2014年 4月
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@金の空想科学読本 (2011)
柳田理科雄空想科学文庫科学薀蓄
287頁600円★★★

 初めて空想科学読本を読んだ時は、ちょっと面白いイロものが出たなと思ったものだ。(著者名もまさか本名と思わず、ふざけすぎやなと…)
 それが空想科学文庫なんて枠が与えられ、派生本を除いても10冊もシリーズ化された上に、ベスト版まで出版されるとは、なんというかめでたい。

 シリーズ10冊で合計239もの項目が数えられるらしいが、本書はその中から読者アンケートで上位25項目が選ばれている。

 よもや結果の操作はしていないと思うが、人気度上位10.5%にシリーズの10冊それぞれから一つは選ばれているらしい。
 各巻に挟まれたアンケートハガキに回答してきた読者を、今回の調査ソースにしているとのこと(+空想科学研究所のHP)だが、アンケートにわざわざ回答するような見上げた人が、それぞれシリーズすべてを読んでいるとは思えない。自分が読んだ中から選ぶとすれば、ある程度各巻に散らばりやすいということはあるかな。
 いずれにせよ読者の年齢層が散らばっている分、今回のベストがすべからく面白い訳ではない。

 先日わたしがツッコんだ、「ウルトラ兄弟の『成績表』に父の怪しい採点法を見た!」「6.5」から選ばれているのもナンダコレ(作者的には、かなり気に入っている話らしい)だし、「『お前はすでに死んでいる』って、どんな状態?」は、過冷却にムリヤリ繋げているのが面白いけど、よもや投票第1位というのは理解の外だ。
 わたしは「6.5」以外は最初の二冊しか読んでいないが、この記憶力に問題のあるわたしが、「ウルトラセブンがマッハ7で飛ぶと、たちまち体が裂ける」の内容ははっきり覚えていた。わたしがもしアンケートに回答していたとすれば、このあたりを選択していただろう。

 科学をネタに遊ぶという趣旨では、「空想科学世界の最強は誰か?〜」が新基準ジャバの導入が笑わせてくれる。
 わたしが一番気に入ったのは、「抱腹絶倒!この怪人・怪獣たちの、この弱点が凄い!」が、いろんな番組からのエントリーということもあって、かなり楽しませてもらった。

 あ、あまり科学とは関係ないネタだ。

(2014/4/24記)

A学校では教えてくれない日本史の授業(天皇論) (2012)
井沢元彦PHP文庫歴史薀蓄
394頁781円★★★★

 著者の作品は逆説の日本史シリーズで十分なのだが、都度々々読みかえすには少々長大すぎる。井沢史観が簡単にまとまった本はないかなという観点で、本屋で目に留まった本書を読んでみた。

…シリーズの二冊目だった。

 前書きで著者が語っているのだが、前作は「歴史学者が気付いていないこと」を中心に。本作は「歴史学者は知っているはずなのに、あえて書かないこと」を中心に書かれているらしい。
 “あえて書かない”中身には天皇に関する事が多い。だからこその「天皇論」なわけだが、たしかに古今東西の“君主”の中で、日本の天皇というのはかなり特異であろう。
 なので、逆に天皇を語らずして、日本史を語るのには相当の無理があるということだ。

 神道はもともとが許容性の高いフレキシブルな存在だった。
 最新技術や国家整備の衣とともに仏教が日本へ押し寄せた時も、蘇我氏物部氏の戦争はあったものの、結局は本地垂迹の思想で神仏混淆して、独特の日本仏教を作ったのだが、室町時代以降には排他的儒教である朱子学と組み合わさったことが、後の神道の性格を大きく変えていった。明治初期の廃仏毀釈や、昭和初期の天皇絶対に繋がっていったとということだ。
 そのうえで、天皇絶対思想のさらに上に“話し合い”(和を以て尊しがくることを、二・二六事件を例に説明している。

 仏教史は他の本でもそれなりに読んでいるので、それなりに解っているつもりだが、朱子学的思想で再構築された神道⇒国学(といっていいのかな?)への流れについては、逆説の日本史では(文庫版では)まだ扱っていないからか、かなり疎かった。
 本書では、文化人としてのイメージが強い本居宣長が、後の日本人に多大な思想的影響を与えた巨人であると書かれており、興味深い。
 (本居宣長記念館やその敷地内に移築された旧宅にも行ったことがあるが、遠く松阪の地にいながら後の日本史に影響を与えたということが、なかなか解り難いのである…)


本居宣長旧宅
左側に写っている階段を登った先が鈴屋である。


宣長が鈴屋(すずのや)と名付けて使っていた2Fの書斎外観。



(2014/6/2記)

B太鼓叩きはなぜ笑う
鮎川哲也創元推理文庫推理
394頁900円★★★

(1)春の驟雨(1972/73頁/★★★)
 ある人気作家の妻が、外出着を着たまま自宅の浴槽内で死んでいるのが発見された。その妻は殺害される直前、デパートで服切りの被害に遭っており、その加害者とされた男に容疑がかかる。ところがその男は、服など切ってない、ましてや殺害などするわけがないと主張し、担当弁護士は探偵の“わたし”に捜査を依頼する…。

 外出着と浴槽の謎を解くことがアリバイ崩しに繋がるわけだが、<ネタばれ反転>冒頭に登場して服切りだと騒ぐ女が替え玉だったというオチは少々物足りない。
 余談だが、『三番館』は本作の初出時は、“西銀座の三番館ビルの6Fにあるバー”と紹介されるので、わたしやバーテンと同様にこのバーの正式名称も明かされていないと考えることもできそうだ。

(2)新・ファントム・レディ(1972/101頁/★★★)
 ある浮気男を強請っていた悪徳探偵が、死体で発見された。第一容疑者として浮上した浮気男は、俺のは公認だから強請りにならない、だから殺す理由もないと豪語し、さらに犯行時刻には、その日限りの浮気相手と横浜の中華街で食事をしていたという。ところが、該当先の中華飯店では、彼とその同伴者について、一切の目撃証言が出てこなかった…。

 本文中にもあるが、アイリッシュの名作「幻の女」へのオマージュである。
 ピンタンフールーなる中華料理の、<ネタばれ反転>一皿に盛られた個数から店が違っていることを導き出すのは見事だが、店が違っていたというオチにはちょっとガッカリ。
 しかし店内のマッチだけで、犠牲者自身(浮気男ですな)を完全に騙してしまう計画は大したものか。彼は拘束されていて自分では現地に確認に行けない(行けばさすがに気付く筈)事を考えると、そら怖ろしくもある。

(3)竜王氏の不吉な旅(1972/59頁/★★★)
 万引き疑惑をタネに強請っていたスーパーの売り場主任が殺された。“わたし”は、容疑者の夫からの依頼で、被害者に強請られていたと思われるもう一人の男、竜王という作詞家を洗い始めるが、彼には信州経由で愛知県の篠島まで旅行していたという鉄壁のアリバイが…。

 鉄道のアリバイトリックはまぁまぁといった処だが、竜王氏が捜査の誤認を誘導するために企んだ、もう一つの施策が周到で秀逸だ。しかしこの思わせぶりな題名が篠島の駄洒落だというのは、この秀逸なオチでも挽回しきれないマイナスの衝撃だった。
 因みに知多半島渥美半島の間には、篠島のほかに日間賀島などもあって、一度は名前も挙がる。「すべてがFになる」の(パラレルワールドの?)舞台である。

(4)白い手黒い手(1973/83頁/★★★)
 楽器店の営業エリートが“佐藤”なる女性に呼び出され時間を空費したが、後日その界隈・時刻に殺人事件が起こっていた事が判り、その営業が容疑者とされた。彼に罪を被せる為の作為だったと思われ、社内の彼を除いた幹部候補の二名を"わたし"が調査する。犯行時、事件発生界隈では犯人らしき男の目撃証言が何件か得られるが、ある女は電話をかけていたその男の手が白かったと言い、切符窓口の駅員は金を払った手が黒かったと証言しており…。

 白い手黒い手が<ネタばれ反転>一人のものだろうなという想像はついたが、画家をその条件にうまく当てはめることができなかったのが残念。

(5)太鼓叩きはなぜ笑う(1973/56頁/★★★)
 悪徳探偵が殺された。その日探偵に呼びつけられていた男女が四人。三番目に会う予定だった男が第一発見者となり、容疑者となった。彼の弁護士からの依頼で、“わたし”は他の恐喝被害者たちに会うが…。

 その日の面談の順番は、各人の証言(時間だけでなく、部屋にある小道具の状況も含めて)で明らかになっているが、そこにある錯誤がなんなのかが読み処だ。<ネタばれ反転>毎日二本もウイスキーを空けるというのは有りなのか判らない。放っておいても遅かれ早かれ死にそうだが、酒豪の設定としてはおかしいとはいえないのかな。
 意外に行動的なバーテンも含めて、謎解きとしては悪くないが、「幻の女」をわざわざ“ファントム・レディ”に読み換えた作者が、なぜドラマーを太鼓叩きと書いたのかが最大の謎だ。表題作でもあり、キャッチーな題名なので、どうにも気になる。
 そこを読んだ際には、またギャフンと言ってしまった…。

 探偵のわたしは、捜査で行詰まると西銀座にある三番館に足を運ぶ。そこで話を交わすバーテンが、本シリーズの謎解き役というわけだ。
 謎解き役がバーテンで、彼は捜査をしないのだから、当然黒後家蜘蛛の会シリーズをどうしても思い出すが、発表年代もかなり近いとはいうものの、著者曰く偶然らしい。

 ちなみに、バーテンの立場からすると安楽椅子探偵モノにカテゴリーされるのは間違いないが、話の展開は“わたし”の一人称で進み、彼はあっちへこっちへ足を運んで捜査をするので、総体ではあまり安楽椅子探偵モノを読んだ気がしない。変形ハードボイルドといった趣もありだ。

 あとがきによれば、トリックや小説的技巧が多彩でさすがは鮎川哲也といった評価をしているが、素人の流し読みの印象では、また悪徳探偵か!強請か!という類似が少々気になる。殺害される人、濡れ衣を着せられる人、独身、妻帯の違いはあれど、被害者が一様に仕事も女遊びにも長けているのも気になるポイント。彼らは――“わたし”も含めて――女性を性欲の捌け口としか考えていないようだ。上の条件に唯一入らない「春の驟雨」でも、犯罪の影に浮気があるし…。
 まぁ探偵事務所に持ち込まれる案件なんて、男女関係ばっかだよと言えなくもないのかもしれないが、前に読んだ「りら荘事件」もあわせて、著者の女性感が気になる。

(2015/1/25記)

C信長の天下所司代 筆頭吏僚 村井貞勝 (2009)
谷口克広中公新書歴史薀蓄
239頁760円★★★

 村井貞勝の名前は一応知っていたが、それは「信長の野望」でだったような…。

 戦国末期から江戸時代初期にかけて、京都の所司代というと、信長政権下では本書の主役村井貞勝、その後の秀吉政権では前田玄以、徳川政権の初期には、板倉勝重、重宗の親子が有名だ。京の行政、治安、外交のトップとなる重要な役職で、無能な人間には勤まらないポストだろう。
 そもそも「信長の野望」で彼の名を覚えたというのは、内政能力値が高く使い勝手が良かったからの筈だ。

 そんな村井貞勝であるが、能力が高いといってもあくまで吏僚。信長時代はまだまだ全国統一はできておらず、周辺国へ広がっていく過渡期にあるので、信長時代を描いたドラマの中心もそちらに焦点が当たりがちになる。足利義昭を追い出した後の京の吏僚という立場は、ポストの重要性の割には、影が薄くなってしまうのは仕方のないところか。もちろんこれまで読んだ信長関連の小説でも、たまに名前が挙がることはあった筈だが、キャラクターを与えられた人物として登場したことはなかったように思う。

 題名のように村井貞勝が天下所司代となるのは、義昭追放後に、名実ともに信長政権が始まったときだ。言い換えれば天正期と機を一にしている。本書の中心は、この10年ほどの天正期の貞勝関連の事跡を、「言継卿記」「兼見卿記」等の同時代史料をもとに、各年毎に追うことをメインとしている。
 実はリーダビリティが続かないのではと懸念して、なかなか読み始めることができなかったのだが、著者の他の本と較べると地味なのは否めないものの、意外に面白くてするする読めた。本能寺の変信忠とともに命を落としたことすら、本書を読むまで知らなかったが、京周辺の道路の修繕まで(信長の命令で)管轄していたりと、興味深い内容もいろいろだ。秀吉時代になると登場してこないので、フェードアウトしていることはわかるが【注1】、そもそもそういった疑問が頭に浮かぶこともなかったわけだ。

 ついでに書いておくと、村井家は最初から織田家の家中だったわけではなさそうだが、桶狭間の合戦よりの前(〜1560年)に、佐久間信盛丹羽長秀等当時でも重臣の面々と連名で発行された書状もあるようで、信長が足利義昭を奉じて京都に上洛(1568年)して以降のポッと出ではなさそうだ。

【注1】貞勝は信長よりも高齢で、京でバリバリ働いていた時、すでに六十歳代だったらしい。
(2014/5/23記)

D緋色の記憶
 The Chatham School Affair (1997)
T・H・クック文春文庫サスペンス
394頁581円★★★

 1926年の晩夏。海沿いの田舎町のバス停に降り立ったチャニング先生を初めて見た時、15歳のヘンリーは、なんてきれいな人だろうと思った。まさかほんの一年後、後にチャタム校事件と呼ばれる陰惨な事件が起こるとは一瞬たりとも想像できずに…。
 関係者のほとんどが物故した数十年後、ヘンリー老人が思い返す当時の真相。

 ジャンルとしては、一応サスペンスでいいのかな。
 賞獲りの作品だし買ったはいいが、途轍もない悲劇が臭わされているので、なかなか読み始められなかった。
 登場人物も限られ、結末もそう奇を衒ったものではないので、読者の予想を大きく覆すようなものではないが、それでも最後にオチが用意されるミステリとして読むこともできる。

 全編ヘンリーの独白で静かに進み、悲劇であることは何度も触れられるために、訳者があとがきで書いているのが言い得て妙なのだが、たしかに雪崩をスローモーションで表現するようなタッチであった。
 ヘンリーがこの悲劇にどういった関与をしたのかは、今となっては、彼が墓場まで持っていくしかないが――もしかして遺書として残す意図があるのかな――、言及されていないところでひとつ疑問がある。

 お節介の善意から<ネタばれ反転>トリガーを引いたヘンリーや、アビゲイルを筆頭に、古い保守思想に染まった町民すべてがこの悲劇の推進者と言えるが、ヘンリーの父が心血を注いで運営してきたチャタム校を閉鎖に追い込むほどまで火を呷ったのは、<ネタばれ反転>ヘンリーの母親のミルドレッドである。
 エリザベス・チャニングに対する敵意はともかく、自らを含む家族の生活基盤をぐっと劣化させたことに対して、
彼女はどう感じていたのだろう…。

 中身に関係のないところでどうにも気になるのが、この邦題と表紙絵である。
 読みこめば読みこむほどに、緋色のイメージが織り込まれていると訳者はあとがきに書いているが、読了した今、姦通=「緋文字」という知識的なイメージ以外には、赤色のイメージは希薄である。読み込んでいないからだと言われればそれまでなのだが、活気があるとはいえない海沿いの町であることや、ヘンリーが都度々々言及する黒池の印象からすれば、薄暗く抑えた緑か青、色味としては表紙のイメージでいいように思う。
 表紙絵の構成としては、この目立つでかい顔はヘンリーであるべきだが、最初に書いたように、彼は事件当時おそらく16歳。事件の三年後には大学生になっているが、表紙の絵はどうみても小学生それも低学年のようにしか見えない。

(2014/4/22記)

E黒田官兵衛は天下を狙ったのか (2013)
楠木誠一郎中公新書歴史薀蓄
255頁800円★★★

 大河ドラマ便乗の黒田官兵衛本だ。秀吉メインで話を進めると、九州攻めや朝鮮攻めはダイジェストになって終いがちだが、官兵衛目線でそれらの後半戦にもある程度頁が割かれているので、戦国時代の終盤戦の知識を底上げする役に立つ。もちろん大河ドラマの予習としては十分だろう。

 ただし、著者は編集者上がりの作家のようで、本書も蘊蓄本のスタイルを取ってはいるが、著者の考えに対する根拠の提示が不明確で、あまり信憑性を感じることができない。基本的に小説レベルと思っておくべきだろう。巻末に提示された参考文献からも、そのことがうかがわれる。
 新書サイズで出版される本は小説ではなく蘊蓄本だと考えているので、残念ながら個人的には甚だ不満で、中途からはリーダビリティがすごく低下してしまった。

(2014/6/2記)

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