彼が、日本に来ることを具体的に考え始めたのは、私とつきあい始めてからだと思う。もともと、語学を学ぶのが趣味である彼は、日本語にも他の言語と同じように興味を持った。
日本語を勉強したいというのもあったと思うが、何より、私の育った国、そして自分にとっては外国になる国で、「外国人」としての経験をしたいと言った。それが、お互いにとって必要不可欠なことだと彼は主張した。
それには、私も賛成した。言葉は、オランダでコースを取ったりすれば、私も日本人だし、ある程度までは可能だろうけど、「異国で暮らす者の気持ち」というのは、経験抜きには語れないだろう。「自分の国では、当たり前のことが、外国では当たり前でない」そういう経験をお互いにすることが、将来、どちらの国で暮らすにしても、必要な事だと私達は判断した。
そして、彼は日本に交換留学生として来るプログラムに申し込んだ。そして、申し込みから数ヶ月後に、受け入れOKの返事をもらった。
それからの彼は、できる限り日本語の勉強をした。私もその当時、オランダにいたので、色々彼の勉強を手伝ったのだが、そこで、自分が意識せずして修得した母国語を説明するのが、いかに難しいかを悟った。
「英語は教えられても、日本語は教えられない」それが自分自身に対して痛感したことだった。
彼の来日に合わせて、私も帰国することにした。
彼の来日の準備を、私も端から色々手伝った。そういった角度から、彼の手助けができるのが嬉しかった。
オランダでは、いつも彼に頼ってばかり、いつも彼に聞いてばかりだった私が、彼に、自分の国のことだから当たり前とはいえ、色々教えてあげられるのが嬉しかった。
そして、とうとう来日。彼は、それなりに日本生活を楽しんでいる。それなりに、「外国人」として扱われることも経験している。
色々悪戦苦闘することもあるようだけれど、もともと、好奇心が旺盛な前向きな性格なので、意固地に自分の文化や慣習に執着することもない。それが、上手く作用しているように思う。
彼の日本生活は現在進行中である。今のところ、一ヶ月から二ヶ月に一回はお互いを訪れている。
彼の春休みには、一緒に東南アジアを旅行した。遠距離は遠距離だけれど、時差がない分随分と救われている。
残り少ない彼の日本での生活が、より充実したものになるよう祈っている。そして、彼に対して、私にできる限りのことはしようと思っている。