| ■ セーヌ河畔にて
午後1時20分過ぎ、オルセー美術館を出る。寒い。風が強い。
美術館前の広場では、大道芸を披露する人々と、それを広場前の階段に座って見物する人々とであふれかえっていた。
大道芸(?)の種類は、アンプやスピーカーを持ち込んで楽器を演奏する人や、ミイラや衛兵の格好をしてただ台の上にずっと立っているだけの人など。
これから「ただ立つ人」になる予定の人だろうか? 身体中に銀色のパウダーを塗りたくっている人もいた。
オルセー美術館近くのセーヌ河畔に降りて、護岸に腰かけミネラル・ウォーターと手作りサンドウィッチのお昼ご飯。
わたしたちの食べこぼしをねらって、鳩たちがそ知らぬ顔で寄って来る。
わたしたちの座っているこの河畔はバトービュス[Batobus]の発着場になっており、すぐ近くに舟が一隻停まっていた。
まわりを見回せば、すぐ左手にはソルフェリーノ橋[Pont de Solfe´rino]があり、橋の向こうには河畔の木立の上にグラン・ルーが頭をのぞかせている。
右手にはロワイヤル橋[Pont Royal]。川の向こうに見えるのはルーヴル美術館だ。
青い空に白い雲、ルーヴルの華麗な建物にセーヌ河畔の並木道、いくつもの趣のある橋、そして日差しを受けてきらきら輝く川。
まるで絵に描いたような風景で、のどかだ。

セーヌ河畔からルーヴル方面をのぞむ |
|

すぐそこに見えているのは
ソルフェリーノ橋。
画像ではわかりにくいが、
木立の向こうにグラン・ルーが見える。 |
名残惜しくはあったがちと寒い。
わたしたちは荷物を預けているホテルへ戻るため、2時ちょっと前に地下鉄駅へと向かった。
■ ホテルで荷物の受け取り
ソルフェリーノ駅はこちら、という案内板を頼りに地下鉄駅へ。
行きと同じ地下鉄出入り口からホームに向かおう、と思って行ったら、なんと行きに使った地上出入り口には上りのエスカレータしかなく、地下へ降りることができなかった。ショック。
どーなってるんだ、パリ? と思ったが、文句を言ってもしかたないのでおとなしく道を向こうに渡って、どうにか地下へ降りられる出入り口を見つけた。
14時15分、ラ・デファンスの駅着。まだ全然時間が早い。
どこか開いているカフェがあればひまをつぶしたかったのだが、今日は日曜日。ラ・デファンスの人工台地の上にある店は全滅だった。あきらめてホテルへ向かう。
さて、荷物の受け取り引換証も何もないのに、バゲージ・ルームにあずけている荷物を返してもらえるんだろうか?
不安を感じながらもとりあえずフロントへ行ってみる。で、いつもどおり「Excuse me.」と声をかけてから、「We keep our baggage here.」(ここに荷物をあずけているんですけど)と言ったら、またしてもあのバカでかいキーホルダーがついた鍵をくれた。どうやら荷物の受け取りもセルフサービスなのらしい。
それにしても、何の疑いもなく鍵を渡してくれるなんて、わたしたちの顔を覚えていたんだろうか、この人たち?
まあ、とりあえず自分たちの荷物さえ無事ならいいや、と思いつつ銀とふたりでフロント裏のバゲージ・ルームへ。
そして鍵を開けて中を見てびっくり。
んじゃ、こりゃあっ!?
バゲージ・ルームにはスーツケースやらボストンバッグやら自転車(!)やらテニスのラケットやらが積み上げられ、いまにも入り口へなだれ落ちてきそうなほどにあふれかえっているやんけっ!!
いったいこのホテルはどーなっとるんだっ!?
しばし銀とボーゼン。
しかも、わたしたちは朝かなり早く荷物をあずけたので、自分たちのスーツケースがそれらの荷物の下敷きになって、深くうずもれてしまっている。
もー、こーなると他人の荷物なんてどーでもいい。
他人様の荷物を踏みつけながら自分らのスーツケースをこの乱雑な部屋の中からどうにか救出。
いちおうバゲージ・ルーム内を見回したが、監視カメラなどはついていなかった。
――ってことは、もしわたしたちが悪人だったら、ここでナイフを取り出して、ボストンバッグをばんばん切り裂いて中身を盗み放題なんじゃん。
えらいところに荷物を預けてしまってたんだなあ。
なんか、最後の最後までわたしには理解しがたいシステムのホテルだった。
こんなホテルはさっさと出よう、と思ったのだが、いつの間にか外はどしゃぶりの雨になっていた。
なんでや? さっきまでセーヌ河畔にいた時はいい天気だったのに。
まあ、さっきホテルに入る直前には、もうぱらぱらと雨が降り出してはいたけど・・・
でも、アスファルトの地面をたたく雨の勢いはものすごいのに、空は明るく晴れ渡っていた。不思議。
少し待ってれば晴れるだろう、とロビーの椅子に座って待つ。
すると、ほんの10分ほどで雨はやみ、真夏並みの強烈な日差しが雨にぬれたホテル中庭の植物とレンガ敷きの地面を照らしていた。
■ エールフランス・バスで空港へ
14時40分、ホテルを出る。
そしてパリ最後のメトロに乗車。4駅ほどでエールフランスの空港行きバスが出るポルト・マイヨ[Porte Maillot]駅に到着。
改札を出ると、幸いなことにエールフランス・バスはこちら、という案内があるのでそれに従う。
しかしこのポルト・マイヨ駅の地下はアップダウンが多い。
重いスーツケースを両手で持ち上げ、階段をのぼっては降り、のぼっては降りを繰り返す。ひー、勘弁してくれよ。
実際、日本に戻った翌日、わたしは両腕が筋肉痛になった。
古い地下鉄だからしかたない、とは思うものの、やっぱり現地にいた時は腹を立てていた。
途中まではエールフランス・バスはこちら、という案内があったが、途中から突然なくなってしまう。
フランス滞在中、こんな目には何度もあっているので予想はしていたが、やはり不安。
とりあえず地上に出たら、すぐ右側に大きな建物があった。そしてその建物正面にはロータリー。
うん、確かにここは昨日コンコルド広場からラ・デファンスに戻る途中にバスで通ったポルト・マイヨだ。間違いない。
だが、地上に出てもやはりエールフランスのバス停は見当たらなかった。
頼む、フランス。方向案内を出すなら出すで、最後まできちんと面倒見てくれよ〜
とりあえずあたりを見回すと交番(?)があり、RERの駅入り口が見えた。でもやっぱりバス停は見当たらない。
スーツケースを持ってバス停を探すわけにもいかないので、メトロの地上出入り口で銀を待たせ、ちはるひとりで周囲を探しに行く。
まず交番とRER駅の間にある交通量の多い通り(Boulevard Gouvion St. Cyr)を北に歩いて行ってみると、路線バスの後ろ姿が見えたような気がした。
なのでさらに通りを進むと、左手にエール・フランスのオフィスが見えた。
へえ、こんなところにエール・フランスのオフィスがあるのか。
だったらバス停もあるんじゃないかと思ったら、まさにビンゴ。空港行きのバス停発見! やったっ!
さっそく銀を呼びに戻る。
ふたりでバス停でバスを待つ。最初はほとんど人がいなかったが、待つうちにどんどん人が増えてきた。
わたしたちが乗るのはJALなので、ターミナル2に行けばよいはずなのだが、バス停の路線図を見ると、どうも同じターミナル2でもいろいろな停留所があるようだ。
そんなこと、わたしは全然知らなかったので、あわててガイドブックを読んでみたが、いまひとつよくわからない。
(※Attention! 正確には「ターミナル2」ではなく、「ド・ゴール空港2」[Ae´roport 2]です。でも、向こうの人は英語ではターミナル2と言ってました)
そんなこんなしているうちに、バスがやってきてしまった。
あわてていたので、うっかりスーツケースを持ったままバスに乗ろうとしてしまったが、大きな荷物はバスの真ん中下部にある貨物室に入れなければいけないのだった。
おう、いかん。先走ってしまったぜ。
スーツケースを渡したら、ポーターの男性が「何ターミナルだ?」と訊いてくる。
この時はめずらしく銀がせっぱつまった様子で「何ターミナルって訊いてるよ!」とわたしに言ってきた。
だから、ターミナル2だっつーの。
なので、「Tarminal 2」とポーターの男性に言ったら、「航空会社は?」と訊かれる。へ? と思いつつも「JAL」と答えたら、「Tarminal 2F(エフ)!」とわたしたちに声をかけながら荷物を積み込んでくれた。
何だろう? ターミナルの2階(2F)に着くのかな?
特に気にせず乗車。お金も問題なく運転手さんに支払う(ひとり60F:約942円)。
しかし、いざ席に着こうと思ってバスの中を見回したら、白人の老夫婦でびっしり席が埋まっていた。ちはる、いっせいに視線を浴びてビビる(笑)。
それでもなんとか席に座ってひとまずホッ。
しかし、出国ゲートをくぐるまでは安心できない。
バスは15時5分にポルト・マイヨを発車したのだが、15時25分くらいに空港に着いてしまった。
ガイドブックには40〜50分かかるって書いてあったのに、20分しかかかってない。道が空いていたのかな?
バスがバス停らしきところに停まり、「ターミナル2何とかー」と運転手が乗客に呼びかけているので、降りる準備をしてバスの前へ。
しかし、降りようとしたら運転手が「何ターミナルで降りるんだ?」と英語で訊いてきた。
だからターミナル2で降りるんだってば、と思いつつ「Tarminal 2」と答えると、「第2ターミナルにはたくさんの停留所があるから、バスはそれを順番にまわっている。で、あんたは第2ターミナルの何停留所で降りるんだ?」とさらに英語で訊いてくる。
ええっ! 第2ターミナルの何停留所っ!?
んなの、知らないよ!
この時、ようやくわたしはバスに乗る前、停留所で路線図を見ていた時のことを思い出した。
そういや、ターミナル2にもいろいろ停留所があるって書いてあったような・・・
あの後、結局ガイドブックを見てもよくわからなかったし、ターミナル1、2の違いくらいだろ、と勝手に思ってしまって、それ以上詳細を調べなかったけ・・・
がーんっ! やっぱりわからないとダメだったんだっ!
その後もこの運転手は、どうもわたしに自分の英語の説明が通じていないと思ったらしく、イライラとした様子で同じ内容を何度も繰り返した。
しかし、わたしは言われてる英語の意味はわかっても、自分がターミナル2のどこで降りるのかがわからない。
進退窮まった、とはまさにこのことで、わたしはどうすればいいのかわからなくなってしまった。しかもバスの乗客全員の視線がこちらに集まっているのである。恥ずかしいやらなんやらで、ちはる、この時点でキレた。
うるせーな。
とにかくここでわたしたちを降ろしてくれればいいんだよっ!!
「わからないっ!」
突然わたしは日本語で話しはじめた。
本当に困った時は、沈黙するよりも自国の言葉で話したほうが相手に意思が伝わることを、わたしは身をもって知っているからだ。
「わからないからここで降ろしてくれ!」
バスの運転手は「チッ」と舌打ちすると、「しかたねーな。降りろ」という様子で(←そりゃあもうあからさまな態度で)バスのドアを開けてわたしたちを降ろした。
んもー、何の因果でわたしたちが見ず知らずのあんたにののしられなきゃならないんだっ!?
(※Attention! いや、相手はもしかすると、純粋に心配してくれていたのかもしれませんが)
荷物をバスから降ろしてもらい、バス停近くのベンチに座り込む。
あー、もー、やだやだ。満座で恥かいた。
あまりのショックに、ちはる、蒼白である。
そんなわたしと銀の前を、ふわふわの天然パーマがかかった黒髪に、くりっとした目とふっくらしたお腹の恰幅のよい体格をした、実写版スーパー・マリオみたいな男性が行ったり来たりしている。今さっきわたしたちの荷物をバスから降ろしてくれた空港関係の人だ。
どうも、ただならぬ様子でバスから降りてきたわたしたちを気にしてくれているらしい。
どうしたのー? 僕を頼ればいいのにー、という顔でこちらをちらちらと見ているが、こちらは赤っ恥をかいたショックでそれどころではない(我ながら蒼くなったり赤くなったり忙しい。笑)。
とりあえず建物内に入り、ガイドブックを熟読する。そしてようやくJALに乗るわたしたちは「ターミナル2F(エフ)」というところに行かなければならないことがわかった。
ああ、だからエールフランス・バスのポーターが、わたしたちの荷物を受け取った時に「ターミナル2F!」と言ったのか。
あの「F」は「Floor」(階)の「F」ではなく、純粋に記号の「F」だったのである。
はああ〜。今ごろ意味がわかったよ。
ちなみにこの時わたしたちがいたのはターミナル2A。空港内の地図を見ると、ここからもターミナル2Fまで歩いて行けるようだが、えっらく距離がある。
「EXIT5」から無料のシャトルバスが出ている、と書いてあるのでようなので、「EXIT5」に行ったら、先ほど建物の中に入ってきた時に使ったのと同じドアだった。
そして外に出ると、バス停で次のバスが来るのを待っていたスーパー・マリオ氏がふと振り向き、わたしたちの姿を見つけてすぐにこちらにやって来た。
ああ、やっぱりわたしたちのこと、気にしてくれていたんだ。
「どこに行きたいんだっ!?」と英語で訊かれたので、「ターミナル2F!」と答えると、スーパー・マリオ氏はさっとあたりを見回し、「あそこのシャトル・バスに乗りなっ!」と1台のバスを指さした。
メッシー・ボクー、ムッシュー・マリオ!
ホントにホントに大感謝である(^ ^)。
スーパー・マリオ氏に助けられて、無事にシャトル・バス乗車。
バスに乗っているうちに、あたりはまたしてもどしゃぶりの雨になった。
でも、やっぱり空は青い。
つくづくフランスは不思議な天気の国だ。
AからFはけっこう長い距離を走ったので、「今度はまさか行き過ぎたとかっ!?」とあせったが、15時40分、ちゃんとターミナル2Fで降りることができた。よかった。
■ 帰国
ターミナル2Fの中に入ったが、これがまた横にな〜がい長い。
JALのカウンターを探すか、と思ったが、どうも銀の具合が悪いらしい。
とりあえず銀をベンチに座らせ、わたしひとりでJALのカウンターを探しに行く。
途中、飛行機の離発着状況を知らせるモニターを見たら、RERの時刻表も出ていた。
そっか。空港へはバスじゃなくRERで来るって方法もあったんだよな。
まあ、どっちにしろターミナル2のどこに行くかを知っていなきゃ、迷うことになるんだけど。
さすがパリ、空港内のカフェまでマキシムだぜ、とか思いながら捜し歩くと、JALのカウンターはターミナル2Fのいっちばん端っこにあった。
飛行機は19時発で、まだ3時間以上時間があるのに、すでにカウンターは個人も団体も長蛇の列である。マジ? 何でや?
銀を呼び寄せ、わたしたちもその列に並ぶ。
順番が来るのを待ちながら列に並んでいる人を眺めると、大学生くらいのグループが多い。
今の季節に旅行? 試験休みでもなかろうに。でも、新入生のためのお祭りって今の時期だっけか。それをサボってるのか、あるいは社会人なのか?
ゴールデンウィークが終わった後&夏休みには早すぎるこんな時期に旅行に来るヤツは少ない、と思っていたわたしには意外。
それにしても列が前に進まない。
おかしいな、と思っていたら、個人の受付カウンターでなにやらもめているのだ。どうも、今日乗ると予約してあったはずの航空券の予約が入っていなかったらしいのである。
困っているのは50代の日本人女性ふたり。日本語が話せるフランス人スタッフを相手に一生懸命説明しているが、うまく伝わらないようだ。
こういう時ってどうするんだろう? わたしはまだ航空券のトラブルに出会ったことがないので、全然見当もつかない。
そのうちに日本人女性のスタッフが出てきて、ふたりの応対を始めた。そして30分以上時間をかけて(つまり、わたしたちはずっとその後ろにいたわけだが)、ようやくどうにか飛行機に乗れる手はずが整ったようだ。
よかった、よかった。旅の終わりでとんでもない苦労をさせられたが、日本に帰れることになってよかったね。
結局わたしたちも、列に並んでから搭乗券をもらうまで40分以上待った。
その搭乗券を受け取る時、スタッフの女性が「よいお席ですよ」と言った。
――まさか。
カウンターを離れると、わたしと銀は食い入るように搭乗券を見た。
そしてそこに書かれていたのは、まぎれもない「EXECUTIVE」の文字。
うっそーっ!? ラッキーッ!
エコノミーじゃない。エグゼクティヴだ――っ!!
うっほほーいっ! とわたしと銀は有頂天になった。
まさかパリからの帰りの便がエグセクティヴだなんてっ!!
(※Attention! 銀とちはるは、以前にも偶然JALのエグゼクティヴに乗ったことがあるのです)

これがその証拠の搭乗券の半券。
赤い下線部を見よっ! |
しかーし。
あらかじめ言っておこう。
実はこの「EXECUTIVE」は、シートはエグセクティヴ、サーヴィスはエコノミーの「EXECUTIVE」だったのである。
よって、機内に乗り込みエグゼクティヴのシートに座るなりメニューとスリッパの確認をしたわたしたちは(※EXECUTIVEのシートにはスリッパがあり、メニューもエコノミーと違う)、スリッパがなくメニューもエコノミーと同じなのを知ると、「なーんだ、今回はサーヴィスはエコノミーのエグゼクティヴ・シートなのか〜」とがっかりした。
なんてこった、フランス。
最後の最後までわたしたちをもてあそびやがって(笑)。
まあ、短い間だけでもJALのエグセクティヴのサーヴィスを受けられると夢を見られただけよかったのだろうか。
しかし、やはりエグセクティヴのシートは広く、日本までわたしはぐっすり眠った。夢は見なかったが(笑)。
搭乗券を手に入れたのが16時50分。
意外に空港に人が多いのを知ったわたしたちは、出国手続きもはやいうちに済ませることにした。
でも、出国手続きはスムーズに進み、あっという間に終わってしまった。
銀が金属探知機をピーピー鳴らしたが、どうもフランスの金属探知機はよく鳴るらしい。通る人通る人みんな鳴っていたような。
わたしが鳴らさなかったのは奇跡じゃなかろうか?
荷物はカウンターに預け、出国手続きも終わってヒマ。
飛行機への搭乗が始まるまで、あと2時間近くある。
とりあえずあちらこちらの免税店をのぞく。が、ほしいものは特にない。知人の子供に「Baby Dior」のタオル地でできた小さなクマを買ったくらいだ。
だが、日本にはディオールは入っていてもベビー・ディオールの商品は入っていないらしく、めずらしいのでめちゃくちゃ喜ばれた(ただし子供に、ではなく母親に。笑)。
セルフ・サービスのカフェがあったのでそこに落ち着く。何を買ったのかはあまりよくおぼえていないが、値段は14F。缶の飲み物の他にもサンドウィッチやらケーキやらいろいろ売られていた。
レジでわたしの前に若いカップルが並んでいた。雰囲気からして社会人には見えず、もしかして学生かな、などと考えるともなくぼんやり思っていたのだが、トレイに置かれた品物を見ると、これから飛行機に乗って機内食を食べるというのに、ものすごい量の食べ物や飲み物が置かれていた。
しかも支払いはなんとゴールド・カード!
なぜだ? なぜその若さでゴールド・カードなのだ?
ちはる、心の奥底からどす黒いものが湧き上がってくる。
よくわからないが、お前らには負けん、と意味もなく思う。
その後は18時頃まで店内の席に着きたる〜く過ごす。
まわりにはたくさん日本人がいる、というか日本人しかいない。
いつも思うが、なぜ空港の喫茶店には日本人が多いのだろう? 自分も入るからなんとも言えないが、不思議だ。
ふと、遠くから誰かが叫ぶような声が聞こえてきた。
なんだ? と思っていると、店の外をふたりの警備員に抱えられた男性が横切った。
それも、両腕をとられて、なんて姿ではなく、上半身と下半身を抱えあげられ宙吊りにされてだ。
「Give me my ticket! Give me my pasport!」と叫びながら、男性は警備員に連れ去られた。あまりよく見なかったが、男性は靴をはいておらずはだしだった。
・・・何だろう? どうやって空港内に入って来たんだろう、あの人。
あれだけピーピー鳴る金属探知機があるくせに、シャルル・ド・ゴール空港の警備はあまいのだろうか?
カフェで時間をつぶすのにも飽きたので、また免税店をめぐりあるく。
すると、ルーヴル美術館やオルセー美術館のお土産グッズばかりを集めた店を発見。
そして何気に数時間前にわたしも買った『オルセー美術館 ポケットガイド』を手にとって見てみたら、値段がわたしが買ったのよりも2F(約31円)安く33F(約518円)だった。なんでっ!?
中国では、博物館の50メートルくらいしか離れていない西と東の売店で、まったく同じ本の値段が全然違ったこともあるけど(昔の話です。今は知りません)、資本主義のフランスでなぜっ!?
「免税だからじゃん?」と銀が冷静に言う。
はっ。イギリスの税金(内税)が高いのは大学の後輩から聞いて知っていたが、フランスの税金は気にしたこともなかった。
それで2Fも値段が違うのか?
(※Attention! フランスの消費税は一般税率が20.6%、食品に対する税率が5.5%くらいらしいです。そうすると、2Fではなく35F×0.206=7Fくらい税金がかかっていそうなものなのですが・・・よくわからん)
なんか悔しかったけど、この本がなければオルセー美術館の見学を短時間ですませることはできなかったろう。
そう思ってあきらめることにする。
お菓子などの食べ物が売っている店も見ている。またしてもさすがパリ。マキシムの缶詰なんかも売っている。トゥール・ダルジャンのもあったか?
CD屋やカメラ屋、酒屋ものぞく。特に興味なし。つら〜っと流して外へ出る。
搭乗ゲート前の椅子に座って待つ。
外は、また青空なのにどしゃぶりの雨が降っていた。
18時35分、搭乗開始。ビジネス・クラスとファースト・クラスのお客様からどうぞ、との日本語のアナウンス。
うきうきして乗り込んだものの、結果は前述のとおり。
しかも、エグゼクティヴの方がどういうわけかTVが見づらかった。おまけに、行きの客室乗務員はあんなに愛想もサービスもよかったのに、帰りの便のスタッフはイマイチ。
2度の食事の時以外、わたしは機内でほぼ爆睡して過ごした。
サービスはエコノミーだった腹いせに(笑)、がんがん酒を飲んだ。
それで酔っているせいか、目をつぶるとフランスで過ごしたいろいろな場面がまぶたの裏に思い浮かぶ。
バスティーユの家具街や、ポワティエの駅前、ロワールのショーモン城、セーヌ川の河畔・・・
ちょっと、目の奥が熱くなった。
5月29日13時35分、飛行機は成田空港に到着。
荷物を受け取り外に出ると、14時15分くらい。
もうどこか店に入る気力は残っていなかったので、到着ロビーの椅子に座って缶コーヒーで一服。
銀が電話をかけに行ったかなんだかで席を外したので、しばらくひとりでぼーっとする。
・・・なんか、収集のつかない旅行だったな。
どう言えばいいのかよくわからないが、何もかもが中途半端な感じ。
パリではルーヴル美術館の夜間見学ができなかったしパリ大学の学食で食事してないし、ロワールではアンボワーズでもショーモンでもブロワでも後ろ髪ひかれながら次の街へ移動しなければならなかったし、トゥールのプリュムロー広場ではビール飲んでないし。
そういやガレットも食べてないぞ。
パリに着いたその日にホテルに予約が入ってないことに気付いて、TGVに乗れば駅を乗り過ごしちゃうし、乗るはずだったバスはシーズン・オフで来ないし、3度目のホテルは清掃が入らないし。
ほんの十数時間前にもバスから降りる時にトラブッたんだよなあ。
いつもの旅行なら、成田に着いた時に「ああ、旅行してきたんだな〜」っていう達成感というか満足感のようなものがあるんだけど・・・
到着ロビーの、決して高くはない天井が妙に高く感じる。
その天井よりも高いところから、わたしを俯瞰しているわたしがいる。
下界のわたしは、椅子に座って背をまるめ、缶コーヒー片手に納得していない顔でどこか遠くをぼんやりと眺めていた。
シャルル・ド・ゴール空港で、帰りの便の搭乗券を手にした銀が、
「フランスにはもう一度『勝負』しに来なきゃいけないな」
と言った。
わたしは、
「うん、そうだね」
と答えた。
|