第十一章白い粉



人間止めますか?

  このお話はある麻薬追放キャンペーンの中に書いてあったドキュメンタリーです。


  私が最初に彼を見たのは病院のロビーでした、私の勤める病院は主に麻薬中毒患者の更正を取り扱っております。 彼を最初に見たときは「知的な顔をしているな」でした。 最初は面会か何かかと思っていたのですが、まさか彼が麻薬に犯されていたなどとは露にも思いませんでした・・。

  話を聞きすぐに彼を入院させました、彼は私の患者となりました。 2〜3日経ってから彼の禁断症状が始まりました、普通ではあり得ないほど非道い症状でした。此処まで非道いとなると彼の中毒レベルは相当な物があります、本腰を入れてしばらくは彼を主に見たいと部長と話し合い、私は彼の専属となったのです。 ある日に彼がノートに何か書いているのを見つけました・・、見せて貰うとそこには唐詩が書かれていました!! しかも凄く美しい字でです!! 彼に何処で勉強したのかを聞くと、大学に通っていた事が解りました。 普通麻薬に手を出すのは低学歴者なのですが、彼は高学歴者・・、しかも頭の切れも一般人よりも上回っていた、私は彼の身の上話を聞くこととした。

  彼の父親は航海士で一年の内10ヶ月は航海に出ていたそうです。 幼き頃から父の顔を知らず、母親は浮気にうつつを抜かしていたそうです。 彼が8歳の頃に両親は離婚し、母親は浮気相手と再婚しました。 再婚相手は結婚後事業に成功し、多額の富を得たのですがすぐに “愛人” を作り家庭はケンカの絶えない日々となってしまったのです・・。 父親は何かあると母親と彼に手を挙げるので、彼の向上心は大学に入り、自立することでした。   毎日命を削る思いで勉強し、大学に合格すると彼は一度も実家には帰りませんでした。 ずっと寮に引きこもり、本と見つめ合う生活が一年ほど続いたとき・・・彼は恋をしました。 相思相愛で誰もが彼等を祝福したのですが、幸福は長くは続きませんでした・・・。 父親がいきなり学費をうち切ったのです、後一年で卒業だったのに何故だ?! と詰め寄っても父親は無視するばかりで相手にはしてくれません。 母親に聞いたところ女に貢ぎすぎた為に、事業が傾いたと言われたそうです。

  彼は学業を諦め、自立の道を模索し出しました。 中国も不景気真っ盛り、大中を雇ってくれるところはあまりありません、しかし彼はめげずに雇ってくれる所を探し出し就職しました。 そんなこんなで一年が過ぎ、彼女も無事大学を卒業し、就職し甘い同棲生活が始まりました。 よかったのは最初だけですぐに学歴の差で収入に大きな隔たりが出来てしまい彼のプライドはズタズタになってしまいました。 彼女は 「どうせ二人で使うお金なんだから良いじゃない」 と、言って励ますのですが、彼にとっては大きな問題で耐えられないほどの侮辱感を感じてしまったそうです。 最終的には彼が彼女を放り出し、二人の関係に終止符が打たれました。

  しかし彼女を放り出す前から彼は屈辱感を紛らわすために、ヘロインを吸引していたのですが彼女が去ってからというもの、更に吸引が非道くなり手が着けられなくなってしまって 「おかしい」 と思った会社の社長が彼を首にした事がきっかけで家の病院に来たそうです。

  彼の治療を続けて数カ月経ったある日、一人の女性が彼を訪ねてきました。 その女性こそ彼の昔の恋人だったのです!! 麻薬治療には心の支えが大切です、何とか彼の頑なな心を解きほぐす為に彼女を彼に会わせました、是が失敗でした・・。彼はいきなり彼女を怒鳴りつけ、「二度と俺を捜すな!!」 と、怒り狂いました。 しかし次の日には 「先生、僕あいつともう一回人生をやり直してみたいので帰ってもよろしいでしょうか?」 と言ってきたのです。 私はよろしいと、即答してしまったのです・・、これが大きな誤りでした・・・。 彼はその日から行方不明になってしまいました。

  次に彼と出会ったのが5年後の事でした・・。公安から連絡があり 「身元不明の死体が貴方の名刺だけを持ってたのですが、確認に来ていただけませんか?費用はお持ちしますので。」。 私は嫌な予感に駆られ、急いで公安局に行って確認をしてみたら・・・彼でした。 公安に彼のことを聞いてみたら解っているのは駅周辺を徘徊している乞食の一人で、死亡原因は衰弱死。 だったそうです。