『フランス10日間徒然日記』 2000年5月20日(土)記

  
第4号
 
1日目の4―――カフェ、その心得(こころえ) の巻
  
2000.8.5 発行
  
 1階

 ホテルの客室内の設備をひと通りチェックし、荷物を簡単に片付けてから、ふたたび手荷物だけ持って部屋を出る。今後の簡単な打ち合せを、フロントで待たせている旅行会社の人とする必要があったからだ。

 そして部屋を出てエレベーターに乗り、1階のボタンを押して待つことしばし。ガーっとドアが開いたので降りようとしたら、そこは明るいフロントではなかった。わたしたちの目の前には、電気が消えかかったような薄暗い廊下がひっそりと横たわっているだけ。

 思わず「え?」と銀(ぎん)と顔を見合わせ、ほぼ同時にエレベーターの階数ボタンを見た。「1」の下に「0(ゼロ)」がある。「0」っ!?

 ああ、なるほど、フランスは日本で言うところの2階が1階で、1階はグランド・フロアー(Ground Floor)と呼ぶ文化圏に属する国なのか。
 おお〜、ヨーロッパじゃーん。

 ――と、ひとしきり感心した後、「0」を押して無事日本で言うところの1階へ。
 しかしこの0階、そう簡単に慣れるものではない。この後もいくどか自分の希望とは違う階に連れ去られて、「ひー、止まれ〜」とエレベーターの中で叫ぶこととなった(笑)。
 でもそうすると、フランス人が日本に来ると、0階がなくてびっくりするのかな?

 というわけで、わたしたちの部屋番号は510だったが、実際に部屋があるのは6階なのであった。わたしにはややこしい限りである。

 

 

 カフェ

 フロントで旅行会社の人と合流して外に出る。石造りの、古くて趣のある建物が、道の両側に並んでいる。人ふたりが並んで歩くのがやっとの歩道にまでテラス席を出しているカフェや、蛇腹のシャッターが懐かしい雑貨屋風のスーパーとか。
 パリなんだな、とは思うが、どうもいまいちしっくりこない。なんか、自分がこの風景に溶け込めないような、奇妙な違和感がいまだにある。
 うーん、おかしいな。中国はいつも一発でなじむし、ソウルでもこんなことはなかったのに。

 ホテルからちょっと歩いたところにあるカフェに入る。まあ、話の内容は割愛させていただく。ようするに旅行会社との交渉事だったし。

 交渉は憂欝だったけど、何しろフランスで初めて入るカフェである。現地在住の人と一緒に入る機会なんて、きっとこれっきりだろうし、今後のためにもここでがっちり「カフェのコツ」みたいなものをつかんでおかなくちゃ。

 わたしたちの入ったカフェ[cafe´]は、テラス席のない店だった。ま、カフェと言っても、看板にはブラッセリーだのバーだのレストランだの、お前はいったい何屋なんだ? と言いたくなるほどいろいろな事が書いてあったと思う。
 それでも基本的に「cafe´」と書いてあればお茶が飲めるそうな。

 飲み方としては、カウンターで立ち飲みと、席に座って飲む方法がある。もちろん席に座って飲むほうが高い。ただし、一度座ったら好きなだけそこで時間を過ごせる。日本のように追い出しをくらったりすることはない。
 カフェのウィンドウには、たいてい外から見えるように値段表が貼り付けてあって、ひとつの品物に対して、このカウンター料金と座席料金のふたつが表示されていたようだ。

 席は自由に座ってよいらしい。実際、この後何度もカフェやレストランには入ったが、この席に座れと指示されたこともないし、勝手に座ってイヤな顔をされたこともなかった。現地の人も自由に座っていたし。
 よく、案内された席以外に座っちゃだめ、とか聞くけど、現在のパリのカジュアルなカフェでは、そういうことはないようだ。
※Attention! いかにも高そうな店には入らなかったので、高い店ではどうだかわかりません)

 そして一番わたしが気にしていたのがチップの払い方。
 ほとんどの本には、自分が座ったテーブルのサービスをしてくれた人に支払い合計額の15%程のチップを払うと書いてあるが、人の顔を覚えるのが苦手なわたしには(絶対国際人になれないヤツ)なかなか至難のわざである。

 しかし、現在のパリにおいては、ほとんどのカジュアルなカフェで、チップ(サービス料)は料金にあらかじめ含まれているそうな。実際、テーブルに置かれていくレシートにも「サ料込み」というようなことがフランス語で書かれていることが何度かあった(何とかconprix)。

 なので、「チップは料金の15%」の俗説(?)は、カジュアルなカフェには当てはまらない(というか必要ない)とのこと。

 ただし、例えば払いの合計が76Fだったら、80Fで払っておつりの4Fはそのままチップとして置いてくるのが普通だそう。1Fでも2Fでもよいらしい(まあ、チップなので気は心だから)。
 でも、おつりが1F以下のサンチーム(100サンチーム=1F)とかだっ
たら、いっそ置いてこないほうがいいらしい。サンチームは日本の1円と同じ感覚なので、チップとしては適した、というかスマートなコインではないそうなのだ。

 ふむふむ、ということは、チップのことはそれほど気にしなくていいんだ。ちょっと安心する。

 以前聞いた話だと、日本人がよく行くサイパンやハワイでは、日本人のチップ払い忘れ防止のために、レストラン側があらかじめ合計金額に15%のサービス料を含んだ金額を人種にかかわらず提示していて、それが問題になっていたそうだけど(やはり、チップを払い慣れている人は頭にくるそうです。あいつのサービスは15%に値しないとかで。わたしは便利でいいだけどな)、そのあたりの感覚は、フランス人はどうなんだろう? カフェ程度ならOKなんだろか。

 まあ、そんなこんなで席に座った。しかし、わたしが想像していたカフェとは違って、なんとなく店内が汚い。テーブルはよごれたままだし(すぐに拭いてもらったけど)、外は見えるけど窓ガラスはほこりだらけだし。掃除するヒマがないほど忙しいのか?

 テーブルは小さい。まあ、これはどこの店でもほぼ同じだった。JRの駅構内にある喫茶店のテーブル程度の大きさと思っていただければよい。席と席との感覚も狭く、ちょっときゅうくつ。

 なんか、こう、パリのカフェーといえば、ルノワール[Renoir]の描く絵のように(あれはダンスホールだが)、太陽の光あふれる開放的な野外で、ひとびとがそこはかとなくエスプリを漂わせながら(笑)会話を楽しむおしゃれな場所だと思っていたのにー。これじゃまるで場末の喫茶店だよ(すみません、このカフェの店主さん)。

 ちはる、またひとつ自分の勝手なパリの想像図を破壊される。
※Attention! ちゃんときれいなカフェもありました。ご安心を)

 とりあえずわたしはコーヒーを、銀は紅茶を所望する。紅茶はどうだったか覚えていないが、この店ではコーヒーは大きさを選べて、シングルとダブルの2種類があった。
 ちなみにお値段は、コーヒーはダブルで22F(約345円)、紅茶はポットでやってきて、同じく22F(同)。
 パリにいる当時は1F=20円で計算していたので、あまり日本と値段は変わらないな、と思っていたが、いまこうして考えると、日本よりもちょっと安いくらいか。テーブル・チャージ込みと思えば、かなり安くなる。

 普段コーヒーを飲む時は、わたしはミルクだけで砂糖を入れないのだけど、この時はまずはじめに何も入れずに飲んでみた。
 う、苦(にが)っ。
 何じゃい、このコーヒーの濃さはっ!
 あまりに濃すぎて、コーヒーにとろみがついてるんとちゃうっ!?
※Attention! 嘘です。それくらい濃かったということです)

 しかし、これがフランスの正しいコーヒーなのであった。
 どうやら日本で言うところのエスプレッソ(espresso)が、フランスのカフェ(=コーヒー)に相当するらしい。

 日本じゃ薄いコーヒーのことを「アメリカン」っていうけど、確かにアメリカ式にマグカップにがばがばコーヒーを注いで飲むことは、フランスのコーヒーではできんわな、などと変な納得をする。
※Attention! 実際には豆の煎りが浅いコーヒーのことを、日本でアメリカンと言います ば〜い某コーヒー屋店主)

 ちなみに、代金の清算はテーブルで、なおかつ給仕してくれた人に、ってこれもよく聞く話だけど、実際にはレジに直接支払いに行ってもOKだった。
 レシート自体は、確かに品物が揃った時点でテーブルに置かれる。でも、清算したいのにお店の人が忙しくてなかなか来てくれない場合には、みんながんがんレシートを持ってレジへ支払いに行っていた。フランス人がやっているんだからいいんだろう、ということで、わたしたちも何度かレジへ清算に行った(もちろんテーブルでも支払った)。

 また、テーブルにお金を置いて、そのまま店員さんのチェックを受けずに店を出ていってしまう人もけっこういた(置いていったお金が少なかったらどうするんだろう?)。
 カフェでは、このあたりもあまり深く考えなくていいらしい。
※Attention! テラス席ではレシートがおかれた時点で払うと聞いたことがあります。わたしたちはテラス席でも席を立つときに払ってましたけど。払ってちょうだいというそぶりも全然なかったし)

 その他、旅行会社の人には、パリの治安も聞いてみた。
 すると、パリはアメリカのように銃を突き付けられてホールド・アップ(Hold up)させられるようなことはないから安心していいとのこと。基本的に治安はいいらしい。もちろん暗い場所は論外だけど、明るい場所なら夜中でも歩いて大丈夫だそうな。へえ、そうなんだ、意外――っていうか、日本以外の外国は治安が悪いっていう知識(?)が完全に刷り込まれているな、わたし。

 ただし、非常に盗難は多いという。車の中にちょっとでも物が置いてあると、速攻で窓ガラスを叩き割られて盗まれていくそうな。だからフランスの車は、カーステ(車についているステレオ)の前面操作部分が取り外し可能になっているという(外すととカーステがついているとはわからなくなる)。
 うーむ、日本の車なんて、みんなカーステどころかカーナビ(車についているnavigation system)だって付けっ放し、高速券だって置きっ放しだというのに。

 まあそんなわけなので、とにかくスリには注意してください、と言われた。わたしも銀も街歩き用に持ってきたのはデイバッグだったので、気をつけないといかんな。

 そんなこんなで旅行会社の人との話を終え、カフェを出て別れる。

 初めてのカフェ体験の感慨をかみしめるのもつかの間、これからのことを考えるとめちゃめちゃブルー(基本的にわたしは根が暗い)。
 いったい4日目以降はどうなるんだろう? 本当にパリにはいられないのだろうか? あの「大は小を兼ねる」精神で持ってきたばかでかいスーツケースをどーすればいいのか。

 あー、まいったなあ、という気分で眺めるパリの街に、わたしはよりいっそうの疎外感を感じていた。

おわり

  
 ● 今回のおこづかい帳 
 
カフェ:22F

小計:22F
合計:22F+16,360円

(※レートは2000年5月当時、1F=15.7円で計算しています)

 

 ● 編集後記 
 
 今回はカフェ特集でした。どうでしょう、役に立ちますか?

 とにかくもう、フランスに行く前にわたしが何を心配していたかって、銀とふたりでカフェに入ってちゃんとお茶が飲めるかどうかだったので、貪欲なまでに旅行会社の人にカフェのこつみたいなものをききまくりました。

 でも結局、この後もカフェに入るたんびにあれこれ悩んだんですけどね(笑)。

 こればっかりは経験を積んでいくしか、慣れる方法がないなあ、というのがわたしの感想です。まあ、とりあえず今回で基本はおさえたということで。

 それではまた次号でお会いしましょう。

 


1日目の1――海を越えて山越えて、クレーターも越えてフランスへGo! の巻
1日目の2――ロワッシー → パリ、そは茨の道なり の巻
1日目の3――パリ、ベンツの車窓から の巻
1日目の4――カフェ、その心得(こころえ) の巻
1日目の5――オレンジ色の夜 の巻
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