文学でいっぷく

 

リアルな世界:イプセン.

 寒いとこはあんまり好きじゃないんですが、寒いとこの文学は昔から好きなんですよ。でも、あんまり知られてないらしい。おセンチな文学がお好きな方、アンデルセンの「絵のない絵本」をお試しください。「マッチ売りの少女」だけじゃない作家の別の面が見えてきますよん。

 私的にはイプセンが一押しです。日本だと世界史の授業で「人形の家」というのが出てきますが、イプセン全体の中ではそんなに面白い方じゃないんです。「人形の家」が話題になったのは、女性が離婚するのが難しい頃に、愛情のない夫を振ってさっさと家を出て行く主人公、というのが昔は珍しかったから、らしいんですね。イプセン自身はそんなにフェミニスト色が強い作家じゃないんですけど。

 他にも恋人を振って金持ちと結婚した女性の「ヘッダ・ガブラー」、精神病を扱った「幽霊」、公害を扱った「民衆の敵」なんてのがあり、どれも面白いです。イプセンというのは「社会派の劇作家」と言われますが、単なる人間感情のしがらみにとどまらず、リアルな問題を生き生きと描き出すところは大人の芸術って感じがします。

 そういえば、10年くらい前に大竹しのぶ&西岡徳馬コンビの「人形の家」と劇団民藝の「民衆の敵」を見ましたが、なかなか秀逸でした。再演を求む。

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言語センスが光る:柴田元幸

 外国語が多少でもできると、翻訳文学がうさんくさく見えてしまうという人は結構います。私もその一人です。言語のニュアンスがうまく伝わってなくて「なんでこうなっちゃうの?」という翻訳を見てびっくりしちゃったりするわけです。そんな人たちの中でも定評のある翻訳家というのが柴田元幸。なんていうか、彼の翻訳を見るとどれも「きれいだなー」という印象があります。日本語がきれいなんです。

 でね、日本語がきれいということは、彼が文章書いてもいいのができるんですよ。個人的には彼の文章がすごく好きなんです。彼が最初に注目を浴びたエッセーが「生半可な學者」。東京大学の佐藤良明氏(ちなみに柴田氏自身も東京大学助教授である)との共著「佐藤くんと柴田くん」もおもしろい。なにが書いてあるかというと、「あんみつのあんはつぶあんでなくてはいけないと思うのだけど、お店で’おたくのあんはつぶあんですか、こしあんですか’と聞くとまるで’おたくのトイレットペーパーはシングルロールですか、ダブルロールですか’と聞かれたかのようなヘンな顔をされてしまうのはなぜだろう」とか、「ぼくの身長が157cmで体重が43sだというと、女性の多くは恥じ入るような態度を取るのはなぜだろう、’あらあたしの方が多いわ’とかいう反応があってもいいのに」とか、まあ、くだらないと言えばくだらないでしょうし、よく言えば感性豊かな作品ということになります。

 彼のエッセーの中でもいちおしなのが「死んでいるかしら」。表紙にミルキーを手に倒れている柴田氏の絵が入っている(彼はミルキーが好きなのだ)。どういう話かというと、「ぼく、ほんとはもう死んでるんじゃないかな、とかふと考えちゃうんですが・・・」というあたりからえんえんと白昼夢してるのですが、この白昼夢具合がいっちゃってる。これだけ想像力が豊かだから、作家の想像力にマッチした翻訳ができるのかなーとか考えちゃいます。

 文学作品、と呼ぶにはためらわれますが、疲れたときにすーっと読めるし、彼の言語的センスがよく生きているので、私は愛読してます。

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旅先で読んだ本:遠藤周作

 これまで時々海外で生活する期間がありまして、その度に、相手の国の文化に圧倒されたり、自分の国が恋しくなったり、という気持ちをなんども味わいました。私はその国の人に囲まれてすごすことが多かったので何ヶ月も日本語を話さないこともあって、そんな時には日本語そのものが遠く感じられました。そんな時に一番心に響いたのが遠藤周作です。文化を扱った作家は沢山ありますが、フィーリング的に彼の小説には私にしっくりくるものがあります。

 そんな中で、ちょっとマイナーな作品を紹介します。初期の作品で、彼がフランス留学から帰国したばかりの頃に書いた「アデンまで」という短編があります。フランスで生活する日本人留学生がフランス人女性と恋をしたり、その国の文化や差別を経験する話。中でも黒人差別が生き生きと書かれているのが私の心には響きました。私自身が、差別される人々に接する機会があったからです。遠藤周作の作品には弱者へのやさしさが随所に込められています。

 ちなみに遠藤周作は日本だけでなく海外でもよく読まれています。海外にいる時には、現地日本人よりも、ほかの国の人と遠藤周作の話で盛り上がった記憶があります。ただ、一番人気は「沈黙」で「アデンまで」は多分、あまり翻訳されてないと思う。

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心のすれちがい:シェークスピア

 海外文学というと私は劇作ばかり読んでるみたい。一つは翻訳文学が苦手なのに、原書の小説を読むのも退屈だったり、という語学的な理由が大きいんですけど・・・そんな中で一番よく読んだ本はシェークスピアです。

 シェークスピアは読みにくいっていう人や、舞台で見てもつまらないって人、結構います。確かに、「偉大だ!」って絶賛する人がいる割には、せりふが仰々しくて敬遠するのもわかる。特にこれが翻訳ものになると「…」っていう代物になってることもあります。ロミオとジュリエットだって「素晴らしい愛の物語だ!」と感動する人もいるけど、「なにも若いんだからそんなに思いつめなくても・・・」と冷めてみてる人も少なくないのが事実なのだ。

 そんな中で私が大好きなのが、「オセロー」。これも恋愛ものなんですが、愛する人の誠実が信じられない、っていうどこにでもありがちな心のすれ違いから悲劇が生まれる、というものです。シェークスピア悲劇の中では「俗っぽい」代物ですが、これが私の心を打ちます。(ちなみに「シンベリン」もよく似た話ですが話がもっと入り組んでるのだ)舞台があると必ず見に行っては泣いてしまいます。

 舞台では5年位前に来日してたイギリス国立劇場のが抜群によかったな。ただし、英語がわからない友人を同行させたので、相手を怒らせてしまった・・・(^^;)。これも一つの「心のすれ違い」だな。

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