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■ バンテアイ・スレイ[Banteay Srei]・門前
バンテアイ・スレイは、さすがに有名な遺跡、門前は観光客やら土産物売りやらで混雑していた。
車が何台かとまっていたが、その中に1台、大きなジープみたいな車があって、そのボンネットの上にワイヤーでできた何かオブジェがのっている。
何だろう? と思って目をこらして見てみると・・・あっ! あれ、超巨大な「蚊」だっ!

ボンネットの上に蚊がいる |
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蚊の部分アップ! わかるかな? |
さらにこの車、車体の横に「どうしてデング熱にかかるか?」みたいなことを絵で解説した大きなパネルが取り付けられていた。
Kさんに訊くと、「あれはデング熱の調査をしている人たち。今日はこの遺跡で水たまりの中にどれくらい蚊の幼虫(ボウフラ)がいるかどうかを調べにきた」と教えてくれた。
ふうん、そういう活動をしている人たちがいるのか。
実際この人たち、スコールでできた水たまりの水を試験管にとり、それを日にすかして見たりしていた。
たまたまそのそばを通りかかった時、わたしの目にも試験管の中の水に白い小さな塵のようなものがおどっているのが見えた。
え、まさかあれ、蚊の幼虫?
うおおー、こんな身近にデング熱の感染原因となるシマ蚊の幼虫がいるんだ。
デング熱の被害はよく聞くけど、自分からは遠い話だとばかり思っていたので、ちょっとショックだった。
その他見かけたのは、白人女性のふたり連れ。
あ、このふたり、昨日ニャック・ポアンで見た人たちだ。
彼女たちはバイ・タクで来ていて、ちょうどバイクから降りるところだった。
しかし、車で50分近くかかる道を、3人乗りのバイクで来たのか。根性だなあ。
でもやはり楽な道のりではなかったらしく、ふたりの女性とも背中にびっしょりと汗をかいていた。
うーむ、バイクでめぐるのにはちょっとあこがれを感じたが、決して楽しいばかりではないらしい、と思う。
■ バンテアイ・スレイ
さて、バンテアイ・スレイへ。
バンテアイ・スレイは967年頃により建てられたヒンドゥー教の寺院とのこと。
よく聞く話だが、クメール語ではバンテアイ=砦、城砦、スレイ=女性なので、ここは「女の砦」という意味になる。
作られた年代は東メボン(952年)やプレ・ループ(961年)と近いが、ここはピラミッド型のような高さはなく、平面に建物が並んでいる。
東メボンとプレループを見た時も「赤い遺跡だなー」と思ったが、バンテアイ・スレイの建物も東メボンとプレループ同様、硬い赤色砂岩を使っているので赤い。しかも、赤さが濃い。
メモには「本当に赤い遺跡だ」という感想が残っている。
バンテアイ・スレイには東門から入る。
東門の入り口上部を見上げると、三つ頭の象・アイラーヴァタに乗っているインドラ神がいた。

入口正面のファサード |
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アイラーヴァタとインドラ神
アイラーヴァタの下の変な顔が
カーラ。その両脇がマカラ。 |
その下には牙をむいた、こわいんだか愛嬌があるんだかよくわからない顔があり、その両脇に渦を巻いている唐草模様をつかんでいる。
その後調べたが、この顔はどうも「カーラ」といい、その両脇の唐草模様のようなものは「マカラ」というようだ。
カーラは死神とか死者の王とかいう意味で、仏教的には閻魔大王に相当する。
マカラは漢字だと「摩竭魚」で、伝説上の海獣だそうな。
どちらもカンボジアでは代表的な装飾モチーフで、このふたつはだいたい1セットで、上にカーラ、下にマカラを配置して表現されることが多いらしい。
でも、他の遺跡ではあまり見なかったように思う。
東門をくぐると、第一周壁の門までまっすぐ参道がのびている。
そしてその参道の両脇には、まるで石灯籠のようなものが並んでいる。
む、これ、昨日の朝行ったプリヤ・カンでも似たようなのを見たな。

リンガの立ち並ぶ参道 |
プリヤ・カンのものは、下にガルーダ、上に削り取られてしまったがかつては仏像が彫られていた(らしい)が、ここのは摩滅してしまったのか、彫刻などの装飾は残っていない、シンプルな灯篭だった。
参道を歩いて行こうとしたら、Kさんが参道をそれてその脇の土手のようなところにのぼった。
どうしたのかと思ったら、「いまからこの遺跡にタイの王女さまが来ます」という。
へえー、タイの。
どうやらもう門の所まで来ているらしい。
わたしはけっこうどーでもよかったのだが、Kさんが見たそうだったので付き合う。まあ、他国のとはいえ王族の人なんてめったに見る機会ないし。
そして待つことしばし。
「あの白い靴をはいている人が王女さまです」とKさん。
おー、どれじゃ、どれじゃと思って見てみると・・・白い靴をはき、やぼったいダーク・スーツにパーマ頭のおばちゃんが一団の先頭にいる。
ええ、あれが王女さまっ!?
──と思ったらそれはまちがい。その後ろにいた黒いスパッツにフェンディの半袖ハイネック・ニット、頭にサングラスを乗せた小柄で可愛らしい女の子が王女さまだった。
王女さまの靴の色も白。もー、まぎらわしい。
王女さまはお付きや護衛やマスコミなど10数名を引きつれて、記念撮影などしながら参道を歩いていった。

タイの王女さま御一行が、記念撮影をしながら練り歩く |
わたしたちも王女さまがいなくなったあと参道に戻り、王女さまが撮ったのと同じポイントで記念撮影をしてみる。ミーハーである。

上の写真にも写っているこの場所で記念撮影していた |
第一周壁の門をくぐる前に、Kさんが道の右側に置かれていた遺跡の一部を指差し、「アンコールにはたくさんラーマーヤナのレリーフがありますが、シータ姫の彫刻はここにしかありません」と言う。
へえ、そうなんだ。じゃあ、それはぜひ見なきゃ。
そして見たのは、シータ姫が魔王ラーヴァナに連れ去られ、それをラーマ王子が追う場面だった。
うーん、そういえばアンコール・ワットの第一回廊のレリーフにもシータ姫はいなかった。
本当にここ以外ではシータ姫を拝めないのかどうかはよくわからないが、興味のある人は覚えておくといいと思う。

左上に魔王ラーヴァナがシータ姫を連れ去っていく様子、
その右側にふたりを追うラーマ王子が描かれている |
第一周壁の門をくぐって第二周壁へ。
門の中にはいると四角い穴のあいた石の台がある。ここにはもともとリンガがはまっていたのだそう。
しかしリンガはだいぶ前になくなってしまったらしく、この石の台が何だかわからない周辺に住んでいる人たちは、ずっと包丁の研ぎ石に使っていたそうな。
だから、四方の石の表面が妙になめらかに磨り減っている(笑)。
きっと、包丁の研ぎ石としてちょうどいい硬さの石なんだろうな。

包丁の研ぎ石に使われていた基壇 |
第二周壁の門上には、ヴィシュヌ神の妻であり、富と幸運と豊饒の女神であるラクシュミーが、両脇にいる聖水の入った瓶を持つ象に、水をかけてもらっているという場面のレリーフがある。
うーむ、エッジが立っていてきれいなレリーフだ。

象に聖水をかけられるラクシュミー |
バンテアイ・スレイは、硬質な赤色砂岩でできていることで有名だが、本当に赤い遺跡で、しかもレリーフはきれいに残っていた。
美しさではアンコール・ワットの第一周壁よりもイケていると思う。
また、アンコール遺跡群の建物で、10世紀初頭くらいまでにつくられた寺院は、単体の祠堂が東向きに点在し、それぞれが回廊でつながっていないそうだが、ここバンテアイ・スレイも各祠堂はつながっておらず、独立して並んでいた(これに関しては東メボンやプレ・ループも同じ)。
で、ガイドブックや写真集などを見ると、各祠堂に刻まれた彫りの深いデヴァター像に寄って撮った写真がたくさんある。
わたしも間近で見られると思い、すごく楽しみにしていた──のだが、しかし。
なんと、わたしが行った時にはバンテアイ・スレイは遺跡保護のために祠堂の周辺にロープがはりめぐらされ、2メートル以上は近づけないようになっていた。
がーんっ! そんなあ。
2メートルも離れているところから見たってつまんないよ〜〜
そしてまたショックだったのが、「王女さまたちはロープの内側に入り、遺跡に腰掛けたりさわったりしながら記念写真を撮っている」ことだった。

立入禁止区域で記念撮影をする王女さま。
憎い。何が憎いのかはわからんが。 |
神さま、もしくは仏さま&福沢先生。
天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらなかったのではありませんか?
庶民はロープの外、王族はロープの内側かいっ!
ひどいっ! ひどすぎる。
わたしたちもロープの内側に入れろ〜〜っ!
だが、もちろんそんな願いがかなうはずもなく、庶民たちは遺跡から2メートルの地点で、遠くレリーフを眺めるしかなかった。
むう、いっきに観光熱が冷めてしまった。
それでもまあ、2メートルよりももうちょっと近づける建物もあったので、ファサードのレリーフなどを見てまわる。
「あれは何? これは何?」と訊くと、Kさんは何でも答えてくれるので、とってもありがたい。
この時わたしが見たのは、
・アイラーヴァタに乗ったインドラ神が雨を降らせているレリーフ。地上では雨を喜んでいるのか、いろいろな生き物が踊るように躍動している

これがそのレリーフ |
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アイラーヴァタの上で
踊り狂う(?)インドラ神 |
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雨をよろこぶさまざまな生き物 |
・カイラス山の上で瞑想するシヴァを邪魔しようとして、魔王ラーヴァナが山をゆすっている

シヴァの瞑想を邪魔する魔王ラーヴァナ |
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山上で瞑想するシヴァ |
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その山をゆするラーヴァナ |
など。
外に転がっている石には、鵞鳥に乗るブラフマーのレリーフがあった。
ブラフマーの両脇には、獅子頭に人の身体をしたナラシンハがいる。

鵞鳥に乗ったブラフマーとナラシンハ |
そういやシータ姫も草地の上に無造作に置かれた石に彫られていた。
建物に彫られたレリーフだけでなく、そこらに転がっている石も要チェックかもしれない。
バンテアイ・スレイは想像していたのよりもずっと小さな遺跡だったけれど、全部見てまわるのに1時間くらいかかった。
あー、かの有名なデヴァター像に近付いて見ることができていたらなあ。
その内また近くで見られるようになるのかな?
心残りを感じつつも、わたしたちはバンテアイ・スレイを後にした。
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