| ■ 入国
飛行機はシャルル・ド・ゴール[Ae´roport Charles de Gaulle]空港に着いたが、ターミナルに横付けされなかった。ちっ、面倒くさい。バスで移動か。
(※Attention! 「Ae´roport」の「e´」は、アクサンテギュというアクセントが付いた文字という意味です)
飛行機を久しぶりにタラップで降り、バスに乗る。そしてターミナル2に向けて移動をはじめたバスの中から、期待をこめて初めてのフランスの風景を眺めたのだが・・・そこには、灰色のくもり空の下、白ツメグサや膝丈くらいの草が生い茂る緑色の平原が、地平線が見えそうなほどはるか彼方まで広がっていた。
ええ? なんだこの草っ原は?
それに、いったいどこだ、ここは。まさか成田じゃないよな?
バカな話ではあるが、初めて見たフランスの印象は、えっらい千葉と風景が似ているなー、だった。
たぶん、まったく起伏のないまったいらな草地が地平線のむこうまで続いている、みたいな風景がわたしをそう思わせたのだろうけど・・・うう、なんてこった。全然、「ああ、ついにフランスまで来たんだっ!」という気分になれん。
この後、ようやく到着した空港の建物も、うわさに聞いていたガラスのチューブのような通路が見えた一瞬はおおっ! と思ったけど、建物の中に入ったらまたしてもその気分はしぼんでしまった。
何なんだよ、この通路の薄暗さは。この空港はいま省エネ実行中なのか?
ところによっては電気がついていない場所もあり、なんだかとっても物寂しい雰囲気。通路は、壁もPタイル張り廊下も白っぽい色で、まるで病院みたいに無機質で冷たい感じ。もしくはものすごーく鄙びた地方空港みたい。人気(ひとけ)もないし、天井も低いし。
なんか、思い描いていた空港のイメージとえらい違うぞ。
シャルル・ド・ゴール空港なんていったら、フランスの顔とも言える空港なんだから、もっと、こう、シックでゴージャスで、着いたとたんに、「ああ、さすが“おフランス”」と思わせてくれるような内装を期待していたのに。
だめだー、フランスに来たという実感がわかない。
(※Attention! あくまでもわたしの勝手な思いこみです。笑い飛ばしてやってください)
入国審査を終え(パスポートにハンコなし。つまらんけど、そういうものか)、バゲージ(Baggage)のフロアへ。このフロアは一転して天井が高く、片側の壁が全面ガラス張りになっている。ガラスの向こうでは、出迎えの人たちがこちらをのぞきこみ、スーツケースを受け取る人々の中に自分の待人を探そうと目をこらしている。
荷物が出てくるまで、けっこう時間がかかりそうなので、受け取り前にトイレに行っておくことにする。
トイレの場所はすぐに見つかった。Toilettes[トワレットゥ]と書いてあるのを見て、ああ、やっぱりここはフランスなんだな、と確認する。
――って、トイレでフランスを感じて、どーすんだ、わたし?
その後、スーツケースを無事に受け取り、税関へ。しかし、税関には移動可能な折り畳み式の会議机のような机がいくつか並んでいるだけで、しかも係員はいなかった。まわりのみんなも、税関なんてまるで気に留めず素通りである。
えー? いいの、これ?
さすが、陸続きで外国とつながっている国は違うのう、などとちょっと思ったが(それでいいのかどうかはわらかないけど)、何にせよ、この税関は日本とはえらい違いだった。
■ パリ市内へ
到着ロビーに出て、今回ホテルの手配をしてもらった旅行会社の人(日本人)と合流。あたりを見回したが、ロビーにいる人の姿はまばら。出発時の成田空港の混雑が嘘みたいだ。
いちおう、5月下旬のこの時期は、フランス(パリ?)はまだ旅行のハイシーズン(繁忙期)ではないらしい。そうだよな、時期的に考えれば、この空き具合の方が正しいんだよな。
ほとんど人のいないロビーをつっきって、送迎用の車が置いてあるという地下駐車場へ向かう。途中、両替所もあったのだが、ここはレートが悪いよ、と旅行会社の人が教えてくれたので、両替は市内に着いてからにする。
さすがにここばかりはフランスだからどう、ということはない地下駐車場から、3人車に乗って地上へ。螺旋状になった通路を昇ってゲートをくぐり、駐車場の外に出ると、やはり地上は人気のないがらーんとした平原だった。ただし、あちらこちらにクレーン車が立ち並び、建設途中の高速道路の高架のようなものも見える。
旅行会社の人に話を聞くと、現在シャルル・ド・ゴール空港(ロワッシー[Roissy]という街にあるので、通称ロワッシー空港だそうな。新東京国際空港を成田空港と呼ぶのと一緒らしい)はターミナルが2つあるが、将来的にはさらにもう2つターミナルを建てて、合計4つにするそうな。全部のターミナルが完成すると、世界一巨大な空港ができあがるとのこと。
へえ、それじゃもうその時には、ここはシャルル・ド・ゴール空港街だな。
あまり見慣れぬ国籍の飛行機が駐機しているターミナル1の横を通り過ぎ、車は高速道路のような道に入る。道の左右は、しばらくはごく普通の郊外の風景。途中、左手にでっかいヒョンデ[現代]のビルがあった。車の現地法人が入っているのかな?
空港とパリ市街はけっこう距離があるようなのだが(電車を使っても40分くらいなので、成田→東京ほどではない)、パリ市街に向かう途中の道がまっすぐなところでは、正面にエッフェル塔が見えたようだ。残念ながら、わたしの目では確認できなかった。
でも、こんな遠くからエッフェル塔見えるということは、パリって真っ平らな土地なんだなあ。
そう言えば以前、昔のイギリス貴族が自分の館の前にフランス式庭園(径[みち]が真っすぐでつくりが左右対称、らしい)を造ろうとしたけど、自分の領地は起伏が多かったので、実際に造ってみたらぜーんぜん道が真っすぐじゃなく、左右対称にならなかった、なんて話を聞いたことがある。
そうか、真っ平らな土地か。関東平野は下総台地育ちのわたしが、空港周辺の平原を千葉と錯覚するのもうなずけるわな。
ま、そんなこんなでのんびりとパリ市街をめざしていたわけなんだけど、旅行会社の人の次のセリフで、わたしは息が止まった。
「実は、ホテルは今日から3泊分しか手配できていなんですよ」
・・・え?
うっそーっ!?
ちょっと待て、どーいうこった?
しかも、その3泊の後は、パリ市内で何かの学会があるそうで、4泊目以降のホテルはパリ市内で確保できていないんだそうな。
そ、そんなー。同じホテルに居続けだと思っていたから、荷物を満タンに詰め込むと、ちょっとやそっとじゃ持ち上げられないという(笑)、いっちばん大きなスーツケースを持ってきたのに。
この時になって、どうやら旅行会社の方にわたしが出したメールでの宿泊予約依頼の連絡がうまく伝わっていないことが発覚した。
実は、今回もなぜ無料で空港まで迎えに来てくれたかというと、その連絡がうまくいかなかったために、実際に宿泊の予約を入れたのがほんの3日ほどなので、宿泊用のバウチャーを日本にいるわたしたちに発送できなかったからなのだ。
でも・・・そんなー(泣)。
パリ市内での宿の確保はむずかしいけど、ベルサイユ[Versailles]やロワール[Loire]など郊外に行けば、予約なしでも泊まれるはずですよ、と旅行会社の人。
パリだけがフランスじゃないしね。いろいろ見てくるといいですよ、とも。
そんな簡単に言わないでくれっ!
だいたい、わたしはフランスを見に来たんじゃない。パリを見に来たのだ。
その肝心のパリに、4日目以降いられるかどうかわからないんじゃ、話にならないよ。
フランスなんて、一生に一度来るかどうかわからない国に、せっかく10日間も会社に休みをとって来たのにー(号泣←笑)。
しかし、連絡がうまくいかなかったのには、お互いに問題があったので、わたしとしては文句が言えない状態だった。
(※Attention! みなさんはバシバシ文句言ってください。詳しい話は事情があって、このメール上では一切できないのですが、とにかく、わたしにも非があったのは確かだったのです。うう)
しかも、6泊目以降のパリ市内での宿は探しましょうと旅行会社の人に言われたが、4、5泊目のどうしてもパリ市内では宿を確保できなそうな日の宿は、自力でなんとかしてください、という態度をとられた。
おいおい、待ってくれ。こっちは英語もろくに話せないんだよ。
ちはる、この時点から気持ちが急速に欝(うつ)になる。
見知らぬ、しかも言葉が通じない土地で宿を探す苦労を考えると、とてもじゃないけど楽天的にはなれなかったからだ。
おまけにこれでは、日本でたててきた、この日にはあそこに行こう、この日には何をしよう、という計画が、みんなパーになってしまうではないか。
(※Attention! 美術館は、曜日によって夜遅くまで開いている日があるのです。夜遅い時間は団体の観光客が来ないので、ゆっくり見られるという話だったから、この夜の美術館見学はちはるの楽しみのひとつだったのです。夜のライトアップもあるだろうし。でも結局その計画は、みんなおじゃんになってしまいました)
うう、いったいこれからどうなるんだ?
車がパリへと近付くにつれ、地獄の釜がわたしたちふたりを呑み込むように、その蓋をゆっくりと開けつつあるような気配がしたのは――
ああ、どうか気のせいであってくれ〜〜〜っ!!
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