空港での悲しい別れの後、遠距離恋愛がスタートした。「できるだけ早く会おう」とだけ約束して、お互いがそれぞれの生活に戻った。
私はこのとき、何が自分にとって現実なのか分からない気がしていた。ヨーロッパに行く前の生活に戻っただけなのに、本当に心にぽっかりと穴があいていた。
私達は、基本的にICQとメールでコミュニケーションを取り合った。夜の11時過ぎに私がICQを立ち上げ、それから彼と話をする。毎日、毎日、何らかの形で話はしたが、それでもやっぱり寂しくて仕方がなかった。
私は性格もあるのだろうけど、出来る限り彼と連絡を取った。どんな些細な事でもしらせた。彼を心配させたくないというのもあったけれど、いつも彼とつながりを持っていたかったというのもあったと思う。そんな私を、彼が心から信頼してくれているのはよく感じられたし、私との関係にいたく満足しているというのもよく伝わってきた。
当時彼は、大学の留学生をサポートをする機関のメンバーで、私と出会った頃に比べて忙しい日々を送っていた。
もともと、一度にたくさんのことをやろうとするところがあり、私からすると無計画に思えることも多々あった。
自分自身は、私からいつもメールなりなんなりの連絡をもらい、遠距離恋愛と言えども、二人の関係にいたく満足しているようだった。
しかし、私の方は彼と全く同じではなかった。
インターンシップに来ると言っていたのに、いつまで待っていても彼は来ない。家にパソコンを持たない彼は、私とICQで会うのにはインターンシップに来るしかないことは分かっているのに、それなのに来ない。メールをくれると言っていたのに、彼からのメールは来ない。そんなことが、度々おこるようになった。
私はその都度シグナルを送ったつもりではあったが、もともと「察する」タイプではないので、私の意図を汲みとった様子はなく、状況は変わらなかった。
ある日、突然「明日からスロバキアに1週間行ってくる」と言う。あまり連絡をくれない彼への不満をこぼした後に、そう言われた。「またか・・・」とがっかりする私に、「絶対にあっちからメールをするし、手紙も書く!だから、1週間我慢してくれる?」
「メールをする」そう言った彼の言葉を信じて私は1週間待つことにした。
しかし、その1週間、彼からメールは来なかった。今まで色々心の中にためていたこともあり、私はうんざりしていた。「もう、たくさん!」と思っていた。
そして、彼が家に帰ったであろう時間に電話した。当然、彼は驚いていた。と言うより、何かを察した様だった。
「どうしたの?何かあったの?」
「話がしたいんだけど?時間をとってくれる?」
「何があったの?悪い話?今、帰って来たばっかりだから、ちょっと休んでから電話していい?」
「電話っていつくれるの?するって言っててしなかったこと、今までいっぱいあったよね?もう、たくさんなんだけど・・・」
「あ・・・。」
この後、私は今までため込んでいたものを彼にぶつけた。彼は黙って聞いていた後、自分がどれだけ私とつき合い始めて嬉しかったかとか、自分の無計画性は認めるけど、それが私に対する愛情が減ったとかそういう事ではない、と何度も繰り返し言った。そして、その無計画性に関しては、自分も嫌だと思うし、変わりたいとも思うけど、そう急には変われないのを分かって欲しいと訴えた。それにスロバキアの件は、向こうにメールが送れるパソコンがなかったと言った。
遠距離恋愛においては、密に連絡を取ることも、すると言ったことをその約束通りにすることも大切なことだし、私がそうすることに対して満足するだけで、私の気持ちを考えない彼は自分勝手だというと、
「そうだったかもしれない。君が何度もシグナルを送ってくれたって言っても、今まで気づかなかったし、自分が幸せだったから、君も幸せだって思いこんでた。でも、本当に君とつき合い始めて幸せだし、いつも君のことを考えてる。本当だよ。僕は、絶対に君を裏切るような事はしないし、そう言うことをしないって事に対しては何の問題もないのだけど、計画通りに物事を進めるのは苦手だから・・・。後、言われるまで気づかないっていう所は確かにあると思う。」
そして、私達は何時間も話し合った。彼は、私が別れを切り出すのではないかと気が気ではないようだった。何度も何度も、自分がどれだけ私を大事に思っているかを話した。私は「だったら、その気持ちをちゃんとした形で伝えて欲しい」、と言った。「顔も見えない所でいくら想ってくれていても、伝えてくれなきゃ、私には伝わってこない。愛情が感じられなかったら、どんどんマイナスな気持ちが沸いてくる」「言ったことを実行してくれない人は信用できない。振り回されてる気持ちだけが残る」私は全てを吐き出した。
「ごめんね。そんな気持ちにさせてごめんね。お願いだから、別れるなんて言わないで。もう一度だけチャンスをくれない?本当に反省してるから。僕が君のことを愛していれば、それで大丈夫だって思いこんでた。ちゃんとその気持ちを伝える努力をしなくちゃいけないってあまり思ってなかった。僕はすぐに思いこむから・・・。ごめんね。一生懸命、自分を変えるように努力するから、側にいてそれを助けてくれない?お願いします。すぐには変われないと思うけど、努力はするから。ね?」
その後、私は彼にチャンスをあげることにした。その大きな話合い以来、彼は随分と努力したと思う。国際遠距離恋愛は、時差もあり、そのために色々な制約も生まれてくる。
そんななかで、私達は「早く会いたい」という気持ちを一層強めた。彼の側にいたい。ただそれだけだった。
仕事にきりをつけた私は、4月にオランダへ出発することを決めた。この国際遠距離恋愛期間の半年は、私達にとってあまり良い思い出はない。残念だけど、やっぱり思い出すのは「悲しい気持ち」「寂しい気持ち」が多い。離れてさえいなければ、喧嘩しなくてすんだこと、抱きしめてさえもらえたらそれで解消されたことも、それが叶わないから面倒なことになった、そんな事が多かったように思う。
ただ、この半年間の間に私達は一つ約束をした。
「別れるときは、お互いがどこにいようと、絶対に直接会って話をすること。電話やメールで別れることは決めない。」
二人の間で決めた約束と言うより、彼が私に約束させたと言った方が近いけれど、この約束はいまだに有効である。
今でも時々、あの半年間を振り返る。得たものと言えば、やっぱり、「あの時に比べれば、今の状況はマシ・・・」と時々思えるくらいの事で、やっぱり私達にとって一番大変な時期だった。
恋人同士は一緒にいるのが一番。
離れていたからこそ、身をもってそれを感じている。
あっ、これも、遠距離を体験して得たことかな・・・。
少なくとも、私には「一緒にいて当たり前」っていう考えはないからなぁ・・・。