| ■ ポワティエ[Poitiers]駅前
トゥール[Tours]に戻る切符を手に入れたので、少し心に余裕ができる。
そんじゃあ、ちょっと駅前を歩いてみようか、ということになり外に出る。
青空の下のポワティエ駅前はとっても静か。バスや車の往来もあり、人もそこそこ歩いていたはずなのだが、どういうわけかわたしにはひっそりとした街の印象が残っている。
駅を出るとタクシープールなどがあり(路駐の車に占拠されていたような記憶があるが)、その向こうの通り沿いに、1階にカフェなどが入っている4階〜6階建てくらいの古い造りの建物が肩を寄せ合うようにして並んでいる。

ポワティエ駅 |
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駅前の風景。お店はそこそこある。 |
それらの建物のさらに向こう上空に、断崖絶壁の崖っぷちぎりぎりにびっしりと建ち並ぶ、石造りの住宅群が見えた。建物と建物がみっちりと隙間なく建てられているので、まるで要塞みたいだ。
すっごい光景だな。地震の多い日本では、絶対建築許可がおりなそうな建て方だ。
地震じゃなくても大雨が来たら一発で崖崩れがおきそうな感じだが、建物の古さからみると、そういう危険は今までなかったらしい。
硬い岩盤か何かの上に建っているんだろうな、あの建物。

崖っぷちに建つ家々。ちょっと見づらいか。 |
実際、このポワティエ駅は、両側をゆるやかな崖にはさまれた谷底のような位置にある。もしかしたら昔は川か何かが流れていたんじゃなかろうか、と思わせるような地形だ。
帰国後に調べたが、ポワティエの街はこの崖(坂)をのぼった高台の上にあり、いくつかの有名な教会があるそうな。
しかし、ポワティエに関する資料をまったく持ち合わせていなかったその時のわたしたちには、まるで知るよしもない。
わたしも銀も、できることなら街中(まちなか)を歩きまわってみたかったのだが、高台の上にあるポワティエの街は全然様子が見渡せず、距離感がつかめないのでちょっと不安。
うっかり上の街に行って、思ったよりも時間がかかって戻れなくなり、14時の列車に間に合わなかったりしたらシャレにならないので、おとなしく駅前のカフェで休憩することに決めた。
駅前にはたくさんの建物があったが、その中に1階にカフェが入っている建物が3軒並んでいるのが見える。カフェの張り出し屋根は、右からそれぞれエンジ、赤、緑。その内の赤い屋根のカフェのテラス席にわたしたちは腰を落ち着けた。
お詫びのしるしなのか、「ここはおごるよ」と銀が言うので、ちはる、でかい態度で遠慮なくコーヒーを馳走になる。
まあ、わたしは親にさんざん「本当におまえはのんびりした子だねえ」と言われて育ったが、旅行に出るとせっかちになる傾向があるらしい。
これで銀までせかせかしたタイプだったら、全然のんびりした旅行はできないだろうし、ふたりでしょっちゅうけんかをすることになるだろうから、わたしたちはプラスマイナスゼロでちょうどよくなってんだろうなあ、などとカフェの椅子にふんぞり返りながら思う。
これらのカフェが入っている建物は、どうやら上階がホテルになっているようなので、例え真夜中にうっかりポワティエに来ちゃっても、泊まるところに不便することはなさそうだった。
それにしても、まだ1時間近く時間がある。ひまだ。
日記を書いたり、人目が少ないのをいいことに「カフェーでくつろぐわたし」というタイトルをテーマに写真を撮ったりして遊ぶ。
■ ポワティエ駅
発車時刻20分前くらいになって、さっそくポワティエ駅に向かう。
ひなびた地方駅そのままな雰囲気の待合室に入ると、赤い消火栓のようなものが立っているのが目に入った。形は四角くて細長い。
あ、これ刻印機だ。
そういや、フランスの鉄道では、列車に乗る前にこの刻印機に切符を通して、自分で刻印しなくちゃいけないんだっけ。
あれ、でもモンパルナス駅ではやらなかったなあ。よかったんだろうか?
(※Attention! どうもこの刻印機は、予約していない列車に乗る場合にやらなくてはいけないもののようです。だから、TGVのように便も座席も指定(予約)している切符の場合には必要ないのかもしれません)
ものは試し、やってみようということで、銀とふたりで刻印機に切符をはさんでガッチャンと刻印する。
ちなみにこの刻印機、正式名称はコンポステという(動詞はコンポストゥールだったと思う)。
しかしフランス滞在中にはその名前を知らなかったので、わたしたちの間では「パチコ機」と呼ばれていた。まあ、パチコっていうよりも、ガッチャンていう感じの音だったんだけど。
さらにこの「パチコ」は動詞化(?)し、後日からは「切符、パチコしてこようよ」というように用いられた。

これがうわさのパチコ機。
刻印の必要のある切符は忘れずパチコしよう。 |
というわけで無事に切符のパチコを終え、ホームへと進む。
ホームにはすでに列車を待つ人々がけっこういた。どうやら乗客だけでなく、見送りの人もいるようだ。
そうか。こちらは駅にまったく改札がないから、列車に乗る以外の人もホームに入りたい放題なのか。便利でいいなあ。
入場料なんかでちまちま稼ぐなよJR、とちょっと思う。
その他、ホームには大型の自動販売機があった。飲み物だけでなくクッキーなどの食べ物も売っている。
ま、確かにこんなに列車の本数が少ないんじゃ、有人の売店なんか置いたら赤字だもんね。
このポワティエ駅は車庫があるのか、けっこういろいろな車両がとまっていた。ひまにまかせて写真など撮る。

ポワティエ駅構内 |
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自動販売機がある。便利。 |

日本とは違う列車 |
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ひまだ〜。だから写真を撮る。 |
駅の反対側の高台の上には、わたしたちが降りた駅前側とは違って、現代風の新しい建物が多く見えた。線路をはさんだ左右で、街の開発時期が違うんだろうか。
時刻はちょうど14時。しかしTGVはやってこない。
日本以外の国で列車が時刻通りにやってくるのはめずらしいと聞いたことがあるから、別にあわてたりはしなかったけど、TGVでも遅れるんだな。ふむ。
(※Attention! TGVが遅れても、St Pierre des Corpsで接続列車はちゃんと待ってくれています。ご安心を)
そして14時10分。パリ行きのTGVがホームにすべりこんできて、14時15分に出発した。
■ トゥールへ
今度の指定された席は、わたしは9号車の73番。銀はそのとなり。
その席は車両内がガラスの壁で区切られた一角にあり、座席は2×2の対面式。わたしと銀は隣り合わせの連番だったけど、自分たち以外にその区画にはほとんど乗客がいなかったので、向かい合わせに座る。
通路をはさんだ隣のボックス席には、ずーっと携帯電話でしゃべりまくっているスーツ姿の女性がいた。忙しそう。
ポワティエからSt Pierre des Corpsへ、2時間近く前に見た風景を逆にたどる。
そしてポワティエを出発して20分ほどたった頃、TGVが速度を落とし、どこかの駅に停まった。
ええっ、さっきはSt Pierre des Corps→ポワティエ間、全然停まらなかったよな。なのに、どうしてっ!?
急速に不安になって立ち上がろうとしたが、それよりも前に列車はふたたび前に進み始めた。
一瞬、「取り返しのつかない事態になってるんじゃっ!」と焦ったが、ゆっくりと進むTGVの中からホームの小さな看板を見たら、St Pierre des Corpsとは違う駅名だった。ほっ。心配させないでよ。
その後は窓の外を眺めてぼーっとしていたが、15時に近い頃、高速の出口のような建物が見えた。
そういやこの高速出口、行きにSt Pierre des Corpsを出た時にも見た記憶がある。
そんなことを考えていると、車内にアナウンスが流れた。いわく、「サン・ピエレッコ」。
ふうん、「St Pierre des Corps」ってずっと読めなくて困ってたんだけど、「サン・ピエレッコ」なのか。
(※Attention! いつものようにカタカナ表記すれば「サン・ピエール・デ・コール」なのかもしれませんが、以後はこの車内アナウンスを尊重して(笑)、「サン・ピエレッコ」にします)
アナウンスが流れたんだから駅が近い。荷物を抱えて降りる準備をする。
そして15時ちょうど、サン・ピエレッコ駅到着。
ホームに降り立ち、いざ乗り換えだっ! と意気込んだのだが、なんとサン・ピエレッコ駅にはたくさんのホームがあった。
まいがっ!(MY God!)
いったいどこのホームに行きゃあいいんだよっ!?
乗り換え時間は5分しかない。ただでさえも、TGVは遅れて到着したのにっ!
さすがの銀も焦って何か言っていたような気がするが、そんなことはお構いなしに、わたしはホームを探索機能付きの目を持ったアンドロイドのように見回した。
すると、ふっと視界の隅に「SOS VOYAGE」という文字が目に入った。
何だ? と思って見直すと、それはお年を召したマダムの上着に付けられた青いバッチに白く書かれた文字だった。
SOS VOYAGE? まさにいまわたしたちがSOSだよ。
時間がないのでためらっているひまはない。
がしがしと大股で近づき、「Excuse me.」と声をかけると、すぐにマダムはこちらを向いてくれた。
そして切符を見せて接続便の部分を差し示しながら、「あー、Where?」(気持ち的には「この列車にはどこで乗るんですか?」(笑))とかなんとかしゃべると、すぐにこちらの質問の内容を察してくれて、プラットフォームをはさんでとなりに停車している列車を指差しながら、「これよ。この列車に乗りなさい」と(いうようなことを)教えてくれた。
(※Attention! この列車にはどこで乗るんですか?=Where can I get this train?)
あー、なんだ。隣にいたのか。
そっか。5分しか乗り換え時間ないんだもんね。すぐ隣で待っててくれるのか。こりゃ便利。
(※Attention! 特に変更がない限り、サン・ピエレッコからトゥールへ接続する列車は、TGVが停まったホームの反対側にいるそうです)
マダムも「早く乗りなさい」と身振りで示してくれるので、あわただしく礼を言って飛び乗る。
乗り込んだ列車はけっこうな年代物で、汚くはなかったがだいぶ古びていた。席は、ベンチ席とボックス席が混在していたと思う。
まあ、とにかく乗れてよかった。今度こそトゥールだ。
ほっとして座席に腰を降ろすと、ひとつ前のボックス席に座ろうとしていた若い女性が、何ごとか焦った様子でわたしたちに声をかけてきた。
全然話の内容を聞き取れなかったので英語ではなかったと思うが、必死に訴えるような口調とジェスチャーとで、「この列車はどこに行くのっ!?」と訊かれていることはわかる。
何と答えればよいかわからなかったので、自分の切符の接続便の部分を指でさして、「これ。この列車はこれ」と相手に負けず自国の言葉で答えると、女性は「ああ、なるほど」という様子でうなずいてくれた。わかってもらえてわたしも一安心。
ふう。言葉の通じない相手とのコミニュケーションって、気合がすべてだな。
その後列車は何事もなく出発し、白いコンクリのごく普通の街並みを抜けると、ほんの5分程度で念願のトゥールに到着した。
このとき時刻は午後3時5分。モンパルナス駅を出てすでに4時間20分が経過している。でも・・・ああ、やっとトゥールだ。

トゥール駅構内 |
よし、次はホテルを探しに行くぞっ!
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