3年ぶりの更新となる「ダブリンバス事件簿」。今回は、ちょっと趣向を変えてみました。


某月某日。ダブリンバスの某運転手さんの一日を密着取材しました。


彼の今日の予定はこんな感じ。ちなみにこの日は土曜日です。


0815 Lower Abbey Street発
0915 Swords Manor着
0915 Swords Manor 発
1015 Lower Abbey Street着
(休憩)
1120 Lower Abbey Street発
1225 Swords Manor着
1225 Swords Manor 発
1330 Lower Abbey Street着
1330 Lower Abbey Street発
1435 Swords Manor着
1435 Swords Manor 発
1540 Lower Abbey Street着
(バスを次のドライバーに引き渡し任務終了)



つまり、市中心のO'Connell Street脇のAbbey Streetから北へ向けてDrumcondra、Santry、空港を経由して、Swords Manorに至る、片道おおよそ15キロ程度の道のり。ルートナンバーは41。例えば、日本の場合車庫を出て、某駅、そこから某住宅地へ行き別の駅に行き…と、いろんなルートをまぜこぜに走るのが多いようだけど、ダブリンバスの場合、上のように、同じルートを一日中往復することが多いそうな。


ともあれ、ある土曜日の密着取材。以下の通りです。


午前8時10分。自宅


SMS(ケータイへのメッセージ)届く


今日は0815 Lower Abbey Street発
0915 Swords Manor 発(以下略)だから。


現在午前8時10分。間に合うかい!


…というわけで、完全密着取材にいきなり失敗!嘆いていても仕方ないので、身支度を整えて、Swordsへこの運転手さんを追うべく出発。まずはいちいち運賃を払うのもばかばかしいので近所のニュースエージェントで一日乗車券の5枚つづりのRambler Handy Packを買おうとする。朝早いこともあっていきなり言いまつがい


Rambler Humble Packください。


Humble
(身分が)卑しい; 卑下する, 謙そんした; (食事など)質素な, 乏しい (EXCEED英和辞典から)


いきなり意味不明です。でもお姉ちゃん、笑いながら分かってくれた。


いきなりいい加減王国アイルランドの本領発揮。このRambler Handy Pack現在17ユーロで販売しているはずなのに、この店では16ユーロ。値段が改訂されても在庫のチケットは前の価格で売るらしく、こういうことがよく起きます。


で、店を出て、16のバスに乗り、Santryへ。そこから先16のバスは住宅地に入ってしまい空港方面へは行かないのでそこでさらに北へ行くバスを待っていると41Aという空港行きのバスがやってきた。


さらにここで、謎(ちょっとマニアック)。


41Aのバスは、市内からSwords Manorへ行くという41と同じルートのようだが、実はSwordsの村の中で若干違う道を走るし、それよりも何よりも空港を経由しない。ともあれ、いいたいことは、なぜ、空港を経由しない41Aというルートのバスが空港行きになってるんだ?しかも、この41A土曜日の朝の始発は午前10時15分市内発。で、現在、午前8時30分。つまり時刻表にはまったく載っていないバス。


このバスはいったい何?


試しに手を挙げたら…ちゃんと止まった。で、ちゃんと空港まで乗っけてくれた。


午前8時40分。ダブリン空港バスターミナル


ここから更に北へ向かうためのバスを待つ。最近このバスターミナルは改修されて、41のバスで市内に向かおうとする客がSwords行き(つまり逆方向)へのバスへの間違い乗車を防ぐためにバス停の位置が別の島へと移された。


で、本来のバス停のところは、他のバスでごった返しており、完全に通行不能。そこでバスを10分ほど待っていると、こともあろうに、Swords行きのバスが、こちらのレーンが詰まっているためか、知らん顔して別のレーンを通過しようとしている。慌てた数人の乗客がバスに向かって手を挙げるが、この若い女性の運転手さん完全無視で通過。


ダブリンバスで通勤しなくなって数年経つけど、この会社何にも変わってないなあ。


そんな運転手を注意しないヒマそうなスーパーバイザー(「インスペクター」と呼ばれているようです)。


で、取り残された乗客はやむなく9時発の230のSwords経由Portmarnock行きに乗る。なんでもいいけど、たまにこうやってバスに乗るから腹もたたないけど、わずか30分でこれだけの経験。毎日だったらそりゃ腹もたつだろうなあ。


230のバスは空港をかすめていきます。Ryanairのヒコーキがミョーに目立ってました。


230のバスの中の広告。車内全部の広告枠を使った全面広告。


もう世間は3月なんですけど。そろそろクリスマスの広告はがしません?


午前9時15分。Swords Village Main Street


230のバスを降りたのはSwords Village Main Street。ここで、市内に向かう41をつかまえて、「密着取材」を敢行しようというわけ。土曜日の朝ということもあり、交通量も少なく、村は落ち着いた感じ。


午前9時25分。


待っていたバスはやってきた。今気がついたけど、この運転手さん、ちゃんとライトを点灯してる。ダブリンバスには珍しい模範運転手だな。


で、ちゃんと、一日乗車券をカード読取機に通して乗車。今日の目的は、取材。というわけで、運転手さんにいちばん近い特等席に乗り、しっかり観察をすることに。


バスの中の乗客は2-30人程度といったところか。ところが空港からどかどか人が大荷物を抱えて乗ってくる。


これがまた時間がかかるのだ。通勤客などは自分の運賃を知っているから、1.75(ワンセブンティファイブプリーズ)なんて言いながらすでに用意してあったコインをコイン投入機に入れるだけだから、楽。また、前売券のカードを使う人も多いので、楽。乗降にもさして時間はかからない。だけど、ダブリン空港から乗ってくる客の多くは、まず、観光客が多い。「シティセンターまでいくら」と聞いてくるのはいいとしても、小銭を用意してない、ひどいのになると小銭を持ってない。ちなみにダブリンバスは市内行きの特急747・748以外お札は受け付けてくれません。お釣もくれません。


それだけならまだいい。


「XX通りのXX番地に行きたいんだけど。」


…番地まで指定されても運転手さんがいちいちそんなもんを覚えているはずもなく。ところが、お客の側の心理としてはタクシーの運転手とバスの運転手は市内をくまなく番地まで知っていて当然と思うらしい。運転手さんが「知らない」というと、「感じ悪―」ということになるらしい。ちょっと不条理。そんなこんなで乗車は遅々として進まない。


で、若干の立ち客が出る程度でバスは発車。ちなみに座席は2階に47席、階下に23席あるからおおよそ70人が乗っている計算になる。それだけの命を預かっているわけだから、運転手さんの責任は重い。


後で聞いたところによると、ブレーキのかけかたひとつにも相当な神経を使うらしい。下手に強いブレーキなんかかけたら、例え低速でも立ち客はすっころぶし、座っている客にもかなりの衝撃が来るそうな。つまり、他の車や人とぶつからないという事故も当然ながら、車内事故にも気を使わねばならない。70人も乗ってりゃ、よぼよぼのじい様ばあさまだって乗っているわけで。


午前10時25分。市内の某カフェ。


休憩。というかちょっと早めのランチタイムというべきか。向かったのは、バス停から最寄りと思われるIrish Life Shopping Centreというダブリンに一番最初に作られたショッピングセンターじゃないかとも思われる暗くてあまり行く気にならないショッピングセンターの中にあるカフェ。


食べたもの。


…説明不要。アイリッシュブレックファースト。脂っこい(よくない油使いすぎ)。しょっぱい(塩使いすぎ)。ひたすらに健康に悪そう。。


午前11時20分。Lower Abbey Street


本日2往復目となる41の運行。


バス停に着くと、すでに結構な人数が待ってます。


ちなみに、バスは、先ほど一往復目をした車両とは別のもの。先ほどの車両は休憩の間に別の運転手さんが乗っていってしまったそうな。


ちょっと比較の対象として、都内の某バス事業者。このバス会社は言えば、「マイバス」制度を採用してます。具体的には、二人に一台の割合でバスがあてがわれて、同じ運転手さんは、いつも同じ車両を運行してます。つまり、お昼休みなんかの場合、バスはご主人様の帰りを待っている…ということになるわけ。で、お昼休みは車庫に戻ることが多いから、一番上に書いたように、ダイヤの編成がややこしくなるわけ。それに対して、ダブリンバス。運転手さんは自分の車両をあてがわれず、いつもいろいろなバスを運行することになります。これ、まあ、効率的といえるかも。


ただ、「マイバス」制度の利点もあります。まず、自分のバスということで、ていねいに乗ります。そして、問題点があれば把握しているし、その問題点が修理されているかなども確認できます。この都内のバス会社の運転手さんの話によると、「同じ形の車両でも運転手が違えばブレーキなどの癖が違ってきて全く別の車両を運転している感じになる」とのこと。こと安全という面では、「マイバス」制度のほうが優れていると言うことができるかもしれません。


閑話休題。


前回1階の最前列に陣取ったので、今回は二階席の最後尾に陣取る私。


ここに座ると、運転席でのチケット発行の音や、ドア開閉の音などは全く聞こえない。ただひたすらに数百メートルおきに止まり、ゆっくり動き、また止まる繰り返し。やはり自分の車に比べれば、当たり前だがバスはのろい。


車窓からの風景。


Vandalismと言われる破壊行為。一番被害にあっているのは、このバスシェルターと公衆電話ボックス。公衆電話はケータイの普及のおかげで使う人はいない、いつも壊されると二重苦。公衆電話の利用料金は上がるばかり。


バスシェルターもしかり。壊しているのはだいたい地元のガキと相場は決まってます。こういうクソガキが多く、バスシェルターが壊される地域はまず、バスシェルターのガラスが傷だらけになって見栄えは悪いものの割れにくいプラスチックに変えられ、それでも破壊される場合は、ついに修理がされなくなります。つまり、自分たちが横殴りの雨の中濡れながら待つことになるわけ。それに、この修理代金が、運賃に撥ね返ってきているという事実もあります。ちなみに、この日3ヵ所で同様にガラスが割られてました。


こちらは、Joyriderの行為。こちらも主にクソガキが、車を盗み、乗り回し、燃やす。「ならず者」としか言いようがありませんが。ただ、この運転手さんによると、バスへの投石(によるガラス破損)やJoyriderによるクルマの盗難、前より減ってきている印象を受けるそうです。


午後12時25分。Swords Manorバス終点


出発予定時刻の5分前12時20分に到着。バスの車内を点検(忘れ物など)し、行き先方向幕を変え、乗車券発行機の設定を変えるだけで精いっぱい。とてものんびりしている余裕なし。そのまま出発。


このバス、なぜか知りませんが、Swordsの住宅地でこれでもかというくらいの人が乗ってきます。Swords Village Main Streetで、ついにバスは満車。1階の立ち客も10人以上いて、身動きが取れない状態に。ついには前扉のドアー付近の本来は人が立っていてはいけない部分にすら人が立ちはじめてます。運転手さんは、ミラーの確認ができるよう、立ち客に下がるよう言い出発。


その先も人は乗ってくる乗ってくる。途中のバス停でついに…。


そのバス停で一人の乗客が降りた。で、10人程度の客が待っている。こういう時に意地悪な運転手さんはバス停の50メートル向こうとかにバスを止めてお客を降ろして、バス停で待っている客を乗せずに発車…なんてこともするけどこの運転手さんは優しかった。ドアを開けるなり


運転手:「最初の3人だけ!」


乗客。無視。みんな乗ってこようとする。


運転手:「最初の3人だけって言ったでしょ」
乗客1:「私たちいっしょなの(We are travelling together)」
運転手:「だから、満員なの!」
乗客2:「おれら、このバス40分待ってんだぜ!」
運転手:(車内で立っている人に向かって)「ちょっと後ろに下がって下さい」



40分待っていた…というのは多分本当。まあちょっと大げさだったとしても30分くらい待っていたと思う。私がバスを使っていた頃よくあった。このバスも土曜日ですら15分おきの運行のはずなのだが、来るべきバスが来なかったり、ようやく来たと思ったら満員で通過されたりで、30分とか40分待たされることはざらだった。この日は幸い天気はよかったものの、あれで雨が降っていた日なんかには本当に嫌な気分になるだろうなと思う。


車内が混んでいるので、中扉も使って乗降が行われる。この運転手さんがこっそり教えてくれたのだが、中扉は極力使いたくないらしい。なぜなら、中扉を使うと安全装置が働いて中扉が空いている限りバスが出発できなくなる。それ自体はいいのだけど、この安全装置がまれに解除できなくなって運転できなくなることがあるらしい。


ともあれ、バスはようやく空港に着いて、若干の客が減る。幸い先発のバスが出たばかりだったかなにかで空港から乗ってくる客はほとんどいない。バスの車内は若干の立ち客が出ている程度になる。


Santry付近のバス停にて。


若い男3人が乗車。で、運転手さんに10ユーロを差し出す。


運転手さん:「小銭がないと乗れないよ」


…そう、ダブリンバスは小銭がないと乗れません。日本と違って車内での回数券販売もしてません。結局この3人は乗れませんでした。ただ、近所に店があるわけでなし、この3人は長い距離を歩いて店まで行って両替をするか、タクシーの乗るかしか選択の余地がないわけで。


ちなみに、天気がよい土曜の午後ということもあってか、通りはこのように渋滞中。幸いバスレーンがあるのでフツーのクルマの脇を摺り抜けながら走れるが、ただ、バスレーンへの合流場所や交差点などで渋滞に巻き込まれるのでだんだんバスは遅れてゆく。もとから、始発バス停あたりからかなりの数の客の乗降に手間取って、遅れが広がりはじめたというほうが適当か。しかもこのバスの後ろには同じ系統のバスを含めた4台ほどのバスがダンゴ状態になっている。


この頃から、一人の東欧系の客が運転手さんをイライラさせはじめる。バス停二つおきくらいに終点間近のO'Connell Streetにある某ホテルはまだかと聞いてくるのだ。最初は運転手さんもにこやかに対応していたけど、あれだけしつこいとだんだん対応がつっけんどんになる。


で、O'Connell Streetに着くと、この東欧系の客に運転手さんは親切にも指差しながら、


運転手:「それがホテルだよ」
客:「3番のバスはどこから乗るの」



…あんた、そのホテルに行くんじゃなかったの?


午後1時45分 Lower Abbey Street発


1時30分発のはずが、すでに15分遅れ。今回も方向幕を変え乗車券発行機の設定を変えすぐ出発。


…ちょっと待てよ。ここで、素朴な疑問。


運転手さんはトイレに行かないの?


先ほど休憩が終わったのは午前11時20分。それからすでに2時間30分近くが経っている。人や状態によってはトイレに行きたくなる頃。そういえばさっきから引き合いにばかりだして悪いけど、都内の某バス会社はターミナルはもちろん駅だから駅構内のトイレが利用できて、逆に終点の多くでもバス運転手専用の簡易トイレが設置されているところが多く、あまり「非常事態」に対する心配がなかったような。


実は、この運転手さんそういう質問を組合にしてみたそうなのだ。つまり、「なんで終点に簡易トイレを置かないの」。その答えはいかにもアイルランド的というか…。


答え:「それはね、昔トイレを設置してたんだよ。でもね、農家の人とかがトイレごとクレーンで盗んでいっちゃうんだよね。だからやめた」


…確かに、牧場とかにトイレがあれば便利だ。だけどそういう理由でトイレを盗むか?信じられない話ではありますが。


今回のバスは6割くらいの乗車率といったところか。だからと言って安心してはいけない。Omni Park(ショッピングセンター)前のバス停で、50代過ぎの「ほーら見てごらん」ができそうなコートを着たおじさんが乗ってきた。…目が怪しい。


おじさん:「あーうーいー」(そうとしか私には聞こえない) 運転手:「え?どこ行くの?」
おじさん:「あーうーいー」
運転手:「…なら1.75ユーロだよ」
おじさん:(コインを投げいれる)
運転手:「だめだよ。これ、イギリスのコインじゃん」
おじさん:(ポケットをまさぐり再びコインを投げいれる)



…この動作が実に緩慢で時間は冷酷に流れてゆき、バスはますます遅れていきます。薬をやっているのかなんだか知りませんが、あまり関わりを持ちたくない人ですが、バスの運転手さんはこういう人の相手もしなければなりません。大変な仕事です。


ちなみに後日、聞いてみました。「よく、あーうーいーの意味が分かったね」って。すると「わかんなかったから、一番高い運賃とっておいた。で、Swordsまで乗ったから正解だったでしょ」とのこと。…したたかです。


そうかと思えば次のバス停では


女性:「80セント」
運転手:「子供料金?」
女性:「うん」



…って私はあんたのこと悪いけどオバサンと思ったよ。運転手さんも「ソバカス顔でよく分かんなかった。確かに目は輝いていたけど」とあとで苦笑してた。


あとはお年寄りの乗客、そのほとんどは現金を支払うことはない。東京と同様「老人パス」が支給されており、それを見せればラッシュアワー以外の時間帯は無料で乗れるシステムになっている。それはいいのだが、その「老人パス」を提示しない乗客があまりに多い。パスケース(の表紙)を見せるのはまだいいほうで、ひどいのになると、「私はパスを持っている」と言いながら、バスに乗り込む人も。こうなると無賃乗車との区別がつかない。ひどいもんだと思う。


そんなこんなで終点のSwords Manorに着いたのは予定の25分遅れの3時ちょうど。営業所に無線で遅れの報告。


運転手:「25分遅れでターミナル着。どうしましょ」
営業所:「なら、回送で帰っておいで。おつかれー」



その判断は確かに現実的には妥当。なぜなら、次の41のバスが今まさに発車しようとしていたから。2台続けて同じバスを運行させてもあまり意味はない。というわけで、さすがに回送バスにのせてもらうわけにはいかないから、今まさに出発しようとしている別の41のバスに乗って本日の取材終了。ちなみに、回送のバスは当然空港によらず、高速道路を使って町に戻ったので、次の引継ぎとなる41のバスは定刻通りに運行されたとのことです。はい、これで、よくダブリンバスがスキップされる理由が分かっていただけたと思います。遅れたら回送してしまうのです。


と言うわけで、本日、ダブリンバスの運転手さんに一日くっついて取材して、何が問題なのかと、ついでにこの仕事がどんなに大変かがよく分かりました。この仕事をすでにこのホムペより長く続けているというこの運転手さんに心より敬意を表します。取材協力ありがとうございました。


おまけ。


壊れた(壊された)防犯カメラ跡。


車内の様子。このまま次のドライバーに引き渡されます。


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