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■ 蟻塚の野原
タ・ソムを出た後、またまた車に乗って次の遺跡へ。
途中、左右に野原が広がる道に出た。野原には「いつかここもジャングルになってしまうのだろうか?」と思わされるほどあちこちに木が生え、その根元はどうしたわけか、必ず土が盛り上がっている。
この盛り土は木の根本だけでなく、野原中にモコモコ散らばってある。
あれはいったい何だろう? ――と思っていると、Kさんが車を止めた。
そして「あれは蟻塚」と盛り上がった土を指差す。
えーっ! あれ、蟻塚?
野原中にある、これ全部が? すっごい数じゃん。
しかしこれは蟻塚なのであった。ものによっては2メートルくらいの高さがある蟻塚もある。

蟻塚。で、でかい。 |
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すべての木の根本に蟻塚がある、
といっても過言ではない |
スポアン(和名はガジュマル)をはじめとする木々は、遺跡を破壊する原因のひとつなわけだけど、その木々はこうしてアリによって中から食われてしまい、次々と朽ちていくのだそうな。
ふーん、遺跡も木もアリにはかなわないということか。
それでも木はまだまだたくさんあった。アリが食べるよりも木が増えていく速度の方がはやいらしい。
でも、遺跡のことを考えると、どちらの速さも応援できなかった。
■ 東メボン[East Mebon]
蟻塚の野原をぬけて到着した次の遺跡の名前は東メボン。
かつてあった東バライという貯水池(バライという言葉自体に貯水池みたいな意味があるらしい)の中心に建てられた寺院だそうな。
現在は西バライという貯水池(昨日夕日を見るためにのぼったプノン・バケンから見た湖のこと)は残っているけど、東バライは涸れてしまったそう。
Kさんは「東バラ〜イ」と発音していた。
遺跡の建物は、見た瞬間「赤いなー」と感じる。これはラテライトという赤色砂岩が使われているのが原因。
その他の建材としては、レンガも多く使われている。

東メボン。赤い。 |
ちなみに、レンガが使われている遺跡は石で造られた遺跡よりも古いとKさんが言っていた。
12世紀以降に造られた遺跡には、レンガが使われていないことが多いとのこと。
実際、東メボンは10世紀である952年の建造である。
建てた王さまはラージェンドラヴァルマン一世という。
(※Attention! 某『地球の歩き方』だとラージェンドラヴァルマン二世、 JTBキャンブック『アンコール・ワットへの道』だとラージェンドラヴァルマン一世になっている。どっちだ?)
今日見てきた遺跡は、どれも平面に建物が並ぶ構造だったけど、東メボンは縦に高く高く積み上げていくピラミッドのような形だ(バイヨンもアンコール・ワットの祠堂もピラミッドみたいに高くなるけど、ちょっと感じが違う)。
テラスを備えた壇が、3つくらい重なっている。
また、アンコール・ワットで見た窓の連珠格子は、表面に細かな模様が刻まれていて、なおかつくびれまくっていたけれど、ここの格子はつるんとしていてシンプル。
造られた年代が違うんだなあ、ということがシロウトのわたしにもわかる。

つるんとした東メボンの格子窓 |
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2本しかないけど、アンコール・
ワットの格子窓。彫刻が複雑。 |
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ちなみに格子窓は、こんなふうに
くぼみにはめてつくるらしい |
さて、遺跡内へ。
まずKさんが指差したのは、遺跡の四隅にある象の像。けっこう大きいのだが、なんとこれは1つの石から掘り出されているそう。
へえ、あんな大きなものをねえ。

象。逆光だったのかな? シルエットになってしまった。 |
赤い、けっこう段差のきつい階段をのぼって上へ向かう。
一番上のテラスに出て周囲を見回すと、東西南北はひたすらジャングルだった。
木々の緑が空の青の下、一直線に地平線を描いている。

東メボンの上からの眺め。見渡す限りジャングル。 |
どこまでも続くその風景が、何となく不思議だ。
建物にも目を向けるが、テラスの上に点在している建物は、壊れて崩れているものが多い。
それでも残っている建物を見ると、大きな一枚の白い石でできたような扉がある。
表面にはきれいな草花の文様が浅彫りしてあって、へー、きれいと思っていたが、これは開かない「ニセモノのドア」なんだそう。
飾りドアってことか?
扉の上のまぐさ石を見ると、鳥に乗った神様のレリーフがあった。鵞鳥に乗ったブラフマーだろうか。仏教だったら梵天だな。
その下にはガルーダというよりも、翼のある人間みたいな人々もいた。
テラスの真ん中には、どーんと高い塔が据えられている。これが東メボンの主祠堂がだそうな。
壊れていなかったので、中に入ってみると、日差しがさえぎられた上に吹いてくる風が涼しくて気持ちいい。
ふー、休まる。
主祠堂の中央に、金色とオレンジ色の天蓋の下、色鮮やかなオレンジの布をかけられた仏像が置かれている。
ああ、ここも現役のお寺なのか。
しかしこれ、仏像かと思ったら、とぐろを巻いた蛇の上に座っているのでヒンドゥーの神様だったようだ。
でも顔がへん。福耳だけど、妙に平らでやせこけたような顔立ちで、クメールの神様の顔をしていない。頭もパンチ・パーマだし。
Kさんに聞いたら、これは最近置かれた像だそうな。どうりで。

ミョーに頬のこけたへんな顔の仏像。
ちっともありがたい気持ちになれない。 |
高いところから周囲を見渡せるせいか、広々とした印象のある遺跡だった。
■ プレ・ループ[Pre Rup]
10時50分、車に戻って次の遺跡へ向かうが、エアコンの涼気を味わう間もなく到着。
めっちゃ近いやんけ。2〜3分しか乗ってなかったぞ。
暑くさえなければ、歩いていける距離なのかもしれない。
(※Attention! 実際には1.5kmくらいあるようです)
さて、お次の遺跡はプレ・ループ。
んがしかし。
プレ・ループの第一印象は、「東メボンとよく似ているな〜」だった。
ぱっと見た瞬間に赤い遺跡であることや、ピラミッド型の構造とか。
同じ遺跡です、と言われたらつい信じてしまいそうだ。
それもそのはず(?)。ここは東メボンと同じラージェンドラヴァルマン一世(もしくは二世)の建造で、961年の作だとのこと。
でも、プレ・ループの方が東メボンよりも荒れているような感じがした。門の上にはどこからか飛んできた種が芽吹いて、赤い石の上に緑の草がところどころに生えている。
遺跡の周囲は草原になっている。その草原をつっきって建物へ。
東メボンでは見た記憶がないのだが、プレ・ループは建物を囲む周壁がよく残っていた。周壁は二重になっていて、間は幅が2メートルもない。
四角く切り出したラテライトを積み上げた二重周壁は、数十メートルに渡って真っ直ぐ続いている。
お〜、壮観な眺めだ。

赤い二重周壁。まっすぐまっすぐ奥へ続く。 |
と、感動したところで上へ。
しかし、これがまた急な階段で難儀する。上に着いたのは、Kさん、わたし、マダムという、お決まりの順番だった。

この階段をのぼって上へ。きつい。 |
さて、頂上のテラスから周囲を睥睨(へいげい)するが、これがまったく東メボンからと同じ眺め。空の青と木々の濃緑が2層になったような風景だ。
いやー、のどかというか、暑いというか。

プレ・ループからの眺め。
ひたすら草原とジャングル。 |
Kさんに案内されてテラスをめぐる。
まずはどこかの建物の壁にほどこされたプリーツ・スカートをはいたデヴァターのレリーフを見る。
おおっ、本当にプリーツ・スカートだ。
でもこのデヴァター、表面がぼろぼろだった。
風化してこうなっちゃったのかな? と思ったが、これはかつて表面に塗られていたセメントがはげてしまったせいだそうな。

プリーツ・スカートをはいた
デヴァター |
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プリーツ・スカートのアップ |
ふうん、セメントか。1000年も昔からセメントがあったのか。
Kさんは「セメント」とと言っていたが、ガイドブックには「漆喰」と載っていることが多かった。
まあ、漆喰もセメントも石灰を使うから似ているので良しとしよう。
その他見たレリーフは、まぐさ石にほどこされた象に乗る神様。象のあたまが3つあったから、アイラーヴァタに乗るインドラ神だと思う。

この画像でわかるかな?
3つ頭のある象の上にインドラが乗ってる |
頂上のテラスをひととおり見た後、今度はお骨(火葬した骨)を洗ったという場所へ。
お骨を洗った場所ぉ? という感じだが、なんと火葬場もあるという。火葬場だったのか? ここは。
Kさんは王さまの火葬場だった、というようなことを言っていたような。
前出の『アンコール・ワットへの道』という本によると、カンボジアの民話の中には、瓜を盗んで農夫に殺された王さまというのがいるそうで、その殺された王さまを荼毘にふしたのがこのプレ・ループの火葬場ということになっているんだそうな。
う、瓜を盗んで殺された王さま(-_-;)。
どんな事情で瓜を盗んだとか、前後の話が全然わからないので何とも言えないが、それだけではあまりにも情けなさすぎる。
お骨を洗った場所、は四阿(あずまや)のような造りの建物の中にあった。地面に石でできた四角い洗い場のようなものが埋め込まれている。今は水が涸れているので、洗い場は白く乾いていた。

お骨を洗った場所。
見える系の方、何か見えますか? |
火葬場も見に行く。石棺のようなものが置かれていた、と思う。
変なものが写ったらこわいので(笑)、さすがに写真は撮ってこなかった。
この他プレ・ループで見ておぼえているのは、スリット状の格子窓。
いままでずっとそろばんの珠を連ねたような格子窓しか見てなかったので、何となく新鮮だった。
遺跡を出て草地に戻る。すると、むうっと地面から熱気がわきあがってきた。
時刻は11時12分。
アンコール遺跡群は、これからますます暑くなっていくのだった。
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