『フランス10日間徒然日記』 2000年5月21日(日)記

  
第11号
 
2日目の6――100メートルを突っ走れっ!?/グランド・ギャラリー の巻
  
2000.9.28 発行
  
 ルーヴル美術館・外

 カフェを出た後、だらだらと歩きながらルーヴルへ戻る。
 ふたたびリュ・ド・リヴォリ[Rue de Rivoli]に出ると、ルーヴル宮殿をなす数百メートルは続く建物の一角に、行きには通らなかったルーヴルの中庭が見える門があった。
 せっかくだから行きとは違う道を通ろっか、ということでそちらへ。

 この門の名前はポルト・マレンゴ[Porte Marengo]で、クール・カレ[Cour Carre´]という四方を建物に囲まれた四角い中庭に続いている。
(*Porte=門、Cour=中庭、Carre´=正方形の、四角い)

 ルーヴルって中だけでなく、外にもけっこう見所があるんだ。
 何がなにをあらわすのかちゃんとわかるならじっくり見たいけど、それはカフェでの休憩前に買ったガイドブックにも載っていないので、残念だけどあきらめて先へ進む。

 さて、石の造形はみごとだけど緑はひとつもない中庭をぬけ、右手にある門へ向かう。すると、目の前にガラスのピラミッドが現れた。

 ほっほー、ガラスのピラミッドってここにあるんだ。なんかまだわたし、ルーヴルの方向感覚がつかめてないな。
 

ガラスのピラミッド
これが正しいガラスのピラミッド
シュリー翼
ガラスのピラミッドからのぞむ
シュリー翼

 当然ピラミッド前で記念撮影。
 ピラミッドがすごく大きいので、銀とふたりでお互いかなりの距離を移動しながら写真を取り合うこととなった。

 ついでなのでピラミッドの周囲を回ってみると、わたしたちが最初に見たピラミッドのちょうど裏側にあたる部分が美術館の入り口になっていた。

 そうか、そういやルーヴル美術館の入り口なんだっけ、このピラミッドって。話には聞いていたけれど、最初に地下から入って来ちゃったんですっかり忘れてた。

 しかしこのピラミッドの入り口、めちゃめちゃ混んでいた。何しろ、入り口から180度、左から右へ首をめぐらしても、列の終わりが見えないほど入場待ちの人々が列をつくっているのである。気の短い人ばかりがならんでいたら、いつ暴動が起きてもおかしくない状態である。
 ちなみにこの時の時刻は2時25分。
 ひー、いつこの人たちは美術館内に入れるんだろう? ――などとつい他人事のように考えてしまったが、わたしたちだってもう一度ルーヴルの中に入るんだって。まさかこの列に並ばなきゃならんのか?

 入り口付近はすごく混雑していて、入場券を持っている人と持っていない人で並ぶ列が違うのかどうかよくわからなかった。なので、てっとりばやく地下の入り口に向かう。

 さきほどカフェに向かう時に使った地上出口から地下に降りると、地下の手荷物検査はそれほど混んではいなかったが、やはりチケット売り場はものすごい行列になっていた。
 こりゃ、ルーヴルに来る時は朝早く来るかチケットの前売りを買っておかないと時間のムダになるな。
 フランス滞在中、ルーヴルにはあともう1回は来るつもりだから気をつけないと。

 ニケ

 午後のルーヴル見学第2弾の最初は、銀の希望により「サモトラケのニケ」Victoire de Sanothrace]から。

 ニケはドゥノン[Denon]翼にあるというので、午前中に見たギリシャ美術の展示室を通って行く。
 どこをどう歩いたのかはよく覚えていないのだけど、ふと大階段の上を見上げたら、そこにあっさりニケがいた。

 おおー、すごいすごい、ニケだ。
 大階段の一番上で、白いニケは何かを待ちかまえるように翼を広げ、他を圧する迫力でそびえ立っている。

 へー、写真で何度も見たことがあるのに、実際に自分の目で見るとまた違う
もんだなあ。

ニケ(Nike)
これがニケ(Nike)。
スポーツメーカー「ナイキ」の語源
ポーズがややタイタニック。わかる?

 このニケはやはり大人気。階段下から見上げていたら、ニケと同じポーズをして写真にうつろうとしている人などがいて笑。バカに国籍はない。

 わたしたちもせっかくだからポーズとるか? という話もしたが、さすがにこの人だかりの中でアホなことをする勇気はなかった。

 ところでニケ。本や写真で見た時は、ニケしか写っていなかったので気づかなかったが、実物のニケは彫刻でできた船の舳先に立って、その両翼を広げているのだった。
 その姿はまるで波を蹴立てて疾走する船の上で風を受けているみたいだ。

 でも、この船の部分は後世の作で、ニケはもともと海に突き出た岩の上に置かれていたそう。
 うん、まあどっちにしろ、海風が似合う像である。

 ――なーんて実物を見た時はその堂々たる風格に感動していたけれど、ニケに向かって左斜め前から撮った写真をいま見ると、このニケ、ヘタすればひとりタイタニック状態である(映画で有名なあのシーンね)。

 ニケを写す時は、角度を厳選したほうがいいかもしれない。

 

 

 グランド・ギャラリー/イタリア絵画

 ニケの前で思う存分記念撮影を行った後、その右手にある展示室へ移動する。
 ボッティチェリ[Sandro Botticelli]の宗教画がある通路だか展示室だかよくわからない部屋を抜けると、そこは宗教画がばかりが集められた部屋だった。教会の祭壇を美々しく飾るための絵が多いので、金がふんだんに使われた作品が多いからけっこう華やか。
 そんな絵が、天井画高い部屋の壁に多きものは1つ、小さいものは上下2段になって大量に展示されている。

 カフェに休憩に行く前に買ったガイドブックが今回はあるので、本に載っている作品をチェックしながら歩く。

 色々な絵があったけど、この部屋で覚えているのはひざまずいた男性の絵。男性の斜め上空には、鳥の着ぐるみを着たような人、あるいは人間凧(忍者がやる凧にはりついたまま空中に浮くやつ)のようなものが浮かんでいて、人間凧から男性に向かって何とかビームみたいなものが発射されている。

 何じゃこりゃ? と思っていたら、これは「聖痕を受けるアッシジの聖フランチェスコ」という絵で、フランチェスコに向かって、上空に浮かぶ6つの翼を持つキリストが、自らが磔刑になった時に受けた傷の部分を聖フランチェスコの身体の上に光で指し示しているという絵なのだそうな。
 おお、あの人間凧はキリストで、あのビームにはそういう意味があるのか。なるほど。

 しかし、意味がわからんと偉大な絵も単なるギャグになってしまうぞ。

 その他、十大弟子が仏陀を取り囲むように、聖人たちが聖母子を囲んでいる絵とか、キリストの磔刑の絵とかを見たあと次の部屋に移る。
 するとそこは、長さが100メートル以上はありそうな床がどわーっとはるか彼方まで、それこそ遠近法の消失点が見えそうなほどひたすら一直線に続く部屋だった。

 うおお、すごい。ローマ美術の部屋とはまた違う意味でこの部屋のスケールはすごいっ!

 後で気づいたが、この部屋が世に名高いグランド・ギャラリーだったのであった。
 とにかく、わたしは飾られている絵よりもまず部屋の規模にびっくりしてしまった。こんなでっかい広間の左右の壁に絵がえんえんと飾られているなんて〜。

グランド・ギャラリー
えんえんと絵が続くグランドギャラリー

 ちなみにこの部屋、10メートルほど上空のかまぼこ形の天井には明かり取りの大きな窓がしつらえてあり、室内にはさんさんと日光があふれかえっていた。天井だけでなく、壁にしつらえられた床まである大きな窓からも自然光入りまくりである。

 むう、日本の美術館なんて、展示室に日光が入るところなんてほとんどないぞ。いったい何なんだ、この差は?

 とりあえず絵を端から見ていく。
 このグランド・ギャラリーはイタリア絵画を展示している。幅10メートルくらいある巨大なギャラリーの両端をジグザグ移動しながら見ていったのだけど、絵は非常にキリスト教関係のものが多い。
 日本で曼荼羅を見る機会は多いが、こういった教会に飾られている(いた)絵を見ることはあまりないので、「これは旧約聖書のあの場面だ」とか「これは聖人の何とかだ」と最初は絵解きをするのが面白かったのだけど、はっきり言って途中で飽きた。

 なにしろ、聖母子図、磔刑図、聖人図、聖母子図、磔刑図、聖人図、とキリスト教関連の絵がくり返しくり返し、わたしたちに波状攻撃をしかけてきているような状態だったのだ。

 というわけで、だいたいの絵はさーっと見て、ガイドブックと自分の気に入った絵の前でだけ足を止めることにした。

 その中でもどうやらわたしに衝撃を与えたのが、頭に鉈(なた)だか斧だかがぶっ刺さったまま平然としている人の絵。んじゃ、こりゃあっ!?
 見た瞬間にあまりにも驚いたのだろう。メモには頭に鉈が刺さった人物のスケッチまで残っている。

 何なんだろうね、この人、頭かち割られて立ってるよ、なーんて話を銀としたが、どうもこの人はサン・ドニ[Saint Denis]という有名な聖人らしい。
 273年にモンマルトルで殉死したそうなのだけど、その際切り落とされた自分の首を抱えて10kmほど歩いたのだそうな。ホンマかいな?

 しかし、パリ市内にはサン・ドニ修道院というのがあるのだけど、この修道院はそのサン・ドニが10km歩いて倒れたところに造られた、ということになっているとのこと。うーむ。

 ちなみにこのサン・ドニ、フランス国内ではあちこちで見た。何しろ、切り落とされた自分の首をバゲットよろしく小脇に抱えて持っているのだからわかりやすい。フランスでは重要な聖人なのかもしれない。

 その他気に入った絵は、花で人物の横顔を描いている絵。
 遠くからだと、一見ふつうの人物像なのだが、近くでよく見たら白やピンクの小さな花の絵をたくさん組み合わせて人の顔を描いているのだ。おー、よくできてる。
 隣には鼻はズッキーニ、ほほはたまねぎ、あごはにんじん、というように野菜で横顔を描いたものや、枯れ葉や枯れ枝を組み合わせて描いているものもある。だまし絵みたいなもんか?

花の人物画
花を組み合わせて描かれた人物像
野菜の人物画
こちらは野菜編

 聖書を題材にした絵が多い中で、これはかなり変わった絵だったので面白かった。

 だらだらグランド・ギャラリーを歩いて次に目が止まったのは、少年が片手に石投げ、もう一方の片手にでっかい男の生首をぶら下げた絵。う、血生臭っ。

 銀が「これ、ダヴィデがゴリアテを倒した絵だよ」という。
 ああ、ゴリアテ。だからあの生首あんなにでっかいのか。

 この絵のタイトルは「David vainqueur de Goliath」。意味は「巨人(ゴリアテ)に打ち勝ったダヴィデ」。またそのまんまじゃん。つまらん。

 この絵を見たあたりでグランドギャラリーをちょうど半分くらい歩いた。
 しかし、またしてもわたしたちの体力の限界が近づいていたのだった。

おわり

  
 ● 今回のフランスMEMO 
 
ダヴィデ(David)とゴリアテ(Goliath)

 えー、ダヴィデ。わたしは絵を見ただけではとっさには誰だかわかりませんでした。旧約聖書を最後に読んだのは学生時代ですから、もうすでに何年も前の話になってしまうので、記憶もあいまいで。

 というわけで帰国後、さっそく家の書棚を捜索(笑)し、旧約聖書を探し出して読み直しました。ダビデがゴリアテを倒すあたりの物語は、サムエル記の第17章に出てきます。

 でも、ダビデとゴリアテが出てくる部分というのは、旧約聖書の中でも一般にフィクションである、と解釈されているようです。
 旧約聖書にフィクションもノンフィクションもあるのか? とわたしなんかは思っちゃいますが、まあそれはさておきダビデとゴリアテ。

 サムエル記の中で、ダヴィデは次のように描写されています。

 

   
 

 ユダのベツレヘムの地に、エッサイという名のエフラタ人がいた。彼の八人の息子の中にダヴィデという子があったが(中略)、ダヴィデは、末っ子であった。(第17章12-14)

 その人は金髪で、目は美しく、姿はやさしかった。(第16章12)

 「わたしは、ベツレヘムのエッサイの子どものひとりを知っています。その人は、チタラ(竪琴の一種)を弾くうえに、勇士でもあります。武人で、しかも雄弁で、姿の美しい人です」(第16章18)

 
     

 この記述のせいでしょうか、ルーヴルにあった何枚かのダヴィデとゴリアテをテーマにした絵の中では、ダヴィデはすべて美少年に描かれていましたねえ。

 この頃、ユダのイスラエル人たちはペリシテ人たちに攻撃を受けていました。そのペリシテ人の中にゴリアテがいます。ゴリアテは聖書の中ではこんな感じです。

 

   
 

 さて、ペリシテ人の陣営から、ひとりの挑戦者がでてきた。ガット生まれのゴリアテという名の人で、背の高さは六キュービット半もあった。頭に青銅のかぶとをかぶり、うろこ仕立てのよろいを着ていた。よろいの目方は、青銅五千シュケルほどもあった。(第17章4-5)

 そのペリシテ人はさらに、「私は、きょうこそ、イスラエルの軍団に挑む。一騎打ちをする男をひとりだせ!」とくりかえすのであった。(第17章10)

 
     

 キュービットって、スピルバーグの映画「レイダース/失われた聖櫃」の中でも出てきましたけど、古い時代の長さの単位で、だいたいひじを曲げたときの、ひじから中指の先までの長さを言うようです。
 時代によって長さがけっこう大きく変わりますが(だから、映画の中でもハリソン・フォードが困ってたよね)、間を取って50cmくらいとしても、ゴリアテの身長は3.25メートル。立派な巨人です。

 しかも五千シュケル(約40kg)もあるよろいを着ていますから、そんな人に一騎打ちを挑まれたらビビります。事実、「サウル(イスラエル初代の王)とイスラエル全体とは、そのペリシテ人のことばをきいて、ふるえあがり、ひどい恐怖におそわれた。」(第17章11)のでした。

 その頃、ダヴィデは父親の言いつけによって、戦争に出ていた上の三人の兄の無事をたずねるために戦場へ向かいました。そして無事に戦場に着くんですけど、そこで例の挑戦の言葉を叫ぶゴリアテとゴリアテにおびえるイスラエルの人々の様子を目にし、ダヴィデはゴリアテと戦う決意をします。

 そしてなんと、石っころひとつと石投げ機だけで、あっさりゴリアテを倒してしまうんですね。その場面を聖書では次のように書いています。

 

   
 

 そこでペリシテ人は動き出して、ダヴィデにむかって攻撃を開始した。だが、ダヴィデのほうも、敏捷にペリシテ人にむかって走りよった。そのうちダヴィデは、袋のなかから石をひとつとりだし、ペリシテ人の額をめがけて、石投げではじき、打ちこんだ。石は、勢いのあまり、ペリシテ人の額のなかにめりこみ、かれはうつぶせに倒れた。(第17章48-49)

 走りよったダヴィデは、ペリシテ人のうえにまたがり、かれのさやから、つるぎを抜きだして、それでかれの首を切りおとして殺した。(第17章51)

 ダヴィデはのちに、例のペリシテ人の頭をとり、エルサレムにもっていった。(第17章54)

 
     

 というわけで、ルーヴルで見たダヴィデの絵は、片手に石投げ、片手に巨大な生首をぶらさげた姿で描かれているのでした。

 きっと、聖書をじっくり読み込んでいけば、グランド・ギャラリーの絵はもっともっと楽しめたと思います。お寺をより楽しむには、仏教説話をよく読んでおいた方がいいのと一緒ですね。

 それでは、今回は以上です。

※このコーナーは不定期です。

 

 ● 今回のおこづかい帳 
 
今回はなし

小計:0F
合計:290.39F(約4,559円)+16,360円

(※レートは2000年5月当時、1F=15.7円で計算しています)

 

 ● 編集後記 
 
  今回もルーヴル美術館リポートでした。

 先日、銀に「お前の分の次の日記は10月のあたまくらいに発行の予定な」と告げましたら、「ずいぶん遅かったな。ルーヴルから抜け出せなかったんだろう?」と言われました(^ ^;;)。
 まあ、多少さぼったり何なりといろいろあったのですが、確かに2日目、ルーヴル長いです。でもそれだけ見るところが多かったのだと言うことで勘弁してください。

 ちなみに今回イタリア美術を見て思ったことは、「今回のフランスMEMO」でもふれましたけど、ルーヴルに行く前には聖書ももう一度読んでおこう、ということでした。
 旧約も新約もばんばん画題に取り入れられています。今回のダビデがそのよい例です。
 ギリシャ神話同様、あらかじめ読んでおいたほうが、よりルーヴルを楽しめるようなのでお勧めします。

 それではまた次号でお会いしましょう。

 


2日目の1――布に畳とはこれいかに?/バスティーユ近辺そぞろ歩き の巻

2日目の2――階段を昇って降りて/息切れしつつもメトロ初乗車 の巻

2日目の3――安いは必ずしも得ならず/ルーヴル美術館到着 の巻

2日目の4――年寄りの冷や水とは?/フランス彫刻・ギリシャ美術 の巻

2日目の5――何ゆえコーラがこんなに高いっ!?/ふたりだけでカフェに初挑戦 の巻

2日目の6――100メートルを突っ走れっ!?/グランド・ギャラリー の巻

2日目の7――適切な絵画管理とは?/フランス絵画 の巻

2日目の8――バラビュスに乗っておのぼりさん気分 の巻

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