オーストラリア時代の知り合いが、私の帰国間際に一つのアドレスをくれた。「ICQ」である。当時の私は、メールばかりで殆どインターネットは使わなかったので、何のことだかさっぱり分からなかった。その知り合いが言うには、それをダウンロードすると、オンラインでみんなと話ができるとのこと。「国際電話よりずっと安上がりだよ」の言葉にひかれて、半信半疑でダウンロードしてみた。
その約2週間後、私は一つのチャットリクエストを受け取った。それまでも何度かリクエストは受け取ったが、返事をしたことはなかった。別に大した理由があったわけではないけれど、私はただ、自分の知り合いとチャットが出来れば良かったのだ。
しかし、私はそのリクエストには返事を出した。その内容に驚いたからだ。その内容とは、オランダに住むその人は、私と同姓同名の日本人を知っているという。でも、年が違うから別人だとは思うけど・・・というものだった。
ただ、驚いた。そして、私は思わず返事を出した。
「私はオランダには知り合いはいないけど、本当に私と同姓同名??」
そこから私達のチャットが始まった。彼は物理を専攻している学生で、今はインターンシップの最中とか。論文の途中でつまらなくなって、ICQをダウンロードしてみたところだったとか。それで、誰か自分の知り合いがICQを持っていないかと、片っ端から知っている名前で検索していたら、私を見つけたという。
こんな嘘のような本当の話から、私達は自分たちの事を色々話すようになった。
彼が日本語にも興味があるというので、ひらがな・カタカナを紙に書いて、スキャンして送ってあげた。
お互いの写真をスキャンして送りあった。
毎日、毎日、話をした。そのうちメールも送りあうようになった。
時々、喧嘩すらした。長い長いメールを書いて、お互いの言い分を話しあった。そして仲直りをした。そして、さらに深い話をするようになった。
不思議だった。言葉では言い表せない感情を、私は彼に持っていた。そして、彼が私に好印象を持っているのもよく分かった。会ったことがなくても、お互いの事が手に取るように分かった。
上手く言えないけれど、何もかもがしっくりいくとは、こういうことなのかなぁ・・・と私は思っていた。
普段、必要以上に周りの雰囲気を感じ取ってしまう私は、ついつい気を使いすぎて、自分が疲れてしまうところがある。だから、自分が本当に自然体でいられる相手が、こんな所にいたんだ・・・と思いすらした。
彼も、同じ事を思っていたらしい。何とも言い表せない感情と、遠くにいるのに近くにいる私の存在を、なんのためらいもなく自然に受け入れることができたと言っていた。
そして、降って沸いた様に、私達に出会いのチャンスがやってきた。何もかもが、二人が出会うために仕組まれたかの様だった。もちろん、私達はそれを自然に受け入れた。
「会ったこともない人に、会いに行くなんて・・・」と言われるのは百も承知だった。でも、その時の私は、自分が無謀ではないことは分かっていた。何の不安もなく、ただ彼に会えることが楽しみだった。
ちなみに、私と同姓同名のその人、彼の元彼女である。何かあまりいい気分はしないけれど、彼と出会えたから良しとしている・・・。