駅を降りて小径を登って行くと、目の前に丘の頂にそびえる『サクレ・クール寺院』が飛び込んでくる。今日は珍しく良い天気で、白いドームが青い空によく映えている。
『サクレ・クール』とは「聖なる心」という意味で、費用の4000万フランはすべて寄付でまかなわれた。地盤が悪く、着工から40数年かかってようやく完成したそうだ。ふもとのヴィレット広場から寺院まではかなりの勾配なので、隣にあるフニクレール(ケーブルカー)で丘を登ることにする。メトロの切符がそのまま使えるので便利だが、よく考えたら8FFは高い(ま、5.2FFだけどさ、正確には)。丘に上がると、観光客相手の写真売りと、大道芸人が何人か出ている。いかにもパリって感じ! 身動きしない芸をやっていて、小銭を投げるとポーズを変える。なかなかやりますなぁ。
入り口までの階段を上がってフと振り返ると、そこにはパリの一大パノラマが広がっている。こりゃあすごいわ。靄がかかってはいるが、パリ市内が一望できる。
とりあえず中に入ってみる。ここも実際に使われている教会なので、入場料などはとらない。重厚な雰囲気の内部には数々のモザイク画やキリスト像があり、一角では信者の人たちのミサが行われている。お邪魔にならないようにそっと見て回る。
高さ85メートルのドームには登ることができる。こちらは15FF。狭いらせん階段をグルグルグルグル何周しただろう。途中で息は切れるわひざは笑うわ、大変なところに登ってしまった。ようやく上までたどり着く。そこからの眺めはまさに壮観。パリ市内が一望のもとに見渡せる。360度のパノラマだ。モンパルナス・タワーから凱旋門、エッフェル塔までが目の前に広がっているのだ。苦労して登ってきた甲斐があったというものだ。降りたくないなぁ(観ていたいのと、階段がきついのとで)。
『サクレ・クール寺院』の裏手には、テルトル広場という、観光客相手の似顔絵描きが集まっている有名な広場がある。ここへ行くつもりでいったん寺院の下まで階段を下り、こちらと思われる方向に歩き出したのだが、いっこうにそれらしいところに出ない。坂を上がったり下ったりしてヘトヘトになりながら、長い石段を息を切らして上がって行くとようやく広場に出た。今日はなんて階段に縁のある日だこと。
広場といっても大した広さではない。近所の公園くらいの広さだ。無名の絵描きと、世界中から来た観光客でごった返している。似顔絵を描いてもらっている人、写真を撮っている人、カフェでコーヒーやビールを飲んでいる人。見上げると『サクレ・クール』のドームが見える。そっちへ歩いて行くと、何のことはない、寺院のすぐ裏手だったんじゃないの。階段を下りずにそのまま裏に回ればよかったんだ。どっと疲れが出た。
土曜日だけあって、周辺の通りはものすごい人出でごった返している。有色系の人が多い。突然、後ろを歩いていた橋本教授 が私にくっついてきた。「スリがいた!」
なんでも、歩いていたら目の前にいきなり小銭を投げた奴がいて、思わず足を止めたら、その瞬間に他の奴がズボンの後ろのポケットに手を入れてきたらしい。東洋系は目立つしね、どう見ても旅行者だし。とりあえず何にも盗られなくてよかったね。でもさあ、いくらなんでも私にくっついて歩くのやめてよ。疑われるでしょうが。
スリの一件でビビりまくっている橋本教授 を引きずって、大きな看板の『TATI』へ。
けっこう大きい建物で、人でごった返している。どうやらジャンルごとに売り場が分かれているみたいだが、何をどこで売っているのか見当がつかない。
とりあえず中に入って2階へ上がって行ったら化粧品しか置いてない。いったん下りて隣の入り口から入る(中でつながってないのよ)と、スポーツシューズがあり、上に上がると女性用のアクセサリー売り場だ。何がなんだか全然わからない。ディレクトリ表示もない。人が多いのでだんだんイライラしてくる。あーもういい! だめだこりゃ・・・。あきらめる。
上に登ってみることにする。いったん地下に降りてチケット売り場で35FFのチケットを買う。すると貼り紙。しかも日本語。「本日はエレベーターが故障しています」。今日は何と階段に縁のある日だ! 仕方がない、登ろう。ヒーヒー言いながら272段の階段(しかもまたらせん階段)を上がる。世界各国語の「ヒーヒー」が聞こえる。みんな、世界平和のために頑張れ(なんでだ)。ようやく展示室に出る。ここでは写真や絵、模型などで凱旋門の歴史を紹介している。ここから屋上まではすぐだ。
屋上の眺めは、これまた壮観。パリが一望のもとに見渡せる。エトワール(星)広場というだけあって、全部で12本の道路がここから放射状に伸びているのだが、そこへ出入りする車の流れを見ているだけでもおもしろい。
シャンゼリゼ通りが眼下からまっすぐに伸び、コンコルド広場が見える。反対側のグランダルメ通りの先には真っ白な新凱旋門が見える。先程までいた『サクレ・クール』も、『ノートルダム』も『エッフェル塔』も見える。天気もよいし、上がって正解だった。
「エコール・ミリテール」とは「陸軍士官学校」のこと。駅をはさんでエッフェルと反対側にある。駅から地上に出ると、すぐのところに『シャン・ドゥ・マルス公園』がある。この公園はもともと陸軍士官学校の練兵場跡で、公園の向こうに建つエッフェル塔という構図の写真を撮りたかったので、わざわざここに来てみたのだ。
エッフェル塔もパリ万博のときに建てられたもので、設計者アレクサンドル・ギュスターヴ・エッフェルは、もともと鉄橋の設計者だった。すぐに取り壊される予定だったが、電波塔として再利用されることになり、そのまま100年が経っている。当時は「鉄のレース編み」と呼ばれ、できた当時は賛否両論。「パリの美観を損ねる」という批判もあったが、ユトリロのように自分の作品に取り入れる芸術家もいた。
エッフェル塔も展望階に登るつもりだったのだが、4基のエレベーターは1基故障中。残り3基の乗り場には観光客の長蛇の列だ。今日は土曜日だから、どこも観光客でいっぱいなのだ。階段を上っている連中もいる。階段はもう勘弁してくれよ。上がるのやめとこ。エッフェル塔の2階展望台には「AN2000」の電光サインがある。
そのままプラプラとセーヌ川にかかるイエナ橋を渡ると、目の前に『シャイヨー宮』が広がる。1937年のパリ万国博覧会のときに建てられた建物で、手前の庭園を囲うように左右に翼棟が広がり、なかなか壮大な建物だ。中は海洋博物館、人類博物館、フランス文化財博物館(休館中)、映画博物館(休館中)、映画館、劇場などがある。でも改装中で内部には入れなかった。近くの屋台でパニーニを買って、食べながら一休み。とりあえずホテルに戻ろう。
シャイヨー宮をぐるっと回って、裏手の『トロカデロ広場』に出る。「トロカデロ」駅からホテルの「グランド・ブルバード」までは9号線1本だ。やっぱり慣れるとメトロは安くて便利だ。
部屋で休んでいると、お嬢K から電話。「よかった、やっとつかまった」あのね、出かける前にそっちに電話したら誰も出なかったんだけど。「Y さんがインターネットにつなぐのに電話線を差し替えて、そのままになってたのよ」よくあるよね・・・。
その前に少し時間があるので、オペラ座の裏にある『ラファイエット』というデパートに買物に行く。すごい人出。家庭用品売り場でワインのコルク抜きをふたつ。ひとつはハンドルのデザインが気に入ったソムリエ・ナイフと、もうひとつは2本のツメをコルクの両側に挿して、そのまま回して引き抜くというもの。50FFが35FFになっている。安いから買っておこう。
ちなみにフランス(人)に求めてはいけないものがひとつわかった。『効率』。調べてないが、たぶんフランス語には『効率』という言葉はないな(あります)。もうひとつあった。「テキパキ」。レジのオバハンたちはあくまでマイペース。ゆっくりと包装し、途中で他の客が何か尋ねるとそっちへ行き、お金を受け取り、その客と話をして、「さよなら」。その間、私はふたつのコルク抜きを携え、待つことしばし・・・。ここでイライラしてはいけない。「大人の国」だから。でも待ち合わせの時間があるんだよ。
書籍/CD売り場にいく。フランスのミュージシャンは知らない人ばっかりで、CDもそんなに安くない。CD等に限らず、フランスの物価は全般的に日本に比べて安くは感じない。ただ食べ物に関しては、同じ値段で量が多いのでコストパフォーマンスがかなり良い。日本の食料品が高すぎるんだけどね。今年の手帳(Agenda)を売っている。表紙がフランス風でなかなかいいじゃないの。時期遅れで安くなってるし。おみやげにしよっと。
メトロの「ピラミッド」駅の地上に出たところで待ち合わせ。どっちも来ない。しばらくしてフと道路の反対側を見ると、橋本教授 とお嬢k が私を待っていた。あれ? ひとつしかないはずの出口がふたつあって、お互いに違うほうで待っていたんですね。
歩いてすぐの『福禄寿酒家』はフレンドリーな店で、店員さんには日本語が通じる人もいる(日本人ではない、と思うんだけど)。結構地元の日本人も使っているらしい。紹興酒と、点心をいろいろ・・・あとは日本で食べるのと同じです。わざわざ書くまでもありません。面白くもなんともない。おいしかったけどね。もうお気づきでしょうが、なんでパリに来て日本料理屋や中華ばっかりなのかというと、橋本教授 はフランス料理が苦手なんですね。人選を間違えた、とまでは言いませんが、間違えた。
今日も寝酒のワインがおいしい。これがあればなんでも赦しちゃう気になる。
おやすみ。
◎◎◎旅行メモ◎◎◎
●お金の支払い
アメリカだと、$7のものを買って$10札を出すと、$10分のコインをもってきて、客の目の前で$7を引き、残りを客に返す。フランスではさすがにそこまでやらないようだが、75FFの物を買うのに100FF札と5FFコインを渡しても、コインを受け取らない。そういうややこしいことは、日本でだけ通用する。