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■ 5つの塔
ふたたび灼熱の参道を西へと歩いて、西参道入口へ向かう。
3時半前に着いたけれど、ガイドのKさんはすでに来て待っていてくれた。
さて、今度は3人でアンコール・ワット[Angkor Wat]へ。
アンコール・ワット上空は、雲がややあるものの、どうにもこうにも晴れわたっている。
いつもなら天気がいいことをよろこぶものなのだが、これだけ日差しが強烈だと、青い空を憎みたくなってくる。
わたしはクロマーでほっかむり。マダムは黒い雨傘をさす。
マダムは最初帽子をかぶっていたのだが、帽子はむれてかぶっていられないそうなのだ。
確かにこれだけ湿度が高いと、麦わら帽子とかの風通しのいいものでないと、汗をかいてしかたないかもしれない。
先ほども通った西塔門をくぐる。

西塔門(王の門) |
この西塔門がある城壁のような回廊西側には3つ門があるのだが、その中の真ん中にあたる西参道正面にある西塔門は、本来王さまが通るための門だったそうな。
王の門の右側、方角で言うと南側にあるのは「象の門」と言うそう。
だけど今日は「象の門」には行かなかった。
階段をのぼって王の門(西塔門)に入る。頭上を何かが飛び交っている、と思ったらこうもり。おうっ、さっき通った時は気付かなかったぜ。
フンをひっかけられないよう用心する。
王の門をぬけると、今度はトンボがたくさん飛んでいた。
日本だとトンボといえば秋、ってイメージがあるけど、こっちでは関係ないのかな?
石畳の参道を歩く。暑い、っていうか熱い。
参道の両側には左右対称に、経堂と聖池が配されている。
参道を歩いている途中で、Kさんがその右側の聖池を指さし、「あそこの池まで行くと、塔が5つ見えるから行きましょう」と言う。
何のことかさっぱりわからなかったが、実はアンコール・ワットの祠堂には5つ塔があるのだが、遠くから祠堂正面を見た時には3つしか塔が見えないのだそうな。
ところが、参道をそれて聖池の方に行くと、塔がきちんと5つ見えるのだそう。
実際に南の聖池の方へと歩いて行ってみると、3つある塔の左右両端の塔にぴったりと重なって見えなかった塔のうち、まず左側の塔がずれて4つになり、聖池のだいぶ端っこに行くと、右の塔も後ろに隠れていた塔が見えて5つになった。
おお〜、これは知らんかった。
「ここからのアンコール・ワットはベスト・ショット。写真を撮ってあげましょう」とKさんが言ってくれたので、マダムとふたりの写真を撮ってもらった。
このKさん、とにかくいろいろなことを知っている。
まあ、ガイドだから当たり前と言ってしまえばそれまでなんだけど、「ここからの写真がいい」とか「あれも一緒に写るようにするときれいだよ」とか、写真のこともかなりアドバイスしてもらった。
5つの塔は、北の聖池からも見える。
でも、さっきトイレにいった時、北の聖池周囲を通ったのだが気付かなかった。
自由見学というのも気楽でいいんだけど、こうやって熟知している人にガイドされながら遺跡を見るのもいいもんだなあ、と今回の旅行は特に思った。

塔が5つ見えるアンコール・ワット。
これは必見。 |

▼‥‥‥‥‥‥《アンコール・ワット祠堂概略図》‥‥‥‥‥‥▼
*主に今号に関係のあるところだけ示してあります。
北
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||└┘┌┐↓第二回廊┌┐ ┌┐ ||
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ラーマーヤナ→|| └┐┌――――――――――――┐┌┘ ||
(前回) || || ↓第三回廊 || ||
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←西参道へ |└――┘| └┐┌―┐┌―┐┌┘ || |┌┘
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マハーバーラタ|| ┌┘└――――――――――――┘└┐ ||海
のレリーフ →|| └┐┌―――――┐┌―――――┐┌┘ ||攪
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偉大な王の歴史 天国と地獄
■ 第一回廊西面南側・マハーバーラタ
祠堂に入って日差しから逃れられて、ほっと一息。
アンコール・ワットの祠堂内には照明がない。
だから、建物のちょっと奥に入るとすぐに暗くなる。
その暗い陰の中から窓の外を見ると、鮮やかな緑の木々や草原が、くっきりとしたコントラストの風景の中に浮かび上がる。
祠堂の中と外では、まるで別世界だ、と思う。
Kさんに案内されての見学は、まずは第一回廊西面南側にある「マハーバーラタ」のレリーフから。
「マハーバーラタ」も「ラーマーヤナ」と同じく古代インドの叙事詩だそう。いずれもわたしは読んだことない。
レリーフではその物語の中の、「クル族の大戦争」という、パーンダヴァと呼ばれる5人の王子と、そのいとこにあたるカウラヴァと呼ばれる100人の王子たちとの戦闘シーンを描いている(※詳細は今回のMEMOをどうぞ)。
だから、さきほど見た「ラーマーヤナ」では主に猿と羅刹が闘っていたが、ここでは人間同士が争っていた。
話の筋とか、登場人物がぜーんぜんわからないので、ただひたすら壁一面に彫り込まれたレリーフを鑑賞するのみ。画面は、レリーフの左側がカウラヴァ軍、右側がパーンダヴァ軍となっている。
偉い人は偉いので、戦場でもきちんと天蓋をさしかけられている。なおかつ、地位の高さをしめすかのように、馬がひく戦車などに乗っている。
戦場をよく見ると、生首が転がっていたり、槍に串刺しにされて倒れている人がいたりと生々しい。
画面一番右側では、パーンダヴァ軍の勝利の踊りが描かれていて、勝利に沸き立つ人々だけでなく、鼻をふりあげた象もどことなくうれしそうな表情だ。
レリーフは、Kさんがいろいろ説明してくれたのだが、いかんせんわたしたちに「マハーバーラタ」の知識がなかったので(マダムは「何十年か前に読んだはずなんだけど」と言っていた)、あまりよくわからない。
もっと勉強してからくればよかった。

う〜ん、ちょっと見づらいんだけど、
象に乗って右手に盾を持った人物が描かれている。
これはパーンダヴァ軍の勝利の踊りの場面の一部。 |

■ 第一回廊南面西側・偉大な王の歴史
中国の首相のために造られたという階段で段差をのりこえ、お次は第一回廊南面西側の「偉大な王の歴史」とか「王侯の行進」と名付けられているレリーフへ。
偉大な王というのは、アンコール・ワットを建造したスールヤヴァルマン2世のことで、レリーフの中に何度かその姿が現れる。
でも、ここのレリーフは一部が剥落していたり、彫りが浅かったりでちょっと見づらかった。
最初の方で見たのは、櫂でこぐ舟に天蓋をさしかけられた人々が乗っているレリーフ。後で写真をよく見たら、髪を頭の後ろの方でひとつに結っている。じゃあこれ、中国人か?
Kさんはこの部分は水上生活を描いたもの、と説明していたはず。
長い柄のついたうちわを持った女性たちの行列シーンもある。女性たちはみんな顔が違い、服装や身につけている装飾品も違う。芸が細かい。
髪型もいろいろ。Kさんが「髪をふたつ高く結っているのはうさぎ型、あたまのてっぺんでひとつにしているのはヘビ型」と言っていた。
このレリーフはあまり物語性がなかったためか、ほほう、と思っただけで終わった。
■ 第一回廊南面東側・天国と地獄
お次のレリーフは天国と地獄。
上・中・下とレリーフは3階層に分かれていて、一番下は地獄、上層と中層では王と王妃が夜摩天(=閻魔王)の前で最後の審判を受けに向かう様子が描かれている。
まあ、地獄というのはどの国でもやることは一緒。棒で叩かれたり、お尻からあたまへ1本の棒で串刺しにされていたり、木にはりつけられて全身に針を刺されたり。いやはや。
レリーフの真ん中あたりに行くと、「ラーマーヤナ」のレリーフで見た羅刹王ラーヴァナのようにたくさんの腕を持った人物が描かれているが、これが夜摩天。写真で確認すると、象のように大きな動物の背に乗っている。
が、これは象ではなくて、「ナンディン」という雄牛だそうな。
はて、ヒンドゥー教のシヴァ神もナンディンという雄牛に乗っていたはずだが、関係あるのかな?
この夜摩天のちょっと先に行くと、中層の床に穴があき、人々が下層の地獄へと落ちていく様子のレリーフがある。
お〜、まさに地獄落ち。

手がたくさんあるのが夜摩天。
夜摩天が乗っているのがナンディン。 |
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中層から下層へ、
人が斜めになって落ちている |
さらにこの先では中層と上層はひとつになる。
王と王妃は無事天国に行くことができ、その頭上ではアプサラが優雅に舞っているというのに、下層の地獄ではあいかわらず厳しい拷問がくりかえされている。

頭からお尻へ串刺しの拷問 |
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はりつけにされて、さらに
全身に針を刺されている。
しかも足には重り。くぅ〜 |
「これはゴムの木をのぼらされている」とKさんがレリーフを指さす。
確かに地獄に落ちた人々が木をのぼっているが、それのどこが拷問なのかわからない。
しかし、これは明日わかることになる。
ここのレリーフは特にカンボジアやヒンドゥー教に関する知識がなくても描かれている内容がわかるので、アンコール・ワット内にあるレリーフの中では一番面白かったんじゃないかな。
また、他のレリーフ前の回廊が迫り出しアーチがむきだしになっているのに対して、このレリーフのある回廊部分はめずらしく天井があった。
ちょっとよく憶えていないんだけど、蓮の花の意匠を彫りこんだ正方形のレンガを敷きつめたような天井だったと思う。
ホントは、かつてすべての回廊に天井があったんだけど、落ちてなくなってしまったんだそうな。
天井がないと高さがあるので開放的だけど、こんな天井がすべてにあったなら、もっと往時の建物の華麗さが伝わるかもしれない。

天井のある回廊。
ない場合は迫り出しアーチの構造が見える。 |

■ 第一回廊東面南側・乳海攪拌
角を曲がって、今度は乳海攪拌のレリーフへ。
今朝アンコール・トムの南大門で見た橋の上にあったのが乳海攪拌3D版。
ここはレリーフなので2D版ということになる。
以前にも書いたが、乳海攪拌は、ヴィシュヌをはじめとする神々とアスラ(阿修羅)が、不老不死の妙薬アムリタを手に入れるために、海の中に置いた山に蛇を巻きつけて回転させ、海を攪拌するというお話。
綱引きに使われる5つ頭の大蛇ヴァースキは、左側があたま、右側が尾になっていて、左側を阿修羅たちが、右側を神々が引っ張っている。

綱引き。これは左側だから阿修羅。 |
その綱引きの下の方に、ワニや魚などのさまざまな動物が描かれていたのだが、綱引きの中心に近づくにつれ、その動物たちの身体がばらばらになっていく。
これは、海が綱引きで攪拌されるいきおいで、動物たちの身体がひきちぎれてしまったからなんだそうな。
ふうん、動物たちにはいい迷惑だな。
その動物たちの中にカニが1匹いた。
Kさんによると、アンコール遺跡群にはさまざまな生き物のレリーフがあるが、確かカニはこの1匹、もしくはここと別の場所と合わせての2匹しかいないんだそう。
話によると、Kさんは以前、「この写真に写っているカニのレリーフを捜しているので協力してください」とNHKか何かの取材班に頼まれて、一生懸命カニを探したことがあるんだそうな。
で、アンコール遺跡中を捜してようやくここでカニを見つけたとのこと。
アンコール遺跡群にはたくさんのレリーフがある。
その中からよくまあたったひとつ(もしくはふたつ)しかないカニを捜し出せたもんだ。
もちろん貴重なカニは写真に撮っておいた。

はい、これがそのカニ。お見逃しなく。 |
まだ第一回廊にレリーフはあるが、今日はこれで第一回廊はおしまい。
なんだ、やっぱツアーだから全部見せに連れてってくれないのか、とわたしは思ったが、実際には後日残りのレリーフも見に行った。
ホントにこのツアー会社は、アンコール・ワットの観光に力を入れている。
さて、この後は第一回廊を離れ、わたしたちは第三回廊へ向かった。
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