バスチーユというと、フランス革命のシンボルみたいな『バスチーユ監獄』、とくるのだが、実際には革命直前のバスチーユ監獄は老朽化が激しく、収容されていた政治犯もほとんどいなかったそうだ(市民に襲撃されたときは、囚人はたった7人だったそうだ)。いまはバスチーユ広場に平面図と、メトロの駅に記念碑があるだけだ。今は広場には7月革命の犠牲者に捧げられた記念柱がそびえ立ち、新オペラ座(オペラ・バスチーユ)も造られている。
広場から伸びるリシャール・ルノワール通りに、金曜・土曜と蚤の市が立つ。ここはかなり大がかりな市で、相当な数のアンティーク・ショップ(っていうのか)が数100メートルに渡って並ぶ。食器、家具、宝飾品、布地、本、写真・・・見る人が見ればガラクタだし、見る人が見れば宝の山だ。
朝9:30に待ち合わせしたのだが、遅刻してしまった。慌ててお嬢K を探すが見当たらない。その前にどの通りだかわからない。広場からは放射状に何本も大きい通りが伸びているのだ。通りの名前を示す標識は、当然のことながらフランス語だ。橋本教授 と二人で手分けして『Bd. Richard Lenoire』を探す。えーと、リチャード、リチャード・・・。なんだよ、すぐ後ろだったんじゃないの。えーと、K ちゃん 、K ちゃん ・・・しばらくして発見。何のことはない、向こうも遅刻していたのだった。をいをい。
お嬢K はいろいろ買物。私たちはくっついているだけ。アンティークの価値はわからんよ。なんと中古のバスタブまで売っている。びっくりしていると、お嬢K が教えてくれた。
フランスでアパートを借りると、部屋にバスタブが付いていないこともある。パリに長く住むつもりのない人だったら、新品を買ったら高いのでこういうところを物色する人もいる。つまりフランス人はアンティークを「骨董」としてだけでなく「安い実用品」としても買っていくので、こういう蚤の市は週末になると結構あちこちに立つらしい。中にはクリニャンクールのような常設の蚤の市もある(こちらはアーケードもあって観光客も多いので値段が高めらしい)。
平日だし時間も早いこともあって、まだあまり人出はない。掘り出し物は今のうちだ。いろいろ買って手荷物がけっこうな量になってしまった。いったんお嬢K の宿泊先に荷物を置きに行くために、タクシーを拾う。フランスは歩行者優先が徹底している。たとえ赤信号を無視して歩行者が道路を渡っても、車はクラクションなんか鳴らさない。黙って止まる。
「ブリュッセルなんか信号機すらほとんどなかったし」「え”、事故起きないの?」「道路は歩行者優先、車どうしは右側優先が徹底しているから、基本的に信号いらないんだって」そんなんですむのかなあ。日本じゃ絶対無理だね。
お嬢K はこちらの友人で、F銀行パリ支店にお勤めのマダムYの家に居候しているのだ。マダムY の家はバンブーの近くの閑静な住宅街にある。集合住宅の5階で、1DKながら部屋が広い。「おじゃましま〜す」猫がお出迎え。
一休みして近くのカフェにお昼ご飯を食べに行く。今日のスペシャリテ(お薦め)はオムレツ。チーズ入りとプレーンのフレンチ・ポテト添え。ポテトの量がやっぱりすごい。ハウス・ワインをキャラフェでもらう。いいんだ私は、これがあれば。
カフェでもコーヒーやワインをカウンターで立ち飲みするのとテーブルで飲むのとでは値段が違う、というか席料がつく。ほとんどの店でサービス料は価格に入っているので、テーブルに置くチップはほんとの心づけだ。店員さんに良くしてもらったら多めに、態度が悪かったら置かなくてもいい。置かないで出てくる勇気があれば、だが。
もう一度、バスチーユに戻って買物を続ける。午前中に下見をしていた店に行き、再度交渉。おじさん、売り物の皿を灰皿代わりに煙草を置くなって。いい加減なんだから、まったく。夕方までいろいろ物色し、再び荷物を置きに戻ってから、今夜の夕飯へ。
その店に着いてびっくり! なんと先日食べてメゲた日本料理屋の真向かいだった。いやな偶然。我々が到着すると、先に来ていたマダムY はすでにオリーブをつまみながらキールを飲んでいた。こちらもキールでとりあえず乾杯。
メニューに英語が併記してないので全然わからない。「料理のメニューは一番難しいのよ」そういえばフランス料理のメニューの書き方って「何々風なんとかのどうのこうの何々仕立て」と日本語で書かれたってなんだかよくわからない。だからいちいち料理の説明に来るわけだな。シェフ登場。とりあえずメニューに視線を落としてはいるものの、説明はもちろんフランス語なので、ぜーんぜんワカリマセン。
白身魚のロチ(ソテー)は、ハーブ入り特製バターをベースにしたソースがうまくマッチしてとてもおいしい。あまり広い店ではないが、この日も満席に近いお客さんの数だ。そうなると厨房が一人なので料理が出てくるまでけっこう時間がかかる。でもワインとおしゃべりであまり気にならない。
Y 「***(フランス人の友人)がね、これフランス語に訳してって持ってきたのよ。"私には無理だわ"とか言って」
みんな 「ふんふん」「どんな内容なの?」
Y 「それがさあ、東北地方の御神楽なのよ」
みんな 「えー、そんなの日本人だってわかんないよ」
Y 「しかもさぁ、***本人は、子供連れて観光旅行に行っちゃったのよ」
k 「なにそれー。私だったらやらないよ、そんなの。Yさん、人が良過ぎだよぉー」
私 「***って何やってる人なの?」
Y 「日本語の研究」
私 「それじゃ、自分でやらなきゃ意味ないじゃん。イーミナーイジャーンって、いま日本で流行ってんですよ」
Y 「そうなの?(興味なし)やっぱり、やらないほうがいいかなぁ」
みんな 「やめちゃえ、やめちゃえー」
えー、こういう話が延々と続き、夜は更けていったのでありました。
2本目のワインが空く頃、仔羊がきた。やっぱりフランス料理はソースだな。素材も良いものを使っているし、どの料理も素朴で、でもひと工夫がされている。
お父さんのころは伝統的なフランス料理が主だったらしいが、若いシェフになって新しいもの、ひと工夫したものもだすようになったらしい。本格フレンチはどうも、という人でも、ここの料理はおいしく食べられるんじゃないかと思う。こじんまりとした店で、若奥さんの笑顔が優しい。居心地の良い店だ。
3本目のワインでチーズを食べながら、日曜日にマダムY の家で食事をご馳走になることになった。「ウサギと仔牛とどちらがいいですか?」もちろんウサギでしょう。この季節、ジビエを食べなくてどうするっ! 牛なんぞ1年中あるじゃないの。「ウサギは初めての挑戦だから、失敗したら食べるものがなくなっちゃうけど・・・」何をおっしゃるウサギさん、大いに期待してます。
外へ出るとすでに11時を回っている。夜風が気持ちいいのでホテルまで歩いて帰ることにする。治安の面ではそれほど心配いらないし、この時間ではまだけっこう人通りがある。いつもの食料品へ。「ボンソワー、ムッシュー」顔なじみだよ、もう。寝酒のワインを買う。14FF。ああ、シアワセ。
◎◎◎旅行メモ◎◎◎
●マナーのお話し
フランスで食事をすると当然のようにパンが付いてくる。お皿に残ったソースはもったいないので、よほどの高級店でない限りパンにつけて食べる。
高級なレストランでは、次の料理が出てくるとナイフやフォークも換えてくれるが、中級のレストランではナイフ、フォークはそのまま使う。この場合はパンでナイフ、フォークをぬぐって、そのパンは食べてもいいしそのまま捨ててもいい。
もっと庶民的な、というか肉体労働者が集まるような場末の食堂では、お皿も換えない。次の料理を鍋ごと持ってきて、食べ終わったお皿に盛ってしまう。この場合はお皿はパンできれいに拭いておく。
だから、いくらソースがおいしくても、高級店でお皿がきれいになるまでパンできれいに拭ってしまうと、「当店はそういう店ではございません」みたいな顔をされることがある、らしい。程度の問題。
(以上、お嬢K からの受け売りでした)
●メトロの新旧車両
メトロは1号線から14号線まであるが、14号線は通勤新線といった感じの一番新しい路線で、駅も近代的だし車両も新型だ。駅のホームにもドアがあるタイプで、車内放送まである。おまけにドアの開閉も自動になっている。1号線は駅は古いが車両はオートドアの新型車両になっている。
初めは不安だったメトロも、乗り慣れてくるうちに新型車両が味気なくなってきた(誰だよ、古臭いって文句言ってたのは)。やっぱりさあ、乗り降りのときはこう、ドアのボタンをね、いやレバーでもいいんだけどさ、レバーを上げてドアを開けると、これがいいわけでね(勝手な旅行者談)。