文也と秋葉は並んで歩いています。妙子は、その後ろをついていきました。文也は、見張らせてもらうという条件つきで妙子と秋葉が二人だけで話をすることを許しました。
「あと2時間もすれば妻が帰ってくるんだ。それまでの間だけだ」
文也はそっと妙子に耳打ちしました。
「わかってるわ」
三人は公園に着きました。ほどほどの広さの公園でした。妙子は、トイレに言ってくる、と言って公園の中に入っていきました。文也は秋葉の顔を覗き込みました。
「なあ、あの女の人、どう思う?」
ふいに、文也は秋葉にききました。
「え?うーん。でも、わたし、いい人だと思うなあ」
秋葉は言いました。
妙子が戻ってきました。
「お待たせ」
妙子は文也に言いました。そして、秋葉に向き直りました。
「待たせちゃってごめんね。さあ、何して遊ぼうか。せっかく公園に来たんだから、ジャングルジムなんかいいわねぇ。それとも、ゆっくり、おひさまの下でひなたぼっこなんてのもいいかしら」
「ジャングルジムがいいな。あと、この公園のすべり台もおもしろいんだよ」
「わかった。じゃあ、そうしようか」
妙子はそう言って文也を見ました。文也は無言でうなずきました。妙子はにっこり笑ってそれに応えたようです。
さすがは元保母さん、ということで、妙子は小さな子供と遊ぶのに慣れていました。秋葉はごきげんです。やがて、遊ぶのに疲れて、ベンチで寝てしまいました。その寝顔は、かわいいものです。
文也は、公園の反対側のベンチに座っていました。妙子たちを見ています。退屈そうにしています。
公園の中には他の子供たちが数人、いる程度です。大人の姿はありませんでした。
秋葉は寝ている…今がチャンスだわ。秋葉が寝てくれたのはかなりラッキーだった…。
妙子は秋葉を覗き込むようにして、文也に背を向けました。頭をなでながら携帯電話を取り出しました。番号を押した後、秋葉の声に耳を傾けるように片耳を秋葉のほうに向けました。もちろん、秋葉は寝ています。携帯電話をかけられているのを悟られないようにするためでした。文也は気がつきません。なぜなら、それは母親が子供にする当たり前の光景にしか見えなかったからです。
やがて、車の音がしました。タクシーが公園の前に止まりました。妙子はこの公園の住所と名前をあらかじめ調べていました。この公園だけではなく、このあたり一帯の公園の名前と住所は確認していました。文也がどの公園に行ってもいいように。
お願い、秋葉、まだ起きないで…
妙子は祈りました。そして、秋葉を抱えてタクシーの前に駆け寄りました。文也はそれに気づいて慌てて妙子を追いかけます。
「急いでください!この子が急病なんです!」
妙子は叫びました。タクシーの運転手はあわてて後部座席のドアをあけました。
「次の角を左に曲がって、急いで!」
車はすぐに発進しました。
「秋葉っ!」
後ろで、文也の声がしましたが、妙子と秋葉には届きませんでした。