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■ シェムリアップ空港
バンコク[Bangkok]を起ったプロペラ機は、6時57分、シェムリアップ[Siem Reap]空港に到着した。
あたりは真っ暗だが、機体右側の窓から空港の建物が見える。
当然、ボーディング・ブリッジなんて必要ないので、乗った時と同じようにタラップで駐機場に降り立つ。
すると――おお、真っ暗で何もない。
中国の敦煌の空港に降り立った時には、果てしなく遠くまで何もない真っ白な風景がわたしを呆然とさせた。
だが、シェムリアップの空港は、闇に塗り込められた真っ黒で真っ暗で何もない風景が、わたしをしばし放心させた。
うーん。こりゃまた、すごいところに来てしまったようだぞ。
しかし、ふりかえればオレンジ色の光の中にこじんまりとした小さなシェムリアップ空港のターミナルビルがあった。
オレンジ色の光を放つ駐機場の照明は、いまわたしたちが乗ってきたプロペラ機とその周囲をも照らしだしている。
オレンジ色の照明って、夜の高速道路を思い出させて何となくさみしくなるから嫌いなんだよねー、と思いつつ、人の流れにしたがってターミナルビルへ向かう。

シェムリアップ到着 |
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ターミナルヘ向かう |
空港のビルというよりは、地方の小さな駅舎のような建物の中に入ると、入り口のすぐ近くにあるカウンターにわたしたちと同じ飛行機に乗ってき欧米人たちが、締切まぎわの馬券売り場に現金をにぎりしめて殺到する人々のように群がっていた。
何だろう? バゲージか? と思ったのだが、どうもそうではないらしい。
ふと、カウンターの後の壁上部を見たら、「TOURIST $20 BUSINESS $25」と書かれた看板だか貼紙だかが掲げられていた。
いったい何のことだろう――と思ったのは一瞬のこと。
すぐに、EDカードに添付されていた書類のことを思い出し、あの価格表は「ビザ」の値段だっ! と気付いた。
がーんっ! カンボジアのビザって、こんなところで簡単にとれるのっ!?
しかも安い。
ツーリスト20ドルなんて、約2,400円くらいじゃん。
手数料込みで8,750円も日本で払ったわたしは、いったい何なんだ?
ここでまたしても、成田空港でのやりとりがわたしの脳裏をよぎった。
――カンボジアのビザは現地で申請されるんですね?
カンボジアのビザは日本でとっていかなきゃダメだってわたしに教えたのは誰だ? 本にも書いてあったし、旅行代理店でもそう言われたぞ?
嘘つきーっ! だまされたっ!
(※Attention! 『地球の歩き方』には、カンボジアのビザはプノンペンの空港かシェムリアップの空港で簡単にとれると書いてありました。今回『地球の歩き方』を読まずに行ったので知りませんでした。不覚)
ちはる、カンボジアに着くなりいきなり大ショック。
当然のようにシェムリアップ空港でビザを申請する欧米人たちの脇を通過して、日本人しか並んでいない入国審査の列の最後尾につく。
確かに、今回はツアーだから細かい旅程は旅行会社におまかせ、と思って、カンボジアに関する本はアンコール・ワット関連の本しか読んでこなかった。だから、カンボジアに入国するにはうんぬんの知識はほとんどゼロなんだけどさ。
昔、3,000円も出して日本のEDカードを旅行代理店に書いてもらっていた友達を「アホか? 言ってくれればわたしがタダで書いてやったのに」と思ったことがあるが、今わたし、それと同じ状態じゃん。
知らないということは、くやしい思いをすることなのだな、とちはる、シェムリアップの空港でため息をつく。
さて入国審査。
駐機場から歩いてやってきたそこは到着フロア、とでもいうのだろうか? ビザの申請所、入国審査場、バゲージフロア、税関が一度に見渡せるほどコンパクトに収められた1部屋だった。
2階まで吹き抜けになった到着フロアにエアコンは効いておらず、天井に付けられた大きなファンが、ゆっくりと蒸した空気をかきまぜている。
ビザ申請のカウンター前をぬけると、制服を着た男性がふたりずついる木製の小さなカウンターみたいな机がふたつあり、それが入国審査をするところだった。それぞれの机の前に人々が列をなしている。
審査官と審査を受ける人の間にガラスの仕切りなどはない。素のままである。
もちろん、入国を管理するコンピュータなどもない。
ああ、田舎に来たんだなあ、と感じる。
バンコクのドン・ムアン空港でもらったカンボジアの入国関連書類は、EDカード、税関申告書、ビザ申請書の3枚が1組になっていたようだ。
あまり深く考えず、3枚1組になったまま審査官の人に渡したが、特に何も言われなかった。そして一言も言葉を交わさぬまま審査終了。
ちなみに、カンボジアの出国カードは成田のようにホッチキスでパスポートに留めてもらえない。なくさないようパスポートにはさんでしっかりバッグにしまう。
そして入国審査の机横を通り過ぎて5歩もあるけばそこがバゲージフロアだ。
ホント、こじんまりしている。
バゲージフロア、というか荷物引取所というかには、高さ30cmほどの横長の台がL字型におかれている。どうもその上に飛行機に乗せられてきた荷物を並べてくれるらしい。
どうやってここまで荷物を運んできてくれるのかな? と思ってみていると、飛行機から空港建物まではカートのようなもので荷物を持ってくるようだが、その後は大きく開け放たれた空港の窓からわっせわっせと人が直接荷物を運び入れていた。
うーむ、そうきたか。
70人くらいしか乗れない飛行機なんだから、荷物の数もそんなにないとは思うのだが、せっかちな人というのはどこにでもいるらしい。いちおう空港関係者以外はここから先に入っちゃだめ、ということになっているらしい台の上を乗り越えて、我先に自分の荷物をGetしに行く人もいた。
おかげで、せまいバゲージフロアには客と空港関係者が入り乱れてしまい、もはや台の境目としての意味はなくなってしまっていた。
わたしとマダムはどうやって荷物を受け取ればいいのか、後方から様子をうかがっていたので、ふつうに係の人からバゲージのクレームタグと引き替えにスーツケースを受け取った。
おおっ、クレームタグが役に立ったの、初めてだ。
次は、まだ手元に残っている税関申告書を空港出口の前に立っている係の人に渡せば、ひととおりの手続きは終了だ。
この時時刻は7時14分。入国にかかる手続きは15分くらいで終了したということか。ほっと一息をつく。
さあ、次は現地のツアーガイドさんを探さなきゃ、と思って出口前を見たら、真正面にわたしとマダムの名前を書いたサイン・ボードを持った、黄色いワイシャツに濃紺のスラックスをはいた小柄な男性が立っていた。
わたしとマダムの名前しか書いてないってことは、このツアー参加者はわたしとマダムのふたりだけなのか、と思いつつ、ガイドさんとあいさつをかわす。
とってもよいガイドさんだったのだが、実名を出すのも何なので、以後はKさんとさせていただく(現地でどれくらい多い名前なのかわからないので)。
客引きなんだか到着客を待つ現地ガイドなんだか、よくわからん人たちでごったがえす空港出口を離れ、Kさんはわたしたちを車に案内してくれた。
空港前は暗い。街灯はほとんどなかったように思う。だから、到着時の空港前ロータリーの様子をわたしはおぼえていない。
車も、暗闇の中ではっきりとはしなかったが、日本のセダンみたいなシルエットだ、と思った。案の定、トヨタのカムリだった。
車で運転手さんはまだ若い男性だった。ドアを開けてもらって車内へ。
空港前ロータリー出入口に設けられた検問所を抜けて、ついにわたしたちはシェムリアップの町へと出ていった。
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