第2日目(2000.1.31/Lundi)

■大人の国

 パリはメトロ(地下鉄)が発達している。1号線から14号線まであり、至る所で乗り継ぎができるようになっている。メトロとバスをうまく乗り継げば、パリのどこにでも行くことができる。

 メトロの料金は8FF(FFはフランス・フランの略。約17円)の均一料金で、カルネといって10枚まとめて買うと52FF。この割引率はすごい。その他に旅行者用にCarte Orange(カルト・オランジュ)といって、1週間あるいは1ヶ月有効のフリー切符なんかもあるのだが、写真を貼らないといけなかったりするので、今回は買わなかった。

 切符は自動販売機か窓口で買う。同じ切符をバスでも使える。面白いのは切符を回収しないこと。乗るときは自動改札機を通るのだが、出るときは何もない。だからメトロの駅近くには、使用済みの切符があちこちに捨ててある。車内検札がときどきあるらしいが、自動改札機を飛び越えて入ってしまう人をときどき見かけた。「見つかるとすごい罰金を取られるから、絶対にしちゃダメ!」とお嬢Kに言われていたので、真面目にカルネを買う。

 メトロの車両は、ドアの内側と外側にレバーかボタンが付いていて、乗り降りのときはそのレバーを上げるかボタンを押してドアを開ける。閉まるときは自動だ。ところが電車が完全に止まる前にドアが開いてしまう。これはなかなか恐いものがある。

metro  歴史が古いせいか(こんなに人が増えるとは思ってなかったんじゃない?という説もある)メトロの車両は車幅が狭く、つり革も網棚もない。吊り広告もめったに見ない。車内にも駅構内にも放送は一切ない。乗り換えにしても、構内の乗り換え案内には「何号線の何々行きはこっち」しか書いてない。ぼんやりしていると自分が降りる駅、乗り継ぐ駅を乗り過ごしかねないし、駅でうろうろすることになる。

 だからメトロに乗るときは、何号線のどこ行き(その路線の終点の駅)に乗って、どこどこの駅で何号線の何々行きに乗り換える、というのを頭に入れておくかメモしておく必要がある。メトロの中で居眠りしている人がいないのは、スリが多いせいもあるだろうが、どこで降りるか注意しているせいかもしれない。もっとも駅に着く度に窓の外を見て駅名を確認しているのは我々くらいなものだったが。

 ドアの脇には跳ね上げ式の椅子があって、車内が混んでくると座っている人はサッと立つ。このタイミングが憎いほど絶妙なのだ。ボケッと座っている人は誰もいない。それに、どんなに車内が混んでいても、奥のほうから降りる人が「パルドン(すみません)」と声をかけると、ドア付近の人が一斉にサッと降りてしまうので楽に降りられる。ドア付近にへばりついて頑張っているような人は誰もいないし、日本のように「すみません、すみません」と人の間をすり抜けながら降りることもない。

 この国は「大人の国」なのだ。車内放送がなくても、大人なんだから自分が降りる駅くらいわかるだろう。自分が乗り換える駅くらい、大人なんだからわかるだろう。混んできたら、どくのが当たり前なのだ。 不親切とは違う。滞在中、不親切だと感じたことは一度もなかったし、むしろ公衆道徳というか、まわりの人のことをいつも考えている人たちなのだ。

 メトロの駅でもデパートでも、後ろの人のために出入り口のドアは必ず押さえておく。それが次々にバトンタッチされていく。ちょっと間が空いたら「メルスィー」と声をかける。そういうことが街中で行われているのだ。

 だから、なんでもかんでも教えてもらわないと何もできないガキ、世の中には自分しかいないと思っているガキには、この国で生活するのは辛いかもしれない。この「大人の国」というキーワードは、この後いたるところで実感することになる。

 そうはいっても初めてのメトロは緊張する。私も橋本教授 もフランス語が読めないので、駅名はスペル(いわゆるローマ字読みってやつですな)で確認するしかない。それでもホテルにいちばん近いGrands Boulvards(グランド・ブルーバード)駅から8号線のBalard(バラール)行きに乗ってMadeleine(マドレーヌ)駅で降り、そこから12号線Mairie d'lssy行きに乗り換えてようやくPorte de Versailles(ポルト・ド・ヴェルサイユ)駅にたどり着いた。駅に着くとお嬢K が待っていた。

■国際見本市会場

Expo  ここは幕張メッセや国際展示場というよりは、昔の晴海見本市会場に似ている。広大なスペースにさまざまな形のパビリオンがあり、この日もいろいろな見本市をやっていた。我々のお目当ては『Bijorhca』という宝飾品・アクセサリのパビリオン。あくまで業者相手の見本市で一般客は入れない。我々は日本から事前に登録しておいたので入場者証は手に入ったのだが、同時に頼んでおいた有料カタログが届いていない。受け付けにそのことを告げると、しばらくコンピュータで調べてくれたが、結局「わからないから、中の事務局で聞いてくれ」。中の事務局で聞くと「わからないから、とりあえず1冊あげる」ま、あればいいわけだからサ、とにかく。

 けっこう広い会場でたくさんの業者が出店している。北欧から出品している業者もいる。買い付けに来ている日本人もけっこういたりする。一回りしてだいたいの目星をつけてから、近くで昼食をとることにする。パリはお手軽系のイタリア料理の店がけっこう多い。お昼時はパニーニを食べながら歩いているOL風のパリジェンヌやおじさんたちが結構いる。

 途中で見かけたイタリアンの店をのぞいていたら、中から「入れ、入れ」とおじさんに声をかけられた。ピザ2枚(マルガリータとキャトゥル・フォルマージュ)とニース風サラダ、小えびエビのフリット、それにワイン。ワインはイタリアもんだったけどね。

 こちらでは、日本の感覚で食べ物の量を考えると失敗する。とにかく量が多い。日本のフランス料理の店だと、料理は上品にちょっとずつ出てくるが、こちらではどこでもまずその倍くらいの量がある。ピザもフリットもそれだけで十分過ぎるくらいの大きさと量がある。サラダをやめとけばよかった。

 ここではピザはまあそこそこだったが、エビのフリットがおいしい。あっという間にワインがなくなるんだな、これが。

■Stella Maris

 昼食後、再び会場を回って、午前中に目星をつけておいた業者と交渉に入る。交渉したのはお嬢K だけどね。彼女はけっこう目利きができるので、相手の業者もすぐに理解してくれてまともに対応してくれる。「たいていの日本人は、”ここからここまで”みたいな買い方をするのに、うちの商品を実際に身につけて品定めした日本人は初めてだ」みたいな感じで、真剣にこちらの話を聞いてくれる。オーダーを入れた店、あとで店舗を訪ねる約束をした店と何店かあって、そこそこの成果だった。

 その後いったんホテルに戻り、ネクタイとジャケットに着替える。今夜の夕食は、凱旋門の近くの『ステラ・マリス』というフランス料理の店だ。

 パリでは、人気店は1ヶ月以上前から予約でいっぱいになるらしい。『ステラ・マリス』も予約が取りにくい店のひとつなのだが、パリに行くのが決まった時点で予約を入れておいてもらった。シーズン・オフということもあってかすんなり取れたようだ。

 この店のオーナー・シェフは「日本人で初めてミシュランの星をとるだろう」と言われている人で、それももう時間の問題らしい(ミシュランのガイドブックにはすでに紹介されているが、まだ星はない)。以前はおいしい魚を求めて小田原の早川に同名のレストランを開いていたのだが、「ミシュランの星」を目指して3年前(だったっけ)に渡仏し、一等地で頑張っている。

 ミシュランの星(評価)は、料理の味や種類だけでなく、内装や食器、ワインの品揃え、ギャルソンの接客態度など店の全てが評価対象になるらしい。ステラ・マリスも星を狙う店だけに、シンプルだけれども白を基調にした清潔感のある内装や、キビキビしたギャルソンなど気持ちがいい。

 シェフの奥さんもフロアに出て接客にあたっている。この店は日本の雑誌などでもよく紹介されているので、フランス語がおぼつかない日本人旅行者(すいません・・・)もよく来るらしい。自分のことは棚に上げてよく言うが、隣の客は明らかに日本人観光客カップル。その奥は地元の日本人婦人会のオバハン達だ。こういう人たちにはマダムが頼もしい味方だ(もちろんギャルソンは日本語がわからない)。

 こちらのメンバーはお嬢kマドモワゼルM と同僚も入れて、総勢5人。女性3人はフランス語ペラペラ。ギャルソンとあーだのこーだのやり取りしている。寡黙な私と橋本教授

 コース料理の一部を、今日のお薦めに入れ換えてもらう。こういう融通はきくんだけど、その代わりみんな同じものにしてくれときた。まあいいけど。ワインはブルゴーニュでいくことにする。マドモワゼルM はソムリエの勉強をしているので、おまかせ。彼女いわく「(値段が)ほとんど四桁ばっかりだから、安くてそこそこを探すのが・・・」で、白は『プイィ・フイッセ』。こんなの日本じゃ高くてめったに飲めない。赤もオマカセ。で、やっぱり足りなくてもう一本。5人いるけど飲むのは3人なので、やはり『ワインは一人1本の法則』が成り立つ。

 肝心の料理の味は、そうですね・・・。おいしいけどさ。量は日本のフレンチだな。牡蛎のリゾットは絶品。でもなんでフレンチでリゾットなんだろう。まあいいか。日本で食べてるのとあんまり変わらなかったな。

 途中で気がついたのだが、この店は客席が1階とベランダ風の中2階があるのだが、中2階は日本人ばかりだ。1階のほうからはフランス語の会話が聞こえてくるので、どうも日本人の一見の客だけを上に上げているようだ。下の階はフランス人と、常連の(しかも上流の)日本人だけにしている雰囲気がある(確認したわけじゃありません)。フランス人に支持されているというところをアピールしたいのか、日本人しか来ないといわれるのを警戒しているのか、ミシュランの審査員は誰がそうだかわからず、一般客に混じってくるのでいつ来るかわからない。星取りの苦労はいかばかりか。ヤレヤレ。

 フランスでは食後はチーズと相場は決まっているのだが、それをしない、というか知らない日本人客が多い。我々も同じに見られたようで、チーズのオーダーを取りに来ない。どっこい私は赤ワインとチーズ、特にエポワースのようなヤギのやつがあれば後は何にもいらないくらい(少しくらいあっても拒絶はしない)、チーズが好きなのだ。地元暮らしの長い彼女たちも当然。「日本人は(チーズを)食べないと思ってるのよね」ということでギャルソンにチーズを尋ねる。

 来た来た!10種類くらいのチーズはどれもおいしそうだ。初めてみるやつもある。これと、これと・・・これも、とか言いながら、結局5種類くらい選んでしまった。

 しめてお一人様700FF。全然お腹がいっぱいにならない。お嬢K 曰く「これじゃあフレンチじゃない」。量が少なすぎるって。「日本のフランス料理」じゃあるまいし、お腹がいっぱいにならないフレンチなんておかしい、とおっしゃっておりました。

 7時からの食事も、すでに11時を回っている。店を出てちょっと歩くと、夜のシャンゼリゼ通りに出る。冷たい夜風がほろ酔い加減の顔に心地いい。すぐそこにライトアップされた凱旋門がデンッと構えている。おー、かっこいーじゃん! また今度ね。

 メトロで帰る連中(途中でラーメン食べるとおっしゃっておりました)と別れて、タクシーで帰ることにする。酔っぱらって慣れないメトロに乗ったら、どこへ行っちゃうかわかりゃしないもの。


◎◎◎旅行メモ◎◎◎

歩行者優先
 フランスでは道路は歩行者優先が徹底している。車が来ないのに赤信号で立ち止まっている人はまずいない。それどころか信号が何色であれ、車は歩行者がいたら止まるもんだと思っているらしい。
 赤信号で横断歩道を渡り始めるおばあさん。あわてて止まる車。おばあさんはドライバーにニコッと微笑んで、そのままトコトコ渡っていっちゃった。こういう人、多かったです。こういう場合でも、ヒステリックにクラクションを鳴らすドライバーはいないんだな。

電話
 市内通話は1通話3分80C(サンチーム。1FF=100C)。テレフォン・カードは50度数40.60FF、120度数97.50FF。ICカードなんだけど、こっちのほうが高いのね。

トイレ
 大きい通りには有料の公衆トイレが所々にある。楕円筒形の、なかなかユニークな格好をしている。入ってないのでよくわからないけど、2FF入れて中に入り、用をたす。水を流すレバーもコックもないが、あわてずそのまま外へ出てドアを閉めると、自動的に水が流れる、らしい。
 カフェのトイレがいちばん安心。お店のトイレはたいてい地下にある。ちなみにフランスではトイレをノックする習慣はないそうです。ノックすると、中の人が「何事か!?」と驚くのでやってはいけない、と言われました。


前日へ このページのトップへ 翌日へ
■参考文献
個人旅行「パリ」(昭文社)
「カタコトのフランス語がらくらく話せる本」(中経出版)
Copyright (c) 2000 M.Tamura