2013年 1月
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@おとり捜査官5 味覚
山田正紀朝日文庫推理/警察
392頁860円★★★

 新宿西口地下通路のダンボール・ハウスで女の上半身が発見された。死因は頸部からの失血だが防御創はなく、また犯人は被害者の身体を半分に切断しながら、身元の特定に繋がりやすい上半身を目立つ場所にわざわざ運んでいる。休職中の袴田を除いた特被部の面々は、タレこみに基づいて女を張っていたが、一瞬の隙をついて部員の広瀬が殺される。そして張込み対象だった女は姿を消し、自分が運んでいたキャスター付きバッグの中から死体で発見されるという事態に。さらには現場まで来ていた特被部長遠藤までが行方不明になるが、やがて捜査線上に会員制組織『美食倶楽部』が浮かび上がってくる。『美食倶楽部』の持つ政財界、高級官僚への影響力で、志穂や木原たちの捜査も継続困難な状況に…。

 おとり捜査官シリーズの第五作にして、最終巻。そしてシリーズ最大の問題作である。
 特被部の被害は拡大し、遠藤部長も失踪前の不自然な行為から、何かの秘密を持っていた疑いがある。またシリーズの他の作品同様、上に書いた以外の謎が豪快に並ぶ。とはいえ、情報が足りないから今は不自然にみえるが、いずれは簡単に説明がつくだろう著者が自分で書いているように、本書の面白味はそんな処では得られない。中盤以降は視点が志穂からも離れるようになっていき、捜査状況は木原や無理ムリに復帰した袴田に委ねられる。

 そしてジャンルが変わってしまう驚愕の展開。
 捜査陣が辿れるのは事件のわずかな輪郭で、その全貌は志穂の前に姿を現した犯人の独白に頼っているのは残念だが、<ネタばれ反転>特被部の設立自体が、おとり捜査官を『美食倶楽部』の生贄に供するためだったというトンデモなさである。
 このシリーズ五冊は一年もかからずに書かれたというが、おそらくこのアウトラインは最初からデザインされていたのだろう。第一巻から書かれていた特別被害者部の設立経緯には少々違和感、というかリアリティ不足を感じていたが、そういうことか…。恐るべき山田正紀

 しかしまぁ、こういったオチの付け方は、スゲェなともちろん驚愕はするが、決して楽しいものではない。
 もう一人のおとり捜査官水樹の堕ちていった様は、もう少し詳細が欲しい気がないではないが…。

(2014/7/26記)

A逆説の日本史14 近世爛熟編
井沢元彦小学館文庫歴史薀蓄
591頁752円★★★★

 本書の冒頭を飾るネタは、忠臣蔵である。シリーズもついにここまで来たかといった感じだ。
 いわゆる忠臣蔵錯覚【注1】をこき下ろしていて、浅野長矩が問答無用のバカ殿(統合失調症だったのではないかという医療的見解もあるようだ)であったことを、くどいほどに念押ししている。
 昔と違って、忠臣蔵自体を良く知らない世代が増えているし、赤穂浪士が義士と言われることには、歴史に然程興味を持っていなかった頃のわたしでさえ違和感を感じていたくらいなので、あまりくどく念押ししなくても、内容はスンナリと頭に入ってくる。

 続いては、これも一般的には悪玉イメージの強い、側用人のシステムについて。
 前巻の五代綱吉名君説の続きでもあるが、綱吉が名君である以上これも画期的な政策だったという見解だ。将軍の専断を実施するためにとても有効なシステムだったことは間違いないので、綱吉が事実そうであるならば、合わせて評価は高くなるだろう。まさに“逆説”なのだが、説得力があるのがすごいところ。何かの本で、綱吉もその政治の初期は有効な政策を打って出していたといった話は読んだことがあったが、生類憐みの令自体が、幕閣から庶民に至るまで倫理意識をガラりと変革させる劇薬だったという前向きの評価は初めて読んだ。【注2】
 ついでながら、この「将軍と側用人システム編」の中で、竹島問題についても詳しく語られている。綱吉の時代にこの問題が初めて出てきたからで、しかも当時はあっさりと朝鮮の主張を呑んでいたとは…。【注3】

 いわゆる“竹島は二つあった”は全日本人の新常識【注4】だと思うが、本書では竹島3まで登場している。これには驚いた。
 在庫で「竹島は日韓どちらのものか」(下條正男)を抱えているのだが、こういったことも書かれているのかな。

   ここまでで250頁強。すでにお腹いっぱいなのだが、さらに経済分野の「大坂・江戸 大商人の世界編」、外交分野の「明と日本編」の章と続いて、これらがまたそれぞれ興味深い。
 一般的に、外国ではまだまだ掛け売り(値切り文化)が普通に行われている地域が多いが、日本人が逸早く正札文化(値切りなし)に慣れたことには、越後屋が始めた“現金安売掛け値なし”の功績?が大きいという。
 この越後屋(三井)を始め、住友紀文鴻池といった大商人の略歴を紹介することに加え、当時の大坂で世界に先駆けてデリバティブの手法を編み出されたということで、その仕組みもかなり詳しく解説されていて面白い。

 外交面では、日朝関係(秀吉時代の断絶と家康時代の修復)について、対馬宗氏の苦労(二枚舌ともいう)は聞いたことがある。朝鮮通信使との関係の胡散臭さは、例えば時代小説では荒山先生「魔岩伝説」でも伺えるが、それでも本書で紹介される柳川一件については触れられていなかったと思う(時代が下るが…)。
 対馬藩の家老で、中央の旗本に鞍替えしたかった?柳川調興が、自分の主の宗義正を告発した(タレこんだ)一件だが、まったく初耳で興味深かった。柳川にとって、宗義正は田舎大名のバカ殿だったとコメントされているが、徳川家光の直諮問に対して彼が答弁したのらりくらりさを読むと、トンデモなく肝が据わっていたような…。

【注1】浅野が正義、吉良が悪者というやつ。
【注2】綱吉名君説について、「黄門さまと犬公方」(山室恭子著)も読んでみたいところだ。
【注3】この時代の竹島は、現在問題になっている“竹島”ではなく、鬱陵島のこと。
【注4】旧松島を竹島に安易に名称変更してしまった明治政府は間抜けだったと思うが、現在領土問題になっている竹島が、日本領土であることは、もちろん正しい。

(2014/7/26記)

B封印 史上最強のオタク座談会
岡田斗司夫/田中公平/
山本弘 対談
音楽専科社アニメ・特撮薀蓄
283頁★★★

 作曲家の田中公平ト学会山本弘、そしてオタキング岡田斗司夫の三人のオタクな放談
途中でおぼろげに判ってくるが、「hm3」という声優ファンのための雑誌?に連載された対談を、誌上でカットや伏せ字された箇所をかなり開示して本におこしたらしい。なにせ放談だから途中脱線しまくりだが、一応「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」宮崎アニメ、そして対談収録時期が岡田斗司夫がまだ太っていた20世紀の対談ということで、ノストラダムスの四回のテーマ分が収められている。
 田中公平はアニメの業界人として音楽に関する裏情報をいろいろ語ってくれているが、あまりオタクという感じはせず聞き役となっていることが多い。
 冒頭の順番でいえば、トーク量は2:3:5といったところか。

 もっとも面白かったのはヤマトネタだった。わたしがオタク情報を持っていないこともあるが、なにせ西崎義展ネタが楽しい。彼と松本零士の間で訴訟合戦があったのはかすかに知っていたが、想像以上に楽しいキャラクターのようだ。
 松本零士のほうは、たしか歌の歌詞で槙原敬之にイチャモンつけていたはずだが、VS西崎戦で悪く鍛えられたのか?
 それはともかく、興味を惹かれて西崎義展をWikiで調べてみたが、彼は21世紀に入っても、檻の中と外を行ったりきたりしていたようで、挙句の果てに2010年に事故死していた。なんと実写版公開の1ヶ月前だ・・・。

 誰もが思うヤマトのシナリオの無茶ぶり(異常な打たれ強さ)をちゃかして、そこを是正したのが銀英伝(それでもツッコミ処満載)といった紹介がされているが、わたしの銀英伝に対する評価はコチラ。

 宮崎駿を評して(これは他の誰かの言だったが)、右手にメカ、左手に少女、そして口で説教というのが、うまいモノ言いだなぁ。
 映像は一流だが、説教は三流だなんて言っちゃうクチの悪さもスゴイ。

(2013/3/11記載)

C日経ヴェリタス大江真理子のモヤモヤとーく2
日経ヴェリタス編日経ビジネス人文庫経済薀蓄
346頁760円★★★

 池上彰人気で、巷に“素人に解りやすく説明”本が増えている印象があるが、TV東京系「宇宙ニュース」大江麻理子が社会問題を解説している?というのが驚きで手に取った。
 日経ヴェリタスの四人の編者と彼女が、対談の形式で、昨今の世界経済を解説してくれる形式だ。

 社会情勢を解説するとなると、経済を避けて通れないのは当然だが、優しく解説してくれているというのに、それでも十分に理解できない用語や仕組みがあるのが悲しい。

 いい歳こいた大人なので、常識程度には経済方面にも興味をもつべきなのだが、どうにも“武士なので商売なんて下賎なことはわからねぇ”感覚が拭いきれず、理解度が上がらない。

 とりあえず、日本の製造業よ、ガンバレ。

(2013/2/23記載)

D別冊映画秘宝 「電人ザボーガー」&ピー・プロ特撮大図鑑
洋泉社MOOK特撮薀蓄
159頁2200円★★★★

 2011年の映画「電人ザボーガー」のムック本だが、1974年にTV放映されたオリジナルの「電人ザボーガー」を始め、往年のピー・プロ作品が網羅されているのが嬉しい。

 因みに、ピープロにおける特撮作品には、「マグマ大使」「スペクトルマン」「快傑ライオン丸」「風雲ライオン丸」「鉄人タイガーセブン」がある。
 ライオン丸以降はトンと再放送を見た記憶がない。なんとかして見たいものだが、販売DVDはオークションでもメチャ高だし、レンタルDVDは出回っていないようだ。CSと契約していれば、見る機会もあるようだが、さて…。

(2013/3/3記載)

E見えないグリーン
 Invisible Green (1977)
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J・スラデックハヤカワ文庫推理
364頁800円★★★

 老婦人のドロシア・フェアロウは、戦前に催いていた<素人探偵七人会>のメンバーと久方ぶりに再会しようと、35年ぶりに集いの招待状を発送したところ、メンバーのひとりで元々偏執狂ぎみだったストークス老人から電話を受ける。彼曰く“グリーン”なる男から脅迫を受けており、君も気をつけろと言う。信じたわけではないものの、彼女は知人の素人探偵サッカレイ・フィンにストークスの周囲を調べてもらうように頼んだが、ストークス老人はフィンが見張っていた自宅のトイレで殺されてしまい…。

 「図説密室ミステリの迷宮」で紹介されていた32の密室ミステリの一冊。
 殺害場所の密室がトイレというところを注視した紹介のされ方だったが、意外に作品全体の中では、然程このトリックにもたれかかった印象は受けなかった。というか、三つの殺人事件のそれぞれが、ハウダニットホワイダニット、ハウダニットでしっかり引っ張ってくれる。全体としては、題名のとおりにグリーンなる人物がはたして実在するのか、いるとしてその人物は誰なのかというフーダニットなわけで、なかなか贅沢な作品だ。
 これでキャラクターに魅力があれば、傑作となっていたのでは。

(2013/3/11記載)

F石器時代へ行った男
 The Cave Girl (1925)
E・R・バローズ創元推理文庫冒険
293頁340円★★★★

(1)洞窟の娘(The Cave Girl/ 1913)
 ボストンのさる名門一家の御曹司ウォルドー・エマースンは、南太平洋上で遭難して、辛くも近くの島に打ち寄せられた。独り無人の浜で不安な四日目の夜を迎えていた彼は、ついに現われた凶暴な原始人たちにとある崖上まで追われるが、その必死の防戦中、半裸の美少女に出逢う。なんとか襲撃者たちを振りきり、彼女を部落まで送り届けることになったウォルドーは、彼はそれまで受けてきた教育と文化が、この世界ではまったく役に立たない事を知り…。

 弱い主人公が努力して強くなるというストーリーは定番なので、少年マンガその他でそういった話を読み慣れてしまった分、それらの先行作品である本編は、今回の再読ではかなり粗く感じてしまった。【注5】
 シリーズで程度差はあれ、バローズ作品では体力に恵まれた騎士道精神溢れるナイスガイが、ほとんどの作品で主役を張っている。しかし普通人が環境に鍛えられて強くなるのは、これまたバローズ作品では定番であり、何度も繰り返されるモチーフだ。単発作品では、主人公にもこれがまま適用される訳だが、まだ火星シリーズターザンシリーズも二冊しか書かれておらず、ペルシダー金星シリーズは未だ書かれていない初期において、物語冒頭における主人公のひ弱さではベスト1であろう本編が書かれていたのが興味深い。
 因みに、この後おそらく一年以内に、ウォルドーとは設定パラメーターが真逆なビリー・バーンが設定された【注6】というのも面白い処だ。

(2)洞窟の男(The Cave Man/ 1917)
 文明への帰還よりもナダラを選んだウォルドー=サンダーは、自分が率いることになった部族の生活改善を図るべく、毎日が充足した日々を送っていた。一方ウォルドーの両親は、彼からの手紙で彼が死んでいないことを知り、自分たちも乗り込んだ救難船をあらためて組織する。ところが救難船が島に到着する何日か前に、島は大ナグーラ(地震)に襲われ、ウォルドーたち部族の民の多くは行方知れずとなり…。

 前編ではウォルドーとナダラの比較で、文明と野生との対比が語られていたが、4年後に書かれた本編では、それがウォルドーの両親とナダラの比較で、より面白く繰り返される。
 いわゆるすれ違い小説としてストーリーが展開するが、この島は環太平洋地震帯に位置するらしく、地震がすれ違いの基になっている。

 蛇足ながら、表紙をはじめ挿絵に描かれるナダラ率はかなり高いのだが、本国で出版された際の表紙の彼女よりも、千倍は魅力的だ。【注7】

【注5】身長185cmあるとはいえ、やせっぽちのっぽで何より臆病なウォルドーが、半年(だったか)で凶暴な原始人に立ち向かえるまでに生まれ変わるというのは、かなり無理がある。
【注6】シカゴで親の庇護なく育ったビリー・バーンは、体力には恵まれた乱暴者(マッカー)だが、教育は受けておらず無知だという初期設定。(from「南海の秘境」
【注7】あとがきの中で、アチラの表紙画が載っている…。

(2014/9/28記)

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