「お世話になりました」
妙子は深々と頭をさげました。
「残念だよ。君は優秀な保母だったのに」
「ありがとうございます。では」
あいさつを終えると、妙子は園長室から出てきました。
「妙子!」
妙子に声をかける女の人がいました。
「智恵子…」
妙子の同僚、智恵子です。
「どうしたの、妙子。急に仕事休んだと思ったら、辞めるなんて」
「うん…」
「どうしたの?何かあったんなら話してみなよ。力になれることがあったら、協力するからさ」
「ありがと、智恵子。でも、大丈夫よ」
そういって妙子は歩き出そうとしました。
「妙子!ちょっと待って!」
智恵子はあわてて妙子を呼び止めました。
「おかしいのよ!妙子!たくや君がおかしいの!いつもおかあさんがいない、おかあさんがいないって言って泣いちゃうの!妙子!私見てたの!この前、妙子がたくやくんをなだめてるのを!その次の日からたくや君がおかしくなったし、妙子も仕事に来なくなった!」
妙子は振り向いて、智恵子のそばにゆっくりと歩いて行きました。
「智恵子…考えすぎよ。でもね、でも…たくやの事、よろしくね」
妙子はそう言ってにっこり笑いました。
「妙子…」
「じゃ…ね…。今まで、ありがとう、智恵子」
妙子はそう言って、智恵子から離れていきました。
「妙子!なにかあったら、すぐ電話していいんだよ!」
智恵子は叫びました。ですが、その叫びが妙子に届いていたかどうかはわかりません…。
妙子はゆっくりと歩いていました。幼稚園の門のところに一人の男が立っています。帽子をかぶっているため、顔を確認することができません。
保護者の方かな、と思って妙子は通り過ぎようとしました。
「妙子……」
懐かしい声です。
「ふ、文也…?」
つづき