
F・ハーバートハヤカワ文庫SF
442頁★★★

 フレーメンの力を結集したポウルが皇帝配下ののサルダウカー軍団を撃ち破り、自らがムアドディブとして皇帝権力を掌握してから12年。ベネ・ゲセリットの長期にわたる遺伝操作の到達点、クイデッツ・ハデラッハでもあるポウルは、読心、予知の力をも備え、彼の政権を脅かすことなど不可能に思えたが、自らの権力を増強させようとするスペース・ギルド、ベネ・ゲセリット、トライラックスの各勢力。そしてポウルの名目上の后妃イルーランさえもが、ポウルを追い落とすための陰謀を繰り広げる…。

 超人たるポウルやその妹エウリアの認識力をかいくぐって、どんな陰謀を企めるのか?
 トライラックスが用意した死せるダンカン・アイダホのゴーラには、一体どのような役割があるのか?

 難解だ難解だという前評判でつい敬遠してしまっていた前作同様、たしかに造語の流れに巻き込まれて溺れそうになるものの、ストーリーは上記の興味に引っ張られて、面白く一気に読むことができた。
 ただし前作で巻末についていた用語集が本作についていないのはマイナスだ。【注1】
 雪崩来る造語の大群というのは、一方で溺れてしまう心地よさもあったりするのだが、そこはそれである…。

 ただし理解できずに落ち着かないのは、造語ではなく、ポウルが起こしたクーデターの意義や彼の貞節倫理である。
 前者については、たしかにアラキス一惑星の環境やフレーメンの境遇の改善の面では偉大な事蹟であろうが、本書で僅かに語られる他星域へのジハード?については、各惑星の一般住民にとって、同様に意義のあることだったのかどうか。
 むしろ圧倒的に悪化した面も多いような…。【注2】

 後者については、なるほど個人的には立派なものだが、ポウルはもはや一般個人ではない。皇帝である。彼がくしゃみをすれば下々は肺炎になりかねないことを考えると、彼自身の倫理観は脇に置いておくべきだし、少なくともイルーランと仲良くやっていく道をみつけるべきだろう。クイデッツ・ハデラッハたる者とは思えないケツの穴の小ささだと思うが如何?
 このあたり、遠未来を見込んだ思想というよりは、執筆当時のフランク・ハーバート自身の潔癖な倫理観といったところだろうか。

【注1】まったく個人的な都合だが、読み終わって感想も書いた本は実家へ運んでしまうので、手元でひょいひょい参照できないのである…。

【注2】例えば中国の明の時代は、権力者間では生き馬の目を抜くような血みどろの暗闘が繰り広げられ、拷問・処刑方法のレパートリーがよりどりみどりになったやばい時代だが、一方では、いわゆる四大奇書が揃った文化成熟期でもある。

(2015/12/3記)

F暴力団
溝口敦新潮新書社会薀蓄
202頁700円★★★

G週刊HMSヴィクトリーを作る15
DeAGOSTINI帆船薀蓄
1190円

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H週刊HMSヴィクトリーを作る16
DeAGOSTINI帆船薀蓄
1190円

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I週刊HMSヴィクトリーを作る17
DeAGOSTINI帆船薀蓄
1190円

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Jジャンヌ・ダルク 歴史を生き続ける「聖女」
高山一彦岩波新書歴史薀蓄
232頁★★★

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