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■ シェムリアップ[Siem Reap]へ
ED(出入国)カードを書いているうちに搭乗が始まった。
飛行機まではバスで移動である。
バスの中はけっこう混んでいた。わたしが立っているところからは手すりにはつかまれなかったが、「まあ、大丈夫だろ」とタカをくくっていたら、あなどるなかれバンコクのバス、非常に運転が荒かった。
あー、車が右に曲がるなー。曲がる、曲がるっ、曲がる――っ! と思った時にはわたしの身体は慣性の法則にしたがって左側にすっ飛び、横にいた豊満なバストの赤毛の白人女性に思い切り体当たりをくらわせていた。
ひーん、ごめんなさーいっ!
「そ、Sorry!」とこんな即座に英語で謝罪の言葉が出てきたのは、生まれて初めてではなかろうか?
その女性は英語圏の人ではないようだったが、「仕方ないわね」という様子で苦笑していた。
「バンコクの運転は荒いからなあ。遠慮しないでちゃんとつかまっときなー」とくだんのおっちゃん連のひとりがなぐさめのつもりか声をかけてくれたが、わたしはあまりの恥ずかしさに顔をあげられず、申し訳ないが無視させていただいた。
その後もいくどか体当たり攻撃(をしてしまう)の危機をきりぬけ、どうにかバンコク・エアウェイズ(Bangkok Airways)の機体が駐機しているところに到着。
おおー、事前にわかってはいたことだが、本当にプロペラ機だ。
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| シェムリアップ行きで乗るプロペラ機 |
後ろにいたおっちゃん連のひとりが、機体を見て「ソーハツキだ」とつぶやいた。
「ソーハツキ」が何であるかはわからないが、「双発機」とすぐに漢字変換できるあたりが日本人だよなあ、と自分を思う。
帰国後に調べたら、「双発機」とはその名の通り、エンジン(発動機)をふたつ(双)積んだ飛行機のことだそうな。
確かにわたしたちが乗った機体は、左右両翼に1つずつプロペラがあるタイプの機体だった。もちろん、プロペラはそれぞれにエンジンでまわっているので、当然エンジンも2つ。よって双発機ということになる。
じゃあ、単発機ってどんなんだ? と思ったら、機体の先頭にだけプロペラがついているようなタイプのものだそうな。
単発機はひとつしかないエンジンが止まってしまったらその場で人生アウトなので、単発機だとわかるとその便の飛行機には乗らない、という人もいるらしい。
バンコク・エアウェイズのプロペラ機に単発機があるのかどうかは知らないが、とにかくわたしたちは無知ではあるが、運はよかったようだ。
プロペラ機に乗るのは初めてなのでばしばし写真を撮っていたら、マダムが「あら、どうしてカンボジア・エアウェイズじゃないの?」とおっしゃる。
何寝ぼけたこと言っとるんじゃー、と思ったが、どうやらマダムはこれからカンボジアに行くので、すっかりバンコク・エアウェイズのことをカンボジア・エアウェイズと思い込んでいたらしい。
おまけに機体には「Siem Reap Air」と書かれていたのでよけいわけわかんなくなったようだ(Bangkok Airとも書かれていた)。
わたしが説明したので「ふうん」とはうなずいたが、あいかわらず疑わしそうな目で飛行機を見ていた。
(※Atteition! 「カンボジア・エアウェイズ」は存在しません)
飛行機には、飛行機のドアがバクッと上から下に開くと、そのままタラップになる式の階段で乗り込む。
中は狭い。今まで乗った飛行機の中で一番せまい。天井も低い。
座席は左右に2列で並んでいた。全部で70人くらい乗れる機体だったろうか? きっと、大柄な人にはかなりシートも狭く感じられるだろう。
まあ、ほんの50分、と思えば耐えられる。
わたしとマダムは一番前の席。わたしのすぐ右斜め前、50cm離れてるか離れてないかくらいの距離にスチュワーデスさんが立っている。
スチュワーデスさんとお話するのが何より楽しみ、というわたしの知人などにはおいしすぎるロケーションだ。
バンコク・エアウェイズのスチュワーデスさんは、真っ青なワンピースに赤と白のストライプかなんかのスカーフをしていた。ほっそりした身体がより細く見えるような、シンプルなデザインだ。
さて、いくつかまだ空席があるが、すでに乗客は全員乗り込んだらしい。
ふと気づくと、スチュワーデスさんはわたしのすぐ側で両足を開いて仁王立ちになり、サッ、サッと通路の後方に向かって手旗信号のように腕をふっていた。
一瞬ぎょっとしたが、ああ、後ろにもスチュワーデスさんがいて、合図を送りあっているんだろうな、と想像する。
安全確認が終わったのだろうか、スチュワーデスさんは薄いドア1枚くらいしか隔たりがないであろうコックピット側をふりかえると、壁と壁のすき間に収納されていた自分が座る座席を引っ張りだした。
おおっ、何てコンパクト。
さすが小さな機体、ムダなく造られている。
そしてスチュワーデスさんは通路の真正面にセッティングされた座席に、客席側を向いて座った。
そして時刻は6時。機体は滑走路を走りはじめた。
小さな機体のせいか、すごく速度を感じる――っていうか、おい、プロペラがパラパラ回る音が聞こえるぞ! そういうもんなのかっ!?
たいした距離も走っていないのに、あっという間に機体はぴゅんって感じで宙に浮いた。
ひー、いつもと違って何だか気持ちわる〜〜
機体は左に大きく旋回した。左下に夕暮れのバンコクの町が見下ろせる。
濃い緑の町の中に、白い建物が目立つ。タイならではの派手な色のお寺が、いくつか見えた。
窓の外を水滴が流れた。雲の中に入るんだな、とわかる。
雲は厚くなく、ところどころの切れ間からバンコクの町を眺めることができた。
離陸と同じく、あっという間に水平飛行に移る。
すると、背後から何かが忍び寄る気配がした。何だろう、と思ったら、なんと機内食のサービスだった。
うっそー、たった50分しか飛んでないのに、機内食が出るのー? しかも、こんな狭い機内で。
しかし、ちゃんと機内食は出るのであった。しかもカートでサービスされる。本格的。
まず最初に、おしぼりが配られた(よくお弁当とかに入っているアルミ個包装のものではあったが)。

おしぼり |
んで次に機内食。ロースト・チキンみたいなのにサラダ、パン、デザートにはパイナップルとパパイヤ。
量は多くないが、透明なブルーノプラスチック製ナイフとフォーク、スプーンもついていて、ちゃんとした機内食である。

バンコク・エアウェイズの機内食 |
すごい。まさかこんな小さな飛行機で機内食が出るとは思わなかった。
最後にまともな食事をしたのは、JALの機内で食べた昼食で、すでに7時間以上たっている。お腹が空いていたので全部食べてしまった。味の方も、どの料理もくせがなくおいしかった。
食後にはあたたかいコーヒーも出た。わたしは飲まなかったが、マダムに聞くと「パリで飲んだコーヒーみたい」とのことだった。
ということは、めちゃくちゃ濃いのであろう。
おなかいっぱいでああ、満足〜と思っていたら、足元でゴッと音がした。スチュワーデスさんが何か落としたらしい。
何気に見たら、それはカップに入ったアイスクリームであった。
おおおっ、まだ食わせるんかい、バンコク・エアウェイズっ!

Wall'sのアイスクリーム |
そしてまた食ってしまうのが貧乏人である。
どこの国製造かは知らないが、「Wall's」というメーカー製のチョコレートアイスだった。
たぶん、ちゃんとしたアイスクリーム(つまり乳脂肪分率の高いアイス)だったのだろう。日本で食べているのと全然かわりない味だった。
とまあ、食事に関してはまったく文句なしだったのだが、後ろの席のおっちゃん連がうるさい。ちっちっちっと音を出して歯をせせったり、大きな音でゲップをしたり。
うう、同じ日本人には思われたくないよう(T_T)。
窓の外はどんどん暗くなる。
バンコクから見てシェムリアップはほぼ真東になるので、飛行機は夜に向かって飛んでいるのと同じになる。日が一気に暮れていく感じだ。
プロペラ機とはいえ、気流が安定していれば、まるで滑らかなアスファルトの路面を走るリムジンのようにほとんど揺れがない。
ただ、機体自身の細かな振動がダイレクトに身体に伝わるので、声がふるえる(笑)。漫才みたいだ。
真下はジャングルらしい。カンボジアに近づくにつれ、厚い白い雲が眼下を流れていくのが見える。
いつの間にか、外はすっかり夜になった。真っ暗で何も見えない。
6時53分。耳が痛いな、と思った。だいぶ高度が下がってきたのかな?
6時55分にはスチュワーデスさんがさっきと同じ要領で座席に着いた。すると、機内の照明が落ちて暗くなり、音楽が流れ始める。
空港がもうだいぶ近いんだろうな、と思ったのだが、外にはやはり何も見えない。
だけど、翼のプロペラが光を受けながら回る姿が見えた。
そして6時57分、着陸。耳が痛いな、と思ってからわずか4分しかたっていない。あっさりしたものである。
離陸はぴゅんって感じだったが、着陸もすうっ、ってな感じだった。
初のプロペラ機体験は、食べてばっかりで(笑)怖がる間もないうちに終わってしまったな。
さあ、次はいよいよカンボジア入国である。
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