2013年 7月
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@犬は勘定に入れません
あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 上下
 To Say Nothing of the Dog (1998)
C・ウィリスハヤカワ文庫SF
463頁/473頁860円/860円★★★

 オックスフォード大学史学部は、コヴェントリー大聖堂の修復計画にフルメンバーで協力させられていた。大学院生のネッドの担当は、空襲で破壊された当時聖堂にあった筈の“主教の鳥株”なる花瓶の行方を探ること。このプロジェクトのスポンサーにして推進責任者のレイディ・シュラプネルは、史学部メンバーを始めとする関係者をこき使っている。ネッドは2057年と1940年を何度も往復していたが、ついに重度のタイムラグの症状を呈し、数週間の安静を宣告されてしまう。しかしレイディ・シュラプネルがそんな休養を認めてくれる筈もない。見かねたダンワージー教授は、彼女からネッドを隠すために、ごく簡単な任務とともに彼をビクトリア朝時代に送り出す。しかし最早ネッドは、自分が果たすべき“ごく簡単な任務”がなんであったのかさえ覚えていなかった・・・。

 1999年度のヒューゴー/ローカス賞受賞作。前作から三年後の設定だ。
 ストーリーに関連はないとは言え、キヴリンやコリンのその後にまったく触れられていないのが少々淋しいが、ダンワージー教授とフィンチは元気な姿をみせてくれる。特に主役をネッドに譲ったダンワージーに比して、フィンチは大活躍といってもいい。(ダンワージーの秘書の彼は、執事が天職かもしれないと自ら語るほどに執事が板についているが、今回の任務は秘書というよりは研究助手の仕事では?)

 それはともかく、前作のように中盤からぐいっと大悲劇に向かってしまうことのない本作では、恋愛要素も加わって、気楽に読めるドタバタラブコメSFに仕上がっている。
 しかし面白いことには間違いないのだが、ドタバタに巻き込まれる主人公の常として、ネッドはどうにも(クライマックスの動きは別にして)判断力、対応力が一歩鈍い。もしくは限りなくお人好しすぎるというべきかもしれないが、特に上巻ではイライラさせられた。もちろんタイムラグで本調子ではないという設定だから仕方がないのだが。

 ヒロインのヴェリティは古典推理小説のファンという設定で、ポアロピーター卿ハリエットの名前が上がってくる。特に後ろ二人は、自分たち(ネッドとヴェリティ)になぞらえることになるので、何度も登場する。ポアロはともかく、SFオンリーの読者ではピーター卿の作品は知らない人が多いと思うが、本書が楽しかった読者はおそらくピーター卿のシリーズ(ドロシー・L・セイヤーズ)も気に入るはず。お勧めである。思い返してみれば前作でも鳴鐘者の一団が登場するが、著者がとても好きなのだろう。(シリーズで最も有名な「ナイン・テイラーズ」には、鳴鐘術がかなり前面に出てくる)
 ええ歳になってくると、ラブコメには惹かれなくなってくるのだが、ネッドがヴェリティと初顔合わせした際に洩らした“今まで見た中でもっとも美しい生きもの”<ネタばれ反転>(しかも二度!)という印象にもかかわらず、物語を通じて、彼女とトシーを見やる男性はすべてトシーの方に惹かれているようにみえるところなど、なかなかに笑わせてくれる。
 ドタバタよりも、こうしたくすりの笑いがわたしは好きだ。
 著者は、こういった細かい演出も上手い。

 SFの面では、なんともトンデモな設定(タイムパラドックスを排除、もしくは修正する方向に<ネタばれ反転>時空連続体が偶然を操作してしまう!?)で少々引いてしまうのだが、あまり深くは考えずにソフトSFとして十分に楽しめばよいだろう。
 ミステリと考えた場合には、フーダニットハウダニットともに、ギリギリまで読者をだますことには然程注力していないので、登場人物たちよりは早く真相に気づいてしまうだろうが、そんなことは傷にならないほどに物語として面白くできている。
 マイルズシリーズ(L・M・ビジョルド)ほど手放しで賞賛はできないが、次作「All Clear」が文庫化されれば、読むことになるのは間違いない。 

(2013/7/29記載)

Aクリスマスのフロスト
 Frost at Christmas (1984)
R・D・ウィングフィールド創元推理文庫警察
530頁940円★★★

 クリスマスの10日前、田舎町デントンの警察署にロンドンから若い刑事が一人赴任した。そのバーナード刑事が警察長の甥ということで、デントン警察のマレット署長は万事漏れなく処そうと余念がない。しかし頼りのアレン警部は、折から発生した8歳の少女の行方不明事件の指揮で新人の世話をする余裕がなく、やむなくデントン警察のもう一人の警部フロストにバーナードを託す。しかしフロストは仕事の段取り、命令への服従度、どれを取ってもアレンと較べ物にならず、マレットからみてお荷物の問題児で・・・。

 評判の高いジャック・フロストシリーズを漸く読んだ。
 警察小説ではスタンダードと言っていいだろう、大きいのから小さなものまで、時差をおいて多発的に事件が発生するいわゆるモジュラー形式だ。
 大きな事件となるのは、冒頭の少女行方不明事件と中盤の占い師の託宣から甦る32年前の二万ポンド強奪事件で、その合間に浮浪者の一ポンド盗難事件、エレクトロニクス工場連続盗難事件、宝石店強盗事件、etc.etc.。ついでに言えば、フロストの車当逃げ事件や署員の残業申請書提出忘れ事件なんてのも発生する。

 後ろ二つの系統の事件?が、本シリーズの特色だ。
 とにかくこの警部、事務仕事に関しては不謹慎なほどになおざりである。あれではマレットでなくても腹が立つと思うが、実務(事件捜査)に対してはがむしゃらで執拗。深夜勤務あたりまえである。ただしその能力の多くは直感と運に頼っている感じだし、個々の事件自体にはさほど魅力はない。本シリーズの魅力を形作っているのは、時間差多発事件の中で走り回るフロストの行動と軽妙(で下世話)な会話である。古典の推理小説ばかり読んでるとつい忘れそうになるが、英国製ドラマなんかはかなり下品でブラックなものもあるのである。

 といって、フロスト警部が鼻持ちならない奴かというとそうではなく、浮浪者の一ポンド盗難事件から始まる一連の事件の決着のつけ方はなかなかだ。
 マレットはフロストを手放したがっているし、フロストも現場仕事から離れたくないだろうが、彼は署長になって全体を指揮し、書類仕事は秘書がやるというのが、デントン警察の効率アップに繋がる気がする。

 一言言っておくと、簡単にできるつまらない仕事ほどすぐに処理しておくべきである。

(2013/7/12記載)

BNHK3か月トピック英会話
ハートで感じる英文法 会話編
大西泰斗/P・マクベイNHK出版英語薀蓄
238頁950円★★★★

 数年前にTVでこの番組を見たのは、someとanyの使い分けの放送だった。大西泰斗の喋り口調に少々ひいてしまったものの、その“ハートで感じる”説明に目から鱗が落ちる気がした。
 しっかり放送時間を把握してなかったので、その後も見たり見なかったり、結局すっかり忘れていたが、ある日本書が家に転がっているのを発見したのである。(妻が買っていた・・・)
 早速借りて(そして放置)していたものを、今回の入院で勉強するなら今だとばかりに読んでみた。

 「some&any」はLesson8に載っていて、そうそうこれこれと記憶を新たにしたが、ほかにも足りない感覚を埋めるLesson1「to不定詞」や、ピボット文(この意味が最初解らなかった・・・)の呼吸で同等に説明されるLesson3「知覚構文」、Lesson11「使役構文」後ろの内容を打ち消す呼吸のLesson5「否定」をはじめとした12のレッスンで、

“並べると説明”
“配置を変えると感情は高まる”
“前に置かれると「限定」”
“「とき」は距離”

等々いろいろと鱗を落としてもらった。

 英語の勉強というよりも、まさに薀蓄本を読む勢いで楽しく読むことができる。英語レッスン本の傑作だと思う。

(2013/7/16記載)

C黒船以前 パックス・トクガワーナの時代 (1997〜2003)
中村彰彦/山内昌之
対談
中公文庫歴史薀蓄
324頁838円★★★★

 パックス・トクガワーナという題名のとおり、250年に渡って安定して続いた江戸時代を積極的に評価する対談集。保科正之を再評価するに中って功績の大きい中村彰彦と、こちらは歴史学者だが専門はイスラム世界という山内昌之が語り合っている。

 戦国時代の殺伐な倫理観念から、元和厭武の宣言を経て文治国家を実現させていった最大の功労者として、中村彰彦は当然のように保科正之を第一に挙げている。藩主として会津の藩政と四代徳川家綱の輔弼役としての国政の両面で、見事に実績を挙げたのだからそれも当然だろうが、五代徳川綱吉のことはまったく評価していない。(山内昌之はある程度評価している)
 ここのところは、綱吉を大いに評価している井沢元彦ぜひ対談で討論してほしいところだ。

 秀吉晩年の最大の愚行と言われる朝鮮攻めについて、これは唐入りなんだよとはよく聞く話であるが、山内昌之は、秀吉が意識していたのは明よりもスペインであり、フェリペ2世ではなかったかとの発言が印象深い。また専門と言うことでイスラム社会の薀蓄が時に出てくるのだが、オスマントルコ帝国ではヘルヴァハーネという甘味を司る役職があったらしい。わたし自身トルコ旅行の折に、ねっとりした甘いお菓子が数多いことを見ており、男性の方が多く消費しているという話を聞いたことと呼応している感もあって大層興味深かった。オスマン帝国時代、なんでもコック出身の宰相すらいたというのだから驚きだ。

 なんでも山内昌之は、“イスラーム地域研究の第一人者である。学会、論壇ばかりか日本外交の助言者としても大活躍しておられ”るらしく、具体的には“日中歴史共同研究や日韓歴史共同研究の委員を慫慂された時に、多少のためらいの後に引き受けた”という。
 となると、徳川政権初期の文治への舵取りについての対談の流れの中で、林羅山藤原惺窩をかなり評価しているようなのが気になる。その“共同研究”の中で、一体どんなスタンスで発言しているものやら。
 こうなると、彼が綱吉を評価しているのも、綱吉が朝鮮好き(母親が朝鮮人だった可能性が示唆されている)だったことも影響しているのではないかと勘繰ってしまう。

 いずれにしても、全体的には興味深い対談集ではある。
 同じコンビが幕末を語った「黒船以降」という本があるらしい(文庫化はまだ)ので、いずれ読むことになるだろう。

(2013/7/16記載)

D黒い悪魔 (2003)
佐藤賢一文春文庫時代
544頁895円★★

 フランス人没落貴族と黒人奴隷の私生児として、カリブの島で産まれたトマ・アレクサンドルは父親に呼ばれてフランスに渡り、ムラートながら一応は貴族の教育を受ける。しかしやがて家を捨て陸軍に入隊し、人並みはずれた体格に腕力に負けん気、そして革命という時代の大きな流れの中で、共和制に賛同する彼は陸軍内で若くして将軍へと出世する。そして時代はナポレオンを迎え、トマ・アレクサンドル改めアレクサンドル・デュマの運命もまた回転する・・・。

 「三銃士」「モンテ・クリスト伯」等で有名な文豪アレクサンドル・デュマと同名だが、本書の将軍デュマは文豪デュマの父親である。
 著者はデュマ一族三代で三作の小説を書いていて、

本書のデュマは、白人:黒人=1:1 ・・・「黒い悪魔」
次巻のデュマは、白人:黒人=3:1 ・・・「褐色の文豪」
三冊目のデュマは、白人:黒人=7:1 ・・・「象牙色の賢者」(この人も作家でそこそこ有名。「椿姫」etc.)

とくると聞けば、これはかなりの期待を抱いてしまう。

 で、本書の感想はと言うと、
 こんなにつまらんとはおもわんかった。
である。いや参った。

 まず本書の主人公であるデュマ将軍は、周りから頭ひとつ抜きん出る恵まれた体格に腕力を装備、おまけに剣の達人にして、白人たちからの差別に人一倍敏感なだけにとてつもなく喧嘩っ早い美丈夫。ビジュアル・イメージは、「LOST」のMr.エコーで、これ以上ないくらいキャラの立った造形がなされているのだが、これがびっくりするほど魅力がなく感情移入もできない。
 いつまでたっても自分を卑下するが、その比較対照はナポレオン。内省的かと思えば自分勝手で傍若無人。設定の篤い主人公でこれなもので、その他の書き込みの薄いキャラについてはむべなるかなである。ロベスピエールとの関係において、少し盛り上がるのかなと期待したが、勢いはすぐに弱まった。

 ならば背景はどうか。
 デュマ三代記を描くことは、激動のフランス史を描くことにもなる筈。
 少なくとも本書は第一共和制での革命戦争、それに続くナポレオン戦争下における将軍が主人公なのである。軍記ものとして期待したいところだが、不平不満でほぼ機嫌が悪いだけのデュマから終始視点が離れないので、戦略・戦術面での書き込みも極めて少ない。

 ほんと、なんだこれという感想だ。
 これはちょっと、「褐色の文豪」が次に文庫化されてもとても買う気になれないではないか。
 デビュー作の「豹になった男」はもっと面白かったと思うが・・・。

(2013/7/21記載)

E鹿島茂が語る山田風太郎 私のこだわり人物伝 (2005)
鹿島茂/山田風太郎角川文庫評論/時代伝奇
210頁552円★★★

 ある一文を読んで驚いた。
 「私は日本史にうといのでこの二つの「未来記」が実在のものか、〜中略〜(たぶん実在しているのでしょう)。」 ・・・ええっ!?(←あばれる君風に)
 いやぁ、さすがに実在していないと思いますが・・・。

 鹿島茂なる人が何者なのかは知らなかったが、フランス文学者とのこと。
 当然のように、フランス文学の文法や単語を使って語っていて、それはそれで悪いわけではないのだが、言葉のパッケージングはともかく、特に目新しい切り口は感じられなかった。

 “山田風太郎ファンと司馬遼太郎ファンでは犬好きと猫好きほどの違いがあるので、両方とも好きで同じくらい読んでいる人は少ないだろう。わたしは数少ない例外かもしれない。”などと豪語しているが、ここにもいるので、然程珍しくもないのでは。
 元々本が(物語が)好きな人間が歴史/時代小説の分野で面白い本を漁るとすれば、両者が引っ掛かってくることは自然だ。同じ時代/人物を描きながらまるで違った読後感を味わえるところが、むしろ歴史/時代小説という分野の魅力だと思う。

 初出をみると、どうやら2005年にNHKの短期連載番組として放映されたものがベースのようだ。ならばこれくらいの内容が丁度よいのかな。
 後半は山田風太郎の短編が二編収められているので、“こだわり人物伝”の部分は67頁(半分以下)である。

(2)東京南町奉行
 明治4年、四国丸亀からやってきた老人は、静岡で出逢った孫娘と二人、東京と名を変えたかつての江戸に上京した。偏屈頑固な老人は様変わりした江戸に悲憤慷慨、福沢諭吉の思想にも触れたりもするが、居候先でつけてくれた従者桜谷俊助と孫娘お沢が相思の仲となり、かつ桜谷が岩倉使節団に参加すると知って、老人が取った行動とは・・・。

 この老人の名は最後になるまで明かされないのだが、多少日本史に興味があれば、彼の正体は早々から丸バレである。勘がよければこの題名だけでも気づいてしまうかも。
 この妖怪を狂言回しにして、複雑なキャラクターの福沢諭吉を語るのかと思いきや、老人も負けずに複雑だったという悲劇。
 著者による福沢諭吉、勝海舟論が興味深い。

(3)伝馬町から今晩は
 弘化2年、伝馬町からの出火で囚人の切り放しが行われた。三日以内に牢に戻れば、罪一等が減じられるが、これを機にと戻らなければ、逃げた本人が草の根分けても探され処刑されることは当然、ながら、途中で関わった人間までが厳しく扱われる。この切り放しである囚人のことを思い出していた久米吉のもとに、その晩「今晩は」とやってきた灰色の影は・・・。

 蛮社の獄で捕らえられた高野長英の有名な逃亡劇。
 彼に「今晩は」とやられた男女の悲劇の個々は著者の想像だろうが、実際のところはどのようなものだったのだろう。とても気になるところだ。

(2013/7/21記載)

F腰痛・肩こりの科学 原因から治し方・防ぎ方まで (1996)
荒井孝和講談社BLUE BACKS人体薀蓄
230頁880円★★★

 けっこう肩が凝る性質である。仕事も趣味も肩・背中を丸めがちなのを自分でも気にして、背伸び、肩回し等々を意識してよくしているつもりだが、あまり改善されない。だからフェルビナク系のローションや湿布薬は欠かせない生活である。
 腰痛のほうは悩むほどではないのだが、それでも過去10年ほどの間に数回ぎっくり腰を患って数日苦しんだことはある。
 俗に言うぎっくり腰は、腰椎捻挫、あるいは急性腰痛症とも言われるらしいが、いずれにしてもその詳細な部位はわからない。線維輪終板椎間関節靭帯背筋のいずれが損傷しても同様な腰痛症状になるからだ。ちなみに対症療法は同じ、安静に寝ていることである・・・。

 といった訳で、こういった症状を科学的に解説した本には興味があるのだが、自分的にはより肩こりについて重点的に知りたかった。しかしその意図に対しては、完全に拍子抜けである。
 いや、裏表紙にもわざわざ章構成が明記されているので、あまり吟味することなく勢いで購入してしまうわたしの注意力散漫が悪いのだが、7章構成のうち肩こりに関しては、わずか1章、12頁しか割かれていないのである。しかも「肩こりを防ぐ運動」としては、常識的な運動がいくつか紹介されているだけなので、頸椎から腕部に至るまでのどこかで、動脈または神経が圧迫を受けることで肩こりが起こることがあるという一文だけが、わたしの知りたかった情報ということになる。
 やはり裏表紙に章立ての記載があるとはいえ、この内容で“腰痛”と“肩こり”を併記した題名にしているのは、少々やらしいと言わざるをえない。

 腰痛に関しては、腰の漢字の成り立ちから項を起こす密度の高さである。
 1712年に発行された「和漢三才図会」に腰や背中が絵入りで解説されているらしい。  背骨の数(頸椎×7、胸椎×12、腰椎×5の合計24個)が紹介され、“神経”という訳語が初めて登場したのは、1774年の「解体新書」ということだ。

(2013/7/22記載)

G本当にいる世界の「超危険生物」案内
實吉達郎笠倉出版社生物薀蓄
223頁648円★★★

 これもコンビニで買ってしまった本だが、B6版形のオールカラーでこの価格だから、作りは荒いけれどやはり安い。
 表紙にも登場させてしまっている一つ目の鮫の胎児(本文ではコラムで紹介)などは、“本当にいる”とはとても思えず、作り物の臭いがぷんぷんするが、全体としては、見開き2頁毎にまともな危険生物?が紹介されている。著者の体験談等の生の情報で書かれているので、無味乾燥なデータ羅列と異なり面白く読めた。(逆に有効な情報があまりなかった奴もいたような・・・)

 著者の読書経験からのコメントも多く、昭和十年代の(著者子供時分と思われる)南洋一郎の冒険小説やシートン動物記シャーロック・ホームズといったところからの引用が多いところも楽しい。

(2013/7/24記載)

Hマスターファイル ラウンドバーニアン
 FAM−RV−S1バイファム
SoftBank Creativeアニメ薀蓄
125頁2400円★★★★

 わたしは「銀河漂流バイファム」が好きで、恥ずかしながら全話DVDも持っているが、本書のような本が出版されていたのは知らなかった。帯の文を読めば、なんと30周年らしい。そりゃぁ歳もとるわいといったところだ。

 それにしてもなぜに今になってと考えてしまう。
 すわバンダイが満を持してR3のためのリ・デザインを始めたかと勘繰ったが、巻末のSTAFFリストにバンダイの文字はない。出版社からして特定の模型雑誌の企画ということでもなさそうだが、実はウェーブの名が挙がっている。
 というわけでネットでチェックしてみたが、確かにバイファムが製品化されているではないか。
 たしかにデザインも本書のリニューアルされたものに準じたデザインのようだ。

 しかしレジンキットなので、スリングパニアー付で\52,500。なしでは\29,400。すでに予約期間も終了しているが、いずれにしてもちょっと手が出ない。

 STAFFリストにサンライズの名はあるものの、公式設定ではないという但し書きもあって微妙な位置を感じるが、ここはやはりバンダイにR3として開発してもらい、\5,000前後で世に出してもらいたいものだ。いや\8,000までなら払ってもいい。MGとはかなり趣の異なる内部フレーム構成も魅力だし、バンダイとしてもやりがいがあるのでは?(ウェーブ製品はレジンなので、内部フレームの再現はしていないようだし、腹部コクピット・ハッチのダサい機体番号表示(※1)も、リニューアルされた設定では0〜19までのデジタル表示が可能になっているが、その再現もなさそうだ。ぜひR3で発光させて。)

 少々模型関連で熱く語ってしまったが、地球軍側の4機のRV解説に特化した本書は、リニューアルされたデザイン画やCG画が豊富に載っていて、わたしなどはこれを眺めているだけでとても和める。
 言い忘れたが、本書はお見舞いにもらったものだ。
 師匠、ありがとう。

 マニアックな本文のほうは、正直少々読み流してしまったほどの濃すぎる設定に頭が下がる。ククトニアンとの戦争勃発時、すでにネオファムディルファムは旧式化していたという設定だが、故障率に関してMTBFバスタブ曲線なんて用語まで出てくる。ライターに三名が挙がっているが、履歴を知りたいところだ。

(※1)完全に余談だが、1898年の米西戦争で兵員寄せ集めの米軍は、輸送船の船腹に大きく番号表示をしていたらしい。このダサくも合理的な発想に、当時留学中だった秋山真之も感じ入ったそうな。「司馬遼太郎 歴史の中の邂逅2」より。

(2013/7/30記載)

I日本語教室
井上ひさし新潮新書日本語薀蓄
182頁680円★★★

 上智大学での4回の講演(2001年から2002年)から起こされた。
 小説ではない著者の作品を読むのは4冊目だが、もちろん日本語の構造や成立ちに関する蘊蓄を期待して読んでいる。例えば、日本語の母音は歯に近いほうから喉の奥に向かって、い、え、あ、お、う、の順番で音を出しているといったことであったり、アクセントのない日本語ではタタタタタ、タタタタ…と平坦、単調で、しかるにリズムが生まれにくく、日本で長詩が発展しなかった原因がここにあるのではないかといったこと。
 あるいはどの言葉も母音で終わる日本語は、大きな感じがして美しいと、外国人はよく言うらしいとかである。(“大きな感じ”というのがどういうことか解らないが…)

 当然のように、著者は現代の日本語の乱れを嘆くわけだが、それは役所への不満、日本国への不満、米国への不満へと繋がっていき、そこかしこに著者の左翼思想が漏れ覗いているのは、苦笑とともに読み流すしかない。

(2013/10/12記載)

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