公家の少将高野則近は、養子候補として大坂の商家でのんびりと日々を送っていたが、世情は幕末に向けて大きなうねりを見せ始めていた。尊融法親王は、公家ながら剣の使い手でもある則近に、700年以上の間武士に仕切られてきた“世間”を見定める任務を与える。公的な行事以外で、数百年ぶりに近畿から江戸方向へ旅立とうとする少将に、雅客の魔の手が襲う…。
本書は著者の作品でもかなり初期に位置している。名言はできないが、直木賞を獲ったちょい後から連載を開始したくらいだと思う。もちろんまだ国民作家にはなっていなかった時期の作品である。
ということは、わたしが然程好きでない時代/忍者小説の範疇ということだ。登場人物で実在なのは益満休之助程度【注1】で、後はほぼ創作の人物なのだが、これが意外にそこそこ楽しめた。
雅客というネーミングがなんとも粋【注2】だが、この攻撃に対して少将を守るのは、百済の門兵衛に名張の青不動。彼らの造形が助さん格さん、または弥次さん喜多さん、あるいはオットー、グラッグを彷彿とさせる凸凹コンビで楽しい。
少将高野則近は、自分の危険に対しても俯瞰的に楽しんで眺めているような人物だが、これは著者作品では結構共通すところかな。
多かれ少なかれ著者作品の主人公はいずれもそんな傾向があるし、起承転結がしっかりしていないことは、後の司馬作品でも共通仕様だ。ただ物語感の強い本作品では、そこのところがかなり気になる。
しかしその反面、そういったストーリー性を楽しむエンターテインメントとしてではなく、700年近く続いた武士の世を、われわれと同じく化外人である則近が見聞してゆく漫遊記、あるいは市井ものとして読むと、なかなか味わい深い。
【注1】益満休之助は、本書に言及はなかった(筈だ)が、ほぼこの直後といっていい上野戦争で戦死している。
【注2】宮飛脚とかかっている。
(2015/1/28記) |