| ■ アンボワーズ城、橋の上から
10時近くなって、だいぶ観光客の多くなったアンボワーズ城[Cha^teau D'Amboise]の庭を抜けてお城の出口へ。
お城の出口は入り口と違い、高さが2メートルくらいある大きな柵状のターンスタイルをくぐって出る形式だった。
そのターンスタイルの向こうに、白人の老夫婦がいる。奥さんは足が悪いらしく、だんなさんに支えてもらいながら寄り添うようにして立っていた。仲がいいなあ。
しかしこの老夫婦、ふたりそろってこちらを見ながら「あら、ここはどうやって通るのかしら?」という顔をしていた。
あれ? 入り口は向こうの建物の中だってわからなかったのかなあ。
困っているお年寄りをこのまま見過ごして行く気分にはなれなかったので(だからきっと若者なら無視する)、英語で通じるかどうかはわからなかったが、「There is the entry over there.」(入り口は向こうですよ)と声をかけてみると、一拍おいてから老夫婦は「ああ、ああ」という顔をしてうなずき、「Merci」と言って入り口の方へと歩いていった。
ほっ。通じてよかった。
でも、奥さん足悪そうだけど、お城の中を歩くの大変じゃなかろうか?
アンボワーズ城でもそうだったけど、フランスの城めぐりをしている観光客は、圧倒的に老夫婦ふたり連れという組み合わせが多かった。
日本でも旦那さんが定年退職してから奥さんとふたりで海外旅行、って多いケースだと思うけど、古いお城の中は階段のアップダウンが多くて車椅子用のスロープはなく、当然エレベータはまったくない。
個人差があるから何とも言えないけど、ロワールの城めぐりは体力のある若い内にやっておいた方がいいのかなあ、とちょっと思う。
そういやパリ市内だって、地下鉄にはほとんどエスカレータないし。フランスは年をとってから来るには向かない国なのかな? それとも、年をとってお金がたくさんあれば、タクシーをがんがん乗り回せるから、そんなこと関係ないのかな?
うーん、いまのところ(あくまでもいまのところ)貧乏人のわたしには、ちょっと想像できないや。
さて、お城の全景をおさめるために、ロワール[Loire]川にかかる橋へと向かう。
橋の手前で名前を確認したら、やたらと長い名前がついていた。書き留めてきた綴りに自信がないんだけど、そのメモによると名前は「Pont Ge´ne´ral LecLerc Mare´chal De France」。
後でミシュランのガイドブックを見たら、この橋の上にview pointがマークされていた。やっぱりな、という感じである。
バスの時間を気にしながらも、よりよくお城がファインダーに納まるよう、できるだけ遠くに移動する。
そうしてふり返って見たアンボワーズ城は、貴婦人の似合う優雅なお城というよりも、剣と甲冑がぶつかる音や馬の蹄の音がいまにも聞こえてきそうな、質実剛健で戦闘的な城塞だった。
おおー、これが今までわたしたちがいたお城なのか。
やっぱお城は遠くから全体を見ないと、何がなんだかわからなくてだめだよなあ。
そうして何枚かお城全体が入る写真を撮ったのだけど、後で誰かにその写真を見せたら、「こういう手前に水辺のある(この場合ロワール川)お城を撮る時は、水面にお城がシンメトリーに映っている写真を撮らなきゃだめだよ」と言われた。
(※Attention! シンメトリー=(左右)対称。この場合は上下対称だけど)
確かにその後、フランスのお城の写真集を見たら、手前に湖や川のあるお城は水面にもお城が美しくうつっているものが多かった。
むう、お城を撮る時にはそういうコツがあったのか。
次に機会があったら、意識しながら写真を撮ろうっと。
。
■ バス停がないっ!?
お城の写真を無事撮り終えたのが10時半。
次に乗るバスは10時54分発の予定なので、かなりまだ早いけど、どうせわたしたちのことだから迷うこともあるだろう、と予想し、とっととシュノンソー[Chenonceau]へ行くためバス停へ向かう。
それでも、降りた所と同じ所で乗ればいいんだろう、くらいにわたしたち考えていたので、いたって気分はのん気である。
しかし、いざ行きにバスを降りた郵便局近くへ戻ってみると、バス停はなかった。バス停と思われるようなものはいっさいなかった。
えええ? どうなっているんだ?
日本人的な感覚でいくと、バス停には目印となる標識とか何かが立っているものである。いや、パリにもバス停には標識が立っていた。フランスだって考えは同じはずだ。
しかしそれにもかかわらず、アンボワーズの郵便局近くには、バス停の目印となるものは何もなかったのである。
もしかして、降りる場所と乗る場所が違うんじゃないか? ――という考えが、一瞬わたしと銀の脳裏をよぎった。
よし、近くを探してみよう! とふたりしてやや焦りながら郵便局近くを足早にさがしまわった。行きに乗ったバスが走り去った、ロワール川と直角に交わる道の周辺も探してみた。
でも、やっぱりバス停なんてちっともない。
うっそーっ! どうなっているんだ、アンボワーズのバスの乗り方って?
手がかりをもとめてトゥール[Tours]でもらったバスの時刻表を見る。この時刻表には、案内所の女性が「このバスに乗りなさい」と付けてくれた丸印が書かれている。
それによると、わたしたちが乗ってきた8時発のバスはアンボワーズのラ・ポストゥ[La Poste:郵便局]で発着することになっていたが、これから乗るトゥール10時発・アンボワーズ10時54分発のバスは、「Syndicat d'Intiative」という名前のバス停から発着することになっていた。
げげっ。それじゃあ、今と行きとじゃバスを乗り降りする場所が違うってことじゃんかっ!
聞いてないよ〜、そんなこと。
銀が、「あそこにいる人に訊いてみる?」と子供をふたり連れた女性を見たが、そんな度胸、わたしにはないよっ! と心の中で叫ぶ。
こうしてしばらくわたしたちは、郵便局前のバスが走り去った道の端で立ち尽くしてしまった。
もう、どーにもこーにもバス停が見つからないのだ。
不親切過ぎるぜっ! フランスのバス会社よ。
「あそこに釣具屋さんがあるね」と銀が言う。
「んなこと言ってる場合じゃねえだろっ!」とわたしが叱る。
あああ。イライラしてて申し訳ないとは思うが、10時54分発のバスに乗れないと、今日はもうシュノンソー城には行けないのだ。
(※Attention! タクシーという手もありますがねえ・・・)
何にせよ、このままじゃらちがあかない。そしてバスが来るまで、あと10分くらいしかない。
よし、あそこの花屋に入って訊いてみよう。
言葉の通じない国で店に入って道を訊くなんて、わたしの人生では初めての経験だったし、もう二度とするつもりもないけど、この時はそうせざるをえないほどわたしは切羽詰っていた。
またしてもわたしは心臓をバクバクさせながら店のドアを開け、店の中にいた男性に「Bonjour」と声をかけた。男性も明らかに外国人のわたしたちを見て不審そうな顔をしながらも「Bonjour」と返してくれた。よし、第一関門は突破だ。
そして、「あー、Excuse me. Where is the nearest bus stop?」(すみません、一番近いバス停はどこですか?)と英語で訊いてみた。もうこの時はフランス語を調べて言うような余裕はなかった。
しかし、この男性は英語は×だったらしく、「?」という顔をされてしまった。
ひーん、頼む、バス・ストップくらいは通じてくれ〜と思いつつ、トゥールでもらったバスの時刻表を見せながらさらにたどたどしく続けると、どうにかこちらの言っている内容はわかってくれたらしく、店の外、ロワール川の方を指差しながら「向こうの通りにある」というようなことをフランス語で言ってくれた。
やはり、バス停はこの道沿いではないのか。
わたしたちも困っていたが、男性も突然の旅行客の質問に困っていた様子だったので、わたしたちは早々に花屋を退散した。
そして、行きに乗ったバスがこの郵便局のあるT字路を曲がっていったのは間違いないんだから、この交差点でバスを待ち伏せることにした。バスが来たら何としてでもそのバスに乗るのだ。
不安をかかえながらも交差点で待っていると、10時50分、行きに乗ったのと同じデザインのバスが川沿いの道の向こうからやって来くるのが見えた。
あれだっ! あのバスだっ!
田舎のバスの法則、手を挙げたら止まってくれるをとっさにわたしは実践してみたが、Mr. ビーンそっくりな顔をしたバスの運転手はわたしと目が合ったにもかかわらず、郵便局の前をそのままのスピードで行き過ぎてしまった。
(※Attention! Mr. ビーン=イギリスの有名なコメディ番組の主役)
がーんっ! 行っちゃたよ。
ということは、わたしたちはもうあのバスには乗れないってことっ!?
絶望で目の前が真っ暗になりそうだったけど、本能的に視線がバスの後を追っていた。すると、バスは200メートルほど離れたところにある道幅の広いところでUターンし、そのまま車を路肩に寄せて停車した。
ああ、あそこにバス停があったんだっ!
でもどうしよう、10時54分まであと3、4分しかない。
遠くに小さく見えるバスに、わたしは硬直してしまう。
しかし、銀が「走れば間に合うっ!」とわたしに喝を入れた。次の瞬間、わたしたちふたりは猛然とバスに向かってダッシュしていた。
ひー、本気で走るなんて、めちゃくちゃひさしぶりだよ〜
道を渡ってバスにたどりつくと、やはりバスにはあの無表情なMr. ビーンが乗っていた。だが、ふとバスの前を見たら「Montrichard」(モンリシャール)と書かれた紙が置かれていた。
え? Montrichard? このバスホントにシュノンソーに行くのか?
(※Attention! この時のわたしは知りませんでしたが、モンリシャールがこのバスの終点です)
心配だったのでバスの時刻表を見せながら「シュノンソー?」と訊いたら、Mr. ビーンは仏頂面のまま「Oui」(ウィ:はい)とうなずいた。
ああ〜、よかった。
こうしてわたしたちは無事バス乗車。乗客はわたしたち以外にいなかったが、もちろん運転手の真後ろの席に陣取る。
そしてバスは10時54分ぴったりに発車した。TGVよりも正確な運行だった。
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アンボワーズ→シュノンソーの時に
使ったバスの切符。
これは1ゾーン。2ゾーンとは色が違う。 |
■ シュノンソーへ
川沿いの道をバスは引き返して走ると、やはり郵便局のあるT字路を曲がった。ああ、行き先はこっちであっていたのか。
でも、この道であのまま途方に暮れて待っていたら、このバスには乗れなかったんだと思うとぞっとした。
郵便局を曲がって入った道はけっこう急な坂で、バスはゴオオォォっとエンジン音を響かせながら、ぐんぐんと坂道を登っていった。そしていつしか道の両側は立派な山道になっていた。
これも後で気付いたが、アンボワーズからシュノンソーへの移動は、ひと山越えて南下するのだ。
なので、街らしい風景は見かけなかったと思う。
ちょっと開けた道の左右には麦畑。紫色のあざみの花が咲く山道。わたしたち3人だけが乗る路線バス。のどかだ。
途中、右側に複線の線路が見えた。
へえ、こんな山の中なのに単線じゃないんだな。
私服の運転手は安全運転。停車中の車の追い越しにもきちんとウィンカーを出す。えらい。わたしは教習所を出た後、そんなことしたことないよ。
やがてバスの車窓からは、広々とした畑や草原が見えてきた。
アンボワーズの時みたいにお城のあるバス停に着いたら教えてくれるかなあ、などと銀と話をしていたが、この無愛想な運転手は、草原にまっすぐ続く並木道の入り口でバスのスピードをゆるめると、その道を指差しながら「シャトー」とひと言つぶやいた。
Merci beaucoup!! Mr. ビーンっ! \(^o^)/
この並木道のすぐ近くにあるバス停で下車。
ああ、よかった。一時期はどうなるかと思ったけど、ちゃんと来れたよ、シュノンソー。
わたしたちが降りるのと入れ代わりに、白人の男女ふたりがバスに乗り込んだ。
ふうん、ここからバスに乗るなんて。この先にも何かあるんだろうか?
(※Attention! バスの終点モンリシャールも、ミシュランで星1つもらっている、眺めの美しさで有名な町なのです)
今回のシュノンソーのシャトー[Cha^teau]というバス停は、きっちりここがバス停です、という標識が立っている。標識にはバスの時刻表までついてるし。
うん、これなら間違えようがない。アンボワーズでは苦労したけど、今度は安心して帰りのバスに乗れそうだ。
そしてMr. ビーンが指し示してくれたプラタナスの並木道を、わたしと銀は歩き始めた。
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