2013年 6月
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@くノ一死ににゆく 山田風太郎短篇全集4
山田風太郎ちくま文庫時代伝奇
398頁★★★

(1)捧げつつ試合(1965年8月初出)★★★
(2)濡れ仏試合(1966年1月初出)★★★
(3)逆艪試合(1966年12月初出)★★★
(4)膜試合(1966年5月初出)★★★
(5)かまきり試合(初出不明)★★★
(6)麺棒試合(1966年2月初出)★★★
(7)つばくろ試合(1966年3月初出)★★★
(8)模牌試合(初出不明)★★★

A姦の忍法帖 山田風太郎短篇全集5
山田風太郎ちくま文庫時代伝奇
366頁★★★

B天山を越えて 日本推理作家協会賞受賞作全集43 (1983)
胡桃沢耕史双葉文庫冒険
372頁667円★★★

 昭和56年。71歳の衛藤良丸は、日暮里に僅か一棟だけ残った集合住宅で暮らしていたが、ある日立派な外車で迎えに来た外人に連れられて姿を消した。ひっそりと暮らす引退した仕立て屋にどんな事情があるというのか。どうやら彼が50歳の折に、昔を思い出して書いたなる小説に関係がありそうなのだが…。

 この小説というのは衛藤自身を主人公にしているのだが、日中戦争前夜の関東軍がブイブイいわしていた頃の満州からシルクロードが舞台だ。魅力的な舞台設定に加えて、現代(昭和56年)、小説「東干」発表当時(昭和35年)、そして物語中の時代(昭和8年)を舞台にした凝った三段構成の演出、なにより1983年の第36回日本推理作家協会賞を獲っているということで、なかなか期待を高めてくれる。
 ところが衛藤は、鍾馗様ばりの髭を生やした魁偉な風貌という設定だが、形はあくまで形であって中身は極々平凡な人物。冒険という名称でイメージされる能動的なものは最初から最後までまったくなく、ただただ状況に流される一兵卒に過ぎない。

 これは推理作家協会賞だけでなく、江戸川乱歩賞でも同様の傾向があるのだが、わたしの考える推理小説/探偵小説からは大きく逸脱してしまってる作品が多い。
 たとえ僅かなりと「推理小説」の範疇にひっかけるならば、推理される謎がなければ話にならないが、本書で謎にあたるのは、前述したように“ひっそりと暮らしていた老人がある日立派な車に乗せられて姿を消した。なんで?”というところだ。しかし広くエンタメ小説ならば、読者のリーダビリティを稼ぐために、前半何らかの情報を伏せておいて後半に開示するというのは特別なことではない。むしろその要素がない小説は、一部のよくわからない私小説くらいでは…?

 まぁ推理小説という特殊なジャンルが閉塞しないように、間口を広げることは悪いことではないので、冒険小説として面白いのなら文句はないのだが…。

(2013/12/26記載)

C北斗の拳 最強は誰だ? (2011)
双葉社マンガ薀蓄
195頁500円★★★

 最近コンビニでこんな本を買ってしまうことが多いのは、心が弱っているからである。自覚しているうちは大丈夫だろう。

 このマンガの第一話を「週刊少年ジャンプ」で読んだときには、なんやこれ「マッドマックス2」モロパクリやんけとしか思わなかった。ジャギ以降の北斗神拳の兄弟確執、そして南斗六聖拳に五車星と設定が広がりをみせてどんどん面白くなっていったのだが、まさか30年後にも残る名作マンガになろうとは…。
 たまに読みかえしてみたいなと思うもののその気力はない。そんなあなたにちょうどいい¥500だ。

 修羅の国に渡ってからは、まあどうでもよくなってきたが、今回そこら辺のキャラを懐かしく思い返しながら読んだ。
 カイオウ(ラオウ、トキの兄貴)はギリ憶えていたが、ヒョウ(ケンシロウの兄貴)なんて忘れていたよ…。

 そう言えば、修羅の国編の次にラオウの息子なんてのも出てきたなぁ。うんうん。

(2013/6/18記載)

 この文を書いた数時間後には救急車で搬送されて、五週間入院するハメに。
 …うーむ、大丈夫どころじゃなかった。

(2013/7/29記載)

D黄金の灰 (2001)
柳広司創元推理文庫推理
382頁743円★★★★

 商才を生かして一代で財を成したハインリッヒ・シュリーマンは、1873年、ギリシャ人の新妻らとともに、伝説のトロイアの遺跡を発見するために、オスマン・トルコ領内にあるヒッサルリクの丘で発掘を指揮していた。そしてついに、伝説どおりプリアモスの財宝と思われる宝物群の発掘に成功するが、その日から彼らの周りで不可解な事件が次々と起こるのだった…。

 歴史上の人物が探偵役を務める推理小説はままあるが、著者の一連の作品は一風変わっている。
 謎解きの中に、その時代、その場所でなければならなかった歴史の趨勢――闇と言ったほうがよいかもしれない――が、事件の背景に密接に関係するのである。
 “シュリーマンによるトロイア遺跡の歴史的な発見”という一文は常識の範疇だと思うが、この時期の小アジアオスマン・トルコ領であったことや、当時退潮期の彼の国の政治情勢などをこれまでは意識したことがなかった。また視点を切り替えると見え方もがらりと変わるということが、本書のような舞台を設定することで、より鮮明となることが興味深い。
 ところで著者デビュー作の本書では、シュリーマン自体の闇が前面に出ている。もちろん彼の生い立ちその他も歴史的背景抜きには語れないものだ。参考文献の記載がないので判らないが、著者が設定する彼のキャラクターは、本人にどれほど近いのだろう。気になるところである。語り手であるソフィア(シュリーマンの妻)が冒頭に紹介する彼の履歴が、一般的にシュリーマンの背景として知られているところだとは思うが…。

 ソフィアと言えば、彼女を語り手と設定していることも面白いが、たしかプリアモスの宝を身にまとった写真が残されていた筈。お遊びとして、そのシーンの描写は欲しかったところだ。

 推理小説としての面白さも決して足りないわけでもなく、デビュー作からこういった作品を量産している著者は、たしかに鬼才といっていいだろう。

 追伸、1873年当時の新しい小説として、E・A・ポーの諸作品が登場するが、<ネタばれ反転>犬笛で蛇を操るというあの英国作品は、当時はまだ書かれていなかったはずだが…。他にもあるのかな?

(2013/7/6記載)

E信長の合戦 (2001)
戸部新十郎PHP文庫歴史薀蓄
525頁800円★★★★

一口に合戦というが、敵味方が正々堂々と布陣し、勝敗を決する場面はごくごく限られている。
堂々の布陣が可能なのは、互いの戦意が昂揚し、想定される戦場や時日がほぼ一致したときである。
“戦争ごっこ”ではないのだから、それほどあるものではない。

 といったわけで、“合戦”だけを切り取っても見えてくるものは限定されてしまう。
 “信長の合戦”という題名で、章立てを合戦名で分けているのだから、桶狭間前の合戦についても記載してほしかったとは思うが、中身は1560年〜1582年までの畿内・東海の戦国通史と言ってよく、合戦だけを扱ったものではない。
 そもそも信長の合戦といっても、彼が前面に出ない三方ヶ原の合戦一向一揆が章立てられて(石山合戦は別章立て)、詳しく解説されている。もちろんこれらの主役は松平元康(=徳川家康)だ。
 「第一章 桶狭間の合戦」の末尾に、合戦後の家康の見事な進退に筆を割いた後、

桶狭間戦はひっきょう、戦場の勝ち負けではなかった。
天下人二人をスタートさせたわけである。
東海の一角にはじけた巨大な花火といっていいのだろう。

とある。彼ら二人を中心にした(「第八章 本能寺の変」羽柴秀吉明智光秀が主)戦国通史であった。

 思い返してみれば、わたしが戦国時代をはじめて総覧的に読んだのは、著者の「服部半蔵」全十巻だった。
 その著者の解説本だ。今更まだ信長を読むのかという気持ちもあったし、けっこう頁数も多めということもあって、本棚に並べていた期間もかなり長かったが、初耳の情報も多く、とても面白かった。

 (いわゆる金ヶ崎城からの朽木越え以降だと思うが)後年の残虐と言われている信長の行為を肯定的に評価をしている一方で、姉川の合戦後に摂津野田、福島に兵を挙げた三好党との戦いをきっかけとする石山本願寺との戦端についての解釈は、井沢元彦説とは異なっているところも面白い。

(2013/7/29記載)

F図解 近接武器 FILES No.007 (2006)
大波篤司新紀元社武器薀蓄
226頁1300円★★★★

 近接武器とは、そのものずばり近接戦で使用する武器という意味合いで、ざっくりいうと刀剣やら斧、槍といった武器のことだ。
 こと日本に限っても、打ち刀太刀の違いや長巻薙刀の違いなどしっかりと勉強させてもらったが、早い時期に金属鎧が発達した西洋の近接武器の発展史、そして豊富な武器の形態が殊の外興味深かった。

 打撃系のメイスフレイル。刺突系のランスエストックレイピア。複合武器としてのハルバード等々。

 近接武器に対して、遠距離攻撃用の武器をミサイル・ウェポンと呼ぶらしい。
 本書の題名からすれば当然範囲外ということになるが、弓(ボウクロスボウ)、投槍(ジャベリン)が含まれていなければ、やや不足感は否めなかったところ。鉄砲以降の火薬兵器ではないということで、手裏剣や吹き矢をはじめスリングボーラといったミサイル・ウェポンもしっかりとカバーしている。

   マンゴーシュジャマダハルを装備した忍者と柳生十兵衛の勝負を一度読んでみたい…。

(2013/7/4記載)

G地球の緑の丘 <未来史A>
 The Past Through Tomorrow
R・A・ハインラインハヤカワ文庫SF
403頁1000円★★★

(1)宇宙操縦士(Space Jockey/サタデイ・イブニング・ポスト1947.4/34頁)
 短い地上勤務も束の間、ペンパートンは急な飛行任務に呼び出される。妻のフィルスはそれが気に入らない。わだかまりを覚えたまま宇宙に上ったペンパートンだが、深刻なアクシデントに巻き込まれてしまい・・・。

 年代順に並べているというから、本作の設定年代はすでに過去になってしまった筈。古いSF(スペオペだろうが、それより一段高尚だとされている本書のようなものでも)を読んでいつも思うのは、当時想像した未来の移動手段は買いかぶりすぎ(光の速さを超えて外宇宙へ出るのだろうが、地球−月間の連絡船だろうが)だが、電算機の演算・解析能力とその小型化については、想像力が現実にまるで追いつけなかったなぁということ。
 今読むと、このオチはあまりに能天気か。
 ペンパートンのような男は結婚してはいけません。

(2)「鎮魂曲」(Requiem/アスタウンディング1940.1/32頁)
 カンザスへの途上の小さな博覧会、古いロケットに魅入る老人はなんとしても月に行きたかった。彼はそのロケットの船長を口説き・・・。

 後の作品にも度々登場する宇宙輸送の大企業ハリマン何某社の創業者の物語。
 静かに熱い良い作品。本短編集のベストかも。

(3)「果てしない監視」 The Long Watch/アメリカン・リージョン・マガジン1949.12/27頁)
 月基地で副司令官から呼び出されたダールクィスト中尉は、副司令官が発動させたクーデター計画への旗幟を明らかにするよう命じられる。一旦彼の下を退出したダールクィストは、うまく核爆弾管理庫に入り込み、そこで籠城を始めたが・・・。

 2009年の英雄譚。月基地はちょっと間に合わなかった。
 組織の下の方にいる人間が、少ない情報をもとに正しい判断をするのはトンデモなく難しい。

(4)「坐っていてくれ、諸君」(Gentlemen, Be Seated/アーゴシイ1948.5/22頁)
 月への二度目の旅行で、地下トンネルの掘削現場を見学していたぼくは事故に遭い、案内役のノールズ氏、掘削作業者のコンスキーとともにトンネル内に閉じ込められてしまう。空気漏れ箇所に応急で詰め物をして凌ぐ三人。しかし問題は空気不足ではなく・・・。

 ホワイトベースに装備された応急穴塞ぎ用の接着バルーンは、ここがネタ元だったのではなかろうか。

(5)「月の黒い穴」(The Back Pits of Luna/サタデイ・イブニング・ポスト1948.1/27頁)
 月の原子力発電所に見学にきた一家。父さんの仕事の後、ぼくたち一家は皆で月の表面へ出るオプション・ガイド・ツアーに参加したが・・・。

 閉所恐怖症のわたしとしては、後半はかるく読み流しました…。

(6)「帰郷」("It's Great to Be Back!"/サタデイ・イブニング・ポスト1947.7/37頁)
 アランとジョーの夫妻は、漸くのこと念願かなって、月を離れることができた。地球へ帰った彼らは・・・。

 大方想像はつくだろうが、住めば都だったの物語。
 それだけにしておけばよいのに、ルーニイ(月植民地の人々)はエリート(莫大な輸送費をペイできるだけの能力を持った人々が選ばれているらしい)で、人間の出来が違うんだよ的な述懐が余計だ。
 まぁ後の「月は無慈悲な夜の女王」に繋がる一篇として目を瞑っておかねばならないか。
 しかし夫はともかく、妻のほうはそんなに出来が良いとも思えない。この先も隣の芝生が青く見えてる可能性あり。

(7)「犬の散歩も引き受けます」("――We Also Walk Dogs"/アスタウンディング1941.7/48頁)
 ジェネラル・サービス社は発達した通信手段と組織力をもって、あらゆる大きな仕事から犬の散歩のようなどんな小さな仕事さえ、スピーディーに代理する企業。しかし彼らが今回政府から極秘裏に依頼された仕事は、あまりに不可能なものに思われたが…。

 顧客に最速、最上のサービスを提供するために、看護士を解雇させる?
 グレース、及びジェネラル・サービス社がどれほどエラいねんという話。著者の信奉であるだろうところの能力至上主義がなんとも鼻につく一篇。その割に彼ら、重力に関する討議では、かなり的外れなことも言っております…。

(8)「サーチライト」(Searchlight/サイエンティフィク・アメリカン1962.8/8頁)
 月の前線基地を慰問してまわっていた少女ピアニスト、“盲目のベティ”が消息を絶った。彼女を乗せた無人操縦便が、ティコとファーサイドの間で消えたのだが…。

 指向性の高いレーザーにデジタル化した音声信号を乗せるなら解りやすいのだが、ラジオ周波数の搬送波に指向性を持たせるというのが…。そんなん無理では?

(9)「宇宙での試練」(Ordeal in Space/タウン・アンド・カントリイ1948.5/28頁)
 元宇宙飛行士ウィリアム・“ソンダース”は、ある事故をきっかけに職を離れた。宇宙とは無縁の通信危機会社に再就職した彼は、ある日同僚の家に夕食に呼ばれそこに泊まることになったが、一人寝ていたその晩、部屋の外から子猫の鳴き声が聞こえてきて…。

 高所恐怖症の克服談だが、これも一度気になってしまったからか、“立派な男はこんな恐怖症くらい克服できる”式の展開が鼻につく。

(10)「地球の緑の丘」(The Green Hills of Earth/サタデイ・イブニング・ポスト1947.2/22頁)
 二等ジェット機関士“ノイジー”ライスリングは、ある放射能事故で盲目となった。歌とアコーディオンで以って宇宙を放浪することになった彼は、後の世には“宇宙航路の盲目詩人”として知られることになる…。

 ハインラインの短編として、何かと紹介された文を読むことが多かったが、漸く読むことができた。
 ライスリングの死後、彼が名声を得て虚像のみが伝えられた未来からの回想形式としているところが上手い。やはり本書のベストはこちらか。

(11)「帝国の論理」(Logic of Empire/アスタウンディング1941.3/87頁)
 弁護士のハンフリイ・ウィンゲートは、友人サム・ジョーンズと議論の挙句に酔った勢いでサインして、金星の契約労働者となってしまった。彼らが送られたそこは、ウィンゲートの予想を超える劣悪な環境だった。頼みの綱のジョーンズとも離れ、慣れない環境で日々を送る彼は、ある日逃亡を試み…。

 30頁前後の作品がほとんどの中、本書で唯一中篇クラスの作品。  ウィンゲートが中盤から身を寄せる逃亡者の社会で、彼は無電の担当者となるのだが、彼らの通信を傍受されないようにする(湿地に囲まれ視界の狭い金星では、彼らの社会は視覚的には隠れやすい)技術が、AM/FMの違いだというのがなんとも長閑だ。
 ウィンゲートは最終的には地球へ脱出することが適い、早速自分の体験から金星社会を告発しようとするが、そこでヒネリを利かせているのが、この題名である。
 搾取される植民地は、外からの援助でどうにかなるものではなく、その内側での努力と戦いから、いずれ独立の気運が高まる(そして強いアメリカが生まれたのだ!)という信念をハインラインは持っているようだ。

 こうして並べてみると、地球人以外の人種が出てくるのが、戦前にアスタウンディング誌に載った(7)と(11)のみというところも、著者の戦後における明確な方針変更がみてとれて興味深い。

(2013/7/6記載)

H荒俣宏の世界ミステリー遺産 (2001/2011)
荒俣宏祥伝社黄金文庫歴史薀蓄
383頁667円★★★★

 元本は2001年に出版されていたらしい。文庫化されるにあたって、2011年までのアップデートと、新項目が二点(ダ・ヴィンチ関連とグレムリン)増設されている。
 ダ・ヴィンチでは、ミステリーとして紹介された内容もさることながら、彼自身の履歴に関わる薀蓄が興味深かった。
 曰く、彼がミラノ公に自身を売り込んだ際のアピール・ポイントは音楽と宴会の企画だった。
 曰く、若い頃はその才能とあわせて美貌でも有名だった。
 曰く、どうやらアラブ系だった。等々。

 肝心のミステリーは、ダ・ヴィンチの巨大壁画「アンギアーリの戦い」が、500年間別の壁画の下に隠され続けていたというネタである。2010年現在、非破壊調査中のプロジェクト・リーダー、セラチーニ博士がいよいよ前面にあるヴァザーリの壁画を取り除く秒読み段階だと締められている。さて、それから二年。ネット検索してみると、去年の3月12日付けCNNのニュースとして、発見されたことが正式に発表されていた。
 因みに著者がセラチーニ博士に取材しているTV番組の映像をYou Tubeで見つけてしまった(2分30秒くらいから)が、山口智子が同道していて驚かされる。

 もうひとつ、グレムリンのほうは、もちろんスピルバーグ製作の映画として有名だが、てっきりゴブリンやらオーグといった妖精/怪物と同根の元ネタがあるのだと思っていた。ところがさにあらず、第二次大戦時の英国空軍で誕生していたとは、ちょっと驚きだ。

 他にも、いわゆるロズウェル事件の元は、農夫がある日見つけたなにやら解らない落下物を近所の人に見せたところ、数日後に軍がやってきて回収していったというただそれだけの話だったこととか、近年「インディー・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」で改めてピックアップされた水晶ドクロは、2008年の段階で、近代的なダイヤモンド研磨法の痕跡が見つかったとか・・・。

 “世界ミステリー遺産”という語感にフィットした内容で印象的だったのはこのあたりだが、本書には人間という生き物について考えさせられる結構下世話なネタも多かった。詳細をここに記す元気はないが、「アナタハン島の女王蜂」(映画にもなった「東京島」の元ネタ)、「ガラパゴス殺人事件」「ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」などがおもしろい。

 全部で33の項目あり。

  (2013/7/29記載)

Iドゥームズデイ・ブック 上下
 Doomsday Book (1992)
C・ウィリスハヤカワ文庫SF
591頁/554頁940円/940円★★★★

 オックスフォード大学ブレイズノーズ校の史学部教授ギルクリストは、史学部長代理としての権限でこれまで未踏だった14世紀への実地調査を承認し、女子学生キヴリンを降下させようとしていた。彼女の非公式の指導教官、ベイリアル校のダンワージー教授は、準備不足として降下を思いとどまらせようとするが、功を焦るギルクリストはキヴリンを出発させてしまう。悪いことにその直後、遠隔降下を担当していたネット技術者のバードリが彼女の降下時/地点を確定する前に正体不明の病で倒れ、一方14世紀に到着したキヴリンもまた、自分の到着場所を明確にする前に同様の病で倒れてしまう…。

 1992年のヒューゴー/ネビュラ/ローカス賞の三冠受賞作。
 賞の常連の女性SF作家として、L・M・ビジョルドを常々すごいなと思っていたが、もう一人すごいのが隠れていた。(私が知らなかっただけだが)
 これら二人に共通しているのは、登場する科学技術・理論のガジェットが突出しているわけではなく、キャラクターを含む物語としての魅力が高いことである。いや本書のほうは、さらにキャラクターの魅力がメインと言ってもいいだろう。中世パートはストーリー的にはむしろ一本道である。(わたしは終盤に至るまで、<ネタばれ反転>ローシュ神父はさらなる未来からのエージェントではないかと勘繰っていたのだが…)

 それにしても本書にはだまされた。
 現代パート(2054年)はかなりユーモア度が高い。
 正体不明のウィルスで隔離下にあるオックスフォードにあって、いつまで経っても捕まらないベイジンゲーム(休暇中の史学部長で)、アメリカからやってきた鳴鐘者の(ダンワージーが世話すべき)一団、すわ息子の危機と言って乗り込んでくるモンスター・ペアレントの母親、ダンワージーの友人でキヴリンの降下にも協力していて、ウィルスの蔓延では医療の中心人物で激務となるメアリ、一癖ある一連の大学教授たち。そんな中でダンワージーは秘書のフィンチ、メアリの姪の息子コリン、件の息子でどれほどひ弱かと思いきや、女性に対しては絶対のフェロモンを発生、対外調査能力で意外に優秀さをみせるウィリアム(彼自身にはほとんど台詞がないところもミソ)等を使いながら、キヴリンの安全確認に右往左往する。
 その様には大いに楽しませてもらったが、小説的には中盤以降にウィルスの発生元は明白となってくることもあって、むしろ右往左往にやり過ぎを感じるくらいだ。なので、蔓延したウィルスで人が死に始めるのには驚愕した。
 そして14世紀パートには、さらなる悲劇が…。
 14世紀を舞台にすれば、<ネタばれ反転>ペストを骨子に組みこみたくなるのは解るし、入れた以上焦点を中てて悲劇として盛り上げなければならないだろうが、それにしてもアグネスかロズムンドだけでも助けられなかったものか…。
 とんだユーモアSFであった。

 個人的に、入院中のベッドの上で読んだということもあって、「異星人の郷」以上のダメージを受けてしまったではないか。

(2013/7/8記載)

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