次の日。修造の病室を訪れたのはなんと妙子でした。
「お兄ちゃん。久しぶりね」
妙子は言いました。
「妙子、お前、死ぬなんて馬鹿なことをするんじゃないぞ!」
修造はいきなり怒鳴って、むせました。
「ちょっとお兄ちゃん、大丈夫?」
妙子は修造の側に駆け寄りました。
「恵子から聞いた。おまえ、天国へ行くって手紙をだしたそうだな。たくやに」
「……………」
妙子は黙っていました。
「どうなんだ、妙子!どういうつもりなんだ!?」
妙子は悲しそうな目をして言いました。
「たくやにわたしの事を忘れて欲しかったの。私を死んだことにして欲しかったの!私は、たくやに…いえ、たくやくんにとんでもない事をしてしまったわ。本当恵子さんにも申し訳ないことをしてしまったわ。もちろん、お兄ちゃんにも」
妙子は涙を流しました。そして、続けました。
「どうして言ってくれなかったの?たくやが私の子じゃないって。そうしたら私、私、あんな事しなかった!」
修造は黙って妙子を見ていました。
「そうでしょう?私は、自分の子が見捨てられるって思ったのよ?あの時、ちゃんと、恵子さんがきてくれれば、私に一言言って、たくやのおかあさんになってくれれば、それでよかったのよ!でも、恵子さんは来なかったわ。恵子さんはたくやにも、私にも、会いに来なかったのよ!だから、たくやを守っていけるのは私しかいないって思ったの!」
「妙子、少し落ち着きなさい。明らかに動揺している」
修造は妙子をたしなめました。
「妙子、お前、忘れるつもりじゃなかったのか?この村のことも、たくやのことも」
「ええ。でも、たくやを忘れることなんてできなかったわ」
妙子は言いました。
「だって、私の子だと思ってたのよ!私が3才の時まで育てたのよ!幸せになって欲しかった…恵子さんとお兄ちゃんに幸せにして欲しいって思ってたのに、それなのに…洋治さんは恵子さんを連れてくるって言ってたのに!」
「だが、恵子は幼稚園には行っていないが、たくやの家には行ったんだろう?たくやのおかあさんには、なるつもりだった」
「…そうね、私が悪いのよね…。私、恵子さんが私に黙ってたくやを連れて行くのは、許せなかったの…」
妙子の肩が揺れています。
「妙子。もういい。全部忘れるんだ」
修造は静かに言いました。
「…妙子。本当は、たくやが生まれた時に事実を言うべきだったのかもしれない。だがな、言えなかったんだ。文也君が妙子の前から消えたからだ。そのうえ、たくやが妙子の子供ではないと言ったら、妙子が立ち直れないと思ったんだ。全て終わったら真実を話すつもりだった。いや、妙子がこの村を出たいと言った時に話すべきだったのか…」
妙子は思いました。それでも、自分はたくやのおかあさんになりたかったであろうと。
「もうどうしようもないんだ。たくやは、君をおかあさんだと思い込んだまま生きる。だが、俺達はそんなたくやを愛情を持って育てる。きっとうまくいくはずだ。たくやは、俺達の、俺と恵子の子供なんだから。それに、僅かだがつながりがあるだろう?俺と恵子と、たくやには」
修造は続けました。
「妙子。もういいんだ。これから、妙子の新しい人生を歩めばいい。全部忘れるんだ」