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■ タ・ソム[Ta Som]―― 第一周壁
9時39分頃にニャック・ポアンを出発し、やはり5〜6分程度で次のタ・ソムに到着。
ここもアンコール・トムと同じジャヤヴァルマン7世によって建てられた遺跡。今日はまだジャヤヴァルマン7世が建てた遺跡しか見てないな。
タ・ソムも東向き建てられた遺跡だったはずだが、車はタ・ソムの西側に着いた。車を降りると第一周壁の西塔門が見える。
西塔門の上にはアンコール・トムの南北大門のように観音の四面尊像がのっていた。へえ、ここにも。
Kさんが、「昨日レストランで伝統舞踊を見たステージの背景に描かれていたのが、この四面尊像」というようなことを言った。
ふうん、そうだったのか。客席からはステージが遠くて、あまりよく見えなかったから憶えてないけど。近くで見ておけばよかった。
また、アンコール・トム南北大門は、くぐりぬける開口部上部の迫り出しアーチ部分が、こんな↓
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ふうにとがっていて、なおかつかなり高さがあったのに対して、タ・ソムは、
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というふうに水平になるよう作られていて、高さはあまりなかった。
アンコール・トムの門は象が通れなきゃ困るけど、タ・ソムはその必要がないとか、そういう用途の違いかな?
しかしこの西塔門、かなり崩壊が進んでいた。
門のこの水平な部分は1本の長い石でできていて、その石は「まぐさ石」と
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呼ばれるの出そうだが、そのまぐさ石がふたつにぱっきり折れてしまっているのだ。どうもその上にのる四面尊像などの石の重みに負けてしまった結果らしい。
まぐさ石が折れれば当然門全体のバランスが崩れる。というわけで、西塔門は北に向かって傾いていた。
しかも、四面尊像を構成する石もその石組みがかなりゆるんでいて、あちらこちらに大きなすき間があいてしまっている。
一応、これ以上西塔門が傾くのをふせぐために、門の内側に木枠を作って支えたり、外側からは材木でつっかえ棒をして補強されているが、これじゃあそのうち間違いなく崩壊しそうだ。

崩壊の進む門 |
なんとかならないものだろうか? とは思うが、修復にかかる労力や技術などを考えると、どうにもしようがないようだった。
その西塔門をくぐって第一周壁内に入る。
まずは木がまばらに立つ広場。右側を見ると建物があり、そしてなぜかバレーボールのコートもある。
Kさんに聞くと、あの建物は警察の事務所なのだそう。
アンコール遺跡群全体では、レリーフなどの盗難を防ぐために、こうして遺跡の近くや中に警察事務所を置き、24時間態勢で見張っているのだそうな。
また、警官は家族連れで事務所に住んでいるとのこと。
ここで暮らしている警官たちの娯楽のために、このバレーボールのコートは整備されているという話だった。ふーん、なるほどね。
暮らしている警官の家族が飼っているのだろうか、ニワトリの親子や数匹の犬がバレーボールのコートを駆けまわっていた。
気の強い(?)ニワトリが犬に喧嘩を売っており、犬とニワトリがけたたましく追いかけっこしている。
洗濯物なども干されていて、生活臭ただよう遺跡である。
そしてこの遺跡にも土産物を売る子どもたちがいた。
他の遺跡では、遺跡の中では物売りはしない、という不文律があるのか、見学中に物売りの子どもにじゃまをされることはなかったのだが、タ・ソムにはそのきまりはなかったらしい。
遺跡内で見学中にもがんがん「スカーフ、スカーフ」と言ってクロマーなどを売りに来る。
勘弁してくれー。
そっちも生活かかっているのだろうけど、どうせなら楽しく観光した後に気分よく買い物もさせてくれ。これじゃずーっと嫌な気分になるだけだよ。
しかしこの物売り、誰に対してもやっているわけではないらしい。
実際この時、わたしたちとほぼ同じペースで白人女性がタ・ソム内を見学していたのだが、この女性が物売りの子どもにまとわりつかれることはなかった。
また、同じ日本人でもまとわりつかれたのはマダムのみ。すべての表情を消してまったく物を買う意思がないことを示していたわたしには、子どもたちはほとんど寄ってこなかった。
日本人の年配の女性は(言い方が悪いが)狙われやすいのかな?
いずれにせよ、話しかけられるだけでわたしなどは神経が磨り減る思いをさせられるので、これはなかなか苦行だった。
■ タ・ソム ―― 第二周壁
話をタ・ソムに戻して、次は第二周壁内へ。
第二周壁の西門近くには、さまざまなデヴァター像があった。
メモを見ると、
・長い髪を手に持ったデヴァター
・大きなイヤリングを支え持つデヴァター
・手に持った木の枝にリスがいるデヴァター
などが書き残されている。
別の場所では手鏡に顔をうつすデヴァターなどもあったので、ていねいに見ていけば、もっといろいろな種類のデヴァターがいたのだと思う。

長い髪のデヴァター |
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主要部分アップ。
髪を持っている、らしい。 |
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イヤリングのデヴァター |
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うーん、福耳。
イヤリングを支え持っている。 |
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リスのデヴァター |
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リス。デヴァターの左側、
腰のあたりにいる。 |
しかし、哀しいかな? タ・ソムは修復しているんだけど、崩壊のスピードが速い。
デヴァター像も多くは石組みのゆがみのせいで、割れたりずれたりしていた。
祠堂の中に入ると、今度は各房に土砂が堆積していた。そのせいか、この遺跡の中は乾いた土の色をしている。
天上が崩れて土やがれきが積もったのか? ――と思ったら、なんとこの土砂の正体は蟻塚。
ええっ、蟻塚ってこんななの? 初めて見た。

蟻塚で埋め尽くされた部屋。
こんなんがいっぱいある。 |
部屋によっては、天上までのびた蟻塚に部屋を目いっぱいに占拠されたところもある。
Kさんが、「蟻塚も遺跡を壊していく原因のひとつ」と言っていたが、これを見ると確かにそうだなあ、とうなずいてしまった。
蟻塚ではなく、本当にがれきで房内が埋め尽くされた部屋もある。50cm角くらいの巨大な石柱が、ばたばたと倒れて折り重なっている。
さすがに危険なのか、この時は建物内には入らず、わたしたちは第一周壁の東塔門に向かった。
途中、道の左右にはやはり木が多かったのだが、そのうちの1本を指してKさんが「これはゴムの木」という。
ゴムの木といえば、つるつるした濃緑の大きな葉っぱがなる鉢植えの観葉樹、くらいのイメージしかわたしはないが、この時見たゴムの木は大きかった。幹だって直径30cmくらいある。
そしてその幹の表面がすごい。大きなトゲのようなでっぱりが、一面にごつごつと生えているのだ。パイナップルの表面を、もっと固く凶悪にしたような感じである。
そして、昨日アンコール・ワットの第一回廊南面東側で見た「天国と地獄」のレリーフの中に出てきたゴムの木が、これと同じ木だとKさんが言う。
ああ、あのゴムの木をのぼる拷問に使われるのがこれなのか。
昨日レリーフを見た時は、なんでゴムの木をのぼるのが拷問なんだ? と思ったが、なるほど、この木をのぼるんじゃあ立派な拷問だ。
でもこの木、表面はトゲトゲしていていたそうなのだが、中はやわらかいとのこと。つくづく見た目じゃ物の本質はわからない。
東塔門に着いて、第一周壁外に出てみる。
すると、ここの門もプリア・カンの東門のようにスポアンの木の根がびっちりとはびこっていた。
もう、石と木が完全に一体となり、それでひとつの正しい物体のようだ。

タ・ソム東塔門。
宮崎駿のアニメ、「天空の城ラピュタ」を
なんとなく思い出させるような風景。 |
東塔門より向こうは、ひたすらジャングルだった。
四方から絶え間なく鳥の鳴き声が聞こえてくる。
背後の巨木と一体化した石の門といい、ああ、遺跡だなあ、という感じがすごくする場所だった。
東塔門から西塔門へ引き返す。
その途中、どこかの建物で敷石をとっぱらって、その下の土を掘り返している人たちがいた。
聞くと、遺跡の下に張り出した木の根を掘り起こして切っているのだという。木の根を放っておくと、やがて遺跡をもちあげて崩壊させてしまうのだそうな。
んー、ショベルカーで一気にがががががっとできるものでもないしなあ。こうやって人の手で地道にやっていくしかないのか。大変だな。
付近には、レリーフが刻まれた明るい茶色の石が積まれている。これは土の中から掘り返した石だそう。
地中に埋もれてしまっている遺跡部分もあるのか。ますます修復大変だな。

色の薄い石が埋もれていた石。
そうでないのは地上に転がっていた石。
これを組み合わせて復元するってんだから大変だ。 |
入らないのか、と思っていた建物内には結局入った。
こんなに石が崩れているところ、入っていいんだろうか、と思ったが、Kさんはふつうに入っていった。当然わたちたちも後をついていく。するとお線香が供えられているところがあった。
こんなに崩れていても、ここは現役の寺院なのだな。
通路の角には、かつては屋根の飾りだったらしい仏像が、無造作に集めて置かれているところがあった。うーむ、こんなに不用心じゃあ、盗んでいきたくなる人もいるかも。

見る人が見たらきっとウハウハ状態。
ほんと、無造作に置かれている仏像たち。 |
その通路を抜けると中庭のようなところに出た。中庭といってもこれから組み上げる予定の石が積まれていて、ほとんど人が歩くところはなかったような。
その積んだ石の向こうから、石をたたく槌の音がする。実際の作業風景は見た記憶がないが、音からその様子を想像した。
この作業現場の石の上に、「濡れても消えない ハイビスカス マルチチョーク」と日本語で書かれたチョークの箱が置かれていた。
日本もちょっと役に立っているんだな、って思った。
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