オランダは、私にとっては初めての国だったので、それなりに観光したいと思っていた。彼に会う前、私は何度も「予定がつかないなら早く言ってね。私は一人でどこか回る様に計画を立てるから・・・」と言っていたが、彼は「大丈夫だよ。」の一点張りだった。

なのに!なのにである。月曜日は忙しいことは知っていた。(私は日曜日に到着)そこで、月曜日は夜まで別行動。しかし、月曜の夜になって、「火曜日と水曜日も大学行かなきゃ・・・」と言う。どーも、提出しなくてはいけなかったものが、まだ出来ていないらしい。少しムッとしたが、「大学」を出されると納得するしかなかった。そこで、「じゃ、木曜日からは大丈夫なんだよね?」と付け加えるのを忘れなかった。

火曜日はダラダラと午後から大学に出かけていった。水曜日も同じ。もしや・・・と思い、「明日からは大丈夫なんでしょ?」と言うと、「だって、もう、2時過ぎだよ。だから、無理だと思う。」と信じられないことを言った。
頭にきた。本当に頭にきた。ダラダラしていたのは、彼の責任。無責任だ。
私は文句を言った。その文句の途中で遮られ、無理矢理5時に家の前で待ち合わせをさせられ、別れた。
私はその足で、中央駅へむかった。そして、マーストリヒト行きの電車を調べた。ダラダラやってるなら、ずっとダラダラしてればいい。気がおさまらなかった。何ならそのままベルギーまで行っちゃえばいいやとまで考えていた。大体、人の話も聞かないで、人のことを振り回すだけ振り回して、もう、結構!私の気持ちは決まっていた。

夕方家の前で会った。遅刻してきた。文句を言うのも面倒臭かった。何となく静かすぎる私を見て不安に思ったのか、妙に優しい。妙に話しかけてくる。
で 「どこ行ったの?」

p 「色々」

で 「誰かに話しかけられなかった?」

p 「誰かって誰?」

で 「いや・・・、ねぇ、怒ってる・・・?怒ってるよね?でも、でも、君が一緒にいることが嬉しくて、で、スケジュール通りに行動することを忘れちゃって・・・」

p 「私の事は心配しなくていいよ。明日からは自分で行動するから。」

で 「えっ、どこ行くの?」

p 「多分、マーストリヒト」

で 「いつまで?」

p 「分からない。でも、どうせ、大学行かなきゃいけないでしょ?関係ないじゃん。」

で 「それって、僕が言った通りにしなかったお仕置きなの?」

p 「お仕置きってあなた、何言ってんの?馬鹿馬鹿しい・・・」

で 「ずーっともう、ここには帰って来ないの?ねぇ、ずーっと帰って来ないって言うなら、僕、もう一生懸命、急いでレポート提出しないくても良くなるから、いつ帰ってくるか教えてよ。ねぇー。」

p 「約束して帰ってきても、レポート出来てないかも知れないでしょ?そんなことないって言えないよね?実際、言ってた事と違うことしてるんだから。」

で 「ごめんなさい。金曜日の夜までに終わらせます。それからは、ちゃんと君にオランダを案内します。約束します。だから、帰って来て下さい。」

これが私達の初めての喧嘩。というより、私が一方的に説教をしたのだが。この時以来、彼のこの時間や計画にルーズな性格は、私の教育的指導が功を奏したのか、改善されつつあるが、時々忘れた頃に再発するので困ったものである。

そして、私はマーストリヒト一泊二日の旅に出かけた。マーストリヒトはベルギーとの国境に近いせいか、建物の傾向も少し他のオランダの都市とは感じが違う。食べ物も、フランス的というか、ベルギー的傾向が強い。街の散策を楽しもうと思っていたら、大雨。ちなみに次の日も大雨。がっくり・・・。素敵な街だったけれど、つくづく天候に恵まれなかった二日間だった。

アムスに着いてトラムに乗って彼の家へ。トラムを降り、家の方に歩いて行くと、誰かが私の方に向かって歩いてくる。彼である。また、家の前で待たされるだろうと思っていた私はびっくり。「元気だった?」と言うと、道上で強く抱きしめられた。なかなか放してくれない。驚いた・・・。
部屋に入ると、彼がケーキを持って来てくれた。私が帰ってくるから、買ってきてくれたんだとか。嬉しかった。
「僕がいなくて、寂しくなかった?僕はすごく寂しかったんだけど。ねぇ、寂しかった?」
「うん、寂しかった。」
それを聞いて、彼は私を再び抱きしめた。

彼にとって、この私不在の2日はとても大きな意味があったらしい。私のこの旅行で、彼は私への気持ちが、「like very much から love」にはっきりと変わったらしい。この日から数日後、彼は初めて私に、「I love you.」と言ってくれた。

約束通り、レポートを仕上げた彼は、次の日から私を色々な所へ連れて行ってくれた。一緒に長い時間外を歩いていても、本当に心地よかった。お腹がすいたときには、「お腹がすいた。何か食べたい。」と何のためらいもなく言えた。些細な事かもしれないが、周りに気を使いすぎてしまう私にはとても大切なことだった。
何もかもが楽しかった。何でもないことが楽しくなった。一人の人が、これだけ私を幸せな気持ちにできるなんて、それまで思ってもみなかった。ありのままの自分でいるというのは、こういうことなんだと実感していた。

彼は私を自分の実家に連れて行った。そしてそこから、ハーグ、ロッテルダム、ライデン、と連れていってくれた。1日は彼の両親と一緒にジーランドにも行った。
彼の実家で誕生日を迎えた私に、彼は朝からケーキを焼いてくれた。
そして、夕飯には彼のお手製のキッシュを作ってくれた。

一生忘れられない誕生日となった。