2013年 2月
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@司馬遼太郎 歴史の中の邂逅2 織田信長〜豊臣秀吉
司馬遼太郎中公文庫歴史薀蓄
255頁667円★★★★

 織田信長豊臣秀吉というと、戦国時代の歴史/時代小説の中でもがっつり直球ド真ん中であるが、普通なかなかスポットライトの当たらない脇役の人たちの挿話を拾い上げるのが、著者の真骨頂だ。

 こちらでは丹羽長重の話が興味深かったと書いたが、本書ではその父親丹羽長秀の最期が(長秀は信長と秀吉の間にあってかなりメジャーな存在ながら)、これまで知らなかったこともありとても興味深かった。
 ほかに興味深い挿話を挙げれば、宮部継潤筒井順慶といった僧兵あがりの大名の進退や、当時の大名クラスの中では自ら手を下して人を斬った数が最も多かったかもしれない細川忠興、あるいは劣勢の中、女ながらに島津勢から城を守りきった吉岡妙麟尼の話といったところだろうか。

(2013/7/24記載)

A学寮祭の夜
 Gaudy Night
D・L・セイヤース創元推理文庫探偵
703頁1320円★★★★

 探偵小説作家ハリエット・ヴェインは、久しぶりに母校オックスフォード、シュローズベリ・カレッジの学寮際に参加した。そこで下品な中傷を記した紙を受け取ったが、後日カレッジではそういった嫌がらせが頻繁に発生して、教員、学生を問わず被害者も増えてることを知る。カレッジの品位を貶めないためにも警察沙汰の大事にはしたくない大学側は、彼女にそれとない捜査を依頼するが・・・。

 シリーズで最大頁を誇る本書、この文量でハリエットとピーター卿の恋愛小説の側面があるということから、探偵小説としてはどうなのよという不安も手伝って、なかなか手をつけられなかったのではあるが(前回このシリーズを読んでから4年近く経っている・・・)、やはりさすがはセイヤーズであった。
 後半にしか出てこないピーター卿に比して、ハリエット一人でまわせるのかと懸念していたが、ピーター卿の甥っ子(つまり未来の公爵ですな)が登場したりと、ストーリー的にはまったく飽きることがなく、ほとんど一気読みすることができた。当時の業界の描写(本書では大学生活)の描写が魅力的なことは「殺人は広告する」同様だが、犯罪事件のほうも意外に最後まで面白かったという印象。

 ただし教員に生徒にと、とにかく登場人物が多く、一部を除いて誰が誰だかまるで覚えきれないというキライはあるが、表紙折り返しに長い登場人物表があるので、適時見返せばそう問題ないだろう。

(2013/3/17記)

B蒲生邸事件
宮部みゆき文春文庫SF
678頁857円★★★

 1994年2月下旬。群馬から予備校受験のために上京してきた尾崎孝史は、戦前には陸軍大将蒲生某の屋敷があったという皇居近くの古ぼけたホテルに投宿した。孝史は無事に試験をこなすが、その夜ホテルで発生した火災に巻き込まれてしまう。命の危険に見舞われた彼を救ったのは、妙に暗いオーラを感じ気持ち悪く思っていた平田と言う男だった。そして目覚めた孝史に平田は、ここは1936年の蒲生屋敷だと告げる…。

 1996年度日本SF大賞受賞作。
 これも「龍は眠る」「クロスファイア」と同じく、スティーブン・キング作品へのオマージュ系列の作品と言っていいだろう。【注1】
 SF的ガジェットと絡ませて、イメージを楽しむといったタイプの作品ではなく【注2】、強調されるのは、超常能力を持ったが故の圧倒的な責任の重さであり孤独である。そして彼らの選択の物語である。

 野田昌宏風に“SFは絵だねぇ”からすれば、本作のSF度はさほど高くないだけに、本書がSF大賞と聞くと、個人的にはガジェットとイメージで勝負する本来のSF作家よ、もっとガンバレと思わないでもないのだが、本作品でのタイム・パラドックスルールは平田の言葉を借りて語られるし、一度“跳ぶ”とかなりの身体的ダメージを受けるという設定は、超常能力といっても何らかの形でエネルギー保存則は適用されるだろうといった観点からは、とても腑に落ちる設定だ。
 前半で伏せられていた平田の行動の理由が、後半でピースとして填まっていくといった(控えめながら)楽しみもあるし、「ジャンパー」などよりはSF度は高いと言える。

 とは言え、本書の楽しみの中心は、巻き込まれただけの一般青年(歴史に疎い)の成長であり、いわゆる軍部独裁で自由のない暗黒時代であったと決めつけられる戦前(嘘とはいえない)でも、普通の人々はそれぞれ一生懸命生きていたのだなという、あたりまえの実感を味わうことだろう。
 もちろん脳天気なハッピーエンドとはならないのであるが、孝史は確実に成長しているし【注2】、叙情感たっぷりの読後感はなんともいい感じだ。

 余談だが、予備校のために息子を東京に下宿させられるなんて、孝史のお父さん、あなた胸張ってOKです。

【注1】キング作品にタイムトラベルを扱った作品があったのかは、思いだすことができないが…。
【注2】孝史は歴史知識には疎いが、感受性は高いという設定で登場する。そんな彼には女性的な感性を強く感じて、少々イラつかされた。(これは差別的な発言か?)

(2015/1/6記)

C[ビジュアル版]逆説の日本史2 古代編下
井沢元彦小学館歴史薀蓄
127頁1300円★★★

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